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第9話 岩塩
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スイカを食べ終わった俺たちは、ウォルターの案内で岩塩のある場所まで行こうとしたところ――
ポチがハッハとご機嫌な声を出しながら、不意に巨大化したのだった。
「ポチ?」
「わんわん」
ポチは伏せのポーズになって、尻尾をぶんぶんと振っているではないか。も、もしかしてこれって?
「ポチ、乗っていいの?」
「わうん」
顔だけこちらに向けて舌を出すポチ。
ま、まさか、ポチに騎乗できる日が来るとは! 俺は感動に打ち震え、薄っすらと目に涙がうかんでくる。
「ライラ、ポチが乗せてくれるって」
「そ、そんな、私が聖獣の背中に乗るなんてできません!」
隣に立つライラは首をプルプルと振って一歩後ずさった。
「ライラ、ポチは俺の飼い犬なんだよ。聖なる獣とかそんなんじゃないから」
戸惑うライラへ騎乗するように促したものの、俺がもう我慢できん。
彼女へ見本を見せるていを装って俺はゆっくりとポチのふさふさした背中へまたがると、彼の首元に手を回し体を張り付ける。
手綱とか無いから、体ごと張り付かないと振り落とされてしまうからな……。
うわあ、全身にモフモフが感じられポチの体温も伴って、このまま寝てしまいそうな勢いだ。し、幸せ。
「本当に私が乗ってもいいんですか?」
おずおずとライラが眉をしかめながら聞いてくる。
「うん、もちろんだよ。な、ポチ!」
「わんわん」
ポチは元気よく吠えて、ライラへ顔を向けた。
しかし、ライラはポチの背中へ手を触れて少し撫でた後、そのまま固まってしまう。
あ、そうか。そういうことか。これは俺の配慮が足りなかった。
「ライラ、君が首元につかまってくれ。俺がその上に覆いかぶさるから」
「は、はい」
そうだよな、うん。俺の後ろに彼女が密着してしまったら、胸とかへダイレクトに当たっちゃうもんな。
背中ならまだ……許されるよね?
俺はライラの手を握ると彼女をポチの背中へと引っ張り上げる。
そして、彼女と入れ替わるように俺はポチの背中から降りた。
「ポチの首に手を回して膝に力を入れて、うん、そんな感じで」
「はい!」
ライラはポチに騎乗したことで感激したのか、頬が上気している。彼女は先ほどまでの硬い表情が嘘であったかのように、とてもいい笑顔を見せているじゃあないか。
そうだろう、そうだろう。ポチの毛並みは最高だ。
「じゃあ、後ろに乗るよ」
「いいんですか? 後ろで……私が後ろでも……」
「ううん、俺は後ろで構わないから」
ライラが気を使って言ってくれたけど、俺もそれくらいは配慮するって。昨日、俺は彼女に言ったじゃないか、嫌なことはさせたくないってさ。
俺はヒラリとポチの背中にまたがると、左右の手でポチのモサモサの毛を掴み自身の胸をライラの背中につけた。
「ポチ、行こう! ウォルター、案内を頼むぞ」
「あいわかった。案内しよう」
ウィルターは翼を羽ばたかせて飛び立つと、空中で一回転してから前へ進み始める。
◆◆◆
空を飛ぶウォルターはもちろんなんだけど、ポチも走り出すととんでもない速度まで加速してあっという間に目的地に到着してしまった。
今のポチならポニーより速いんじゃないかな。す、すごいぜ! ポチ。
ここは草ばかりのジャングルだと珍しい岩肌が露出した風景が広がっていた。所々に一メートルくらいの高さがある岩が転がっていて、中央には水たまりがいくつか見える。
「水を舐めてみるといい」
俺の肩に着陸したウォルターが自慢気にそう言った。
じゃあ、言葉通りにやってみるとしようか……俺はぬかるんだ岩肌に足を滑らせないようにゆっくりと歩き水たまりへ指先をつける。
「お、塩辛い。これは塩水かな?」
「いかにも!」
なるほど。水が塩水になってるってことはこの辺りに岩塩があることは確実か。
「良介さん、岩塩を見つけましたよ」
「え?」
ライラの手の平に小さな岩の欠片が乗っかっていた。
「お、おお。それが岩塩なのかな?」
「はい。この辺一帯、岩塩だらけみたいです。一抱えほど持って帰りましょうか?」
「うん。そうしよう」
といっても岩を砕けるような道具もないから、ナイフの柄で叩いてうまく割ることができた分をライラのポーチに詰めて持って帰ることにしたのだった。
ううむ。やっぱり道具を何とかしないとなあ。
「ウォルター、助かったよ。ありがとう!」
「肉の礼としては安い物だ。他にも知りたいことはあるかね?」
「いろいろあるんだけど……粘土とか」
「良介さん、粘土でしたらその辺の土を掘り返せばすぐに見つかるはずです」
俺とウォルターの会話を聞いていたライラが割って入る。
よおし、ならまずは食器を作るとするかな。
「じゃあ、一旦家へ戻ろう」
俺とライラは再びポチに騎乗して帰路につくのだった。
◆◆◆
家の前まで戻ると、ポチはウォルターと散歩に出かけて行った。彼はまだまだ動き足りないんだろう。一緒についていってやりたかったけど、生活基盤を整えるまでは我慢してくれ……ポチ。
適当な枝を見繕って地面を掘り返してみると、ライラの言う通りすぐ粘土質の土が露出した。
「ライラ、すごいな! 本当にすぐ出たよ」
「いえ……大したことでは……」
ライラは褒められることに慣れていないのか、困ったようにはにかんで手をパタパタさせる。
「あ、ライラ。これを使って食器と鍋を作ろうと思っているんだけど」
「はい。作ったことはありますのでお任せください!」
「おお、それは心強い。それで、粘土を焼くためのかまどで試してみたいことがあるんだ」
「どのようなことなのですか?」
ライラも興味津々といった感じで乗って来てくれた。
試してみたいことって言ってもそんな難しいことじゃないんだよな。
家の前まで粘土を抱えて戻ると、俺はタブレットを出して十一個のブロックを作成する。
まず横に三つ繋げたブロックを置いて、その上に同じようにブロックを並べる。これで六つのブロックを使った後ろの壁ができた。
壁の前面へつながるように左右へブロックを一つ繋げて、その上に横に三つ繋げたブロックを置く。
これで、中央が一ブロック空いたかまどの完成だ。
かまどの中に小枝を入れて、じっと様子を伺っていたライラへ声をかける。
「ライラ、ここに火を頼む」
「はい!」
ライラの魔法で枝に火がついて燃え盛ったことを確認した後、じっとブロックの様子を眺めた。
お、おお。木のブロックだから燃えちゃうものかと思っていたけど、まるでそのような気配は感じられない。一体どんな材質に変化しているのか謎だったけど、使えることが分かってよかった!
「温度を上げるために半分くらい隙間を開けて閉じてしまった方がいいんですが、どうしましょうか」
「なるほど。うーん、どうしようか……」
ブロックを前に置いて隙間を作る形にできればいいんだけど、下に隙間を作るようにブロックを置いたところで重力のまま下に落ちてしまう。
もしブロックでやるなら、地面を掘ってその上にブロックを置くか、逆に石か何かでブロックを浮かせるかどっちかだなあ。
手頃な石か木があれば、左右に置くだけでいいから浮かせる方がいいだろう。
「ライラ、こんな感じで考えているんだけど――」
俺の考えをライラへ伝えると彼女は顎に手を当ててしばし考えた後、呟く。
「でしたら、落ちている丸太を探しましょうか」
「うん、ありがとう。ライラ」
ジャングルに入ってすぐに一メーター弱くらいの太さが二十センチほどある丸太を二つ発見することができたから、ライラと二人で一つずつ運び入れた。
丸太をかまどの前に置いてさっそくブロックを乗せてみたら、うまくブロックを浮かせることができたんだ。よおっし、これでかまどの準備は完了だな。このブロックはタブレットの操作一つで取り外すことができるから、楽々だ。
「ライラ、食器の作り方を教えてもらえるかな?」
「はい!」
粘土を挟んでライラと向い合せに座ると彼女の手ほどきを受けながら、粘土をこねて形を整えていく。
途中、強度を上げるためということで川辺にあるきめの細かい砂を粘土に混ぜ込んだ。
「こんなもんかな?」
「はい! お上手だと思います。しばらく乾かしてから、焼きましょう」
「おう、ありがとう。ライラ」
皿はともかく、鍋ができることは嬉しい。これでようやく煮炊きができるようになる。
待っている間にもう一つ急ぎでやりたいことがあったから、これをやってしまおう。
「ライラ、君にも協力して欲しいことがあるんだ」
「なんでも言ってください!」
うん、やりたいことというのは家の改装なのだ。ついでに外側についても雨が降っても問題がないように屋根をつけたい。
家の中で煮炊きをすることはブロックが一意なサイズでしか作れない関係上難しいから……雨の中で食事はしたくないものね。
ポチがハッハとご機嫌な声を出しながら、不意に巨大化したのだった。
「ポチ?」
「わんわん」
ポチは伏せのポーズになって、尻尾をぶんぶんと振っているではないか。も、もしかしてこれって?
「ポチ、乗っていいの?」
「わうん」
顔だけこちらに向けて舌を出すポチ。
ま、まさか、ポチに騎乗できる日が来るとは! 俺は感動に打ち震え、薄っすらと目に涙がうかんでくる。
「ライラ、ポチが乗せてくれるって」
「そ、そんな、私が聖獣の背中に乗るなんてできません!」
隣に立つライラは首をプルプルと振って一歩後ずさった。
「ライラ、ポチは俺の飼い犬なんだよ。聖なる獣とかそんなんじゃないから」
戸惑うライラへ騎乗するように促したものの、俺がもう我慢できん。
彼女へ見本を見せるていを装って俺はゆっくりとポチのふさふさした背中へまたがると、彼の首元に手を回し体を張り付ける。
手綱とか無いから、体ごと張り付かないと振り落とされてしまうからな……。
うわあ、全身にモフモフが感じられポチの体温も伴って、このまま寝てしまいそうな勢いだ。し、幸せ。
「本当に私が乗ってもいいんですか?」
おずおずとライラが眉をしかめながら聞いてくる。
「うん、もちろんだよ。な、ポチ!」
「わんわん」
ポチは元気よく吠えて、ライラへ顔を向けた。
しかし、ライラはポチの背中へ手を触れて少し撫でた後、そのまま固まってしまう。
あ、そうか。そういうことか。これは俺の配慮が足りなかった。
「ライラ、君が首元につかまってくれ。俺がその上に覆いかぶさるから」
「は、はい」
そうだよな、うん。俺の後ろに彼女が密着してしまったら、胸とかへダイレクトに当たっちゃうもんな。
背中ならまだ……許されるよね?
俺はライラの手を握ると彼女をポチの背中へと引っ張り上げる。
そして、彼女と入れ替わるように俺はポチの背中から降りた。
「ポチの首に手を回して膝に力を入れて、うん、そんな感じで」
「はい!」
ライラはポチに騎乗したことで感激したのか、頬が上気している。彼女は先ほどまでの硬い表情が嘘であったかのように、とてもいい笑顔を見せているじゃあないか。
そうだろう、そうだろう。ポチの毛並みは最高だ。
「じゃあ、後ろに乗るよ」
「いいんですか? 後ろで……私が後ろでも……」
「ううん、俺は後ろで構わないから」
ライラが気を使って言ってくれたけど、俺もそれくらいは配慮するって。昨日、俺は彼女に言ったじゃないか、嫌なことはさせたくないってさ。
俺はヒラリとポチの背中にまたがると、左右の手でポチのモサモサの毛を掴み自身の胸をライラの背中につけた。
「ポチ、行こう! ウォルター、案内を頼むぞ」
「あいわかった。案内しよう」
ウィルターは翼を羽ばたかせて飛び立つと、空中で一回転してから前へ進み始める。
◆◆◆
空を飛ぶウォルターはもちろんなんだけど、ポチも走り出すととんでもない速度まで加速してあっという間に目的地に到着してしまった。
今のポチならポニーより速いんじゃないかな。す、すごいぜ! ポチ。
ここは草ばかりのジャングルだと珍しい岩肌が露出した風景が広がっていた。所々に一メートルくらいの高さがある岩が転がっていて、中央には水たまりがいくつか見える。
「水を舐めてみるといい」
俺の肩に着陸したウォルターが自慢気にそう言った。
じゃあ、言葉通りにやってみるとしようか……俺はぬかるんだ岩肌に足を滑らせないようにゆっくりと歩き水たまりへ指先をつける。
「お、塩辛い。これは塩水かな?」
「いかにも!」
なるほど。水が塩水になってるってことはこの辺りに岩塩があることは確実か。
「良介さん、岩塩を見つけましたよ」
「え?」
ライラの手の平に小さな岩の欠片が乗っかっていた。
「お、おお。それが岩塩なのかな?」
「はい。この辺一帯、岩塩だらけみたいです。一抱えほど持って帰りましょうか?」
「うん。そうしよう」
といっても岩を砕けるような道具もないから、ナイフの柄で叩いてうまく割ることができた分をライラのポーチに詰めて持って帰ることにしたのだった。
ううむ。やっぱり道具を何とかしないとなあ。
「ウォルター、助かったよ。ありがとう!」
「肉の礼としては安い物だ。他にも知りたいことはあるかね?」
「いろいろあるんだけど……粘土とか」
「良介さん、粘土でしたらその辺の土を掘り返せばすぐに見つかるはずです」
俺とウォルターの会話を聞いていたライラが割って入る。
よおし、ならまずは食器を作るとするかな。
「じゃあ、一旦家へ戻ろう」
俺とライラは再びポチに騎乗して帰路につくのだった。
◆◆◆
家の前まで戻ると、ポチはウォルターと散歩に出かけて行った。彼はまだまだ動き足りないんだろう。一緒についていってやりたかったけど、生活基盤を整えるまでは我慢してくれ……ポチ。
適当な枝を見繕って地面を掘り返してみると、ライラの言う通りすぐ粘土質の土が露出した。
「ライラ、すごいな! 本当にすぐ出たよ」
「いえ……大したことでは……」
ライラは褒められることに慣れていないのか、困ったようにはにかんで手をパタパタさせる。
「あ、ライラ。これを使って食器と鍋を作ろうと思っているんだけど」
「はい。作ったことはありますのでお任せください!」
「おお、それは心強い。それで、粘土を焼くためのかまどで試してみたいことがあるんだ」
「どのようなことなのですか?」
ライラも興味津々といった感じで乗って来てくれた。
試してみたいことって言ってもそんな難しいことじゃないんだよな。
家の前まで粘土を抱えて戻ると、俺はタブレットを出して十一個のブロックを作成する。
まず横に三つ繋げたブロックを置いて、その上に同じようにブロックを並べる。これで六つのブロックを使った後ろの壁ができた。
壁の前面へつながるように左右へブロックを一つ繋げて、その上に横に三つ繋げたブロックを置く。
これで、中央が一ブロック空いたかまどの完成だ。
かまどの中に小枝を入れて、じっと様子を伺っていたライラへ声をかける。
「ライラ、ここに火を頼む」
「はい!」
ライラの魔法で枝に火がついて燃え盛ったことを確認した後、じっとブロックの様子を眺めた。
お、おお。木のブロックだから燃えちゃうものかと思っていたけど、まるでそのような気配は感じられない。一体どんな材質に変化しているのか謎だったけど、使えることが分かってよかった!
「温度を上げるために半分くらい隙間を開けて閉じてしまった方がいいんですが、どうしましょうか」
「なるほど。うーん、どうしようか……」
ブロックを前に置いて隙間を作る形にできればいいんだけど、下に隙間を作るようにブロックを置いたところで重力のまま下に落ちてしまう。
もしブロックでやるなら、地面を掘ってその上にブロックを置くか、逆に石か何かでブロックを浮かせるかどっちかだなあ。
手頃な石か木があれば、左右に置くだけでいいから浮かせる方がいいだろう。
「ライラ、こんな感じで考えているんだけど――」
俺の考えをライラへ伝えると彼女は顎に手を当ててしばし考えた後、呟く。
「でしたら、落ちている丸太を探しましょうか」
「うん、ありがとう。ライラ」
ジャングルに入ってすぐに一メーター弱くらいの太さが二十センチほどある丸太を二つ発見することができたから、ライラと二人で一つずつ運び入れた。
丸太をかまどの前に置いてさっそくブロックを乗せてみたら、うまくブロックを浮かせることができたんだ。よおっし、これでかまどの準備は完了だな。このブロックはタブレットの操作一つで取り外すことができるから、楽々だ。
「ライラ、食器の作り方を教えてもらえるかな?」
「はい!」
粘土を挟んでライラと向い合せに座ると彼女の手ほどきを受けながら、粘土をこねて形を整えていく。
途中、強度を上げるためということで川辺にあるきめの細かい砂を粘土に混ぜ込んだ。
「こんなもんかな?」
「はい! お上手だと思います。しばらく乾かしてから、焼きましょう」
「おう、ありがとう。ライラ」
皿はともかく、鍋ができることは嬉しい。これでようやく煮炊きができるようになる。
待っている間にもう一つ急ぎでやりたいことがあったから、これをやってしまおう。
「ライラ、君にも協力して欲しいことがあるんだ」
「なんでも言ってください!」
うん、やりたいことというのは家の改装なのだ。ついでに外側についても雨が降っても問題がないように屋根をつけたい。
家の中で煮炊きをすることはブロックが一意なサイズでしか作れない関係上難しいから……雨の中で食事はしたくないものね。
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