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19.風属性
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ジェットさんがたった一人で耕した畑は、一人でやったにしては広い。
ちょうど緑の芽が出てきたところ。季節によって植え付ける作物は違ってくるけど、ちょうど植え替えをしたところなのかな?
狩りや道具作りまでして、畑もちゃんと整備しているなんて本当にすごい。
すごいなあと思う反面、これが一人でできる限界なのね、とみんなで協力して生活をしていく必要性を強く感じた。
王国の規模にもなると、うまくみんなで協力できるように官吏がいて道を示す。
ルルーシュ僻地は官吏以前の問題で、村人が。
ううん。きっと彼らも元気になるもん。
「緑の精霊ドリスよ。ビリジアンヒール!」
込めた魔力はお屋敷の半分程度。
緑の光が畑へ降り注……あ、魔力量が多すぎたみたい……。畑だけじゃなく、その周囲にまで緑の光が注ぎ込まれてしまっちゃった。
畑の緑の芽はみるみるうちに成長し、黄金色の穂が真っ直ぐと。あの芽は小麦だったみたい。
それだけじゃなく、畑から雑草がにょきにょき、周囲の草抜きされた場所に至っては成長著しく、ひざ丈以上にまで雑草が伸びる。
「やりましたね! ルチル様!」
エミリーは無邪気に手を合わせ飛び跳ねんばかりに喜んでいるわ。
一方で私は額からたらりと冷や汗が流れ落ちる。
茫然とするジェットさんへペコリと頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと勢いが付き過ぎたみたい」
「……」
「ジェットさん?」
「…………お、すまん。まさか本当に魔法を使えるとはな」
ジェットさんの表情がようやく動く。
顎髭に手をやり、しげしげと畑を見つめた彼は小さく首を振る。
「あ、あの」
只ならぬジェットさんの雰囲気にやらかしたと思った私は力なく彼を呼びかける。
彼はこれまでに見せたことのないような獲物を狙う鋭い眼光でまるまると実った小麦の穂へ触れた。
「このような『属性』があったんだな」
「う、うん。緑属性と言うの」
「それに、お前さん、人間だよな?」
「に、人間に見えない……?」
「いや、尻尾が生えている様子もない」
私の後ろに回り込むジェットさん。
見えることはないのだけど、スカートをおさえる。余りこうして人から見られることなんてなかったから。
あるとすればエミリーがドレスのチェックをしてくれる時くらい。
「あ、あのお」
「すまんな。元令嬢に失礼だった。俺は礼儀ってもんが分からねえ。村でも上手くなじめず、ルルーシュ僻地にまで流れてきた」
「え、えっと。初めから村外れに?」
「いや、ルルーシュ僻地ではギリギリの生活もあってな。こんな俺でも良くしてくれる奴はいた。鍛冶屋の親父やハンターの小僧みたいな奴らがな」
唐突に自分の話になったジェットさんに戸惑いつつも、彼に質問を投げかけた。
彼は元々壁の中に住んでいて、私と同じように「魔力無し」になって壁の外へ来たのかな?
しかし、これ以上彼が自分のことを語ることはなかったわ。
彼はぼりぼりと頭をかき、バツが悪そうに苦笑する。
「そっちの緑の髪のお嬢ちゃん」
「は、はいい!」
突然話を振られたエミリーは肩がビクッとなり挙動不審になっちゃった。
「お前さんは魔力持ちだよな。ルチルお嬢様が心配でついて来た、で合ってるか?」
「はい! ルチルお嬢様のお世話をするのが私の喜びです」
「……ま、まあ。人にはいろいろ好みがある……。そんで、持っている属性は水」
「その通りです。ですが、何故……?」
ジェットさんにエミリーの属性を伝えていなかったはず。
あ、でも、少し考えればすぐに分かることよね。
水よ。水。村には井戸が二つしかない。小川まで行って水を汲んでくるなら台車なり大きな水桶なりを持って小川に向かうわ。
だけど、私は武器と布袋だけで小川に水を汲みに行く様子がなかったんだもの。
ジェットさんはエミリーの「お嬢様愛」に引いていた気がするけど、気のせい。きっと気のせいよ。
「まあ、状況を考えれば誰にでも分かる。だが、それだけじゃねえんだ。俺には魔力が『見える』」
「ジェットさん、魔法を使えるの?」
「まあな。壁を越えることは誰にだってできる。元々、村の中で住んでいなかった。誰からもお咎めなしだ」
「そうだっんだ」
「村から離れて生活した経験がここでも生きるなんてな。ガハハハハ」
ジェットさんの笑いからは寂しさや辛さといったものは一切感じられない。
私も彼のように笑えるようになりたいな。
「私の魔力が見えなかったから、魔法を使えると思ってなかったのね」
「そういうこった。だが、お前さんは冗談で魔法を使うなんてことを言うような奴じゃねえ。だから、様子を見守ったんだ」
「私のことをそんな風に見ててくれたんだ。ちょっと嬉しいかも」
「ガハハ。その顔は若い男にとっておけ。そんでな、魔力が見えないのに魔法を使う奴らとなれば、人間以外の種族なんじゃねえかって」
「人間以外の種族……本当にいるの?」
「さあな。今のところ、見たことはねえが、壁から遠く離れたところに国があるとか言うだろ」
「シルバークリムゾン王国は壁の外は僻地周辺くらいまでしか調査しないものね。世界は広いと言うわ。人間以外の種族がいても変じゃないよね」
「そうだな」とジェットさんが顎髭を撫でる。
壁ができる以前の歴史を書いた文献では人間以外の種族のことも記載されていたわ。
壁の中だけが世界ではない……ということは僻地にきてから強く思うようになった。
コアラさんのようなお喋りするもふもふさんが他にいても自然なことよね。人間に似た種族も然り、よ。
「畑、ありがとうな。俺の属性は『風』だ。草刈りくらいなら手伝えるぜ。お屋敷だったか? そこの草刈りにでも呼んでくれ」
「本当!? 大助かり! あ、ああああ。ごめんなさい。畑のことともう一つ、あったの」
「お、何だ?」
「井戸の水のこと。ジェットさんが言うように水には呪いがかかっていたの。私の魔力で浄化ができるのだけど、呪いの原因は不明で、それで」
たどたどしく説明する私ににかっとジェットさんが笑う。
「井戸を見張ってみるか? それともしばらく様子を見るか?」
「毎日、井戸の水がどうなっているか、見てみるつもりなの」
「そうか。数日見張りをするなら、言ってくれよ。俺も手伝う。いいか、二人だけで見張りをやろうなんて思うなよ」
「ありがとう。ジェットさん!」
「俺じゃなく風魔法を信じろ。ガハハ」
ポンと太い腕を叩くジェットさん。
次は日課の小川のほとりまで行こう。山菜も採集したいし、ひょっとしたらトラシマやコアラさんに会えるかもしれないもの!
ユーカリの木も復活させなきゃ、だし。
井戸の水を確かめる以外にもやりたいことは沢山あって困るくらいね!
ちょうど緑の芽が出てきたところ。季節によって植え付ける作物は違ってくるけど、ちょうど植え替えをしたところなのかな?
狩りや道具作りまでして、畑もちゃんと整備しているなんて本当にすごい。
すごいなあと思う反面、これが一人でできる限界なのね、とみんなで協力して生活をしていく必要性を強く感じた。
王国の規模にもなると、うまくみんなで協力できるように官吏がいて道を示す。
ルルーシュ僻地は官吏以前の問題で、村人が。
ううん。きっと彼らも元気になるもん。
「緑の精霊ドリスよ。ビリジアンヒール!」
込めた魔力はお屋敷の半分程度。
緑の光が畑へ降り注……あ、魔力量が多すぎたみたい……。畑だけじゃなく、その周囲にまで緑の光が注ぎ込まれてしまっちゃった。
畑の緑の芽はみるみるうちに成長し、黄金色の穂が真っ直ぐと。あの芽は小麦だったみたい。
それだけじゃなく、畑から雑草がにょきにょき、周囲の草抜きされた場所に至っては成長著しく、ひざ丈以上にまで雑草が伸びる。
「やりましたね! ルチル様!」
エミリーは無邪気に手を合わせ飛び跳ねんばかりに喜んでいるわ。
一方で私は額からたらりと冷や汗が流れ落ちる。
茫然とするジェットさんへペコリと頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと勢いが付き過ぎたみたい」
「……」
「ジェットさん?」
「…………お、すまん。まさか本当に魔法を使えるとはな」
ジェットさんの表情がようやく動く。
顎髭に手をやり、しげしげと畑を見つめた彼は小さく首を振る。
「あ、あの」
只ならぬジェットさんの雰囲気にやらかしたと思った私は力なく彼を呼びかける。
彼はこれまでに見せたことのないような獲物を狙う鋭い眼光でまるまると実った小麦の穂へ触れた。
「このような『属性』があったんだな」
「う、うん。緑属性と言うの」
「それに、お前さん、人間だよな?」
「に、人間に見えない……?」
「いや、尻尾が生えている様子もない」
私の後ろに回り込むジェットさん。
見えることはないのだけど、スカートをおさえる。余りこうして人から見られることなんてなかったから。
あるとすればエミリーがドレスのチェックをしてくれる時くらい。
「あ、あのお」
「すまんな。元令嬢に失礼だった。俺は礼儀ってもんが分からねえ。村でも上手くなじめず、ルルーシュ僻地にまで流れてきた」
「え、えっと。初めから村外れに?」
「いや、ルルーシュ僻地ではギリギリの生活もあってな。こんな俺でも良くしてくれる奴はいた。鍛冶屋の親父やハンターの小僧みたいな奴らがな」
唐突に自分の話になったジェットさんに戸惑いつつも、彼に質問を投げかけた。
彼は元々壁の中に住んでいて、私と同じように「魔力無し」になって壁の外へ来たのかな?
しかし、これ以上彼が自分のことを語ることはなかったわ。
彼はぼりぼりと頭をかき、バツが悪そうに苦笑する。
「そっちの緑の髪のお嬢ちゃん」
「は、はいい!」
突然話を振られたエミリーは肩がビクッとなり挙動不審になっちゃった。
「お前さんは魔力持ちだよな。ルチルお嬢様が心配でついて来た、で合ってるか?」
「はい! ルチルお嬢様のお世話をするのが私の喜びです」
「……ま、まあ。人にはいろいろ好みがある……。そんで、持っている属性は水」
「その通りです。ですが、何故……?」
ジェットさんにエミリーの属性を伝えていなかったはず。
あ、でも、少し考えればすぐに分かることよね。
水よ。水。村には井戸が二つしかない。小川まで行って水を汲んでくるなら台車なり大きな水桶なりを持って小川に向かうわ。
だけど、私は武器と布袋だけで小川に水を汲みに行く様子がなかったんだもの。
ジェットさんはエミリーの「お嬢様愛」に引いていた気がするけど、気のせい。きっと気のせいよ。
「まあ、状況を考えれば誰にでも分かる。だが、それだけじゃねえんだ。俺には魔力が『見える』」
「ジェットさん、魔法を使えるの?」
「まあな。壁を越えることは誰にだってできる。元々、村の中で住んでいなかった。誰からもお咎めなしだ」
「そうだっんだ」
「村から離れて生活した経験がここでも生きるなんてな。ガハハハハ」
ジェットさんの笑いからは寂しさや辛さといったものは一切感じられない。
私も彼のように笑えるようになりたいな。
「私の魔力が見えなかったから、魔法を使えると思ってなかったのね」
「そういうこった。だが、お前さんは冗談で魔法を使うなんてことを言うような奴じゃねえ。だから、様子を見守ったんだ」
「私のことをそんな風に見ててくれたんだ。ちょっと嬉しいかも」
「ガハハ。その顔は若い男にとっておけ。そんでな、魔力が見えないのに魔法を使う奴らとなれば、人間以外の種族なんじゃねえかって」
「人間以外の種族……本当にいるの?」
「さあな。今のところ、見たことはねえが、壁から遠く離れたところに国があるとか言うだろ」
「シルバークリムゾン王国は壁の外は僻地周辺くらいまでしか調査しないものね。世界は広いと言うわ。人間以外の種族がいても変じゃないよね」
「そうだな」とジェットさんが顎髭を撫でる。
壁ができる以前の歴史を書いた文献では人間以外の種族のことも記載されていたわ。
壁の中だけが世界ではない……ということは僻地にきてから強く思うようになった。
コアラさんのようなお喋りするもふもふさんが他にいても自然なことよね。人間に似た種族も然り、よ。
「畑、ありがとうな。俺の属性は『風』だ。草刈りくらいなら手伝えるぜ。お屋敷だったか? そこの草刈りにでも呼んでくれ」
「本当!? 大助かり! あ、ああああ。ごめんなさい。畑のことともう一つ、あったの」
「お、何だ?」
「井戸の水のこと。ジェットさんが言うように水には呪いがかかっていたの。私の魔力で浄化ができるのだけど、呪いの原因は不明で、それで」
たどたどしく説明する私ににかっとジェットさんが笑う。
「井戸を見張ってみるか? それともしばらく様子を見るか?」
「毎日、井戸の水がどうなっているか、見てみるつもりなの」
「そうか。数日見張りをするなら、言ってくれよ。俺も手伝う。いいか、二人だけで見張りをやろうなんて思うなよ」
「ありがとう。ジェットさん!」
「俺じゃなく風魔法を信じろ。ガハハ」
ポンと太い腕を叩くジェットさん。
次は日課の小川のほとりまで行こう。山菜も採集したいし、ひょっとしたらトラシマやコアラさんに会えるかもしれないもの!
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