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18.突破せよ

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「進め! 我に続け!」
「うらあああああ!」

 指揮官先頭は軍隊組織においては愚策の極みだと思う。
 しかし、時と場合による。
 この局面では前へ進む勢いが最も大事なことなのだ。
 だから、振るう。先頭でサーベルを。
 吠えるような叫び声をあげたダイダロスが大槌を振るうと道が開け、そこに俺が斬り込む。
 しかし、思った以上に敵の数が多い。
 一人、二人倒したところで王の居室までの道が開かない。
 
 王族の居住空間に寝泊まりしている三本ローズはいないと踏んでいた。
 その予想は正しかったのだけど、そもそも警備に当たる兵が多かったのだ。
 
 ダイダロスと協力して倒した騎士は五人。
 進んだ距離は十メートルと少しといったところ。
 ようやく王族の居室がある辺りまでやってこれた。
 ところが、兵の数が衰える気配を見せない。口惜しいことに、俺は一人で何十人もの敵を倒すことができるような英傑ではない。
 世の中には国士無双と呼ばれるほどの一人で百人もの兵を仕留めた奴もいるってのに。
 これくらいで疲れていてどうする、俺。

「はあはあ……」

 息があがってくるも、サーベルを敵の首元に奔らせる。
 また一人、三本ローズを仕留めた。これで六人。

「そろそろ交代だね。イル。ダイダロスも」
「い、いや。もう少し……」

 後ろから声をかけてきたアルゴバレーノの進言を謝絶する。
 
 ダイダロスが大槌を振り上げ、三本ローズの騎士に向かっていく。
 しかし、彼もまた最初の頃の勢いがなくなってきていた。
 難なく大槌を回避した騎士がダイダロスに逆襲する。
 その長剣を俺がサーベルで横から弾き、何とかしのぐ。
 
 後ろは……あと、十五人くらいか。
 ようやく、新しく騎士が補充されることがなくなった。
 ここに姿を見せているものが全てとは限らない。もう少し進めば十字路になる。
 ここで俺たちを食い止めつつ、十字路まで後退し左右からも攻めようとしているのかもな。
 
 どうする? 少なくともダイダロスはそろそろ休ませないと。彼が否と言っても下がらせるべきだ。
 ジワリと額から汗が流れ落ちる。
 相手は考える隙なんて与えてくれないのだ。
 思考を巡らせている間にも騎士の長剣が俺に襲い掛かってくる。
 紙一重でそれを躱し、重くなってきた腕に力を込めた。ちょうどその時――。
 
 バタン!
 その時、右奥の扉が勢いよく開き、騎士の一人を吹き飛ばす。
 
「うおおおおお! イル様ぁああああああ! イル様はおられるかー!」

 扉から出てきた偉丈夫は俺のよく知る者だった。
 三本ローズではなく四つ葉のクローバーを肩に纏う金髪の偉丈夫。
 唯一の俺が持ちえた騎士アレッサンドロ・ベルサリオだ。

「うおおおお。邪魔だ! 引け、引かぬなら殴り飛ばす!」

 突如飛び出してきたアレッサンドロに三本ローズの騎士たちは困惑した様子で動きが止まる。
 アレッサンドロは三本ローズたちの答えなど聞くはずもなく、右の拳を振りかざし容赦なく頬を拳をめり込ませた。
 殴られた三本ローズの騎士は壁まで吹き飛ばされ泡を吹いて気絶する。
 
「あちらです。ベルサリオ様」
 
 アレッサンドロに隠れるようにして彼の後ろから桔梗も出てきた。
 
「裏切りか! こいつを殺せ!」
「最初から裏切ってなどいない! 我が主君はイル・モーロ・スフォルツァ様なのだあああ!」

 うわあ。騎士の鎧の上から素手で殴りつけている。
 恐ろしいことに彼の拳ではなく鎧の方がひしゃげ、殴られた騎士は目がぐりんと回り、気絶した。
 ああいうのこそ、国士無双の英傑というのだな。俺にはとてもじゃないが、真似できないよ。 
 それにしてもアレッサンドロの奴、桔梗から事情を聞いていただろうに何で出てきた……。タイミングを計るって伝言しただろうに。
 俺は王宮を脱出した後、彼に王宮にある俺の居室で寝泊まりするように言いつけていたのだ。
 伝達した桔梗からは「主君の部屋でなど」と抵抗していたと聞いている。だが、主君の命だと強く伝えろと予め彼女に伝えていたので、渋々ながら俺の居室で夜を過ごしているとのことだった。
 彼女に王宮の様子を探らせた時、アレッサンドロにもコンタクトを取らせていたのだ。それが、「俺の居室に人はいたか」の言葉である。
 
 タイミングはズレてしまったが、不意を打てたことに変わりはない。
 前と後ろから挟み込み、この場にいる三本ローズたちを殲滅するぞ。
 
「あたしが出る。ダイダロス少し休みな」
「お、おう」

 ライオン頭のダイダロスが下がり、アルゴバレーノが前に出てくる。

「アルゴバレーノ。君が前に出たら、他の者の指揮はどうするんだよ」
「か弱いあんたが一番前なんだから、あたしも出なきゃね」

 言ってきくようなアルゴバレーノじゃないか。ならば、このまま進む。
 遺憾ながら俺は小柄だ。巨漢のダイダロスが引いて、長身ながらも細身のアルゴバレーノと二人並んだ。
 なら、別の手が使える。

「槍を持て。俺とアルゴバレーノの隙間から槍を」

 実際に槍で敵を倒すことができなくてもいい。大槌の牽制の代わりに槍を使う。
 相手の武器は長剣だけなので、向こうから槍や矢が飛んで来る心配はない。室内だから、剣のみなんだろうな。
 同じ発想で、俺たちも槍なんて持ってこなかった。長柄の武器は室内だと引っかかってしまい、それが致命傷になってしまうから。
 友軍が持つ槍は入り口の騎士が持っていたもの。
 
 後ろから迫るアレッサンドロと桔梗に気を取られていることもあり、一人、また一人と先ほどより楽に敵を仕留めることができる。
 三人目を仕留めた時、もう立っている騎士はいなかった。
 残りは主にアレッサンドロが残り全てを鉄拳制裁済みである。

「サンドロ、拳は?」
「イル様! ご無事で何よりです!」
「挨拶は後だ」
「拳ですか? この通りです」
 
 アレッサンドロが拳を前に掲げた。
 拳が砕けるどころか、傷一つない。あいつの拳は何でできてるんだ……。

「息のある者は縛って放置、進むぞ」

 アレッサンドロの参加もあり、予想通り十字路で待ち構えていた騎士10名余りをなんなく打ち倒し、王の間に至る。
 
「蹴破れ、サンドロ」
「承知いたしましたああ!」

 ドーン。
 アレッサンドロの一撃で、重厚な扉がまるで段ボールかのように吹き飛ぶ。
 
「いざ尋常に!」

 俺が言うより早く、アレッサンドロが室内に押し入る。
 
「行くぞ。桔梗、アルゴバレーノ、ダイダロス、俺に続け」
「あいよ」
「おう」
「はい」

 三者がそれぞれに応じ、俺たちもアレッサンドロに続く。
 ヴィスコンティよ、年貢の納め時だぜ。
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