俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ

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21.行くぜ行くぜ行くぜ

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 ダーク・スフィアとセイクリッド・ウォールが甲冑に当たると同時に重なり合い、喰い合い――弾けた。
 キイイインと硬い物でガラスを引っ掻いたような音が鳴り響き、甲冑の胴体に大きな穴が開く。
 
「よし!」

 両手を握りしめ、うまくいった喜びを噛み締める。
 甲冑はといえば、宙から落ちドウンという大きな音を立てて前のめりに倒れ伏した。
 
「すごーい」
「こ、こんなことが有り得るのか……」

 両手を叩いてぴょんぴょん跳ねるプリシラと茫然としたまま虚空を見つめるイルゼ。
 プリシラは何が起こったのかよく分かっていない様子だったけど、イルゼはそうではないようだな。
 彼女は闇の眷属と戦った経験があるから察しがついたか。
 
「通常。光と闇は強い方が残り、残った方も威力が減ずる」
「その通りだ。バルトロ殿。しかし、これは……」
「しかし、例外がある」

 同じ威力の光と闇をぶつけると対消滅する。
 その時に元の力から換算して数倍もの威力がある力に変わるんだ。
 
「だ、だが……バルトロ殿は私とプリシラの魔法を同じ威力で消滅させていたはず……」
「そうだな。俺だけが例外だと思ってもらえればいい」

 プリシラとイルゼの実力は僅かながらプリシラの方が高い。
 そこで、魔法の威力を調整したってわけだ。
 セイクリッド・ウォールの方がダーク・スフィアより若干基礎威力が高い。
 俺は二人の実力を手加減スキルで正確に把握している。だからこそ、全く同じ威力の光と闇を演出することができた。
 
「むずかしいことはわからないー。でも、やっつけたからいいじゃないー」
「そうだな。うん。その通りだ」

 イルゼの肩を掴みプリシラが難しい顔をしている彼女を揺する。
 対する彼女は「仕方ないな」と言った風に首を傾け小さく息を吐いた。
 
「さすが賢者殿といったところか」
「いや。二人がいてこそだよ。俺じゃあこいつを倒すことなんて不可能だ」

 肩を竦めておどけてみせる。

「わたしたちが必要だったってことー?」
「そうだ。その通りだ。ありがとう二人とも」
「おー」

 素直に喜ぶプリシラは本当に分かりやすい。
 でももう一人は複雑な感じだ。
 
「イルゼ。そう硬くなるなよ。気楽に行こうぜ」
「だ、だが……」
「大丈夫だ。さっきも言ったけど、どんな敵が来ても、俺が必ず守る。そこは安心してくれ」

 ポンとイルゼの肩を叩くと、彼女に顔を背けられてしまった。

「バ、バルトロ殿。そ、そんなことより、そこの女性を放置したままだが」
「あ、そうだったな」

 腰を抜かしているカーキ色の服をきた女の子へ目を向ける。
 彼女は一枚の布を腰で縛ったような貫頭衣を着ているだけで、革鎧といった冒険に必要な装備を装着していない。
 腰にポーチと大振りなナイフがあるけど、これだけの装備でダンジョンに潜るなんて考え難いんだが……。
 
「教官! みなさん、ありがとうございました!」

 彼女が立ち上がりペコリとお辞儀をしたけど、ガクガクと膝が震えている。
 余程怖い目にあったんだろうな……。
 
「まだ座っていた方がいい」
「あ、ありがとうございます。あまりの魔法に……」

 ん?
 彼女はプリシラとイルゼを交互に見ている。
 膝が震えている理由って……甲冑じゃあなくて二人の魔法かよ!
 ま、まあいい。知らなかった。俺は何も知らない。
 そんなことより、彼女に聞かねばなるまい。唯一の生存者かもしれないしな。
 
「分かるようなら教えて欲しい」
「はい! 自分に分かることでしたら何でも!」
「……の前に、こっちのぼけーっとしているのがプリシラ。お堅そうなのがイルゼだ」
「自分はピピンと言います! よろしくです!」

『名前:ピピン・グロービッシュ
 種族:獣人(猫科)
 レベル:十八
 状態:正常』
 
 自己紹介を聞きながら、ピピンのステータスを見てみた。
 ん、この名前どこかで……。
 種族が獣人なのに見た目が人間そっくりな……。
 お、そうか! 冒険者ギルドで初心者講習をやっていた時に会ったんだった。
 彼女は新米冒険者として講習を受けにきて、変わった種族だったから記憶に残っている。
 
「思い出した。忘れててすまないな。ピピン」
「いえ、あの時はお世話になりましたバルトロ教官!」

 ピピンはビシッと手を額に当てるが、腰が抜けたままだと締まらないな。

「どうやってここまで来たのか順を追って説明してくれないか?」
「分かりました!」

 ピピンは商隊護衛の依頼を受け、ファロの街からアルゴリア方面へ向かう。
 目的はアルゴリアではなく、王都だった。
 ファロから王都へ向かう道は整備されていて、馬車で行くことができる。
 人攫いの噂を聞いていた商人達は通常の倍の冒険者を雇い、厳戒態勢の元街道を進んでいた。
 そこへ突然、紫色の霧が立ち込め、誰かの笑い声が聞こえたところで彼女の意識は途絶えたのだそうだ。
 
「それで、気がついたらここにいたのか?」
「はい! そうです! 他の人の姿は無く、気が付いた時にはあの鎧が右手を振り上げたところでした。そこへ」

 ピピンがぼーっとしているプリシラへ顔を向ける。
 見られた彼女は顔の前で両手をヒラヒラと振った。
 
「他の人がどうなったのかは分からない感じか?」
「その通りです。自分も何が何だか……装備も無くなってましたし……」
「分かった。他に気が付いたことはあるか?」
「いえ、教官は、そ、その、何か気が付いたことがありますか?」
「そうだな……」

 少なくとも人攫いはあったと断定してもいいと思う。
 紫色の霧はおそらく睡眠効果がある魔法に違いない。下手人は既に滅したあの狂人だろうな。
 総合すると、今回の事件は解決したんじゃないかと考えている。
 
「これにて一件落着と思っているけど」
「そうですか。そ、それならよかったです」

 何故かうつむき、顔を赤らめるピピン。
 何かあったんだろうか……?
 
 そういや、座り込んでいる時はずっと服の裾を抑えているな……。
 彼女の服は一枚布でできているけど、丈が太ももの中央辺りまでしかない。
 そこまで必死に裾を抑える必要性は無いと思うんだけど……見えそうでも見ないようにはするつもりだし。
 そんなエロい目線で彼女を見ていたかな?
 一応、女子二人を連れているから俺が男であったもそこまで警戒されないと思うんだけど。
 
「バルトロ殿……」

 イルゼが俺へ顔を寄せ、耳元で囁く。
 
「どうした?」

 小声で彼女に返すと、察しろとばかりに彼女は俺の腹を肘で突く。
 
「分からぬのか。彼女は恐怖に駆られていたのだぞ……」

 あ……。
 ピピンが俺に「気が付いたことはないか」って言ってたのは遠回しにこのことを言っていたのか。
 ようやく察した俺は、気が付かぬフリをしてピピンへ手を差し出す。
 
 掴まれた手を引き、彼女を立ち上がらせる。
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