俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ

文字の大きさ
上 下
7 / 52

7.順調……な気がする

しおりを挟む
 俺はレベル百オーバーを舐めていた。
 いくら雑草を引き抜こうが、まるで疲れないんだ。
 調子に乗ってガンガン雑草を取り除いていくと、昼前には予定した場所の草を全て処理してしまった。
 
 途中からズタ袋を使うのをやめ、雑草の山へ放り投げるようにしたら更に効率があがってしまってな……。
 あっさりと目的を達成してしまったというわけだ。
 すごいぞレベル百は。ひょいっと投げただけなのに、正確に狙った位置へ雑草が着弾する。
 
 プリシラはすぐに飽きてしまって、きゃっきゃと俺に「がんばれー」と声援を送ってくれた。
 下手に邪魔されるよりはこの方がよい。
 一方でイルゼは真面目に草抜きをしてくれたが、却って不安になってくる。
 一国の著名な騎士が、汗水こそ垂らしていないけど草抜きだなんて……見る人が見たらひっくり返りそうだ。
 本人はまんざらでもなさそうだったけどね。
 
「よおし、一旦休憩にしよう」
「おー」
「了解した」

 パンパンと手を叩き、土埃を落とす。
 自分で掘った井戸に備え付けた縄を引っ張り、桶から水を組み上げる。
 
「使ってくれ。まずはプリシラ。次にイルゼな」
「うんー。でもー」

 あ、そうね。魔法でなんとかできるよね。
 じゃあ、どうぞ。
 何て言うと思ったか!
 
「お、いいことを思いついた。とりあえず今はその水を飲んで、その後、手を洗っていてくれ」

 イルゼの分の水も汲み上げた後、俺は一旦家に戻る。
 適当な食材を持ってきて野外で軽食を済ませた後、先ほど思いついた案を実行することにした。
 
「確かに魔法は便利だ。そこは間違いない」

 二人に向け指を立て、教師のように呟く。

「そうだな。確かに。聖魔法がなければ巨大な敵を打ち滅ぼすことは叶わない」

 こ、この脳筋があああ。
 叫びそうになったが、グッとこらえ済ました顔で続ける。
 口元がピクピクしていることは秘密だからな。
 
「何も敵をぶったおすだけが魔法じゃない。君達はよいところに目をつけていたんだよ」
「なになにー?」
「草抜きだよ。魔法で草を引っこ抜こうとしたよな」
「おー、任せてー!」
「待て! 魔法を使えと言っているわけじゃない」

 この地を壊滅させられたらたまったもんじゃねえ。
 翼を出して飛び上がろうとしたプリシラの頭をむぎゅーと押さえつける。
 
「魔法とは工事にも生活を便利にする手段にも使えるもんなんだ」

 ジタバタするプリシラをよそに、イルゼへ目を向けた。
 彼女は納得したようにコクリと頷きを返す。
 
「して、どうするのだ?」
「まあ、見ていてくれ。プリシラ、そこへ座って待っててくれよ」
「うんー」

 ペタンとその場で座ったプリシラはようやく翼を引っ込めてくれた。
 まずは……。
 両の拳を胸の前で打ち合わせ、目を瞑る。
 
「発動せよ。『手加減』スキル」

 手加減スキルの対象をプリシラに変更。
 脳内に問いかけ、該当する魔法がないか探索……おし。
 
「んー。どこにするかな」

 せっかく草を抜いたから、その外側にするかな。
 テクテクと歩き始めると、二人も興味津々と言った様子で後ろをついてくる。
 
 雑草と土肌の境目まで来たところで、立ち止まり後ろを向く。
 
「たのしみー」
「いつでもよいぞ。バルトロ殿」

 コクリと首を縦に振り、くるりと踵を返す。
 イメージしろ。
 目を瞑って、軽く体に力を込めるだけで暴力的なまでの魔力が体を奔る。
 
「オーバードライブマジック。マッドウォール土堀

 ドオオオン。
 大きな音を立て、巨大な掘が目の前に出現する。
 堀の大きさは横百メートル、縦五十メートル、深さ五メートルとやりすぎ過ぎるサイズだ。
 マッドウォールは土魔法の中でも基礎に当たり、地面に落とし穴を掘る魔法である。しかし、オーバードライブで極大化したことによりとんでもない威力に昇華した。
 思った通りのできなのだが、あまりの魔法の威力に我ながら身震いする。
 
「もう一丁。オーバードライブマジック。ウォーター」

 こちらは水魔法を覚える時、最初に練習する魔法だ。
 基礎の基礎ともいえるが、例のごとく凶悪なまでの魔力を注ぎ込むことにより手の平から滝のような水が噴き出す。
 
 見る見るうちに堀へ水が流れ込み、立派な池を形成した。

「あとは、定期的にピュリファイ浄化の魔法を使えば、飲み水としても農業用水としても利用できる」
「なるほどー。かしこいー」
「素晴らしい発想だな。さすがは賢者」

 プリシラとイルゼが手放しに褒めてくれる。
 
「ねー。くあくあと水浴びしていいー?」

 プリシラが水際で両膝をつけてしゃがみ込み、ぶしつけにそんなことをのたまった。
 泳ぐのは構わないけど……。

「くあくあって……」

 あれだよな。鶏みたいなトサカが付いたロック鳥の名前で間違いない。
 あんな巨大生物と水浴びしたら、この辺りが水浸しになってしまうじゃねえか。
 
 せめて土を耕すまで待って欲しいところだ。
 
「わたしのペットなんだよー」

 うん、知ってる。

「脱ごうとするな!」
「えー。服を着たままだとべたべたになっちゃうよー」
「泳いでいいって言ってないじゃないか!」
「ぶー」
「『今は』だ。先に土を掘り返して耕しておきたいんだよ」
「おー。じゃあ、すぐにやろー」
「おうよ」

 そうと決まれば、スキとクワを取ってくるとしようかな。
 歩き始めるとてくてくと俺の横にプリシラが並ぶ。
 おや、イルゼはどうした?
 
 振り向くと彼女は何故か少し頬に朱がさし、指先を震わせていた。
 
「どうした?」
「と、殿方の前で肌を見せるなど……」
「水浴びだったら普通じゃ?」
「バルトロ殿!」

 キッと切れ長の目で睨まれてしまう。
 何か怒らせるようなことを言ったっけ?
 釈然としないけど、気に障ることを俺がしてしまったのなら謝るべきだよな。
 謝罪の意味を込めて頭を下げると、彼女はかぶりを振って真っ直ぐに俺を見つめて来た。
 彼女の目は真剣そのものだ。
 
「こちらこそ、俗世に疎い賢者殿へ失礼をした」
「あ、いや……うん」
「バルトロ―、あとついでにイルゼ―。はやくー」

 一人前に進んでしまっていたプリシラが両手を振りぴょんぴょん跳ねる。
 
「全く……あの魔族は……」

 苦笑するイルゼに対し、肩をポンと叩き口元に薄く笑みを浮かべ口を開く。
 
「あいつもイルゼのことを名前で呼んだんだ。いつまでも悪魔じゃあれだろ?」
「そうだな。先に向こうが折れたのだ。私もいつまでも子供のようにしているわけにはいかないか……」

 うむと頷き、イルゼは右脚に力を込めたかと思うと一息でプリシラの横に並ぶ。
 俺も彼女のことをイルゼさんと呼ぶのをやめ、イルゼと呼んだんだけど彼女は気が付いてくれたかな? 一応俺なりに親しみを込めたつもりだったんだけど……。
 気が付こうが気が付くまいがどっちでもいい。これは俺自身の気持ちの問題だからさ。
 
「のんびりしていると置いていくぞ。プリシラ」
「えー。負けないぞー」

 初めて二人は睨み合わずに言葉を交わしてくれた。
 だけどな。
 
「スキとクワを一番に持つのは俺だ!」

 全速力で彼女らの横を追い抜いていく大人げの無い俺であった。
 
「えー」
「バルトロ殿!」

 後ろから彼女達の声が聞こえてくる。
 俺はこの時初めて、この二人とも何とかうまくやっていけるんじゃないかと思い始めていた。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...