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45.ジークユーカリ
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農場は村の北側、西はいずれ牧場にしたいという話を聞いたような気がするから南側に来たわ。
西側は王国方面だから最もモンスターの襲撃してくる可能性が低い。うん、家畜を育てるには西がいいと言っていたのは理に適っているわね。
南側は狩りをする時に通過する方角だけど、道から少し離れたところなら問題ない……と思う。
城壁近くにしとこっかな。
荒地で大き目の岩や雑草が生えていてキャベツ畑にするには村の人にも手伝ってもらわないとかなり時間がかかりそう。
ウンランとエミリーと私でちまちまやっていくのか、村の人にも協力を申し出るかは蜘蛛から取れる糸を確かめてから考えようかな。
「この辺に作るのか?」
「うん。この辺りなら邪魔にならないかなって」
「よっし、んじゃ、やるか」
コアラさんがバンザイのポーズになり、前脚をパタパタさせた。何それ可愛いんだけど、ぎゅっとしたくなっちゃう。
「ジークユーカリ。ユーカリ喜ぶ豊穣の大地! もっしゃー」
それ呪文、呪文なの?
コアラさんの謎のセリフと共に地響きが鳴り、辺り一帯の地面が動きはじめる。
岩が砕け粉々になり、草は大地に混ざりみるみるうちに土地が耕されていく。
あっという間に見える範囲全てが農地になってしまったわ。
「もふもふさん、すごいですう!」
「土と風……他にも……信じられない」
魔法の規模だけじゃない。王国の誰にもできない属性を組み合わせて使うことを難なくやってのけたコアラさんに開いた口が塞がらない。
「まあいろいろ使っている。緑属性が使えればこんな面倒事……」
「コアラさん、7属性を使うとか」
「通常属性だけだ。固有属性はどんだけ頑張っても使えんぞ。ルチルは緑だから他の属性を使うことはできないからな。緑は良いぞ。緑があれば他はいらん」
「う、うん……」
「ついでだ。種も撒くぞ。ベルデ。種くれ」
コアラさんのお願いに対し、オウロベルデさんが腕を伸ばし純白の袋をひっくり返す。
サラサラと種が落ちてきたけど、種は地面に落ちず風に乗ってフワリフワリと流されていく。
目の前のものだけ確認した限り、種は一定の間隔で地面に埋まっていっている様子。
「ほれ、終わったぞ」
「う、うん。じゃあ、私も」
コアラさんが大きな鼻をふふんと鳴らす。
よおし、今度は緑属性の番よ。
「緑の精霊ドリスよ。芽吹きの恵みを。ビリジアングロウ」
緑の光が降り注ぎ、芽が出てぐんぐん成長しキャベツ畑が完成した。
私たちの立っている場所から400メートルくらい向こう側までびっしりとキャベツが生育している。これだけあれば蜘蛛の餌に困らないよね。
食べた後の二回目からは種撒きが必要になるわ。種を撒くだけならウンランにも手伝って三人でやれば大丈夫ね。
「さっそく蜘蛛さんたちがご入場されてきましたよ!」
「う、うわあ……」
オレンジの行進……ゾワゾワと肌が泡立つ。
「エミリー。本当に大丈夫なの?」
「お任せください! 蜘蛛さんー。こっちからお召し上がりくださいー」
タタタタッと走った彼女の後ろに行列を作った蜘蛛たちは、彼女の示したキャベツから群がり始めた。
家畜より言う事を聞いている感まである。
「種蒔きだけど、蜘蛛に命じればやってくれるわよ。水やりはできないけどね」
「賢いんですね!」
オウロベルデさんとエミリーの会話が聞こえてきた。
蜘蛛に関してはエミリーに全て任せたいちゃいな。ビリジアングロウはもちろん使うけどね!
「さっそく糸を出してくれてますう! すごい、糸巻き……は持って……もふもふさんありがとうございます!」
エミリーが枝を掲げるとグルグルと白い糸が絡まり、あっという間に立派な糸の束になった。
蜘蛛は賢い……。だけど、怖気は止まらない。
持ち帰った糸は絹に近い物だったとだけ報告しておくわ。
「どうぞ、もふもふさん!」
「素晴らしい香りがするぞ。この香りは若木だな。新芽独特の香りだが、若々しい」
そのまま帰りそうだった二人を引き留め、お屋敷のテラスでお茶会に誘う。
彼らは特に用もなかったそうで付き合ってくれたのだが、エミリーが前々から考えていた一品をコアラさんの前に置いたのだ。
コアラさんがお茶できないからと、彼女は何かと試行錯誤していたらしい。
コアラさんも私が言ったことを覚えていたらしく、「これが特別なやつか」と大きな鼻をすんすんさせていた。
「ユーカリの葉をすり潰し、絞ったものです。どうですか? コアラさん?」
「すり潰した葉も入れてくれた方がより味わい深くなると思う。だが、これはこれであっさりしてうまい」
ご満悦のコアラさんを見ていたら自然と頬が緩む。
エミリーはといえば真剣に頷き、「次回からの参考にします」と言っていた。
◇◇◇
コアラさんたちがお屋敷を訪れてから早7日が過ぎたわ。
長耳族と有翼族との交易も始まったの。お互いに通用する貨幣が無いのでブツブツ交換なのだけどね。
そこで活躍したのが蜘蛛の糸なの。蜘蛛の糸は全部重さが同じになっていたので、蜘蛛の糸の量を基準にしたわけね。
枝一本の糸束が、ブツブツ交換の単位となっている。
蜘蛛の糸は量産体制に入っていて、長耳、有翼共に喜んで交換してくれた。
彼らから植物の種、果樹の苗木、更には家畜まで仕入れることができたの。道具まで交換してくれてまさに至れり尽くせりとはこのこと。
村の人が育てた小麦も余剰分はブツブツ交換に使っているわ。
コアラさん曰く、緑魔法で一気に育てることはできるが土そのものの体力にも気を払え。とのことだったので、二回魔法をかけたら肥料を撒いて土を耕すことにしたの。
ついでだからと、キャベツ畑まで村の人が耕してくれたのよ。
育てる手間が無くなったからその分手伝うよ、なんて言ってくれて、涙が出そうになっちゃった。
村の成長は順調そのもの。
もうここから最も近い王国の隣村のコルセアより発展し活気があるかも。
この調子でもっともっと村が発展していくといいな。みんな笑顔になって、とても嬉しい。
西側は王国方面だから最もモンスターの襲撃してくる可能性が低い。うん、家畜を育てるには西がいいと言っていたのは理に適っているわね。
南側は狩りをする時に通過する方角だけど、道から少し離れたところなら問題ない……と思う。
城壁近くにしとこっかな。
荒地で大き目の岩や雑草が生えていてキャベツ畑にするには村の人にも手伝ってもらわないとかなり時間がかかりそう。
ウンランとエミリーと私でちまちまやっていくのか、村の人にも協力を申し出るかは蜘蛛から取れる糸を確かめてから考えようかな。
「この辺に作るのか?」
「うん。この辺りなら邪魔にならないかなって」
「よっし、んじゃ、やるか」
コアラさんがバンザイのポーズになり、前脚をパタパタさせた。何それ可愛いんだけど、ぎゅっとしたくなっちゃう。
「ジークユーカリ。ユーカリ喜ぶ豊穣の大地! もっしゃー」
それ呪文、呪文なの?
コアラさんの謎のセリフと共に地響きが鳴り、辺り一帯の地面が動きはじめる。
岩が砕け粉々になり、草は大地に混ざりみるみるうちに土地が耕されていく。
あっという間に見える範囲全てが農地になってしまったわ。
「もふもふさん、すごいですう!」
「土と風……他にも……信じられない」
魔法の規模だけじゃない。王国の誰にもできない属性を組み合わせて使うことを難なくやってのけたコアラさんに開いた口が塞がらない。
「まあいろいろ使っている。緑属性が使えればこんな面倒事……」
「コアラさん、7属性を使うとか」
「通常属性だけだ。固有属性はどんだけ頑張っても使えんぞ。ルチルは緑だから他の属性を使うことはできないからな。緑は良いぞ。緑があれば他はいらん」
「う、うん……」
「ついでだ。種も撒くぞ。ベルデ。種くれ」
コアラさんのお願いに対し、オウロベルデさんが腕を伸ばし純白の袋をひっくり返す。
サラサラと種が落ちてきたけど、種は地面に落ちず風に乗ってフワリフワリと流されていく。
目の前のものだけ確認した限り、種は一定の間隔で地面に埋まっていっている様子。
「ほれ、終わったぞ」
「う、うん。じゃあ、私も」
コアラさんが大きな鼻をふふんと鳴らす。
よおし、今度は緑属性の番よ。
「緑の精霊ドリスよ。芽吹きの恵みを。ビリジアングロウ」
緑の光が降り注ぎ、芽が出てぐんぐん成長しキャベツ畑が完成した。
私たちの立っている場所から400メートルくらい向こう側までびっしりとキャベツが生育している。これだけあれば蜘蛛の餌に困らないよね。
食べた後の二回目からは種撒きが必要になるわ。種を撒くだけならウンランにも手伝って三人でやれば大丈夫ね。
「さっそく蜘蛛さんたちがご入場されてきましたよ!」
「う、うわあ……」
オレンジの行進……ゾワゾワと肌が泡立つ。
「エミリー。本当に大丈夫なの?」
「お任せください! 蜘蛛さんー。こっちからお召し上がりくださいー」
タタタタッと走った彼女の後ろに行列を作った蜘蛛たちは、彼女の示したキャベツから群がり始めた。
家畜より言う事を聞いている感まである。
「種蒔きだけど、蜘蛛に命じればやってくれるわよ。水やりはできないけどね」
「賢いんですね!」
オウロベルデさんとエミリーの会話が聞こえてきた。
蜘蛛に関してはエミリーに全て任せたいちゃいな。ビリジアングロウはもちろん使うけどね!
「さっそく糸を出してくれてますう! すごい、糸巻き……は持って……もふもふさんありがとうございます!」
エミリーが枝を掲げるとグルグルと白い糸が絡まり、あっという間に立派な糸の束になった。
蜘蛛は賢い……。だけど、怖気は止まらない。
持ち帰った糸は絹に近い物だったとだけ報告しておくわ。
「どうぞ、もふもふさん!」
「素晴らしい香りがするぞ。この香りは若木だな。新芽独特の香りだが、若々しい」
そのまま帰りそうだった二人を引き留め、お屋敷のテラスでお茶会に誘う。
彼らは特に用もなかったそうで付き合ってくれたのだが、エミリーが前々から考えていた一品をコアラさんの前に置いたのだ。
コアラさんがお茶できないからと、彼女は何かと試行錯誤していたらしい。
コアラさんも私が言ったことを覚えていたらしく、「これが特別なやつか」と大きな鼻をすんすんさせていた。
「ユーカリの葉をすり潰し、絞ったものです。どうですか? コアラさん?」
「すり潰した葉も入れてくれた方がより味わい深くなると思う。だが、これはこれであっさりしてうまい」
ご満悦のコアラさんを見ていたら自然と頬が緩む。
エミリーはといえば真剣に頷き、「次回からの参考にします」と言っていた。
◇◇◇
コアラさんたちがお屋敷を訪れてから早7日が過ぎたわ。
長耳族と有翼族との交易も始まったの。お互いに通用する貨幣が無いのでブツブツ交換なのだけどね。
そこで活躍したのが蜘蛛の糸なの。蜘蛛の糸は全部重さが同じになっていたので、蜘蛛の糸の量を基準にしたわけね。
枝一本の糸束が、ブツブツ交換の単位となっている。
蜘蛛の糸は量産体制に入っていて、長耳、有翼共に喜んで交換してくれた。
彼らから植物の種、果樹の苗木、更には家畜まで仕入れることができたの。道具まで交換してくれてまさに至れり尽くせりとはこのこと。
村の人が育てた小麦も余剰分はブツブツ交換に使っているわ。
コアラさん曰く、緑魔法で一気に育てることはできるが土そのものの体力にも気を払え。とのことだったので、二回魔法をかけたら肥料を撒いて土を耕すことにしたの。
ついでだからと、キャベツ畑まで村の人が耕してくれたのよ。
育てる手間が無くなったからその分手伝うよ、なんて言ってくれて、涙が出そうになっちゃった。
村の成長は順調そのもの。
もうここから最も近い王国の隣村のコルセアより発展し活気があるかも。
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