俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ

文字の大きさ
上 下
6 / 52

6.とにかく雑草を引き抜きたいんだ

しおりを挟む
「さっき、魔を感知してとか言っていたけど、近くにいないと来れないよね?」

 イルゼは都合よく現れ過ぎたんだよな。
 人外のパワーでさっそうと出現したとかでも不思議じゃないんだけど、それならそれで聞いておきたい。
 我が身の安全のためにもさ。
 
「先日、巨大な魔を感知した。故にファロへ転移門を使い移動していたってわけだ」
「転移門……」

 有名だけど、一般庶民は使用することができない。
 金にものを言わせれば転移門の使用はできる。だけど、三ヶ月分以上の生活費を投入して門を使いたいって者はまずいないんだ。
 荷物も手持ち分しか持っていけないから、商人達でさえ利用しようとしない。

「バルトロ殿には必要のないものかもしれぬが、私は転移術が使えないからな」
「あ、うん……全部繋がったよ。ありがとう」

 プリシラと対峙して彼女とドンパチした。その際に巨大な魔を感じ取ったイルゼがファロの街周辺を警戒し、張っていたってわけか。

「杞憂だと思ったのだが、念のためにファロに来たのだよ」
「ん?」
「魔と同時に同様の聖の力も関知した。私は魔よりむしろ聖に興味があったってわけさ」
「なるほどな」
「それがバルトロ殿だったというわけだ。貴君の力を持ってすれば魔を滅することも容易いと予想はしていた」

 そういやプリシラとバイバイをしてファロに戻った時、神官らが外で並んでいた。
 手加減スキルでプリシラと同等まで力を増した俺のことも感知されていたってわけだ。
 
「だいたい分かったよ。それじゃあ、食事の準備に取り掛かるから、適当にくつろいでいてくれ」

 ◆◆◆
 
 まさかこんな事態になるとは想像もしていなかった。
 料理をしている間にプリシラとイルゼの間でひと悶着あったが、それ以外は特に問題なく夜を迎えるにまでなる。
 
 可愛い女の子に対して鼻の下を伸ばし、あっさりと受け入れたんだろうと思うかもしれない。
 事実はまるで異なる。
 
 プリシラを帰らせようと思ったら、帰らせることだってできただろう。しかし、そうなるといつ襲撃してくるか分かったもんじゃない。
 なら、懐に入れて彼女のお願いを聞いてあげた風の方が、彼女だって悪い気がしないと思うんだ。

「イルゼさんが留まるのは意外だったけど……」

 お堅い騎士もプリシラとの実力が伯仲しているから、いいカウンターになるはず。
 
 アクシデントはあったが、明日から予定通り畑の整備をはじめるとしよう。
 あの二人は……俺は考えることをやめた。
 
 ◆◆◆
 
 さあて、すがすがしい朝だ。
 プリシラに人間の料理がお口に合うか心配だったけど、もぐもぐと幸せいっぱいって感じでパンを歩奪っていたから安心した。
 体に似合わず彼女はよく食べる。俺と同じくらい食べるんじゃないだろうか。
 二人ともおいしそうに食べてくれるから、作り甲斐があるってもんだ。
 黙っていたら普通の少女のように見える二人だけど、いざ戦闘モードに入ると……いや、何も言うまい。
 
 右手に草刈鎌。左の肩から大きなズダ袋を引っ提げた完璧な草刈りスタイルで外に出た俺は、一面に広がる雑草へ目をやる。
 
「雑草ならわたしがー」
「いや、いいから!」

 背中から翼を出して浮き上がろうとしたプリシラの頭をむぎゅーと抑え、彼女を制止した。

「バルトロ殿、何をしようと?」

 バタバタするプリシラへ冷たい目線を送りながら、イルゼが問いかけて来る。

「畑を作る為にまず雑草を抜き、開墾をしようとね」
「浄化ならお任せを」
「剣でぶった切るとかやめてくれよ」
「そこの知性が足りぬ魔族と同じにしないでもらいたい」

 自信ありげに顎を少し上にあげるイルゼであったが、一かけらたりともうまくいくイメージが沸かない。
 
「むー。わたしだってー」
「待て、待て!」

 隙をついて飛び上がろうとしたプリシラを後ろから羽交い絞めにする。
 その間にイルゼは両目を瞑り、胸の前で両手を組み祈るようなポーズで集中状態に入った。
 
 神々しい光が彼女から溢れ出し、見る者が見れば地に伏せ拝んでしまいそうな光景が目に映る。
 い、嫌な予感しかしねえ。
 
 急ぎ手加減スキルの対象をプリシラからイルゼへ変更。
 脳内へ今彼女が何をしようとしているのか、問いかける。
 
『絶対聖域ザナドゥ
 聖魔法:レベル九十八
 効果:究極の聖域魔法。不浄なる大地を浄化し、全て更地に戻す』
 
 ……。

「その魔法は使ったらダメだ! 何もかもがいなくなってしまう!」

 雑草は消え去るだろう。
 だけど、土の中に住むミミズさん達まで含め全て「浄化」される。
 この魔法は毒の沼地とか瘴気に溢れ生きとし生けるモノが死滅する環境に対して使うのならアリだ。
 だけど、農地に向いたこの土地に使えば、不毛の大地に変貌してしまう。
 桃源郷ザナドゥという名から、恵みある豊穣な土地へ変える魔法だと思うだろう?
 現実は違う。
 こいつは、どのような土地であってもゼロにしてしまうとんでも魔法なんだよ!
 
「オーバードライブ。降臨せよ。絶対聖域ザナドゥ」

 ぐ。間に合えよお。
 
「マキシマムマジック。無に帰せ。黒の衝撃ダーク・インパクト

 ザナドゥの柔らかな光は深淵から噴き出る黒の染みにかき消された。
 ハアハア……。

「すごーい。バルトロー。黒の衝撃ダーク・インパクトにマキシマムー」
「地獄の門が開いたかと……肝が冷えた」

 両手を叩いて跳ねるプリシラと愕然と膝を落とすイルゼ。
 対称的な二人であったが、俺に彼女らをゆっくり眺めている余裕はない。
 
「ま、魔法はいいから。普通に雑草をこの手で引き抜く。これが一番なんだ」

 中腰になり、むんずと雑草の束を掴む。
 軽く力を入れるだけで雑草は根っこから引き抜かれた。
 
「おー」

 プリシラもちょこんと両膝を付けた状態でしゃがみ込み、雑草をひき……掴みすぎだろ。

「そ、それで」
「やったー」

 さすが人外。めこめこと土が盛り上がり、あっさりと雑草の束を引き抜いてしまった。

「私も手伝おう」

 イルゼがシルクの手袋を外し、その場でしゃがみ込む。
 布面積の少ないプリシラはともかく、イルゼは重い鎧をまとっている。
 まだ春先とはいえ、日中あれだと蒸すし、鎧に砂が入るとあまりよろしくない。
 
「イルゼさん、着替えとか準備したほうが」
「そうだな。街まで付き合ってくれるか?」

 農作業用の衣類となると、イルゼは何を揃えればいいか想像がつかないか。

「おう」

 なので、快く彼女へ応じた。
 すると、予想通りというかなんというか、プリシラが俺の腕を引く。

「えー、わたしもー」
「魔族を街に入れるなど!」
「ま、まあまあ」

 また喧嘩しそうになった二人を止め、少し待てと彼女らに伝え家の中に入る。
 
 えっと、とりあえずこれでいいか。
 俺の作業着であるオーバーオールを一着に麦わら帽子を二つ引っ張り出して、彼女らの元へ戻った。
 
「とりあえず、今日のところはこれで」

 ポンと麦わら帽子をプリシラに被せる。
 お、案外似合うじゃないか。薄紫の髪が風でなびき、麦わら帽子姿が絵になる。

「感謝する。鎧を脱いでくる」

 イルゼはオーバーオールを手に持ち、着替えに向かった。
 
「よっし、雑草を抜くぜ!」
「おー!」

 片腕をあげ気合を入れると、プリシラも両手を広げバンザイのポーズで後に続く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...