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26.楽しい農場だよ
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農作業に精を出していると、あっという間に一か月近くたってしまう。
数年やそこらで開拓していくしかないと思っていた雑草蔓延る荒れた大地が、すっかり農場に姿を変えた。
超高レベルって作業速度が尋常じゃなくて作業が捗るんだけど、少し味気ないかもしれん。
だけど、俺には後悔なんて微塵もないんだ。
夢だった農場が完成しつつあるんだからさ。
たが、生育している植生は……何かとアレな感じなんだよな。
そこは多少目を瞑る……いや、もう……な。
アレな感じの植物はどれも成長速度が異常でさ、こんな短期間で背の高い「木」だと既に俺の身長より遥かに高い……。
もちろんアレな植物たちはプリシラとイルゼが関わっている。
最初の一週間で俺は達観し、同じ愛すべき作物じゃないかと割り切った。
なので今はどんな植物だろうが愛でる……ことは無理だな。
一部やべえのがいるんだよ、これが。
カンカン照りの日が二日続いたから、今日は魔法でどーんと雨を降らせてしまおう。
屋根の上に立ち、周囲をぐるりと見渡すと……おや、人影が見える。数は二。
ぴょーんと屋根から飛び降り、脚にぐぐっと力を入れると一息で人影の元まで到達する。
「よく来てくれたな。グレン」
「おう。やっと冒険にひと段落がついてな」
グレンは人好きのする笑顔を浮かべ、右手を差し出す。
彼の手をグッと握り、熱い抱擁を交わす。
「……それにしても、バルトロ。しばらく見ねえ間に……人間やめちまったのか?」
「そ、そんなことはないさ」
グレンの姿を見かけたから、全力でジャンプしたのが不味かったか……。
確かに、普段の俺から見たら今の動きは人外に過ぎる。
「お前さんと共に住む者のことは、聞いた」
「おう、そうか」
「だから、お前さんの身体能力が化け物みたいになっていても、まあ納得だ」
「ん?」
あれえ。
グレンが微妙な顔をしていたのは、俺の動きのことじゃあなかったのか。
じゃあ、何だろう。
「お前さん、農場を作るとか言ってなかったか?」
「いやあ、俺も短期間でここまで開墾できるとは思ってなかったんだよ」
「しかし、この様子だと……農場じゃあなく、魔物の森って言った方が理解できるってもんだ」
グルリと周囲を見渡し肩を竦めるグレン。
「いや、そこまでじゃあないだろ。ちゃんと果実も収穫できるしさ」
「……そうか」
グレンを取り囲むようににじり寄ってきた根っこが動く捻じれた幹をした木をペシンと手で追い払う。
グレンよ。言いたいことは分かる。自立歩行するような木なんて、農園にはいないよな。
だけど、こいつだってブルーベリーのような実をつけるんだぞ。
でもやっぱり……普通の農園の方が……。
迷いが出た時、俺の思考を断ち切る絹を裂いたような悲鳴が。
「きゃあああああ!」
見上げると、ひし形の葉っぱを茂らせた何本もの蔦に女の子が絡み取られていた。
「む。白か」
「見てないで助けてくださいいいい。教官!」
涙目で叫ぶ彼女は……確か……えっと。
「……」
「考えてないで、先に助けてくださいってばあああ!」
「すまんすまん」
蔦だけでできた歩く植物をさっきの木と同じようにペシンと叩くと、彼女が落ちて来た。
「おっと」
「あ、ありがとうございます」
キャッチしてお姫様抱っこの姿勢から、ゆっくりと彼女を地面に降ろす。
彼女は頬を赤らめて、捲れたスカートを降ろす。
思い出したぞ。パンツで。
「ピピン、あの時以来だな」
「ちゃんと教官と教官のお仲間にお礼を言いたくてグレンさんについてきたんです」
「なるほど。それならプリシラとイルゼもここにいるから、会って行くといい」
「はい! で、でも。教官のお家はどこにあるんですか?」
「そうだな。ここから一キロもない。真っ直ぐこっちだ」
奥を指さすが、うっそうとした木々のうち一部が動くものだから景色は安定しない。
頑張れば屋根先くらいはここからだって見えると思う。たぶん。
「ガハハハハ。やっぱりお前さんはどこまでいってもお前さんだな」
「そ、そうかな。グレンも相変わらずで嬉しいよ」
グレンはバンバンと愉快そうに俺の背中を叩く。
肩を並べ彼とゆっくりと歩き始めると、ピピンが追いすがるように俺の右の袖を掴む。
「お、置いてかないでください!」
「そんなつもりはなかったんだけどな……」
「絶対に絶対に一人にしないでください……」
「分かった分かった。そんな顔で見上げないでくれよ」
「ううう。グレンさんはどうして平気なんですかああ」
グレンに話を振るピピンだったが、当の彼は飄々としたもんで頭をボリボリとかいて彼女に言葉を返す。
「そら、ここがバルトロの農場だからだよ。こいつが管理するってんだ。危険なんてないだろ? な!」
「おう。もちろんだ」
グレンの言葉に少しじーんときた。
そうだよ。俺の本質は変わっていない。
俺はただ畑を耕し、作物を育て、収穫したい。それだけなんだ。
我が愛すべき農場で怪我人を出すことなど、断じて俺が許さない。
さっきピピンが吊り上げられていたってのは、遊びだ遊び。
ある種のアトラクションであって、危険なんてないんだよ。ははは。
……いや、少しはあるかも……。
「そ、その顔……ほ、本当に大丈夫なんですか!」
「大丈夫だ。問題ない」
表情の微妙な変化に気が付かれたらしい。
ピピンは存外目ざといんだな。
ゆっくりと歩きながら、俺はグレンとピピンに我が農場の概要を解説することにした。
これから案内するつもりだけど、大まかに知っておいてもらった方がいいかなと思って。
何より、自分の農場のことを語りたいって気持ちが一番だけど……可愛い我が子の自慢ってやつだな。
「全て農場なんだけど、便宜上、大まかにエリアが別れているんだ」
「ちゃんと考えているじゃねえか。果樹園と畑は一緒にはできねえわな」
「そ、そんな問題じゃないんですけど……」
未だにビクビクしながら俺の服を離さないピピンであった。
「ざっくりと教えてもらえるか?」
「もちろんだ。外周部は木々が生い茂っていて林のようになっている。丁度ここがそのエリアだ。そして――」
家を中心にして南西の端が今俺たちがいる場所になる。
家の南方は最初に耕したエリアで、小麦、スモモ、リンゴもどきが生育しているところだ。
西方にはこれも初期に魔法で作ったため池があって、周囲は果樹園になっている。誰が何といおうとも果樹園になっているんだ。
反対の東側は葉物野菜。北側は土中に育つタイプの根菜が植えてある。
北側の林と畑の間にも湖があり、ここは睡蓮が咲き誇る……予定……だ。
「だいたい分かった。途中で歯切れが悪かったのが気になったが、まあ、見りゃ分かるだろ」
「お、おう」
グインの言葉に曖昧に応じる俺なのであった。
数年やそこらで開拓していくしかないと思っていた雑草蔓延る荒れた大地が、すっかり農場に姿を変えた。
超高レベルって作業速度が尋常じゃなくて作業が捗るんだけど、少し味気ないかもしれん。
だけど、俺には後悔なんて微塵もないんだ。
夢だった農場が完成しつつあるんだからさ。
たが、生育している植生は……何かとアレな感じなんだよな。
そこは多少目を瞑る……いや、もう……な。
アレな感じの植物はどれも成長速度が異常でさ、こんな短期間で背の高い「木」だと既に俺の身長より遥かに高い……。
もちろんアレな植物たちはプリシラとイルゼが関わっている。
最初の一週間で俺は達観し、同じ愛すべき作物じゃないかと割り切った。
なので今はどんな植物だろうが愛でる……ことは無理だな。
一部やべえのがいるんだよ、これが。
カンカン照りの日が二日続いたから、今日は魔法でどーんと雨を降らせてしまおう。
屋根の上に立ち、周囲をぐるりと見渡すと……おや、人影が見える。数は二。
ぴょーんと屋根から飛び降り、脚にぐぐっと力を入れると一息で人影の元まで到達する。
「よく来てくれたな。グレン」
「おう。やっと冒険にひと段落がついてな」
グレンは人好きのする笑顔を浮かべ、右手を差し出す。
彼の手をグッと握り、熱い抱擁を交わす。
「……それにしても、バルトロ。しばらく見ねえ間に……人間やめちまったのか?」
「そ、そんなことはないさ」
グレンの姿を見かけたから、全力でジャンプしたのが不味かったか……。
確かに、普段の俺から見たら今の動きは人外に過ぎる。
「お前さんと共に住む者のことは、聞いた」
「おう、そうか」
「だから、お前さんの身体能力が化け物みたいになっていても、まあ納得だ」
「ん?」
あれえ。
グレンが微妙な顔をしていたのは、俺の動きのことじゃあなかったのか。
じゃあ、何だろう。
「お前さん、農場を作るとか言ってなかったか?」
「いやあ、俺も短期間でここまで開墾できるとは思ってなかったんだよ」
「しかし、この様子だと……農場じゃあなく、魔物の森って言った方が理解できるってもんだ」
グルリと周囲を見渡し肩を竦めるグレン。
「いや、そこまでじゃあないだろ。ちゃんと果実も収穫できるしさ」
「……そうか」
グレンを取り囲むようににじり寄ってきた根っこが動く捻じれた幹をした木をペシンと手で追い払う。
グレンよ。言いたいことは分かる。自立歩行するような木なんて、農園にはいないよな。
だけど、こいつだってブルーベリーのような実をつけるんだぞ。
でもやっぱり……普通の農園の方が……。
迷いが出た時、俺の思考を断ち切る絹を裂いたような悲鳴が。
「きゃあああああ!」
見上げると、ひし形の葉っぱを茂らせた何本もの蔦に女の子が絡み取られていた。
「む。白か」
「見てないで助けてくださいいいい。教官!」
涙目で叫ぶ彼女は……確か……えっと。
「……」
「考えてないで、先に助けてくださいってばあああ!」
「すまんすまん」
蔦だけでできた歩く植物をさっきの木と同じようにペシンと叩くと、彼女が落ちて来た。
「おっと」
「あ、ありがとうございます」
キャッチしてお姫様抱っこの姿勢から、ゆっくりと彼女を地面に降ろす。
彼女は頬を赤らめて、捲れたスカートを降ろす。
思い出したぞ。パンツで。
「ピピン、あの時以来だな」
「ちゃんと教官と教官のお仲間にお礼を言いたくてグレンさんについてきたんです」
「なるほど。それならプリシラとイルゼもここにいるから、会って行くといい」
「はい! で、でも。教官のお家はどこにあるんですか?」
「そうだな。ここから一キロもない。真っ直ぐこっちだ」
奥を指さすが、うっそうとした木々のうち一部が動くものだから景色は安定しない。
頑張れば屋根先くらいはここからだって見えると思う。たぶん。
「ガハハハハ。やっぱりお前さんはどこまでいってもお前さんだな」
「そ、そうかな。グレンも相変わらずで嬉しいよ」
グレンはバンバンと愉快そうに俺の背中を叩く。
肩を並べ彼とゆっくりと歩き始めると、ピピンが追いすがるように俺の右の袖を掴む。
「お、置いてかないでください!」
「そんなつもりはなかったんだけどな……」
「絶対に絶対に一人にしないでください……」
「分かった分かった。そんな顔で見上げないでくれよ」
「ううう。グレンさんはどうして平気なんですかああ」
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「そら、ここがバルトロの農場だからだよ。こいつが管理するってんだ。危険なんてないだろ? な!」
「おう。もちろんだ」
グレンの言葉に少しじーんときた。
そうだよ。俺の本質は変わっていない。
俺はただ畑を耕し、作物を育て、収穫したい。それだけなんだ。
我が愛すべき農場で怪我人を出すことなど、断じて俺が許さない。
さっきピピンが吊り上げられていたってのは、遊びだ遊び。
ある種のアトラクションであって、危険なんてないんだよ。ははは。
……いや、少しはあるかも……。
「そ、その顔……ほ、本当に大丈夫なんですか!」
「大丈夫だ。問題ない」
表情の微妙な変化に気が付かれたらしい。
ピピンは存外目ざといんだな。
ゆっくりと歩きながら、俺はグレンとピピンに我が農場の概要を解説することにした。
これから案内するつもりだけど、大まかに知っておいてもらった方がいいかなと思って。
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「全て農場なんだけど、便宜上、大まかにエリアが別れているんだ」
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「そ、そんな問題じゃないんですけど……」
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西方にはこれも初期に魔法で作ったため池があって、周囲は果樹園になっている。誰が何といおうとも果樹園になっているんだ。
反対の東側は葉物野菜。北側は土中に育つタイプの根菜が植えてある。
北側の林と畑の間にも湖があり、ここは睡蓮が咲き誇る……予定……だ。
「だいたい分かった。途中で歯切れが悪かったのが気になったが、まあ、見りゃ分かるだろ」
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