目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

うみ

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23.しばしの休息と完璧な女装

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「さ、さすがに疲れた……」

 自室に入り、ふらふらと前のめりにベッドへ倒れ込む。
 昨日からずっと起きているものな……それも濃すぎる時間を過ごしている。
 地下を進み、激しい戦闘をこなし、書類作業から演説まで、一日でやる内容じゃない。
 だけど、一気に進めなければせっかくヴィスコンティを捕縛したことが無駄になってしまう。
 クーデターは迅速に権力を掌握することが肝要なのだ。
 差し当たり、低級ながらも残った貴族たちである王国騎士と文官の支持を得ることができた。正確な数は分からないけど、離脱したものもいるだろう。
 しかし、街の中には協力者である商人たちが網を張り巡らせている。不穏な動きがあればすぐに俺へ情報が伝わって来るように準備万端だ。
 どちらかというと、動くとすれば彼らよりヴィスコンティの残党の方かな。
 
 しばらく突っ伏した後、仰向けに体勢を変える。
 倒れ込んだ時に手を離した包みを手繰り寄せ、結び目を解く。
 
「サンドイッチか。食べるかそのまま寝るか悩ましい」

 腹は減っているのだけど、眠気がそれ以上にすさまじい。
 食べられる時に食べるのが俺の信条……な、ん……。
 
 ◇◇◇
 
「……は!」

 サンドイッチに手を伸ばしたところまでは覚えているのだけど、どうやら寝てしまっていたようだ。
 窓から差し込む光から、もう昼前くらいなんじゃないだろうか。
 誰かがサンドイッチを包みに戻して机の上に置いてくれたらしい。ついでにといってはなんだけど、毛布までかけてくれている。
 更には、白銀の鎧も専用の収納場所に置かれていた。
 あのまま硬い鎧を着て寝ていたら、今頃体が痛くなっているところだ。
 九曜か桔梗がやってくれたのだろう。
 ありがとうと心の中で呟きつつ、体を起こす。
 
「ぐ……」

 無理して動かしたためか、右ひざと左腕の肘辺りが軋み鈍痛が。
 膝にくるとは運動不足か? と思ったけど地下から地上へとか普段使わない筋肉を使ったし戦闘中、無理な体勢をとったりもした。
 左腕は仕方がない……したたかに壁にぶつけてしまったもの。
 
「九曜、桔梗」
「ここに」
「……是」

 呼びかけると天井からストンと二人が降りてきて片膝を付き顔をあげる。

「二人とも、街で俺と行動を供にした時の服装に着替えてくれ。着替えたら中庭に」
「ここは王宮ですが」

 桔梗はギョッとしたのか表情こそ変わっていないが、声色を変えて応じた。

「もう、遠慮する必要なんてない。言っただろ。日の当たる場所で共にと。小さな一歩だけど、まずは一緒に食事をとろう」
「は、はい」
「……了」

 右手を振ると霞のように二人が消えていく。
 種族特性もあるとはいえ、俺がどれだけ修行してもああいう動きはできないだろう。ちょっと羨ましい。
 彼らが日本でスポーツ選手をやったりなんかしたら、すぐに日本代表になってお茶の間を沸かせること確実だ。
 
「王宮も作りを変えないとなあ……」

 自室を出て中庭に向かう回廊で一人呟く。
 ディアナは昨日からメイド用の居室に戻っているのだけど、現在この広い王宮で働く使用人は彼女唯一人である。
 桔梗と九曜にもすぐに部屋を割り当てるつもりでいるが、それでもたった四部屋を使うだけ。
 使用人たちは呼び戻すとしても、侍女や執事ら下級貴族の支族たちはもういない。王族用の居室も無駄になる。
 
 俺と三人が住むだけだったら、王族用の空間を改装すりゃ十分だな。使用人用のところはそのまま残し……いや、今は他にやることが……。
 落ち着いてからじっくりやればいいさ。
 
 中庭につくと、ふんふんとご機嫌に鼻歌を歌いながら食事の準備をしているディアナの姿が見えた。
 彼女は見慣れたメイド服姿で、テキパキとテーブルを整えている。

「イル様! おはようございます」
「桔梗から聞いていたのか?」
「起きられたことだけはお聞きしておりました。きっとイル様はこちらでお食事をとられると思い、食事の準備をしていたんです」
「昨日のサンドイッチがあるからそれでと思っていたんだけど」

 サンドイッチの入った包みをポンとテーブルに置く。
 それを見た彼女はまん丸の目を大きく見開き、ささっと包みを小脇に抱えた。
 
「い、いけません。昨日のものでは」
「問題ない。昨日の夜のものだろ。それにディアナが作ってくれたものだから、ちゃんと食べたい」
「イル様……」

 目をうるませ感動した様子のディアナだったが、包みを手放そうとしてくれない。
 
「テーブルに戻して。あと、そろそろ二人来るはず」
「もう来ております。イル様」
「……是」

 お、おおう。いきなり背後に立たれたから背筋がぞわっとした。
 体ごと後ろに向きをかえると、桔梗と九曜の二人がさっと片膝をつく。
 二人とも着替えてきているので、いつもと雰囲気が異なる。

「桔梗さん、はじめてお顔を拝見いたしましたが、凛として美しいです」
「い、いえ……桔梗は、そんな」
 
 たじろく桔梗に向け彼女を動揺させた張本人であるディアナはふんわりとした笑顔を浮かべた。
 続いて彼女の目線は九曜に。

「九曜さんは変わった服をお召しですね。ですが、クールな雰囲気の九曜さんにとても似合っています」
「……否」

 九曜は桔梗と違って、顔に自分の気持ちが出る。
 言われ慣れていないことを言われた彼は、目線を下に下げ困惑している様子。
 彼の衣服は俺が見繕ったんだ。すっとした細い目にキリッとした細い眉、薄い唇に黒髪といった九曜には、王国風の服じゃなく異国情緒溢れた者の方がいいと思ってさ。
 灰色の長袖、長ズボンの上から着物のような空色のローブを羽織り、腰を白に薄く青色が入った長い帯を巻いている。
 前世風の言葉を使えば、古代中華風といったところ。
 細くてもこういう涼やかな青年な見た目だったら、俺も外見で苦労することはなかったんだろうか。
 いや、今はこの見た目を活かそうと思いなおしている。完璧に変装できたのも、この見た目のおかげなんだから。
 今は感謝の気持ちも……す、少しだけ、ある。
 
「ディアナ、俺一人で食べるわけじゃないから。そのサンドイッチも分けて食べるよ」
「はい!」
「後で、少し話がしたい。ついでに頼みたいこともあるから、食事の後に部屋へ来てくれるか」
「承知しました!」

 そんなわけで、ディアナが食事の準備をし始めると桔梗と九曜も彼女を手伝うと申し出る。
 いえいえと恐縮する彼女であったが、俺から「一緒に」と言うと三人で準備に取り掛かってくれた。
 
 ◇◇◇
 
「イル様。可憐です! 完璧で完全です! 不遜にもぎゅーっとしたくなっちゃいます」
「そ、そうか。そこまで言うなら、お礼にぎゅっとしてもい……うわっぷ」

 は、早過ぎだろ。
 街にいる時はディアナにメイクをしてもらうわけにもいかなかったので、自分であれやこれやと頑張っていたのだけど……結局難しくて紅を引いて軽く眉とアイシャドウを引く程度だった。あ、チークもポンポンしていたな。
 彼女にやってもらうと、眉から線がはみ出すことも無い。すげえ。
 食事の後、ディアナを自室に呼んだわけなのだけど、彼女への依頼ってのが女装だった。
 彼女に頼んだら、とっても嬉しそうにメイク道具と服まで持ってきてくれてようやく今、完成したところである。
 
 勘違いしないで欲しいのだけど、何も女装に目覚めて男の娘として暮らして行こうなんて思っているわけじゃあない。
 ちゃんと必要に迫られ女装を行わざるを得ないことから、やっている。
 
 それにしてもそろそろ離れて頂けないものだろうか。
 ぬいぐるみじゃないんだから、抱きしめてもそんないいもんじゃないだろうに。

「ディアナ。一応、もう一度確認しておくけど」
「はい」

 やんわりと彼女を体から離し、問いかける。

※本年もお世話になりました。よいお年を!
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