ブロック作成スキルで、もふもふスローライフを目指すことにした

うみ

文字の大きさ
上 下
26 / 45

第26話 アリだー

しおりを挟む
 ポチに乗ったまま断崖絶壁を降りていると、ウォルターが弧を描きながら飛んできてポチの頭の上に着地した。
 彼が拠点以外にいるときにやって来るなんて珍しいな。
 
「良介。アリが出たぞ」

 ウォルターはいつもの不遜な態度ではなく、焦ったように早口でまくしたてる。
 
「アリ? それがどうしたの?」
「『どうしたの』じゃないのだよ、良介。きゃつらは食すことができる物ならば何でも巣に持ち帰るのだ」

 どっかで聞いたような話だな。
 そうだよ。くちばしを上下に動かしてうるさい奴と同じじゃないか。
 
「どうしたのだ?」

 俺のじっとりとした視線に気が付いたウォルターが首をこちらに向けた。
 
「いや、何も」
「そんな呑気にしている場合ではないぞ。良介」
「じゃあ、何をしたらいいんだ?」
「巣穴に続く穴を何とかせねば、アリがどんどん湧いてくる」
「その穴の位置は分かるの?」
「もちろんだとも」

 ふんと嘴を天に向けて頭を逸らすウォルター。
 まあ、危険だというなら後で彼に案内してもらって、アリの巣とやらを埋めるか。全く、アリ如きに何をそんなに必死になってんだか。
 あ、同族嫌悪ってやつか?
 
 何て呑気に考えていたけど、この後とんでもない奴らだったと気が付かされることになる。
 
 ◆◆◆
 
 拠点に戻ると、ライラに手伝ってもらって鶏、ヤギの入った檻をオープンデッキに置く。
 俺は元気そうにコッコと声を出す鶏と、ノンビリとリラックスしているヤギを眺めながらライラへ問いかけた。
 
「ライラ、鶏とヤギはどうしようか?」
「そうですね。逃げ出すと困りますので、飼育小屋を作ってみてはどうしょうか?」
「じゃあ、厩舎を作ってみるから、思うところがあれば言ってくれないかな?」
「はい!」

 オープンデッキを拡張して、厩舎へと続く道を先にブロックで作る。その後、家の半分くらいのサイズがある四角い厩舎を二つ建築してみた。
 厩舎は家の二階と同じサイズにして高さを確保し、屋根に近い位置にあるブロックをいくつか抜き取った。この部分を窓にしよう。鶏は飛ぶことはないんだけど、低い位置だったら乗り越えちゃう可能性もあるからね。
 ヤギの方も中を同じ作りにしておいた。というのは特にヤギ用、鶏用とデザインを別にする必要性を感じなかったからだ。
 
「こんなもんかな?」
「はい。仕切りをつけていただいて、そこに藁か乾燥した草を敷きましょう」
「うん。ありがとうライラ」

 ライラと一緒にヤギと鶏の寝床を準備し、厩舎用の扉を準備する頃には日が傾き始めていた。

「よっし、こんなもんかな」
「はい!」

 両手をパンパンと叩いて完成した厩舎を眺めていたら、バシャバシャと小川の水が跳ねる音がしたので目をやると、巨大化したポチが元気よくこちらに駆けてきていた。
 
「わうん」
「お、ポチ、狩りに行っていたのか! ありがとう」

 お座りしたポチのそばに鹿が置かれており、彼はハッハと舌を出して俺を見つめている。

「えらいぞお。ポチ」

 俺はポチのモフモフした首周りをわしゃわしゃすると、彼はご機嫌に「わん」と吠えた。
 
「私も撫でていいですか?」
「うん」

 遠慮がちにライラもポチの頭を撫でると、彼は目を細め気持ちよさそうに尻尾をパタパタと振る。

「よっし、日が暮れるまでに鹿を解体して夕飯にしようか」
「はい!」
「わんわん」

 俺はさっそく鹿の解体をすべく、鹿の脚を枝に引っかけてつるし刃を入れた。
 うん、俺もすっかり手馴れてきたもんだ。最初は気持ち悪いとか思っていたけど、もう流れ作業のように鹿肉をブロックに分けていくことができるぞ。
 
 俺が解体作業をしている間にライラは薪になる木の枝を集めてきてくれていて、木を乾燥させる魔法を使ってくれているようだ。
 雨が降っても手間にならないように、薪小屋を作ろう。そこに枝をためておいたら乾燥の魔法を使わなくてすむよな。
 
 俺の解体作業が終わる頃にはライラが火の準備を終えていて、すぐに肉を焼き始めることができた。
 やっぱライラって手際がいいよな。うんうん。
 
 感心してライラに目をやり、腕を組んで頷いていたら彼女は俺の目線に気が付いたようだ。
 
「どうされましたか? 良介さん」
「いや、俺の動きに合わせて動いてくれてありがたいなあって」
「たまたまですよ。良介さん。良介さんの作業するスピードがあがっただけです」

 少しだけ頬を染めてむきになるライラが可愛くて、つい笑い声が出てしまう。
 すると彼女は「もう」とだけ呟き頬を膨らませた。
 そこへ、肉が焼ける匂いを嗅ぎつけたウォルターがさっそうと現れ、いけしゃあしゃあと肉を早くとせがんでくる。
 
「ウォルター、ポチ、先に食べていいからな」
「わんわん」
「ありがたく、頂かせてもらうぞ」

 ポチとウォルターに肉を渡すと、彼らは他には目もくれずむしゃむしゃと食べ始めた。
 俺とライラの肉が焼けて「さあ食べるぞ」と口を開いた時、ウォルターが思い出したように呟く。
 
「時に良介、アリの巣は明日でよいのか?」
「あ、そうだった。もう暗いし明日でいいかな」

 俺は軽い感じで受けごたえしていたんだけど、ライラが食べる手をとめて蒼白な顔になっているじゃないか。
 
「どうしたの? ライラ」
「良介さん、ア、アリが出たんですか?」
「たぶん。ウォルターがアリの出てくる穴? を見つけたんだって」
「りょ、良介さん! そ、そんな呑気な……アリが出たとなると一大事ですよ!」
「え、えええ!」

 ライラの鬼気迫った表情に俺は目を見開く。
 アリって、あのアリじゃないのか?
 
「良介、我が輩の時とえらく反応が違うのだが」

 カラスが何か不満を述べるが、残念ながら俺の耳には一切入ってこない。

「ライラ、アリのことを教えてもらえるか?」
「は、はい。良介さん」

 ライラは身振り手振りをくわえてアリのことを説明してくれるが、終始顔は青ざめたままだった。
 アリは形こそ俺の想像するアリと同じだったんだけど、サイズが……大型犬くらいあるらしい。しかも、体色が光沢のある黒じゃなくてメタリックブルーだというのだから、気持ち悪さが倍増する。
 こいつは、事前に聞いてなかったら卒倒していたかもしれん。
 アリってことで想像はついたけど、奴らの性質は俺の知っているアリとそう変わりはなく巣に食べ物を溜め込むのだそうだ。頑丈な顎を持っているものの、地球のアリと違って自分たちより弱い生物へ襲い掛かって捕獲するようなことはまずないとのこと。
 しかし、地球のアリと同じく奴らの数は膨大でサイズがサイズだけに集める食料の量がとんでもない量になる。つまり、アリが目をつけた地域の食材は根こそぎ持っていかれてしまうってことなのだ。
 なるほど。ライラが恐れるのは分かる。またアリは自身に攻撃が加えられると必死で抵抗するらしいから、駆除もなかなか大変みたいだし……いかんせん物量がなあ……。
 
「ライラ、それはかなりマズイ生き物だな」
「そうなんです。アリが村の近くに出てしまうと、最悪の場合しばらくの間村を放棄することになります」
「ううむ。それなら、早急に穴とやらを塞ぐしかないか」
「土で塞いでもすぐに出てきちゃいますよ。あ、良介さんなら!」

 どうやらライラも気が付いたようだ。そう、ブロックだよブロック。
 ヒュドラの鱗でもビクともしないブロックならばアリが穴を開けることなんてできないと思う。すでに巣の外に出て窪地を徘徊しているアリは別途駆除する必要があるけど、巣穴に関しては問題ないと思う。
 
「そういうことなら、安心だな。良介。我が輩は休むことにするぞ」
 
 ウォルターは腹が一杯になったのか、満足気にゲップをすると翼を羽ばたかせて木の上にとまった。
 
「ライラ、明日、ウォルターに巣穴まで案内してもらうから、今日のところは休もうか」
「はい!」

 片付けをした後、自室に戻った俺はポチの背中を撫でながら、仰向けに寝転がった。
 異世界は蚊とかヒルがいなくてラッキーとか思っていたけど、もしかしたらアリと同じでいるのかもしれないなあ……巨大化して……。
 大型犬サイズの蚊に血を吸われたらただじゃあすまねえぞ! ヒルも危険度の高い生物になり、見た目の気持ち悪さも倍増する。
 うわああ。想像したくねえ。俺はそんな奴らがいないことを願いながら就寝したのだった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

三度の飯より犬好きな伯爵令嬢は田舎でもふもふスローライフがしたい

平山和人
恋愛
伯爵令嬢クロエ・フォン・コーネリアは、その優雅な所作と知性で社交界の憧れの的だった。しかし、彼女には誰にも言えない秘密があった――それは、筋金入りの犬好きであること。 格式あるコーネリア家では、動物を屋敷の中に入れることすら許されていなかった。特に、母である公爵夫人は「貴族たるもの、動物にうつつを抜かすなどもってのほか」と厳格な姿勢を貫いていた。しかし、クロエの心は犬への愛でいっぱいだった。 クロエはコーネリア家を出て、田舎で犬たちに囲まれて暮らすことを決意する。そのために必要なのはお金と人脈。クロエは持ち前の知性と行動力を駆使し、新しい生活への第一歩を踏み出したのだった!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...