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8.オーストリア=ハンガリー問題 現代
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オーストリア=ハンガリー帝国の講和条約は史実に比べて格段に条件が良いものだった。帝国は解体されず国体を維持……とはいえ、国内では革命勢力がドンパチしている情勢らしい。社会主義の一派と思ったがそうではなく、チェコ(ボヘミア)で暴れている民族主義者とのことだ。
領土の割譲も史実と異なっている。イタリアへ南チロルとトレントを割譲し、戦中降伏させたルーマニアへドブロジャを返還したのみに留まる。さらには賠償金も無しと来た。
革命が起こっている状況下ではあったが、軍に制限は入るそうだ。
健二は父に聞きながら、史実でオーストリア(ハンガリー)が割譲した地域と比べてみることにする。
イタリアへはイストリア半島(トリエステを含む地域)、ルーマニアへはトランシルバニア。ユーゴスラビアとチェコは成立していない。ポーランドに割譲されたガリツィアも温存された。
「父さん、比べてみるとオーストリア=ハンガリーは随分変わったね」
「そうだな。分裂を免れたが、内部に革命勢力有か。これは国体を変えないと分解しそうだな」
「オーストリア=ハンガリーは軍隊がある程度残ってるから大丈夫なんじゃない?」
「いや、戦争で疲弊仕切っているから難しいだろうな。問題は二つある」
「チェコは分かるけど、あとはどこだろ? トランシルバニアかな? ルーマニアが狙ってくる?」
「確かにイタリアはいずれイストリア半島を。ルーマニアも野心はあるかもしれないが、今は問題ないだろう」
「じゃあ。どこなの?」
「ガリツィアだ」
父の説明によると、ガリツィアは史実だとポーランドに割譲されるが、この地域は共産化しソ連になったウクライナ人が多く住む地域で共産化を求めて暴動が起きる。ポーランドは鎮圧するが、オーストリア=ハンガリーに鎮圧は実行できるのか?
地図を見ると、トランシルバニアとハンガリーとガリツィアの間にはチェコが挟まっている。チェコで革命気運がある中、ガリツィアを抑えれるのか? チェコが独立した場合、オーストリア=ハンガリーの真ん中にチェコという独立国が挟まることになる。
これは非常に不安定だ。さらに、ガリツィアとチェコの反体制勢力が結びついた場合……最悪この地域が共産化する可能性まである!
一方イタリアは戦争で疲弊しているから暫く動けないだろうし、ルーマニアはそもそも独墺に敗れて占領されているから、占領地を返還されただけでもありがたいと思う。もちろん、軍を拠出することも現状不可能だろう。
「父さん、チェコって言っても現在のチェコと随分地域が違うね」
「そうだな。現在のチェコとスロバキアを合わせた地域に近いな」
「これいっそのこと、現在のチェコ地域だけ独立とかできないのかな?」
「うーん。民族的な違いもあるからなあ。オーストリア=ハンガリーが連邦制国家なりになってくれるのがいいんだが……」
「最悪のケースはあれだよね。オーストリア=ハンガリー全体が社会主義になってしまうってところかな」
「そうだな。そうなるとドイツと社会主義国が隣接するわけだ。もちろんイタリアとも。確実に大規模な戦争になるだろうな」
「オーストリア=ハンガリー帝国って確かその名の通り、オーストリア人(ドイツ人)とハンガリー人だけを優遇する政治だったよね」
「だからこそ、まとめるためには国体を変える必要がある。敗戦条項に組み込めないか。その代わり、革命勢力の鎮圧に協力するとか……」
「そうだねえ。史実では全部分解独立したけど……」
「ただ、アメリカがドイツに言ったのと同じように、旧来の帝国主義過ぎるから民主化しろとオーストリア=ハンガリーにも要求してそうだけどな」
「なるほど。分裂は免れたけど皇帝が退位して史実のドイツのように共和制の民主主義国家になるようアメリカを始め戦勝国がすでに条約に組み込むのかもしれないね」
「その辺り聞いてみてくれ」
「了解。父さん」
健二はノートを手に取ると、筆記を始める。
<オーストリア=ハンガリー帝国だけど、このままだと戦争の火種になる可能性があるよ>
<何! 彼らは敗戦国としては割に優遇された条約を締結しそうなんだが……復讐戦が起きるのか?>
<いや、そうじゃないよ。彼らの政体が特定民族だけを優遇していて、もう爆発寸前なのと、実際チェコでは爆発しているよね>
<そうだな。そこは会議でも懸念事項になっていて、アメリカを中心に強く政体を変更すべしと紛糾している>
<一つ。情報を。ガリツィアのウクライナ系住民が共産主義革命を起こすよ>
<……それがチェコへ波及し、トランシルバニアへ……となるとあの地域が社会主義国になるかもしれないってことか!>
<可能性はあるよ。だから、講和条件に国体の変更を盛り込めないかな>
<日本からも積極的に要求しよう……>
<国体を変えても彼らが防衛できなければ意味がないから、日米英仏で革命の鎮圧に協力できないか相談をしてみるのはどうだろう?>
<どこも疲弊しているからな。日米はそうでもないが……ロシア公国の防衛に少し兵を割いてはいるにしてもだ>
<難しいかな?>
<いや、出来る限りの事は実行してみるさ。推移は君たちへ報告しよう>
<ありがとう!>
最悪のパターンはオーストリア=ハンガリーが分裂し、全て社会主義国化することだろう。そうなると疲弊しきったドイツでもとなるかもしれない。
ドイツまで社会主義国になれば……悪夢だ。国内では粛清の嵐が吹き荒れ、経済は停滞し、外へ広がろうと戦争を起こす。泥沼の未来……
「大丈夫かな……」
健二は不安になり父に目をやるが、父は肩を竦め答える。
「健二。列強だって馬鹿じゃない。ガリツィアで社会主義革命が起きれば血相を変えるさ」
「そうだといいんだけど」
「日本の戦争経過を聞いてから、パリ講和会議のことを検討しようじゃないか」
「了解。ドイツの問題や国際連盟など指針が出せればいいね」
パリ講和会議は枠組みがある程度決まったというオーストリア=ハンガリー帝国以外にも大きくはドイツの処遇、その他にも今後の世界的な枠組みを決める国際連盟、トルコや委任統治領の配分など決定事項は多岐に渡る。
<日本の戦争推移はどうだったんだろう?>
<概ね、君から聞いた通りに推移している>
日本の欧州戦線は史実と同様に、補給や人員救出で日本海軍が活躍する。朝鮮半島のドイツ勢力圏と青島については、艦隊派遣し封鎖に留める。違ったのは南洋諸島だった。
南洋諸島に加え、ドイツ領ソロモン諸島まで占領していた。カロリン諸島とドイツ領ニューギニアまでは手が届かなかったが。
「ソロモン諸島は占領したけど、その他は予定通りってところかな?」
「そうだな。まあ、ドイツ領ソロモン諸島が手に入るなら幸運だが、どちらでもいいだろう」
「青島と朝鮮半島は占領もしていないし、日本が取得することも無いよね。たぶん」
「連合国が日本に譲ってもいいと打診してきても、断ればいいだろう。もし打診があるのなら、違うところで優遇してもらえばいい」
「了解。日本については分かりやすかったね」
「日本にかかわって来るのは主なところで残りは国際連盟か。ただ、ドイツの軍縮問題などには割り込めるだけ割り込んだほうがいいだろうが、ドイツについてはほとんど英仏で決めてしまうからなあ」
「意見を出すだけ出すのは構わないんじゃない?」
「言わないよりはいいだろう。あの時日本はこう主張したと言えるものな」
「うん。じゃあ。国際連盟はどうするの?」
「国際連盟が史実通りならば入る意味はないな」
父は健二にそう言い切った。健二も結局余り役に立たなかった国際連盟にはいい感情は持っていなかったが、国際連盟があったからこそ、後の国際連合が生まれたのだとも考えていたから気持ちは複雑だ……
領土の割譲も史実と異なっている。イタリアへ南チロルとトレントを割譲し、戦中降伏させたルーマニアへドブロジャを返還したのみに留まる。さらには賠償金も無しと来た。
革命が起こっている状況下ではあったが、軍に制限は入るそうだ。
健二は父に聞きながら、史実でオーストリア(ハンガリー)が割譲した地域と比べてみることにする。
イタリアへはイストリア半島(トリエステを含む地域)、ルーマニアへはトランシルバニア。ユーゴスラビアとチェコは成立していない。ポーランドに割譲されたガリツィアも温存された。
「父さん、比べてみるとオーストリア=ハンガリーは随分変わったね」
「そうだな。分裂を免れたが、内部に革命勢力有か。これは国体を変えないと分解しそうだな」
「オーストリア=ハンガリーは軍隊がある程度残ってるから大丈夫なんじゃない?」
「いや、戦争で疲弊仕切っているから難しいだろうな。問題は二つある」
「チェコは分かるけど、あとはどこだろ? トランシルバニアかな? ルーマニアが狙ってくる?」
「確かにイタリアはいずれイストリア半島を。ルーマニアも野心はあるかもしれないが、今は問題ないだろう」
「じゃあ。どこなの?」
「ガリツィアだ」
父の説明によると、ガリツィアは史実だとポーランドに割譲されるが、この地域は共産化しソ連になったウクライナ人が多く住む地域で共産化を求めて暴動が起きる。ポーランドは鎮圧するが、オーストリア=ハンガリーに鎮圧は実行できるのか?
地図を見ると、トランシルバニアとハンガリーとガリツィアの間にはチェコが挟まっている。チェコで革命気運がある中、ガリツィアを抑えれるのか? チェコが独立した場合、オーストリア=ハンガリーの真ん中にチェコという独立国が挟まることになる。
これは非常に不安定だ。さらに、ガリツィアとチェコの反体制勢力が結びついた場合……最悪この地域が共産化する可能性まである!
一方イタリアは戦争で疲弊しているから暫く動けないだろうし、ルーマニアはそもそも独墺に敗れて占領されているから、占領地を返還されただけでもありがたいと思う。もちろん、軍を拠出することも現状不可能だろう。
「父さん、チェコって言っても現在のチェコと随分地域が違うね」
「そうだな。現在のチェコとスロバキアを合わせた地域に近いな」
「これいっそのこと、現在のチェコ地域だけ独立とかできないのかな?」
「うーん。民族的な違いもあるからなあ。オーストリア=ハンガリーが連邦制国家なりになってくれるのがいいんだが……」
「最悪のケースはあれだよね。オーストリア=ハンガリー全体が社会主義になってしまうってところかな」
「そうだな。そうなるとドイツと社会主義国が隣接するわけだ。もちろんイタリアとも。確実に大規模な戦争になるだろうな」
「オーストリア=ハンガリー帝国って確かその名の通り、オーストリア人(ドイツ人)とハンガリー人だけを優遇する政治だったよね」
「だからこそ、まとめるためには国体を変える必要がある。敗戦条項に組み込めないか。その代わり、革命勢力の鎮圧に協力するとか……」
「そうだねえ。史実では全部分解独立したけど……」
「ただ、アメリカがドイツに言ったのと同じように、旧来の帝国主義過ぎるから民主化しろとオーストリア=ハンガリーにも要求してそうだけどな」
「なるほど。分裂は免れたけど皇帝が退位して史実のドイツのように共和制の民主主義国家になるようアメリカを始め戦勝国がすでに条約に組み込むのかもしれないね」
「その辺り聞いてみてくれ」
「了解。父さん」
健二はノートを手に取ると、筆記を始める。
<オーストリア=ハンガリー帝国だけど、このままだと戦争の火種になる可能性があるよ>
<何! 彼らは敗戦国としては割に優遇された条約を締結しそうなんだが……復讐戦が起きるのか?>
<いや、そうじゃないよ。彼らの政体が特定民族だけを優遇していて、もう爆発寸前なのと、実際チェコでは爆発しているよね>
<そうだな。そこは会議でも懸念事項になっていて、アメリカを中心に強く政体を変更すべしと紛糾している>
<一つ。情報を。ガリツィアのウクライナ系住民が共産主義革命を起こすよ>
<……それがチェコへ波及し、トランシルバニアへ……となるとあの地域が社会主義国になるかもしれないってことか!>
<可能性はあるよ。だから、講和条件に国体の変更を盛り込めないかな>
<日本からも積極的に要求しよう……>
<国体を変えても彼らが防衛できなければ意味がないから、日米英仏で革命の鎮圧に協力できないか相談をしてみるのはどうだろう?>
<どこも疲弊しているからな。日米はそうでもないが……ロシア公国の防衛に少し兵を割いてはいるにしてもだ>
<難しいかな?>
<いや、出来る限りの事は実行してみるさ。推移は君たちへ報告しよう>
<ありがとう!>
最悪のパターンはオーストリア=ハンガリーが分裂し、全て社会主義国化することだろう。そうなると疲弊しきったドイツでもとなるかもしれない。
ドイツまで社会主義国になれば……悪夢だ。国内では粛清の嵐が吹き荒れ、経済は停滞し、外へ広がろうと戦争を起こす。泥沼の未来……
「大丈夫かな……」
健二は不安になり父に目をやるが、父は肩を竦め答える。
「健二。列強だって馬鹿じゃない。ガリツィアで社会主義革命が起きれば血相を変えるさ」
「そうだといいんだけど」
「日本の戦争経過を聞いてから、パリ講和会議のことを検討しようじゃないか」
「了解。ドイツの問題や国際連盟など指針が出せればいいね」
パリ講和会議は枠組みがある程度決まったというオーストリア=ハンガリー帝国以外にも大きくはドイツの処遇、その他にも今後の世界的な枠組みを決める国際連盟、トルコや委任統治領の配分など決定事項は多岐に渡る。
<日本の戦争推移はどうだったんだろう?>
<概ね、君から聞いた通りに推移している>
日本の欧州戦線は史実と同様に、補給や人員救出で日本海軍が活躍する。朝鮮半島のドイツ勢力圏と青島については、艦隊派遣し封鎖に留める。違ったのは南洋諸島だった。
南洋諸島に加え、ドイツ領ソロモン諸島まで占領していた。カロリン諸島とドイツ領ニューギニアまでは手が届かなかったが。
「ソロモン諸島は占領したけど、その他は予定通りってところかな?」
「そうだな。まあ、ドイツ領ソロモン諸島が手に入るなら幸運だが、どちらでもいいだろう」
「青島と朝鮮半島は占領もしていないし、日本が取得することも無いよね。たぶん」
「連合国が日本に譲ってもいいと打診してきても、断ればいいだろう。もし打診があるのなら、違うところで優遇してもらえばいい」
「了解。日本については分かりやすかったね」
「日本にかかわって来るのは主なところで残りは国際連盟か。ただ、ドイツの軍縮問題などには割り込めるだけ割り込んだほうがいいだろうが、ドイツについてはほとんど英仏で決めてしまうからなあ」
「意見を出すだけ出すのは構わないんじゃない?」
「言わないよりはいいだろう。あの時日本はこう主張したと言えるものな」
「うん。じゃあ。国際連盟はどうするの?」
「国際連盟が史実通りならば入る意味はないな」
父は健二にそう言い切った。健二も結局余り役に立たなかった国際連盟にはいい感情は持っていなかったが、国際連盟があったからこそ、後の国際連合が生まれたのだとも考えていたから気持ちは複雑だ……
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