俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ

文字の大きさ
上 下
40 / 52

39.拘束

しおりを挟む
「何してたのー?」
「んー、なんといえばいいか……」

 意識をアーバインから離さず、鶏なクアクアと戯れようとしたプリシラの腕を掴む。

「くあくあー」
「アーバインに警戒してくれてるんだから、遊ぶのは後でな」
「ぶー」

 俺の説得に一応耳を傾けてくれた彼女はぷくーと膨れながらも、クアクアの元へ行くことをやめてくれた。
 その代わりといってはなんだが、ふわりと浮かび上がる。
 
「……で、そこかよ」
「えへへー」
「ま、まあいいけど……」

 プリシラは俺の肩に両ふとももを乗せ、片手を俺の頭にもう一方の手を上にあげた。
 しゃねえな。これで大人しくなってくれるならまあいいか。
 苦笑しつつも彼女の太ももに手を添える。肩車をするなんて初めての経験だよ。こういうのは将来自分に子供ができたらやるもんだと思っていた。
 
「ねーねー」
「ん?」

 今度は何だ。
 一応、目の前にアーバインって敵がいるんだが……。彼女はほんと天真爛漫でどんな場所でも楽しそうだな。
 
「ピピン、何だか苦しそう。顔が真っ赤で」
「見ちゃいけません!」
「えー。バルトロはさっきからじーっと見てるじゃないー」
「俺は監視しなきゃならないから見てるんだ」
「じゃあ、わたしもー」
「だから、見ちゃいけません! クアクアのトサカでも見ていたまえ」

 ピピンに憑依したアーバインが、そのだな。一人で盛り上がってしまって……ちょっとお子様禁止な感じになっているんだよ。
 お色気要素もあるんだけど……なんというかこうトリップしちゃってるヤバい感が激しい。
 こっちに手を出してこないのはいいんだけど、俺もどうやってこいつに対処するかなかなか考えが浮かばないでいる。

「アヒャヒャ……。素晴らしい……理想の世界が、開ける……いや、開くのではない。元からそこに在るものが戻るだけだとも!」

 うわあ……アーバインがうわごとのように何かつぶやいている。
 無防備の今ならいつでも切り捨てることができそうだけど、俺の目的はピピンを救い出すこと。
 彼女を傷つけるわけにはいかない。
 現状、手詰まりだ。どうすればアーバインの憑依からピピンを開放できるのか、皆目見当がつかない。
 
「どうしたのー? ピピンをずっと見てるだけなのー?」
「あ、いや。どうしたもんかと思ってな。ここでこのまま放置しても問題は解決しない」
「じゃあ。連れて帰っちゃえばいいじゃない」
「なるほど。確かにそれも一つの手だな」
「よおしー、ふんじばっちゃえー」
「イエス。アイマム」 
 
 この緑の空間がアーバインの領域なのかそうでないのかは分からない。
 だけど、少なくともここで対応策を練るくらいなら安全な我が家で尋問したほうが不確定要素は少なくなるよな。
 自宅まで戻ればイルゼの知恵も借りることができるしさ。
 それに、緑の空間が突然爆発しないとも言い切れない。未知の環境とは本当に何が起こるのか分からないからな。
 
 もちろん、俺は一体自分が今どこにいるのか不明だ。何しろ転移でここまで来たのだから。
 だけど、まあ、ここから脱出さえできればなんとかなるだろ。
 しかし。
 
「プリシラ。問題発生だ」
「んー?」
「ふんじばるための縄なんて持っていない。元々家の中にいたし、手ぶらだからさ」
「魔法で拘束すれば大丈夫だよー」
「あ、そうか」

 いつもながら、魔法のことが頭から抜けていた。
 プリシラもそうだが、イルゼも様々な魔法を使いこなすんだよな。俺も彼女らに手加減スキルをかけていれば、多くの魔法を使える。
 だけど、知識はあれども経験がない俺は、場面場面で状況を見て効果的に魔法を使いこなす経験がない。
 宝の持ち腐れとも言う……自分の力じゃないんだから仕方ないって言えばそうなんだけどな。
 
 何かいい魔法があったかなあ。自分の脳内に問いかけ、書物をめくるように知識を引き出していく。

「じゃあ、いくよー。マキシマムマジック。出でよ。牢獄の蔦。トリニティバインド」
 
 両手を天に掲げたプリシラの指先に膨大な魔力が集まっていく。
 次の瞬間、プリシラの手のひらの上に赤黒い血の色をした鞭のような蔦が出現する。
 そいつは恍惚とした表情のままのアーバインに絡みつき、彼女の全身を覆う。
 
「とんでもねえ魔法だな……」
 
 トリニティバインドはその名の通り、三つの拘束を執行する。
 物理的拘束、魔力的拘束、そして、声を発することを封じるんだ。
 声が出せず、魔力を放出することができなくなるから、魔法を使うことができなくなるってわけだ。
 効果時間は三日間。
 ちなみにこの知識はプリシラのトリニティバインドの発動を見た時に脳内から引き出したものだ。
 
「すまん、ピピン」

 アーバインではなく、意識を封じられているピピンに向け謝罪の言葉を述べる。
 すぐに俺は細心の注意を払い、彼女の首へ衝撃を与え意識を刈り取った。
 
 無抵抗の相手ならば、いかなアーバインの憑依があるとはいえ眠らせるのは容易いんだな。
 もっとも眠らせることができなかったら、そのまま連れて行くつもりだったけど……。
 
「プリシラ……まあいいか」

 プリシラに肩から降りてもらおうと思ったけど、彼女は半ば浮いているようで乗りかかられていても重みをほとんど感じない。
 この分だと俺が急に動いても、怪我をすることはないだろ。何かあれば、宙に浮けばいいだけだからさ。
 
 そんなわけで、彼女のことは気にせずピピンの元で膝を付く。
 彼女の体に彼女が着ていたローブを被せ、彼女を姫抱きする。
 彼女が座っていた場所は、生々しく濡れていた……。

「んじゃ、ま、一旦戻ろう」
「おー!」
『こけこっこー』

 声をかけると、肩に乗ったままのプリシラが元気よく、ついでにクアクアも威勢のいい鳴き声をかえした。
 でも、クアクアよ。その鳴き声は目覚ましにしか思えない……。

「出口がどこか分からないけど、焦らず探そうか」
「すぐだよー」
「え?」
「こっちだよー」

 プリシラがえいっと俺の頭上まで浮き上がるとクルリとその場で一回転した。
 そういや、彼女、どこからここまでやって来たんだろう。現れるまで一切気配を感じなかったんだけどなあ……。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...