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第36話 キャンプ地にて
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案内された席に座り、傍には巨大化したまま寝そべったポチ。ちょうど手の届くところにポチのモサモサした尻尾があったので、無意識に彼の尻尾をわしゃわしゃしてしまった。
魔性の魅力を持つポチの毛並み……モフモフさせる欲求に人はあがらえないのだ……。
それはともかくとして、アリ害に見舞われている村に豪華な宴を催してもらうのは気が引けるので、俺はエドへ歓迎会をするにしても簡素なものにしてくれとお願いしたのだ。
彼は俺の希望に応えてくれたのか、少しばかりのおつまみと飲み物だけを準備してくれた。
「賢者よ。本当にこれだけでよいのか?」
対面に座ったエドが訝しむように、俺へ問いかける。
「はい、食べ物は貴重だと思いますし……」
「山へ入り、食料を採ってくることができるのだ。それほどでもない」
エドは何でもないという風に肩を竦めるが、その日暮らしの採集と狩猟ではそれ以外のことに力を傾けられないじゃないか。
生きていくためには、衣類や道具が必要なんだから……サバイバル生活をして俺はそのことを重々理解したよ。
俺は酒を断ってココナツジュースを飲みながら、ドライフルーツを口にする。お、これはマンゴーかな。こっちはパイン。
ほおほお。マンゴーやパインがあるんだ。窪地にもあるかもしれないから探してみようかな……。
「賢者さまー。ヨーグルトと一緒に食べるとおいしいよー」
フィアが瓶に入ったヨーグルトと器を持ってきて、ドライフルーツインヨーグルトを俺に手渡してくれた。
お、おお。ヨーグルトだあ。日本にいた時は毎日食べていたなあ。ヨーグルトにハチミツを垂らして頂くのが俺の朝のスタイル。
異世界のヨーグルトは酸味が強く、固形を保てないほど柔らかい。甘いマンゴーとよく合うと思う。まずくはないがうまくもないってところかなあ。
「ん? フィア」
「えへへー」
ヨーグルトをじっくり味わっていたら、あぐらをかく俺の膝の上にフィアがちょこんと腰かけているじゃあないか。
全く、甘えん坊さんだな。フィアは。
「賢者よ、フィアが失礼を」
「いえいえ」
眉をしかめるエドへ笑顔を向け、フィアのサラサラの髪を撫でる。
「エドさん、ここからが本番です」
俺は緩んだ顔を引き締め、エドへ告げた。
「そうだな。未だ一日でアリを殲滅したことが信じられんが……」
ふうと大きく息を吐き、エドはハチミツ酒を口に含む。
「いつまた穴を開けて出てくるか分かりませんので、明日からさっそく調査をお願いしていいですか?」
「ああ、もちろんそのつもりだ。あなたは川の位置を先に確認しておくか?」
「そうですね。朝一で川を見てから調査が終わるまで悪魔族の村へ行こうと思います」
「ほう。アリの巣穴は塞いでいたが?」
「巣穴を開けて、出てくるアリを潰しておきます。減らすにこしたことはないですから」
「なるほど、了解した」
俺のアリ殲滅作戦とは「水攻め」なのだ。上流から、ブロックで水路を作りアリの巣穴に水を流し込み奴らを溺れさせる。
水に驚いて出て来たアリは適宜潰して、巣穴にいるアリを全て駆除することを目標とする。
そのために、水の抜け道が無いか村の人へ協力してもらって調査を行うのだ。
他にアリの巣穴があれば、俺がブロックで塞ぐ。いくつか巣穴があった場合、一番高い位置にある所から水を流し込めば水攻めの効果も上がるだろう。
「賢者よ。確認だ。あなたは自身で作った櫓にずっといるのだな?」
「そのつもりです。巣穴を発見したら報告していただけますか?」
「了解した。話すことはこんなところか?」
「はい。何かあれば逐次相談します」
「うむ」とエドが頷き、再びハチミツ酒をゴクリと飲んだ時、遠くから元気な声が聞こえてくる。
この声は……アッシュか。
「兄貴ー! 村のみんなに兄貴の武勇伝をバッチリ伝えたからな!」
いないと思ったらそんなことをしていたのか……。
「アッシュ、明日からもよろしくな」
「おう、兄貴! 俺は兄貴の護衛につくことになったからな!」
アッシュは村一番の弓の使い手と聞いている。そんな戦力を俺につけちゃったら勿体なくないか?
俺の思いを汲み取ったのか、エドが口を挟む。
「賢者よ。心配することはない。巣穴の調査に強さは必要ない」
「分かりました」
ふああ、今日の用件が全部済んで安心したからか大きなあくびが出てしまった。
「兄貴! あれだけ大魔法を連発したんだ。さすがの兄貴でも休まないと」
アッシュに尻尾があったらポチみたいに千切れんばかりに振っているだろうなあとどうでもいいことを考えていたら、ますます眠気が加速してくる。
「エド、アッシュ、悪いけど先に寝かせてもらうよ」
「兄貴! 俺の家で寝る?」
あ、いや、俺は自分でこれから寝床を作ろうと……って説明しようとしたらエドが。
「アッシュ、賢者が困っているじゃないか。一人でぐっすりと休んでもらった方がいい。宿は用意する」
「いえ、エド、ブロックで……」
「あの大魔法か……疲労は大丈夫なのか?」
「問題ありません。なんなら二つ、三つ作っても」
「すげえ! さすが兄貴」と子供みたいにはしゃぐアッシュを後目に立ち上がり、タブレットを手に出す。
エドにブロックの家を作ってもよい場所を指定してもらい、そこに家を建てた。
もう、眠さの限界だ……。
俺はポチを連れてブロックの家に入る。家の中で寝ころぶとほぼ同時に意識が遠くなっていった。
◆◆◆
翌朝、アッシュに川まで案内してもらって悪魔族の村へ入る。
だ、ダメだ。これだと、水攻めは実施しても期待した効果が望めない……。
櫓に登った俺は余りの光景にガクリと膝をつく。
なぜなら――
――アリの巣穴が「三つ」ぽっかりと穴を開けていたからだ。
アリが穴を掘る速度がここまで速いと思っていなかった。窪地の時は穴の周辺までまとめてブロックで固めることで新しい穴が出現する……といったことがなかったから……。
見積が甘かった。油断していた。と言えばそれまでだが、まさか一晩でここまでになるとは。
アリはどうやらよほどこの村にある食料に執着しているらしい。それでも次から次から穴を塞ぎ、夜のうちに水攻めするとかやりようはある。
しかし……餌に執着して三つも穴を開けるアリのことだ。水攻めされて命の危機になれば溺れる前に穴を掘って出てくると思う。
どうする? どうやればアリの巣を潰すことができるのか……。
「兄貴?」
悩む俺へアッシュが心配するような声をかけてきた。
「アッシュ、水攻めは難しいと思う。ごめんな……」
「兄貴! それなら別の手を考えればいいだけじゃないか! 大魔法は兄貴にしかできないけど、考えることなら俺だって、エドも村のみんなもできるさ」
そうか、そうだよな。アッシュ!
「ありがとう、アッシュ。思いつくまで、ここでアリを駆除できるだけ駆除しよう」
「おう!」
「アッシュ、このことをエドに伝えてきてもらえるか?」
「任せてくれ!」
アッシュは拳を握りしめると、翼をはためかせて空へと浮かび上がる。
彼は俺へ片手を振り、村の外へと飛んで行った。
考えすぎてアリを見逃さないようにしないとな……。俺は気持ちを切り替えてアリの巣穴を二つ塞ぎ、残ったアリの巣穴を昨日と同じ要領でブロックで囲い込む。
そんなこんなで、アリをひたすら潰していたらお昼ご飯の時間になってしまった。
アッシュが食後の飲み物をとってくると昼食を置いて飛び立った後、どこかで見たようなカラスが弧を描きこちらに向かってくる。
そのカラスはあろうことか俺の頭の上にとまると、容赦なく嘴でつついてきた。
「痛い、痛いって」
「良介、元気にしていたか?」
カラスは思った通り、ウォルターだった。たぶんそうじゃないかと思ったんだけど、あいにく俺はカラスの個体を区別することができない。
いなかったから、窪地に帰っているのかと思っていたけど、何しに戻ってきたんだろう。
「良介、うまそうなものを食べているじゃないか」
ま、まさか、食べ物をあさりに来ただけとかなのか……この食いしん坊カラスめ!
「俺の残りでよかったら食べていいよ。でも、そっちのはダメだ。それは俺のじゃないからな」
アッシュの分にまで手を出しかねないから先に釘をさしておく。
「時に良介、アリの巣穴の中は攻めないのか?」
目線を食べ物へ固定したままウォルターはぶしつけにそんなことをのたまったのだった。
魔性の魅力を持つポチの毛並み……モフモフさせる欲求に人はあがらえないのだ……。
それはともかくとして、アリ害に見舞われている村に豪華な宴を催してもらうのは気が引けるので、俺はエドへ歓迎会をするにしても簡素なものにしてくれとお願いしたのだ。
彼は俺の希望に応えてくれたのか、少しばかりのおつまみと飲み物だけを準備してくれた。
「賢者よ。本当にこれだけでよいのか?」
対面に座ったエドが訝しむように、俺へ問いかける。
「はい、食べ物は貴重だと思いますし……」
「山へ入り、食料を採ってくることができるのだ。それほどでもない」
エドは何でもないという風に肩を竦めるが、その日暮らしの採集と狩猟ではそれ以外のことに力を傾けられないじゃないか。
生きていくためには、衣類や道具が必要なんだから……サバイバル生活をして俺はそのことを重々理解したよ。
俺は酒を断ってココナツジュースを飲みながら、ドライフルーツを口にする。お、これはマンゴーかな。こっちはパイン。
ほおほお。マンゴーやパインがあるんだ。窪地にもあるかもしれないから探してみようかな……。
「賢者さまー。ヨーグルトと一緒に食べるとおいしいよー」
フィアが瓶に入ったヨーグルトと器を持ってきて、ドライフルーツインヨーグルトを俺に手渡してくれた。
お、おお。ヨーグルトだあ。日本にいた時は毎日食べていたなあ。ヨーグルトにハチミツを垂らして頂くのが俺の朝のスタイル。
異世界のヨーグルトは酸味が強く、固形を保てないほど柔らかい。甘いマンゴーとよく合うと思う。まずくはないがうまくもないってところかなあ。
「ん? フィア」
「えへへー」
ヨーグルトをじっくり味わっていたら、あぐらをかく俺の膝の上にフィアがちょこんと腰かけているじゃあないか。
全く、甘えん坊さんだな。フィアは。
「賢者よ、フィアが失礼を」
「いえいえ」
眉をしかめるエドへ笑顔を向け、フィアのサラサラの髪を撫でる。
「エドさん、ここからが本番です」
俺は緩んだ顔を引き締め、エドへ告げた。
「そうだな。未だ一日でアリを殲滅したことが信じられんが……」
ふうと大きく息を吐き、エドはハチミツ酒を口に含む。
「いつまた穴を開けて出てくるか分かりませんので、明日からさっそく調査をお願いしていいですか?」
「ああ、もちろんそのつもりだ。あなたは川の位置を先に確認しておくか?」
「そうですね。朝一で川を見てから調査が終わるまで悪魔族の村へ行こうと思います」
「ほう。アリの巣穴は塞いでいたが?」
「巣穴を開けて、出てくるアリを潰しておきます。減らすにこしたことはないですから」
「なるほど、了解した」
俺のアリ殲滅作戦とは「水攻め」なのだ。上流から、ブロックで水路を作りアリの巣穴に水を流し込み奴らを溺れさせる。
水に驚いて出て来たアリは適宜潰して、巣穴にいるアリを全て駆除することを目標とする。
そのために、水の抜け道が無いか村の人へ協力してもらって調査を行うのだ。
他にアリの巣穴があれば、俺がブロックで塞ぐ。いくつか巣穴があった場合、一番高い位置にある所から水を流し込めば水攻めの効果も上がるだろう。
「賢者よ。確認だ。あなたは自身で作った櫓にずっといるのだな?」
「そのつもりです。巣穴を発見したら報告していただけますか?」
「了解した。話すことはこんなところか?」
「はい。何かあれば逐次相談します」
「うむ」とエドが頷き、再びハチミツ酒をゴクリと飲んだ時、遠くから元気な声が聞こえてくる。
この声は……アッシュか。
「兄貴ー! 村のみんなに兄貴の武勇伝をバッチリ伝えたからな!」
いないと思ったらそんなことをしていたのか……。
「アッシュ、明日からもよろしくな」
「おう、兄貴! 俺は兄貴の護衛につくことになったからな!」
アッシュは村一番の弓の使い手と聞いている。そんな戦力を俺につけちゃったら勿体なくないか?
俺の思いを汲み取ったのか、エドが口を挟む。
「賢者よ。心配することはない。巣穴の調査に強さは必要ない」
「分かりました」
ふああ、今日の用件が全部済んで安心したからか大きなあくびが出てしまった。
「兄貴! あれだけ大魔法を連発したんだ。さすがの兄貴でも休まないと」
アッシュに尻尾があったらポチみたいに千切れんばかりに振っているだろうなあとどうでもいいことを考えていたら、ますます眠気が加速してくる。
「エド、アッシュ、悪いけど先に寝かせてもらうよ」
「兄貴! 俺の家で寝る?」
あ、いや、俺は自分でこれから寝床を作ろうと……って説明しようとしたらエドが。
「アッシュ、賢者が困っているじゃないか。一人でぐっすりと休んでもらった方がいい。宿は用意する」
「いえ、エド、ブロックで……」
「あの大魔法か……疲労は大丈夫なのか?」
「問題ありません。なんなら二つ、三つ作っても」
「すげえ! さすが兄貴」と子供みたいにはしゃぐアッシュを後目に立ち上がり、タブレットを手に出す。
エドにブロックの家を作ってもよい場所を指定してもらい、そこに家を建てた。
もう、眠さの限界だ……。
俺はポチを連れてブロックの家に入る。家の中で寝ころぶとほぼ同時に意識が遠くなっていった。
◆◆◆
翌朝、アッシュに川まで案内してもらって悪魔族の村へ入る。
だ、ダメだ。これだと、水攻めは実施しても期待した効果が望めない……。
櫓に登った俺は余りの光景にガクリと膝をつく。
なぜなら――
――アリの巣穴が「三つ」ぽっかりと穴を開けていたからだ。
アリが穴を掘る速度がここまで速いと思っていなかった。窪地の時は穴の周辺までまとめてブロックで固めることで新しい穴が出現する……といったことがなかったから……。
見積が甘かった。油断していた。と言えばそれまでだが、まさか一晩でここまでになるとは。
アリはどうやらよほどこの村にある食料に執着しているらしい。それでも次から次から穴を塞ぎ、夜のうちに水攻めするとかやりようはある。
しかし……餌に執着して三つも穴を開けるアリのことだ。水攻めされて命の危機になれば溺れる前に穴を掘って出てくると思う。
どうする? どうやればアリの巣を潰すことができるのか……。
「兄貴?」
悩む俺へアッシュが心配するような声をかけてきた。
「アッシュ、水攻めは難しいと思う。ごめんな……」
「兄貴! それなら別の手を考えればいいだけじゃないか! 大魔法は兄貴にしかできないけど、考えることなら俺だって、エドも村のみんなもできるさ」
そうか、そうだよな。アッシュ!
「ありがとう、アッシュ。思いつくまで、ここでアリを駆除できるだけ駆除しよう」
「おう!」
「アッシュ、このことをエドに伝えてきてもらえるか?」
「任せてくれ!」
アッシュは拳を握りしめると、翼をはためかせて空へと浮かび上がる。
彼は俺へ片手を振り、村の外へと飛んで行った。
考えすぎてアリを見逃さないようにしないとな……。俺は気持ちを切り替えてアリの巣穴を二つ塞ぎ、残ったアリの巣穴を昨日と同じ要領でブロックで囲い込む。
そんなこんなで、アリをひたすら潰していたらお昼ご飯の時間になってしまった。
アッシュが食後の飲み物をとってくると昼食を置いて飛び立った後、どこかで見たようなカラスが弧を描きこちらに向かってくる。
そのカラスはあろうことか俺の頭の上にとまると、容赦なく嘴でつついてきた。
「痛い、痛いって」
「良介、元気にしていたか?」
カラスは思った通り、ウォルターだった。たぶんそうじゃないかと思ったんだけど、あいにく俺はカラスの個体を区別することができない。
いなかったから、窪地に帰っているのかと思っていたけど、何しに戻ってきたんだろう。
「良介、うまそうなものを食べているじゃないか」
ま、まさか、食べ物をあさりに来ただけとかなのか……この食いしん坊カラスめ!
「俺の残りでよかったら食べていいよ。でも、そっちのはダメだ。それは俺のじゃないからな」
アッシュの分にまで手を出しかねないから先に釘をさしておく。
「時に良介、アリの巣穴の中は攻めないのか?」
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