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17.1920年頃2 過去
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――過去 藍人
ドイツに戻った藍人は再び工場長ら、ドイツで出会った人達の元を訪問した後帰路につく。また長い船旅が始まると思うと陰鬱な気持ちになって来るが、帰国すれば愛しの蜜柑さんに会えると自分を鼓舞し日本行きの船に乗り込む。
帰りの便には響はいなかったが、用宗とは一緒になったので藍人は少しだけ気分が和らいだ。
乗船後少し古い新聞にはなったが、藍人は久しぶりに日本語で書かれた新聞を手にして顔が綻ぶ。彼はさっそく新聞を読もうと椅子に腰かけ、新聞を開くが眉をしかめる。
向かいに座った通訳の用宗は藍人の様子がおかしいことに気が付き声をかけた。
「藍人さん。どうしました?」
「いえ。待ち望んでいた日本語の新聞が手に入って嬉しいことは嬉しいんですが……」
そう言って藍人は用宗に新聞を手渡すと、彼はすぐに新聞の中身を確かめ納得した表情になる。
「なるほど。藍人さんは余りこの新聞が好きではないのです?」
「嫌いではないんですけど、久しぶりに読む新聞は普通のが良かったなあと思ってます。贅沢な悩みですけど」
藍人の言葉に用宗は声を出して笑うと、「失礼」と藍人に告げる。
「藍人さんはよっぽど新聞が好きなんですね」
「子供の時から父と新聞を読みながら毎晩縁側で話をしていたんですよ。その頃から新聞が好きなんです」
「父親と仲が良いのですね」
「はい。今でも良好ですよ」
「それは良い事ですね」
用宗は少しうらやましそうに藍人と新聞を交互に見る。藍人は用宗の仕草から、過去に彼と父親に何かあったのだろうと察し慌てて話題を変えようと口を開こうとした時、後ろから声をかけられる。
「良かった。藍人さんですね。電報を預かっていたんです」
声をかけてきた若い男性は藍人に電報を手渡し、お辞儀をして去っていく。意図せず話題が切り替わったことに安堵する藍人だったが、手に持つ電報に嫌な予感しかしない……
「用宗さん。ここで開けていいですか?」
「藍人さんがよろしければどうぞ」
藍人は電報を開き記載内容を改める……
<アラビア半島へ寄港し、帰国せよ。船の手配は済んでいる>
ア、アラビア半島に行けだとお! 藍人は帰国が遅くなることに嘆くも、まだ見ぬ国へ行けることに少しワクワクしてくる。
「用宗さん。俺はアラビア半島に寄ってから日本になるみたいです」
「アラビア半島ですか! ナシュド王国ですかね」
「恐らくナシュド王国と思います。行ったことのない国なので楽しみですよ」
藍人の記憶ではアラビア半島に有力な産業は無い記憶だったのだが……あの地で行うビジネスとは一体? 藍人が訪問できる環境にあるなら、現地に日本人がいると彼には予想できた。
一体、ナシュド王国で何を行おうと彼らはしているのだろうか。藍人の興味はつきない。
「ナシュド王国で何を行うんでしょうね」
用宗も興味深々といった様子で藍人に問いかける。
「行ってみたらわかるかもしれません」
藍人は用宗に応じると、二人は手に持った新聞に目を落とす。
交代で新聞を読み読了した彼らはまた話始める。
「モンゴルで革命政権ですか……」
読み終わった藍人はため息をつく。新聞にはモンゴルで共産党主導の国家が成立したと記載がある。ソ連の赤軍と協力し、モンゴル革命政府は中華民国の軍隊を駆逐し国家成立宣言をしたとあった。
現地の中華民国兵では赤軍に敵わないだろうから、今後どう動くのだろうか。藍人の興味は尽きないが、日本にとっては余り歓迎すべき国家でないことは確かだ。
現状日本の仮想敵国はソ連に違いない。モンゴルが共産党主導の元、国家成立したとなれば、ソ連の勢力圏が外モンゴルにまで広がったということ。内モンゴルを制圧しなかったのは何故だろうか?
「用宗さん。内モンゴルは制圧してないんですよね。何か理由があるんでしょうか?」
「いずれは勢力を拡大するかもしれないですよね。ただ、内モンゴルの主要民族は漢民族ですよね」
「なるほど。モンゴル人の比率の問題でしたか。それは説得力のある仮説ですね」
「ただ、彼らモンゴルは内モンゴルもモンゴル人の土地と考えてますから、漢民族を追い出してでも占領する可能性もありますね」
内モンゴルは元々モンゴル人が遊牧していた土地であることは間違いないが、長年の漢民族による支配の結果、彼らがこの地に入植する。元々遊牧民族って数が少ないから、長い時を経ると人口比は圧倒的になってくるんだろう。
彼らはとにかく数が多いからなあ……藍人はコーヒーを口にしながら用宗の仮説をこのように検討した。
彼らが読んでいた新聞には「ワクテカ新聞」と新聞名が書かれていた……
――ワクテカ新聞
日本、いや世界で一番軽いノリのワクテカ新聞だぜ! 今回も執筆するのは編集の叶健太郎。よろしくな。今回は読者からの質問にまず答えようじゃないか。
いつも「今回も」って言って毎回「叶」だけど、他に人がいるのか? って質問を受けたぜ。ああ。いっぱいいるぜ。ワクテカ新聞の記者は。え? ならなんで叶なのかって?
言わなくても分かるだろ? 俺が一番人気あるからだよ。言わせんな恥ずかしい。え? 俺以外の名前を見たことが無いって? き、気のせいだ。次回は違う記者に書いてもらおうか? え? 叶が首だって?
いやいやそんなー。え? 編集長? まさか……
……前置きが長くなっちまったな。何を書くか忘れそうだったぜ。全く。そうそうモンゴルだよ。モンゴル。
モンゴルは大きく外モンゴルと内モンゴルって地域に区分されているんだけど、外モンゴルが赤軍の手を借りて独立してしまったんだよ! もちろん赤軍の手を借りているから共産党政権だぜ。
外モンゴルの最近の歴史を紐解くと、清で革命が起こると外モンゴルは独立を宣言し、この時は外モンゴルだけでなく内モンゴルのほとんどを占領下に置いたんだぜ。しかし中華民国が成立すると旧ロシアとの協定で中華民国主権下の自治を認められた地域になる。
ところがどっこい、今度はロシアで革命が起こる。こうなったら独立のチャンス到来って感じで、外モンゴルの中華民国軍を駆逐してまたしても独立宣言をしたってわけだ。
今は立憲君主制の国家ではあるが、ソ連共産党主導の元、国家運営をしてるから、現君主が亡くなれば君主制は廃止されるだろうなあ。
まあ、モンゴル独立おめでとう! と素直に祝福したいところなんだけど……そうも言っていられない状況なんだぜ。知っての通り、ソ連はロシア公国と接していて勢力拡大を狙ってる。
外モンゴルがソ連の影響下に入っちまったってわけだ。外モンゴルが勢力下にとなると、次は内モンゴル、満州と侵食してくるんじゃないかと警戒しちまうよな。
この事態を受けてアメリカとロシア公国、日本、ついでにイギリスも何か対策を練ろうという動きがあるみたいだぜ。分かり次第またここでお知らせするから楽しみにしておいてくれよな。
え? 次回も「叶」かどうかって? 突っかかるなあ。ほんと……分かってるって、俺がいいんだろ? はははは。
ドイツに戻った藍人は再び工場長ら、ドイツで出会った人達の元を訪問した後帰路につく。また長い船旅が始まると思うと陰鬱な気持ちになって来るが、帰国すれば愛しの蜜柑さんに会えると自分を鼓舞し日本行きの船に乗り込む。
帰りの便には響はいなかったが、用宗とは一緒になったので藍人は少しだけ気分が和らいだ。
乗船後少し古い新聞にはなったが、藍人は久しぶりに日本語で書かれた新聞を手にして顔が綻ぶ。彼はさっそく新聞を読もうと椅子に腰かけ、新聞を開くが眉をしかめる。
向かいに座った通訳の用宗は藍人の様子がおかしいことに気が付き声をかけた。
「藍人さん。どうしました?」
「いえ。待ち望んでいた日本語の新聞が手に入って嬉しいことは嬉しいんですが……」
そう言って藍人は用宗に新聞を手渡すと、彼はすぐに新聞の中身を確かめ納得した表情になる。
「なるほど。藍人さんは余りこの新聞が好きではないのです?」
「嫌いではないんですけど、久しぶりに読む新聞は普通のが良かったなあと思ってます。贅沢な悩みですけど」
藍人の言葉に用宗は声を出して笑うと、「失礼」と藍人に告げる。
「藍人さんはよっぽど新聞が好きなんですね」
「子供の時から父と新聞を読みながら毎晩縁側で話をしていたんですよ。その頃から新聞が好きなんです」
「父親と仲が良いのですね」
「はい。今でも良好ですよ」
「それは良い事ですね」
用宗は少しうらやましそうに藍人と新聞を交互に見る。藍人は用宗の仕草から、過去に彼と父親に何かあったのだろうと察し慌てて話題を変えようと口を開こうとした時、後ろから声をかけられる。
「良かった。藍人さんですね。電報を預かっていたんです」
声をかけてきた若い男性は藍人に電報を手渡し、お辞儀をして去っていく。意図せず話題が切り替わったことに安堵する藍人だったが、手に持つ電報に嫌な予感しかしない……
「用宗さん。ここで開けていいですか?」
「藍人さんがよろしければどうぞ」
藍人は電報を開き記載内容を改める……
<アラビア半島へ寄港し、帰国せよ。船の手配は済んでいる>
ア、アラビア半島に行けだとお! 藍人は帰国が遅くなることに嘆くも、まだ見ぬ国へ行けることに少しワクワクしてくる。
「用宗さん。俺はアラビア半島に寄ってから日本になるみたいです」
「アラビア半島ですか! ナシュド王国ですかね」
「恐らくナシュド王国と思います。行ったことのない国なので楽しみですよ」
藍人の記憶ではアラビア半島に有力な産業は無い記憶だったのだが……あの地で行うビジネスとは一体? 藍人が訪問できる環境にあるなら、現地に日本人がいると彼には予想できた。
一体、ナシュド王国で何を行おうと彼らはしているのだろうか。藍人の興味はつきない。
「ナシュド王国で何を行うんでしょうね」
用宗も興味深々といった様子で藍人に問いかける。
「行ってみたらわかるかもしれません」
藍人は用宗に応じると、二人は手に持った新聞に目を落とす。
交代で新聞を読み読了した彼らはまた話始める。
「モンゴルで革命政権ですか……」
読み終わった藍人はため息をつく。新聞にはモンゴルで共産党主導の国家が成立したと記載がある。ソ連の赤軍と協力し、モンゴル革命政府は中華民国の軍隊を駆逐し国家成立宣言をしたとあった。
現地の中華民国兵では赤軍に敵わないだろうから、今後どう動くのだろうか。藍人の興味は尽きないが、日本にとっては余り歓迎すべき国家でないことは確かだ。
現状日本の仮想敵国はソ連に違いない。モンゴルが共産党主導の元、国家成立したとなれば、ソ連の勢力圏が外モンゴルにまで広がったということ。内モンゴルを制圧しなかったのは何故だろうか?
「用宗さん。内モンゴルは制圧してないんですよね。何か理由があるんでしょうか?」
「いずれは勢力を拡大するかもしれないですよね。ただ、内モンゴルの主要民族は漢民族ですよね」
「なるほど。モンゴル人の比率の問題でしたか。それは説得力のある仮説ですね」
「ただ、彼らモンゴルは内モンゴルもモンゴル人の土地と考えてますから、漢民族を追い出してでも占領する可能性もありますね」
内モンゴルは元々モンゴル人が遊牧していた土地であることは間違いないが、長年の漢民族による支配の結果、彼らがこの地に入植する。元々遊牧民族って数が少ないから、長い時を経ると人口比は圧倒的になってくるんだろう。
彼らはとにかく数が多いからなあ……藍人はコーヒーを口にしながら用宗の仮説をこのように検討した。
彼らが読んでいた新聞には「ワクテカ新聞」と新聞名が書かれていた……
――ワクテカ新聞
日本、いや世界で一番軽いノリのワクテカ新聞だぜ! 今回も執筆するのは編集の叶健太郎。よろしくな。今回は読者からの質問にまず答えようじゃないか。
いつも「今回も」って言って毎回「叶」だけど、他に人がいるのか? って質問を受けたぜ。ああ。いっぱいいるぜ。ワクテカ新聞の記者は。え? ならなんで叶なのかって?
言わなくても分かるだろ? 俺が一番人気あるからだよ。言わせんな恥ずかしい。え? 俺以外の名前を見たことが無いって? き、気のせいだ。次回は違う記者に書いてもらおうか? え? 叶が首だって?
いやいやそんなー。え? 編集長? まさか……
……前置きが長くなっちまったな。何を書くか忘れそうだったぜ。全く。そうそうモンゴルだよ。モンゴル。
モンゴルは大きく外モンゴルと内モンゴルって地域に区分されているんだけど、外モンゴルが赤軍の手を借りて独立してしまったんだよ! もちろん赤軍の手を借りているから共産党政権だぜ。
外モンゴルの最近の歴史を紐解くと、清で革命が起こると外モンゴルは独立を宣言し、この時は外モンゴルだけでなく内モンゴルのほとんどを占領下に置いたんだぜ。しかし中華民国が成立すると旧ロシアとの協定で中華民国主権下の自治を認められた地域になる。
ところがどっこい、今度はロシアで革命が起こる。こうなったら独立のチャンス到来って感じで、外モンゴルの中華民国軍を駆逐してまたしても独立宣言をしたってわけだ。
今は立憲君主制の国家ではあるが、ソ連共産党主導の元、国家運営をしてるから、現君主が亡くなれば君主制は廃止されるだろうなあ。
まあ、モンゴル独立おめでとう! と素直に祝福したいところなんだけど……そうも言っていられない状況なんだぜ。知っての通り、ソ連はロシア公国と接していて勢力拡大を狙ってる。
外モンゴルがソ連の影響下に入っちまったってわけだ。外モンゴルが勢力下にとなると、次は内モンゴル、満州と侵食してくるんじゃないかと警戒しちまうよな。
この事態を受けてアメリカとロシア公国、日本、ついでにイギリスも何か対策を練ろうという動きがあるみたいだぜ。分かり次第またここでお知らせするから楽しみにしておいてくれよな。
え? 次回も「叶」かどうかって? 突っかかるなあ。ほんと……分かってるって、俺がいいんだろ? はははは。
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