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27.蜘蛛のボス

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『いつもながら、収納は詐欺だな』
「うるせえ! 後から糸を利用できるかもしれないだろ」
『ふかふかか?』
「どうだろう。ねばねばかもしれん」

 敵を前にして駄竜とふざけ合うとは余裕だなと思われるかもしれない。
 こうしている間にもヴィラレントから粘着性のある糸やら謎の赤い光の攻撃やらを受けている。
 糸は収納で、赤い光は特に俺にとって害がないので自分から当たりに行っていた。
 というのは、赤い光をベルヴァが浴びると危ないかもしれないからだ。
 さっきから、脳内メッセージが止まらないもの。
《称号「無の境地」により、石化を無効化しました》

 駄竜も赤い光をレジストするらしく、彼にとって赤い光はただのスポットライトとなっている。

「ほら、素直にブレスを吐け」
『酸欠がどうとか言ってなかったか?』
「もう今更だろう。ここに来るまでブレスを連発したんだし」
『あやつ、爆発しそうだぞ』
「マジかよ」

 体内に可燃性ガスでも溜め込んでいるのか?
 駄竜の言葉はとても嘘くさい。だけど、奴を燃やした後どうなるかまで考えが及んでいなかった。
 やるじゃないか。慎重な俺の上を行く慎重さとは。
 元々、絶対強者だったドラゴンにしては細やかなところまで気を回すんだな。真の強者とはこういう奴なのか……いやいや、駄竜だぞ。
 単にブレスで楽をしている俺が気に入らなかっただけだろ。
 
「ベルヴァさん。どこを潰せばいいかな?」
「え、えっと……頭でしょうか」

 唐突に後ろで待機するベルヴァに話を振る。彼女は戸惑った様子だったが、意見をくれた。
 カチリ。心の中の撃鉄を起こす。
 一気にギアを上げた俺の後から音が付いてくる。
 ズガガガガガ!
 音速を越えると物凄い轟音になるもんだなあ。単に走っているだけだってのに。
 刹那の瞬間でヴィラレントの頭上高くに到達。
 対するヴィラレントは俺の動きにまだ反応していない。あと一秒くらい過ぎれば気が付くかもな。
 だが!
 その時はもう遅い。
 
 ズオオオと右腕を振り上げ、背中を思いっきり反らし、蜘蛛の脳天目掛けて振り下ろす。
 蜘蛛の装甲に拳が当たるが、まるでプリンでも叩いているかのように柔らかな感触しか伝わってこない。
 拳を振り抜くと同時にヴィラレントの頭が弾け飛んだ。
 
 ドガガガガガ!
 と後から凄まじい音が響き渡る。

「ふう」
『小物にえらく気合いが入っていたな』
「どんな攻撃を持っているか分からないからな。先手必勝、一撃必殺だよ」
『先手というのは、疑問だがな。散々、糸やら打たせておったろうに』

 相変わらずの緩いやり取りを交わしながら、内心驚愕していた。
 何のかんので駄竜は即座に俺の動きに反応したんだ。
 まあ、こいつが自分で格下に見ていた蜘蛛よりは戦闘能力があるってことか。
 うーん。ますます分からなくなってきた。ミニドラゴン状態の駄竜は元の力からすると相当パワーダウンしている。それでも、ヴィラレントよりは全然強いんだよな。
 ふむ。大抵のモンスターは駄竜レーザーで十分事足りそうだ。
 翻訳の役目が終わった駄竜をただ飯くらいとして置いておくなんてしないぞ。これからは駄竜レーザーのお仕事を与えようじゃないか。ははは。
 
 そして、今になってベルヴァがペタンとその場で尻餅をつく。
 
「指定通り頭を潰したら一発だったよ」
「あ、あの。この威力だとどこに当たっても同じだよね……」
「まあ、そうかな」
「うん……」

 呆れと驚きからか、ベルヴァの口調が幼くなっている。

「あ、そうだ。ヴィラレントの素材って売れるのかな?」
「たぶん?」
「甲殻も柔らかいし、売り物になるとしたら糸くらいかなあ」
「え、あ。あああああ。不遜な物言い、申し訳ありません!」

 すっと立ち上がった彼女は、ペコペコと頭を下げた。
 いやいや、と彼女の動きを止めた俺は後からチェックすればいいかと、頭が吹き飛んだヴィラレントの遺骸をアイテムボックスの中に収納する。
 
「こいつがこの巣の主だったのかな?」
「恐らく……きゃ」

 俺には何も感じ取れなかったが、ベルヴァと駄竜の尻尾が同時に浮いた。
 咄嗟の判断で彼女を抱きかかえ、ついでに駄竜の尻尾も掴んで思いっきり横に飛ぶ。
 勢いあまって洞窟の壁に激突しそうになり、反転し壁に足をつける。
 その瞬間、視界が真っ白に染まった。
 光から若干遅れて衝撃波が発生するが、手を前に出して「収納」し事なきを得る。
 
『随分なご挨拶だな。眷属なんぞ抱えるからこうなるのだ。猛き者は孤高であるべき』
「誰に言ってんだよ」

 光ともうもうとした土埃が晴れると、人影がそこに立っていた。
 何のコスプレだよと思ったが、そうじゃないらしい。
 背中ほどまである髪色はエメラルドグリーン。額からはイナゴのような触覚が生え、頭の半分ほどを深い緑色の装甲が覆っている。
 胸と腰も同じ色の装甲で固め、背中からは四本の蜘蛛のような脚が伸びていた。
 手にはこれまたエメラルドグリーンに輝く大きな宝石をはめ込んだ杖を握りしめている。
 20代半ばほどの女に見えなくはないが、明らかに異形で人間ではない。昆虫と蜘蛛と人を足して割ったような……どう表現したらいいか……昆虫人間とでも言おうか。
 
「あら、随分可愛らしい姿になったじゃないの。邪蒼竜」
『ふん。我の力が衰えたから、嬉々として来たのか? 相も変わらず小物だな』
「そうよ。嬉々として来たわよ。あなたをペットにできると思ってね」
『アリアドネ。お前じゃ相手にならぬ。秘宝を置いて立ち去るがよい』
「あら、随分ね。今のあなたじゃ、片腕でも十分よ」

 どうやらこの痴女は駄竜と旧知の仲らしい。
 随分と親し気に会話しているが、一つ聞き逃せないことがあった。
 
「秘宝だと。その杖か?」
「ニンゲン。あなたはお呼びじゃないわ。そこの眷属さんも私のペット『ヴィラレント』とならいい勝負ができるかもね」
「街の人を襲わせたのはお前か?」
「私は特に何も。邪蒼竜までの道を作れと命じただけよ」
「命じればどうなるのか分かっててやったのか?」
「何をムキになっているのかしら。ニンゲンだってお腹が空くと食べるでしょ。蜘蛛だって私だって、邪蒼竜だってそうよ」

 確かに。食べるために生き物を殺生する。自然の摂理だな。
 蜘蛛から見りゃ人間だって、獲物の一つに過ぎない。
 だからといってこのまま「はいそうですか」と見過ごすなんてことはもってのほかだ。
 
「今すぐ撤収する、と言うのなら追わない。ただし、その杖を置いていけ」
「さっきから偉そうね、ニンゲン。会話も飽きて来たわ。消えなさい」

 杖を前に向けた痴女ことアリアドネに対し、駄竜が口を挟む。
 
『お前じゃ、相手にもならぬぞ』
「相手にならないなんてことは分かっているわ。でも、生意気な子虫は潰しておかないとね」
『何を勘違いしている。ヨシタツが見逃すと言っているうちにとっとと去れ。力を取り戻したら、我自らお前を滅ぼしてやろう。十二将としてな』
「このニンゲンが? 冗談が過ぎるわね。このニンゲンからはあなたの眷属より微弱な魔力しか感じないわ」

 アリアドネの口が頬まで裂け、ギギギギギと背中から生えた脚が音をたてる。
 素直に「杖を置いて行け」と言ってもそううまく事は運ばないか。仕方ない。
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