アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ

文字の大きさ
上 下
9 / 56

9.アイテムボックスのとんでもない仕様

しおりを挟む
 提供された空瓶にポーション(低級)を注ぐ作業は5分とかからず全て完了する。
 
「10本か。余裕、余裕」

 駄竜の目線が痛い。仕方ねえだろうが。成り行きだよ、成り行き。
 薬師という職業のステータスがとても高かったんだもの。どこぞの者と分からぬ言葉も理解しない風来坊であっても、疑われもせず歓迎されるのだからさ。
 俺が言うのもなんだけど、胡散臭いったらありゃしないぞ。俺って存在は。
 食事ついでに村の周辺事情を族長から聞いてみたけど、近くに村や街はない。ベルヴァからも聞いていた街までは一週間以上かかる距離なんだってさ。
 
『腹も膨れた。よく分からんお主の作業とやらも終わった。我が手伝うこともないだろう』
「いや、まだです」

 久々に言った気がするこの言葉。
 慎重で思慮深い男である俺は、寝るにはまだ早い。

『ほう?』
「ベルヴァのことが気になっていてさ」
『交尾をしたいのか? ニンゲンは交尾ばかりしておると聞く』
「違うわ!」
『ほう。ニンゲンとドラゴニュートでは交尾ができんのか。我から見ると似たようなものだがな』

 この駄竜め! 俺は動物ではない。理性というものを獲得した人間なのだ。
 妻や彼女でもない人にそのような破廉恥な考えが浮かぶわけないだろ。
 ぷんすかしながら、家の外へ出る。

「あ……」
「××」

 ちょうど家の前まで来ていたベルヴァとエンカウントした。
 彼女は会釈し何やら言葉を紡ぐが、もちろん俺には理解できない。ふかふかのクリーム色の毛皮の中に顎をつけて寝そべる駄竜の尻尾を掴み、引っ張り上げる。
 抗議するように駄竜が口から火を吹くが無視して扉口で待たせているベルヴァの元へ戻った。
 
「××? ×××」
『錬成中でしたか……? 後程また伺わせて頂きます』
「いや、ポーションはもう……あ」

 ベルヴァが目線だけを動かし何かを見た。そうだった。薬草が満載された土嚢袋だよ!
 薬師のことは全く分からんが、あの薬草が材料で完成品がポーションである。
 作ったように見せかけたポーションで満足していて、薬草をアイテムボックスに収納するのを忘れてた。
 
「あ、あれはありがたく回収するよ」

 収納と心の中で念じ、土嚢袋ごと全ての薬草をアイテムボックスの中に放り込む。

「××××?」
『これよりポーションの錬成ですか?』
「いや、もう終わったんだ。予備があってさ。予備があったことは内緒な」
「××××!」
『そうだったのですか。貴重なポーションのご提供ありがとうございます!』
 
 苦しい、苦しいが押し切るしかない。
 弱ったように頭をかく俺。実はアイテムボックスの中にまだ9999万個あるなんて言えねえ。
 彼女から何か言いたいことがあるようだけど、先に俺から行かせてもらおう。

「これから君を探しに行こうと思ってたんだ」
「×××……?」
『私を……?』
「うん。食事の席からずっといなかったから、旅の支度も含め、何かと手配をしてくれたから一言お礼が言いたくて」

 え、えええ。彼女がぽろぽろと泣き出してしまった。
 肩を震わせうつむこうとしていたけど、俺の前だからか顎をあげ気丈に振舞っている。
 こんな時、どうすれば……。
 
「××××……××」
『お礼なんて……私に……ぐす』
「君に動いてもらったから、村に着くことができたし、歓迎された。お礼を言うのは当然のことだろ」
「××××。××××」
『私を連れ出してくださいました。両親の墓に行くことができました。それなのに……』

 村に来てから彼女の態度に違和感を覚えていた。
 俺の勝手な思い込みかもしれないけど、彼女が涙を流すことは引っかかるものがある。
 まさか。
 
「久しぶりの村で友人のところに訪れていたのかなと思っていたけど、ひょっとして一人だった?」

 コクリと頷く彼女。

「両親が存命じゃないから……だけじゃないよな……」
「××」
『はい……』

 彼女は蚊の鳴くような声で肯定する。
 う、ううむ。俺から聞くのは憚られるな。何等かの原因があって、彼女は村のつまはじき者になっていた。
 それ故彼女は竜の巫女として、駄竜の元へ送られたのだと思う。
 それなら村になんて立ち寄らない方がよかったんじゃないか? だけど、それでも彼女は両親の墓を参りたいと言っていた。
 墓参りは彼女なりのけじめ。この先彼女は一体どうするつもりなんだろうか。
 俺が口を開く前に彼女がキュッと唇を結んでから、発言する。
 
「××××。×××?」
『お願いがあって来ました。私を連れて行ってもらえませんか?』
「俺の目的は君が聞いた通りだ。俺は別世界の人間だから、君がいてくれると心強い。是非、一緒に来てくれないか?」
「××。××××」
『はい! きっとあなた様のお役に立ちます』  
「そう硬くならずに……。君の落ち着ける場所を見つけた時はいつでも抜けてくれていいから。ベルヴァさんはベルヴァさんの意思で動けばいい」
「×××……××」
『ヨシタツ様……私なんかにそんな……』

 そっと彼女を抱きしめる。大丈夫だ。大丈夫だと背中をさすった。
 生まれ故に彼女は自己評価がとても低い。「私なんか」なんて言うとは、いたたまれない気持ちになる。
 すぐにとはいかないだろうけど、どうか自分を肯定し前向きになって欲しいと願う。
 上からな感じで偉そうですまん。だけど、彼女の幸せを願う気持ちは分かって欲しいんだ。

「××××、××××」
『交換した旅の品々は全てまとめました。少し遅くなってしまいましたが……』
「今までずっと? ひょっとしてご飯も食べていない?」

 俺の胸に顔を埋めたまま小さく頷く彼女。

「すぐ食事にしよう。食べきれないほどの量があったから、こっそりアイテムボックスに収納してるんだ」

 彼女から体を離し、精一杯の笑顔で彼女を誘う。
 
 ◇◇◇
 
 ど、どうしてこうなった。
 駄竜が俺の腹の上でぐーすか寝ているのはまだいい。
 だけど、隣でスヤスヤ眠るベルヴァが問題だ。せめて背を向けて寝てくれたらいいのに、こちら側を向いてぐっすりなんだよ。
 ベッドは広く、寝るには問題ない。毛皮もふかふかで心地よい。
 彼女が俺の側を向いて寝ているのは、あれか、あれだろ。緑の尻尾が当たらないように気を遣って、だと思う。たぶん。
 尻尾が当たってもいいからせめて背を向けて寝て欲しかった。なら、ちゃんと言えよ、って話だけど習慣が分からないから何も言えなかったんだ。
 もし、背を向けて寝る行為が「お誘い」の強制だったらどうしようとかね。
 
「この状況を何とかせねば……」

 ん。賢い俺はいいことを思いついてしまった。
 じっくり休み、時間を潰すなんてことがこれまでなかったから、後回しにしてちゃんと調べてなかったんだよな。
 何かって? アイテムボックスだよ。アイテムボックスの中にいた時は思い出したくもないほど悠久の時を過ごした(あくまで体感)。
 アイテムボックスの一覧を表示させる。
 俺の視界にはウィンドウが映っているけど、これは俺にしか見えない。デフォルト状態だとポーションが延々とならんでいて戸惑ったよな。
 アイテムをソートしたりとか、種類別にまとめたりなんてことはできないのかな。
 パソコンを操作するかのように右クリックをイメージすると、フォルダを作ることができた!
 ほおほお。フォルダにアイテムを移動させることもできるし、フォルダの名前をつけることもできる。パソコンの操作に近く分かりやすい。
 
「ん、フォルダってどうなってるんだろ」

 パソコン感覚でふと疑問が浮かぶ。
 右クリックのイメージでフォルダを見たら、フォルダの「プロパティ」が表示され変な声が出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...