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47.円ペッグの拡大 過去
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――ドイツ 藍人 過去
西プロイセンでまた緊張が高まっているお陰で、オーストリア連邦チェコ州のプラハからベルリンへ戻る際に時間がとられてしまった藍人は、ようやくドイツのベルリンまで戻って来ていた。
これで帰国だと考えていた藍人だったが、会社から無情にも追加命令が下る。何とイタリアへ行けとのお達しだ……イタリアは一党独裁政権下で日本の友好国ではなかったはずだけど、政府間交渉で経済協定を結ぶ話があると会社から情報を得た藍人は一応納得したが、正直早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。
愛する息子と妻に一刻も早く会いたいというのが彼の正直な気持ちだからだ。
イタリアへは幸いベルリンからローマへ直行便が出ていたから、さほど時間をかけずに到着できた藍人。最も帰国するためにはまたベルリンへ戻らねばならないのだが……
イタリアへ到着するまでは、日本の妻と息子の事ばかり考えていた藍人だったが、ローマの都市部が目に入ると途端に目を奪われる。古代ローマから残るコロッセウムを始めとした歴史建造物は彼の心を捉えて離さない。
元々各国を見て回りたいという動機で商社に就職した彼は元来旅行好きなのである。古代から残る歴史建造物に心を惹かれないわけがなかった。
現地通訳に案内されて辿り着いた先の建物には「ようこそイタリアへ」と大きな横断幕が掛かっていて、藍人を驚かせる。会社からイタリアが日本との経済協定締結を協議していると聞いていたが、ここまで準備していたとは……藍人は横断幕を眺めながら建物に入る。
「ようこそ。おいでくださいました。日本の方」
藍人を迎えてくれたのは、なんと黒い軍服姿の軍人だった……さすがファシスト政権だと藍人は内心軍人を見て冷や冷やするも極力表情に出さないよう笑顔を取り繕う。
「歓迎ありがとうございます」
「イタリアの工芸品や工業品を展示してますので、どうぞご覧になってください。奥には立食形式となりますが食事も準備しています」
「何から何までありがとうございます」
藍人がお辞儀をすると、黒い軍服の軍人は敬礼で返礼してくれる。
イタリアはエチオピアへ復讐戦を行うと専らの噂だけど、どうなんだろうかと藍人がそう考えながら進むと、軍人の言葉通り多量の工芸品と工業品が展示されている。
展示室には幾人かの日本人らしきビジネスマンが真剣な顔で展示品を見つめている。藍人も彼らに倣い、次々と展示品に目を通していく……
藍人が特に目を惹かれたのは、ヴェネチアングラスと言われる工芸品とワインだった。特にヴェネチアングラスの方は、日本の百貨店で売り出せば売れると藍人は確信するほどの出来栄えであった。
「いかがですか?」
藍人がヴェネチアングラスに見とれていると、イタリア人の中年男性から声をかけられる。この中年男性は普通の服装をしていた。
「いやあ。素晴らしいです」
「伝統的な製法で作られたヴェネチアングラスはヴェネチアの誇りです。気に入っていただけて私も嬉しいですよ」
「これはぜひ日本へ紹介したい製品ですよ。生産している会社をご紹介いただけますか?」
「もちろんです。料理もぜひ食べていってくださいね! 自慢のピッツアとパスタを準備してますので」
「はい。ぜひ」
藍人はイタリア料理に舌鼓をうち、電話交換機があるホテルに宿泊する。会社へ電話を繋ぎ、イタリアの様子とヴェネチアングラスの事を伝える藍人。
「……というわけなんですよ」
「現地の様子が聞けて良かったよ」
「翌日、帰路につこうと思っているのですが」
藍人は仕事が終わったので、観光と家族の顔を比べた結果、家族が勝利したためすぐ帰路につくつもりだと上司に報告する。
「そのことだが、藍人君。次はトルコのイスタンブールへ行ってくれたまえ」
「え」
「イスタンブールから船でスエズ運河を抜け、サウジアラビアの視察も行ってくれたまえ」
「りょ、了解しました。サウジアラビアとは……」
「あ、ああ。ナジュド王国だよ。藍人君」
「そういえば、国名変わったのでしたね……」
電話を切った藍人は大きなため息をつく。どうやら会社は藍人に友好国を周遊させる腹つもりらしい。ナジュド王国は昨年、サウジアラビア王国へと名前を変えたのだった。
聞きなれない名前に戸惑った藍人だったが、そういえば新聞で読んだなと思い出す。他にも確か、ペルシャがイランへ名前を変えたんだったか……
ふてくされた藍人は、イタリア名産のリキュールをグラスに注ぎ、大きな氷を投入し一口、口に含む。あ、甘い……アマレットってリキュール……
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回も執筆は編集の叶健太郎。いやあ新しい食べ物がどんどん出て来るよな。冷凍イチゴってのを試したことはあるかい?
シャリシャリしてて割にうまいぞ。ただ、口の中が冷たすぎて歯が痛くなるから食べ過ぎに注意だぜ。ちなみに酒のつまみにはならないから注意な。そうそう、ビールに案外あうのがコロッケだ。
一度試してみたらどうだ? コロッケも冷凍食品になるんだろうか……そのうちなんでも冷凍食品になりそうだよな。
国防省から軍隊の編成について発表があり、整備も進んできた話題から行ってみようか。日本の軍隊は四軍構成――陸軍、海軍、空軍、海兵隊の四つに分かれているんだが、さらに準軍事組織として沿岸警備隊ってのが新設された。
この組織は国防省配下ではなく、運輸通信省配下の組織になる。まあ名前の通りアメリカの沿岸警備隊を参考につくられた組織なんだが、主に平時の哨戒、警備、取り締まり、洋上での救助活動を行う組織で、警察が陸で活動する保安組織ならば、沿岸警備隊は海で活動する治安維持隊みたいなものだな。
政府は海上の安全確保は重く考えているようで、それなりの金額をかけて小型艦を配備する。また、気象観測研究所からレーダーの提供も受けるそうだ。
海軍ではロンドン軍縮会議の延期を受け、小型艦の配備数が決定し、準備も整っている。航空機の技術革新も順調で、今年度中に全て国産に切り替えることが決定済みだ。
いよいよ日本が目指してきた「技術立国」が形になり始めてるってことだろうなあ。
軍事関係だけでなく、自動車を始めとした工業製品も欧米基準についに追いついた。後は追い抜かすだけだぜ! 頑張れ日本。
外交ではイタリアとオランダと経済協定を締結した。イタリアとの経済協定締結はイタリアが独裁政権の為、国内でも相当議論が繰り返されたらしいが、イタリア政府が出した提案をきっかけに経済協定締結まで話が進んだ。
イタリアが出した提案とは、イタリアは日本と経済協定を締結できるのならば、オーストリア連邦の「未回収のイタリア」への侵攻の停止を約束するという内容だった。日本政府はイタリアの提案に対し、もしオーストリア連邦内の「未回収のイタリア」地域へ侵攻した場合、経済協定は破棄することを条件にイタリアと経済協定を締結する。
この結果、イタリアは日本と関税同盟を締結し、円ペッグを採用する。イタリアが日本提示の通貨スワップではなく、円ペッグを採用したことに世間は驚いていたものだ。
仮にも列強の一角であるイタリアが円に依存する円ペッグを採用する運びになることを、日本側は想定していなかった。まあ、イタリアの景気が好調になれば、円ペッグを廃止するかもしれないけどな。
オランダとの経済協定はあっさりと締結が決まる。何しろオランダは資源が豊富なオランダ領東インド(インドネシア)があるからな。オランダ領東インド(インドネシア)と日本は距離も近く、これでより一層資源の輸入がやりやすくなった。
さらに日本はイギリスとアメリカと通貨スワップ協定を締結する。三国の通貨安定とお互いの通貨での決済をスムーズにすることを目的とし、協定が締結された。流通通貨の大半を占めるこの三国の通貨スワップ協定は、より国際貿易を潤滑にすることになるだろう。
西プロイセンでまた緊張が高まっているお陰で、オーストリア連邦チェコ州のプラハからベルリンへ戻る際に時間がとられてしまった藍人は、ようやくドイツのベルリンまで戻って来ていた。
これで帰国だと考えていた藍人だったが、会社から無情にも追加命令が下る。何とイタリアへ行けとのお達しだ……イタリアは一党独裁政権下で日本の友好国ではなかったはずだけど、政府間交渉で経済協定を結ぶ話があると会社から情報を得た藍人は一応納得したが、正直早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。
愛する息子と妻に一刻も早く会いたいというのが彼の正直な気持ちだからだ。
イタリアへは幸いベルリンからローマへ直行便が出ていたから、さほど時間をかけずに到着できた藍人。最も帰国するためにはまたベルリンへ戻らねばならないのだが……
イタリアへ到着するまでは、日本の妻と息子の事ばかり考えていた藍人だったが、ローマの都市部が目に入ると途端に目を奪われる。古代ローマから残るコロッセウムを始めとした歴史建造物は彼の心を捉えて離さない。
元々各国を見て回りたいという動機で商社に就職した彼は元来旅行好きなのである。古代から残る歴史建造物に心を惹かれないわけがなかった。
現地通訳に案内されて辿り着いた先の建物には「ようこそイタリアへ」と大きな横断幕が掛かっていて、藍人を驚かせる。会社からイタリアが日本との経済協定締結を協議していると聞いていたが、ここまで準備していたとは……藍人は横断幕を眺めながら建物に入る。
「ようこそ。おいでくださいました。日本の方」
藍人を迎えてくれたのは、なんと黒い軍服姿の軍人だった……さすがファシスト政権だと藍人は内心軍人を見て冷や冷やするも極力表情に出さないよう笑顔を取り繕う。
「歓迎ありがとうございます」
「イタリアの工芸品や工業品を展示してますので、どうぞご覧になってください。奥には立食形式となりますが食事も準備しています」
「何から何までありがとうございます」
藍人がお辞儀をすると、黒い軍服の軍人は敬礼で返礼してくれる。
イタリアはエチオピアへ復讐戦を行うと専らの噂だけど、どうなんだろうかと藍人がそう考えながら進むと、軍人の言葉通り多量の工芸品と工業品が展示されている。
展示室には幾人かの日本人らしきビジネスマンが真剣な顔で展示品を見つめている。藍人も彼らに倣い、次々と展示品に目を通していく……
藍人が特に目を惹かれたのは、ヴェネチアングラスと言われる工芸品とワインだった。特にヴェネチアングラスの方は、日本の百貨店で売り出せば売れると藍人は確信するほどの出来栄えであった。
「いかがですか?」
藍人がヴェネチアングラスに見とれていると、イタリア人の中年男性から声をかけられる。この中年男性は普通の服装をしていた。
「いやあ。素晴らしいです」
「伝統的な製法で作られたヴェネチアングラスはヴェネチアの誇りです。気に入っていただけて私も嬉しいですよ」
「これはぜひ日本へ紹介したい製品ですよ。生産している会社をご紹介いただけますか?」
「もちろんです。料理もぜひ食べていってくださいね! 自慢のピッツアとパスタを準備してますので」
「はい。ぜひ」
藍人はイタリア料理に舌鼓をうち、電話交換機があるホテルに宿泊する。会社へ電話を繋ぎ、イタリアの様子とヴェネチアングラスの事を伝える藍人。
「……というわけなんですよ」
「現地の様子が聞けて良かったよ」
「翌日、帰路につこうと思っているのですが」
藍人は仕事が終わったので、観光と家族の顔を比べた結果、家族が勝利したためすぐ帰路につくつもりだと上司に報告する。
「そのことだが、藍人君。次はトルコのイスタンブールへ行ってくれたまえ」
「え」
「イスタンブールから船でスエズ運河を抜け、サウジアラビアの視察も行ってくれたまえ」
「りょ、了解しました。サウジアラビアとは……」
「あ、ああ。ナジュド王国だよ。藍人君」
「そういえば、国名変わったのでしたね……」
電話を切った藍人は大きなため息をつく。どうやら会社は藍人に友好国を周遊させる腹つもりらしい。ナジュド王国は昨年、サウジアラビア王国へと名前を変えたのだった。
聞きなれない名前に戸惑った藍人だったが、そういえば新聞で読んだなと思い出す。他にも確か、ペルシャがイランへ名前を変えたんだったか……
ふてくされた藍人は、イタリア名産のリキュールをグラスに注ぎ、大きな氷を投入し一口、口に含む。あ、甘い……アマレットってリキュール……
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回も執筆は編集の叶健太郎。いやあ新しい食べ物がどんどん出て来るよな。冷凍イチゴってのを試したことはあるかい?
シャリシャリしてて割にうまいぞ。ただ、口の中が冷たすぎて歯が痛くなるから食べ過ぎに注意だぜ。ちなみに酒のつまみにはならないから注意な。そうそう、ビールに案外あうのがコロッケだ。
一度試してみたらどうだ? コロッケも冷凍食品になるんだろうか……そのうちなんでも冷凍食品になりそうだよな。
国防省から軍隊の編成について発表があり、整備も進んできた話題から行ってみようか。日本の軍隊は四軍構成――陸軍、海軍、空軍、海兵隊の四つに分かれているんだが、さらに準軍事組織として沿岸警備隊ってのが新設された。
この組織は国防省配下ではなく、運輸通信省配下の組織になる。まあ名前の通りアメリカの沿岸警備隊を参考につくられた組織なんだが、主に平時の哨戒、警備、取り締まり、洋上での救助活動を行う組織で、警察が陸で活動する保安組織ならば、沿岸警備隊は海で活動する治安維持隊みたいなものだな。
政府は海上の安全確保は重く考えているようで、それなりの金額をかけて小型艦を配備する。また、気象観測研究所からレーダーの提供も受けるそうだ。
海軍ではロンドン軍縮会議の延期を受け、小型艦の配備数が決定し、準備も整っている。航空機の技術革新も順調で、今年度中に全て国産に切り替えることが決定済みだ。
いよいよ日本が目指してきた「技術立国」が形になり始めてるってことだろうなあ。
軍事関係だけでなく、自動車を始めとした工業製品も欧米基準についに追いついた。後は追い抜かすだけだぜ! 頑張れ日本。
外交ではイタリアとオランダと経済協定を締結した。イタリアとの経済協定締結はイタリアが独裁政権の為、国内でも相当議論が繰り返されたらしいが、イタリア政府が出した提案をきっかけに経済協定締結まで話が進んだ。
イタリアが出した提案とは、イタリアは日本と経済協定を締結できるのならば、オーストリア連邦の「未回収のイタリア」への侵攻の停止を約束するという内容だった。日本政府はイタリアの提案に対し、もしオーストリア連邦内の「未回収のイタリア」地域へ侵攻した場合、経済協定は破棄することを条件にイタリアと経済協定を締結する。
この結果、イタリアは日本と関税同盟を締結し、円ペッグを採用する。イタリアが日本提示の通貨スワップではなく、円ペッグを採用したことに世間は驚いていたものだ。
仮にも列強の一角であるイタリアが円に依存する円ペッグを採用する運びになることを、日本側は想定していなかった。まあ、イタリアの景気が好調になれば、円ペッグを廃止するかもしれないけどな。
オランダとの経済協定はあっさりと締結が決まる。何しろオランダは資源が豊富なオランダ領東インド(インドネシア)があるからな。オランダ領東インド(インドネシア)と日本は距離も近く、これでより一層資源の輸入がやりやすくなった。
さらに日本はイギリスとアメリカと通貨スワップ協定を締結する。三国の通貨安定とお互いの通貨での決済をスムーズにすることを目的とし、協定が締結された。流通通貨の大半を占めるこの三国の通貨スワップ協定は、より国際貿易を潤滑にすることになるだろう。
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