上 下
24 / 45

第24話 屋根

しおりを挟む
 池の中央で網を投げてポチに岸まで網を引かせると、面白いように魚を捕まえることができた。食べられる量の魚だけ持って拠点に戻るべくポチに騎乗したら、奴がやって来た。
 どこから嗅ぎつけてくるのやら……。

「魚かね。久しぶりだ。今夜は楽しみだな、良介」

 ウキウキと俺の頭にとまってさえずるウォルターに呆れてしまう。全くこの食いしん坊カラスめ。こういう時だけ目ざとく鼻がきくんだから。
 あれ? カラスって嗅覚はあるんだっけ? くちばしのところに空いている穴が鼻だったよな。鳥って人間とか犬に比べて優れた視覚を持っているとは思うんだけど、鼻ってどうなんだろう。

「こら、頭を突っつくな」
「出発せぬか! 待ちきれん」

 俺が真剣に考えているというのに、このバカカラスときたら!
 声だけは妙に渋くてカッコいいから知的で物静かな奴だと勘違いしてしまうが、実際は減らず口が大好きな食いしん坊カラスなのだ。
 
「分かった、すぐ行くから。ポチ、戻ろう」
「分かればよいのだ。そうそう、良介、魚というものは水の中を泳ぐものなのだが、ここから遥か西に進むと大海があるのだ。そこには巨大な魚や見たこともない水棲生物がいるらしいぞ。一度――」

 またスイッチが入りやがったな。何か食べ物を突っ込みたいところだけど、あいにく何も持っていない。
 結局、ウォルターは拠点につくまでずっと喋りっぱなしだった……。
 
 ◆◆◆
 
 戻ると既に整理整頓を済ましてしまったライラが、枝を組み合わせて葉っぱの扉を作っているところだった。
 
「ライラ、それは?」
「はい。本格的な扉は時間がかかると思いましたので、まずはこれを扉にしておこうと思いまして」
「おお、ありがとう。もう完成しそうじゃないか」
「はい! いただいた道具の中に釘が入ってましたから」

 道具は自由に使っていいとライラに言っておいたのだけど、彼女の大工スキルが高すぎないか? 異世界の人たちはみんなこれくらい簡単にやってしまうのかな。
 
「ライラ、君は本当に器用で助かるよ」
「いえ……。野外生活や家事をこなしていれば誰でもできるようになります……」

 ライラの声色から彼女が単に謙遜しているだけと感じたが、もし彼女の言うように異世界の人たちはみんなこれくらいのスキルを持っているなら簡単に村が作れちゃいそうだなあ。
 地球でも昔の人はライラみたいに何でもできちゃう人達だったのかもしれない。現在の地球は便利な世の中になって、俺なんて土さえ触ってなかったからな……ノコギリで木を切ることさえおぼつかねえ。
 俺が更にライラへ話しかけようとした時、未だに頭の上にとまっているカラスがくちばしでつついて来た。
 
「分かった、すぐに準備するから待てって!」
「良介さん、そんなに魚が獲れたんですか?」
「ああ、これでも半分以上はリリースしてきたんだよ」

 俺は網から魚を一匹取り出し、ライラに見せる。

「それは、ティラピアですね。食べられる魚ですよ!」

 魚を見たライラは太鼓判を押してくれた。
 バナナのことがあって以来、新しい食べ物についてはライラに聞くようにしているのだ。
 カラスの発言だけじゃあ信用ならねえ。あいつは何でも食べそうだし……。
 
 そっか、この魚はティラピアというのか。余り魚に詳しくないから詳細は覚えてないけど……地球でもティラピアって淡水魚がいることは知っている。
 今回捕獲したティラピアの体長は三十センチくらいで食べ応えのあるサイズだ。地球産のティラピアの見た目がどんなのだったか思い出せないけど、今手の中にあるティラピアは銀色の体色で縦に四本の黒い縞が入っていた。
 うんちくはこれくらいにして、塩を振って焼いてみるとするかな!
 
 かまどに薪を入れてライラに火をつけてもらうと串にさしたティラピアをかまどにくべる。
 すぐにいい匂いが漂ってきたからか、ポチがお座りして涎をダラダラたらしているではないか。
 でも、待ってくれポチ。淡水魚はしっかり焼かないと寄生虫が怖いのだ。
 
「良介、まだなのか?」
「もう少しで焼けるから待ってくれ。ウォルター」
「うむ。仕方ない」
「ウォルター、何かこの辺りで採れる食べ物について知らない?」
「ふむ。いろいろあるぞ。我が輩の身体では採れないものも多数ある。果物、キノコ……」
「ウォルターが自分で採れるもので好きなものって何なの?」
「よくぞ聞いてくれた! 我が輩、ピラーが大好物なのだ。動くピラーをそのままついばみ、一気に口の中に入れる。するとだな、得も言われぬ芳香が鼻を突き抜け、むぐ」

 やっと魚が焼けたので、ウォルターの口に突っ込むと彼は一心不乱に食べ始めた。

「ポチ、熱いからゆっくりと食べるんだぞ」
「わうん」

 ポチのそばに焼けた魚を置くと、彼は俺の合図を待ってからもしゃもしゃと魚を口に含む。
 続いてライラに魚を手渡すと、俺は自分の分の魚に口をつけた。
 
 ううむ。泥臭いな……。
 あ、そうだ。明日、もう一度ティラピアを獲りに行って別の調理方法を試してみるか。
 
「美味しいです。良介さん」

 ライラは満面の笑みを浮かべてもぐもぐと口を動かす。
 俺に気をつかってそう言ってくれているのか、本気なのか判断が難しいところだな。
 俺は彼女へあいまいな笑みを浮かべて頷きを返すも「おいしい」と嘘は言えなかった……。
 
 ◆◆◆
 
――翌朝
 朝から全員で新たな食材を求めて採集に出かける。全員で探しに出たからか、今回の食材探しは目覚ましい成果があったのだ。
 ウォルターに案内させて、パイナップルとアブラヤシ、さらにマンゴーをゲット。ライラに聞きながら二種類のキノコと二種類の山菜? を採取した。
 池にも寄り道してポチに網を引いてもらってティラピアも捕獲することができたので大満足の採集ツアーとなる。惜しむらくは朝から降り続く雨だった。
 この地域は植生から察するに多雨なことは予想していたけど、俺がここに来て初めての雨だったからすっかり頭の中から天気のことが抜けていたよ。いかんいかん、リラックスするのはいいけれど油断し過ぎるのはダメだ。
 多少の警戒心は常に持っておかないと、非常事態はいつ起こってもおかしくないからな……。俺は密かに兜の緒を締めなおす。
 
 昼食を取った後、ポチには悪いけどウォルターと一緒に散歩に出かけてもらい、俺とライラは手に入れた道具を使って必要なものを作ることにしたのだった。

「ライラ、先に着替えようか。雨で服が泥だらけだよ」
「はい。ですが、まだ服を作ってません」
「二着あるから、今日のところは男物だけですまないけど俺用のシャツを上に着て、下はスカートで」
「ありがとうございます」
「ついでに体も洗って汚れた服の洗濯をしようか」
「洗濯は私がやっておきます」
「あ、そういうことなら着替えた後、一緒にやろうよ。ライラのやり方を教えて欲しいし」

 着替えを持ってそれぞれの部屋に一旦戻ると、俺は上階にいるライラに聞こえるよう大きな声で彼女へ向けて叫ぶ。
 
「ライラ、先に体を洗ってきてくれ! 待ってるから」
「時間の無駄になりませんか? ご一緒しても構いませんよ?」
「うお、どこから顔を出してるんだ!」

 ライラが窓の外に突然現れたからビックリしたじゃないか。忘れそうになるけど、彼女はコウモリの翼で飛ぶことができる。
 二階のベランダから飛んで降りて来たんだな……。
 
「そ、それじゃあ。離れたところで背を向けて洗うから一緒に行こうか」
「はい!」

 そんなわけでライラと共にオープンデッキまで出てきたけど、小川に行くと雨で濡れてしまうな……。
 俺はタブレットを手に出すと近くの木をブロック化して小川をまたぐように二ブロックの高さがある屋根を作ると、同じものを少し離れたところに作成する。
 ついでに、オープンデッキまで濡れないように通路も作成した。
 
「これで濡れずに体を洗えるよ」
「何度見てもすごい魔法です! 炊事の時にも濡れずに行けますね」
「ちょ、ライラ、まだ脱ぐのは早いって! ライラはこっち、俺はあっちね」
「良介さん、そんなに私の身体は魅力がないですか……た、確かに胸は……」
「い、いや、違うって! 女の子の裸を見るのはダメだろう?」
「冗談ですよ。良介さん」

 む、からかわれていただけなのか。
 でも、ライラも冗談を気軽に言ってくれるようになってきてくれて嬉しくもある。
 俺は踵を返し、遠い方の洗い場に向けて歩を進めると背中越しにライラの呟く声が……。
 
「良介さんなら、見られても構いません」

 き、聞こえてるから! 手を出さないってライラと約束した手前、ムラっときてしまったら困るだろう?
 その辺、察してくれよ。見たくないわけないじゃないか! 俺だって男なんだし……。
 
 俺はブツブツと愚痴を呟きながら、体を洗うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...