緑の魔女ルチルの開拓記~理想の村、作っちゃいます! 王都に戻る気はありません~

うみ

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27.お怒りのご様子

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 コアラさんがさっそく庭へ向かうのを私たちが追いかけるような形でウンランも含め庭へと移動する。
 ここでずっと家を空けていたジェットさんとは一旦お別れとなったわ。

「ありがとう、ジェットさん」
「村のために動いてくれてたんだ。俺も一応ルルーシュ僻地の住人だからな。気にすんな」

 目を合わせるのが気恥ずかしいのか、ぼりぼりと頭をかいたジェットさんが「じゃあな」と目線に入るように右手をあげ村外れの自分の家に向かって行った。
 ウンランにはエミリーに頼んで外のテーブルセットに案内してもらい、コアラさんは既にユーカリの木に登ってむしゃむしゃしている。
 コアラさんを警戒したのか、いつもの果樹にとまっていたクレセントビークが汚い声で鳴いていたわ。
 あの汚い声に最初は眉をひそめたものだけど、今となっては逆にホッとする鳴き声になっている。声自体が気に入らないのは変わってないわよ。
 お屋敷に帰ってきた音というか、そんな感じ。
 お屋敷以外でクレセントビークを見かけることがないから、汚い声はここでしか聞こえてこないのだもの。
 
 ウンランの向かいに腰かけ、彼に告げる。
 
「今から籠を消すね」
「こちらも約定は守る。頼んだ」

 コクリと頷き、籠に込めた魔力を解放した。これで籠はもう無くなったはずよ。
 多少離れていても操作ができるのが便利なの。この魔法。
 
「確かに。約定はここに成った。以後、よろしく頼む」
「うん。有翼族の農業とか工芸とか、いろいろ教えて欲しいな」
「仙術で行うことが多いが、汝も仙術を使うのだ。余り変わり映えはしないのではないか?」
「仙術……魔法のことかな?」
「タオを使い、奇跡を起こす術のことだ」
「魔法と同じことね! ウンランの属性を教えてもらっていいかな?」
「オレか。オレは『金』だ。よければ汝とそこの」
 
 すかさずエミリーが自分の名を名乗る。

「エミリーです」
「エミリーの五行について教えてもらえるか?」
 
 五行? 種族が異なると魔法の体系も異なるのね。面白い。

「私たちは五行ではなくて属性というものがあるわ。私は固有属性『緑』よ。エミリーは『水』」
「オレは仙術の大家ではない。似たようなものと認識しておけばいいか」
「どんな魔法が使えるのか想像が付かないのが難点ね……」

 うーんと腕を組むと、満足したらしくユーカリの葉を食べ手を止めたコアラさんが説明してくれた。
 
「一緒だ。この世の中で使うことができる通常属性は変わらない。五行の方が属性より分け方が大きいだけだ」
「それって」
「通常属性は地水火風に光と闇に金属の7つだ。五行は木火土金水の5つだ。五行は属性の地水火風金属に光か闇を足したものになる」
「すごい、ウンランは金属と光か闇の2属性が使えるのね!」
「まあ、ざっと言えばそうだ。そもそも通常属性なら、持って生まれた資質など要らんからな。お前は別だぞ、ルチル。固有属性持ちは他の属性が使えない」
「ちょっと、今サラッととんでもないことを言ったわね。もしかして、コアラさん、7属性が使えるの?」
「ん。ユーカリを育てるためにはありとあらゆる魔法を使わないといけないからな。当然のことだ」

 ユーカリと発言してまた名残惜しくなったのか、ユーカリの葉を口に運ぶコアラさん。
 ま、まあいいか。
 私は別に魔法の研究家ではないもの。自分が使うことのできる魔法が分かっていればいいや。五行なるものも、ウンランがどんな魔法……じゃない仙術を使うことができるのかだけ教えてもらえば事足りるわよね。
 
「もふもふさん、すごいです! エミリーの使う水も、ジェットさんの風も使うことができるんですね!」
「おう。木を育てるに水が必要だし、強すぎる風は抑え込む必要があるだろ。土壌をいじるのに土は必要だ。多すぎる金属含有率は害になる。逆も然りだ」
「よ、良く分からないですけど、なんだかすごいです!」
「ユーカリの道は一日で成らずだ」

 エミリー。もふもふさんじゃなくコアラさんか大賢者様と呼んであげて……。いや、いいかもう。
 エミリーは動物に目が無いの。クレセントビークでさえ可愛いとテンションがあがっちゃう子だから。
 それにしてもコアラさん。才能の無駄使いという域を超え過ぎてて、逆に凄い。
 
「真人はありとあらゆる仙術を使いこなす者のこと。だが、我らの知る限り、真人は禁断の森に住む一人しか伝説にも残っていない。仙術を志す者全ての理想が真人だ」
「でもあの人、ユーカリ全振りだよ……」

 澄ました顔で語るウンランに突っ込まずにはいられなかった。
 しかし、コアラさんのユーカリ愛は私たち人間社会と竜人や有翼と深く関わっていたらしいの。
 私の突っ込みにも眉一つ動かさないウンランが聞いてもいないのに勝手に語り始めた。
 
「禁断の森の伝説を知っているか?」
「大賢者様が住む森のことよね、知っているわ。大賢者様は外敵に悩まされる人間に壁の術を授けてくださったって」
「結界か。結界の伝説も真人の伝説の一つだ。禁断の森には決して近寄るな、というのは竜人の掟なのだ。あの強力な力を持つ竜人が恐れる森。それが禁断の森」
「確かに怖いモンスターはいたけど……コアラさん、私が見ていないだけで怖いモンスターが他にもいるのかな?」

 ダメだ。ユーカリをもしゃり中のため、彼に声が届かないわ。
 代わりにといってはなんだが、ウンランが彼なりの考えを伝えてくれた。
 彼って無表情のままだから、ちょっと怖い……。
 
「人間の結界ができる前、竜人は世界を統べようと侵攻を繰り返していた。有翼、長耳、人間がかろうじで独立を保っていたが、もう長くはないだろうと言われていた」
「と、唐突ね」
「禁断の森の伝説だ。人間は深い森に逃げ込み、そこで真人と出会う。真人の助力得た人間は結界を張り、竜人からの備えとできた。たった一人残った真人は竜人と対決し、これを退けた。この戦いによって力を落とした竜人は領地に引き上げていく。有翼、長耳も息を吹き返した、というわけだ」
「私たちの伝説と少し違うけど、大きな戦いがあったのは同じかな」

 全てを知るはユーカリをむしゃむしゃしているコアラさんのみ、かな。
 伝説を聞いていると、やっぱりコアラさんは偉大な大賢者様なのだな、とじいいんと胸が熱くなる。

「ん? 何だ?」
「ううん。コアラさんの昔の活躍をウンランから聞いていたの。竜人と戦ったとか」

 キラキラした目でコアラさんに尋ねたら、聞かない方がいいことがあるってことを思い知らされたわ……。

「竜人……。あいつらか! 今でもはらわたが煮えくり返る。許さん、許さんぞおおおおお!」
「ま、待って。コアラさん、落ち着いて。どんなことがあったの?」

 コアラさんの全身の毛が逆立ち、謎のオーラみたいなものが背後から浮き上がる。
 
 
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