アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ

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39.埃

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 *アイテムボックスの中にいる*
 残念ながらアリアドネにはまだ時が止まったままでいてもらっている。そうそう、俺たちが旅立つことを聞いたウサルンが「言葉の赤」を明日には完成させてくれると言ってくれたんだ。
 なので、彼女には明日まで待機してもらうことにした。
 ……正直に言うと、彼女を「夢のスローライフ」フォルダに招いても良かったんだ。しかし、一気に住めるレベルまで仕上げたいと思ってね。
 街を出るとしばらく買い物ができなくなってしまうだろ。
 そんで、彼女がどのような人物なのかまだよくわかっていない状況だから、彼女がいることで作業が滞る可能性を考慮してのこと。
 
 廃屋に入り、周囲に人の気配が無いことを入念に確認した俺たちはアイテムボックスの中に入った。フォルダは前述の通り「夢のスローライフ」である。
 
「バッチリです」
「では次行くよ」

 ブロック単位になった「草原ブロック(大)」をベルヴァに手伝ってもらいながら隙間なく敷いていく。
 あっという間に用意していた「草原ブロック(大)」を全て消費する。
 ある意味不気味な光景だ。200メートル四方に草原が広がり、それより外側は無機質な白い床になっているのだから。
 箱庭系ゲームを見ているような、何とも言えない奇妙さがある。
 
「ま、気になるようだったら2キロほどの草原ブロックを敷きつめれば白い床は見えなくなるか」
「何か不都合がありましたか?」
「俺が少し気になっただけだよ。ほら、突然草原が無くなるじゃないか」
「なるほど。ですが、まずはの暮らしには問題ないかと思います。そういえば、収納した木はどうなったのですか?」
「あ、出してなかった。草原ブロックと入れ換えようか」

 ベルヴァとあれやこれや言いながら、木々を設置した。
 おお。木があると益々雰囲気が出るね。
 
「ベルヴァさん。家を置いてみない?」
「是非!」

 お楽しみと最後にしようかな、なんて思っていたけどメインディッシュを我慢することが出来なかった。
 お世辞にも立派な家とは言えないものだけど、住む分には問題ない。大工道具や木材もあるから、改修して居心地よくするのも醍醐味だろ?
 DIYってやつだよ。やったことなんて一度もないけど、興味はある。
 日本にいた頃に動画で見たようには上手くできないことは確実だ。だけど、ゆっくりとDIYをして改装をしていく工程が楽しい……はず。
 なあに、俺には自給自足生活をしてきた心強い味方がいる。うん、ベルヴァなんだけどね。
 
 ドオオン……という音なんてものもなく、無音で一瞬にして家が出現する。
 木の位置を微修正してっと。家の入口扉から見て右側に二本の木が並び、反対側には木々を一切置いていない。
 裏側にはベリーの果実が成る低木を並べることにした。他にも果物の成る木を設置しているのだけど、家から少し離れた位置に配置している。
 
「よおし、こんなもんだろ。木材も積んでおこうか」
「ここは雨が降らないのでしたか?」
「降らないはず。俺が水を収納しても雨のようにはならないかな」
「でしたら、置いておいてよいかと思います」
 
 入口扉から見て左手に木材を積んでおく。これで全てではないけど、使ったらまた補充すればいい。
 ついでに大工道具もここに放置しておくことにした。俺以外でも日曜大工ができるように。俺以外ってベルヴァしかいないのだけど、ね。
 
 ここで一旦外に出て時間の確認をする。時刻はそろそろ日が傾いてくる頃ってところ。
 アイテムボックスの中に戻ると、ベルヴァの姿がない。

「ベルヴァさん!」
「ここです」

 家の窓を開けてベルヴァが手を振る。
 大まかな時間を察して、中の掃除を初めてくれたんだな。
 気が合うようで何より。そろそろ家の中の整備をはじめないと寝るまでに間に合わないと思っていた。
 しかし、いっそ全てが丸太で作られたログハウスみたいな家だったらよかったんだけどなあ……。
 改めて古びた二階建ての家を見上げる。
 三角屋根は元が青色だったのだろうけど、すっかりくすんで灰色に近い色になっており、所々屋根材が剥がれている。
 二階部分は出窓になっていて植木鉢とかを置けそうなんだが、置くと出窓が崩れてきそう。
 漆喰の壁も傷みが激しく、何とか風を凌げている状況だ。
 
 中に入ると舞い上がった埃でむせそうになる。

「う、うぷ」
「これを」

 ベルヴァが手に持つ白い布を見せ、背伸びをした。
 なるほど、これである程度の埃をガードできそうだ。掃除の時の基本ってやつだよね。
 少し膝を折り、彼女に布をつけてもらった。胸が顔に当たりそうになっていたのはワザとなのだろうか……。
 彼女の表情からしてそんなわけはないと思うんだけど、後ろからつけてもらった方がよかったかな。
 
 掃除機なんてものはないので、ひたすらパタパタと即席のハタキで埃を落としていく。
 もちろん、バケツや雑巾も準備済みである。行くぞおお。
 天井も軽くジャンプすれば届く。
 バフン。
 着地した際の衝撃で大量の埃が舞い上がってしまった!
 
「あとはもう水で流してしまおうか」
「一度そうしたほうが良さそうですね」

 ある程度の埃を落としたら、大量の水を流してモップをかける。
 この辺の日用品は全部揃えてあるからな。ははは。
 モップの毛束は馬の毛なのか、なんてことを気にしているうちに洗い流し作業が完了した。

「これを乾かさないと、だな。駄竜はどこに行ったっけ」
「蒼竜様は廃屋に残されていたのでは?」
「そうだった。アイテムボックスの中に入りたくないとかぬかして」
「アリアドネ様と同じにされてしまうと考えたのではないでしょうか」
「そのつもりだったんだけど、察しが良いな」
「あ、あの。ヨシタツ様」
「ん?」
「蒼竜様のブレスで乾かそう、などと考えていらっしゃいますか?」
「何とかならないかなあって」
「燃えてしまいませんか。この範囲を乾かすくらいでしたら、私でも何とかなります」
「マジか! すごいじゃないか」

 薄い胸を心なしか反らしたベルヴァがコクリと頷く。
 その場で両膝をついた彼女は胸の前で両手を組み目を閉じた。
 
「竜の巫女が願います。乾きをもたらし給え」

 彼女を中心に波紋のようにふわりとした風が起こる。
 風が撫でた床がみるみるうちに乾く。
 
「おおお、すげえええ」
「た、たいした魔法ではありません。生活魔法と呼ばれるものの一部です」

 そう言って照れつつも尻尾がピンとなるベルヴァなのであった。
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