上 下
27 / 47

27.進化したゴブリン集団

しおりを挟む
 場所は洞窟の中。ヴォーパルラットに遭遇した辺りだ。
 ナイトサイト暗視の魔道具を団員の一人から借りたので視界は良好。バッチリ見える。
 それにしてもいるわいるわ。確か転移直後に牛頭の手下みたく襲い掛かってきたモンスターの中にゴブリンがいたよな。
 俺の腹のあたりまでの身長で、二本の牙が特徴的な薄緑の体色を持つ。小鬼とも言われるそうだけど、俺の想像する鬼とは少し違うな。
 スキンヘッドの頭はツルツルで尖った耳はあるものの、角がない。
 鬼と言えば角だろってのが頭の中にあるから、どうも小鬼と表現されると首を捻る。
 
「攻めないの?」

 矢をつがえた状態で顔をあげるパルヴィに渋い顔になる俺。
 表情とは裏腹に六本の投げナイフが宙に浮く。

「構わないんだけど、どうしてこうなったんだ」
「ゾエさんとあたしが元気一杯だから?」
「そうだな。うん。他の人は全員洞窟でゴブリンと死闘を繰り広げていたよな」
「うんうん」

 サードのようにブンブンと首を縦に振るパルヴィの胸もゆさゆさ揺れている。
 そうだよな。俺とパルヴィは後から駆け付けたから……。
 
「そうじゃねえだろおお!」

 叫びつつ、投げナイフを念動力の糸で投擲する。
 前方のゴブリン三体から「ぐぎゃあ」と悲鳴が上がった。
 俺の動きに合わせ、パルヴィも矢を放つ。
 うまく頭を撃ち抜いたゴブリンもいたようで、二体が絶命し地に倒れ伏した。
 
「ナイフもいっぱいもらったもんね!」
「……そうだな。ジャラジャラとあるぞ」

 再び六本の投げナイフを今度は狙いをつけて放つ。
 「ぎゃああ」と絶叫が響き、六体のゴブリンが額を撃ち抜かれ後ろ向きに倒れ込んだ。

「すごいね。ゾエさん。あたしも!」

 パルヴィの矢が正確にゴブリンの頭を貫く。
 っと。
 ゴブリンの後列から火の玉が飛んできたぞ!
 しかし、ファイアリザードのブレスに比べれば赤子の手をひねるがごとしだ。
 念動力の糸で軽々と火の玉を横に逸らす。
 仲間を10体以上倒されたゴブリン達はこの火の玉を狼煙に一斉にこちらに向かってくる。
 
「来たぞ」
「脱出だー」

 何でこうもパルヴィは嬉しそうなんだ……理解に苦しむよ。
 元気だからといってたった二人であれよあれよという間に洞窟内に送り込まれたってのに。
 外までゴブリンどもをトレイン誘導してくれなんて無茶な願いを聞く俺も俺だけど……。
 正確にはパルヴィが俺の了承を待たずにとっとと洞窟に向かってしまったことが原因である。
 さすがに一人にさせておけないので、俺も続いたってわけだ。
 
 む。背後に張り巡らせた蜘蛛の糸(念動力製)に何かが触れた。
 頭上を越えるよう、「それ」を逸らす。
 天井に当たり弾けたそれは、火の玉だった。
 
「ゴブリンが魔法を使うなんて」
「まだ来る」 
 
 パルヴィが驚きの声をあげるが、直後、先ほどより「重い」何かがセンサーに引っかかる。
 氷のつららのようなものが火の玉と同じ場所に直撃し砕けてバラバラに。
 火の玉は質量が無いに等しいので少し力を加えるだけで方向転換したが、氷のつららはセンサーに引っかかってから「糸」を束ねないと厳しかった。
 転移した直後の俺だったら、逸らせずに背中にグサリといっていたと思う。
 俺の念動力の成長自体は僅かなものだ。一番は使い続けていることによる「慣れ」である。
 糸を出して張り巡らせることだけでも相当な集中が必要だったのだけど、今は「張るぞ」と最初に意識をするだけで準備完了となるほどまでになった。
 ここまで動かせるようになってきて、何が難しくて、何が簡単なのか分かるようになってきたんだ。
 念動力の糸は自分から離れれば離れるほど精度が落ちる。自分の体と繋がっていなければ、糸は数秒で崩壊し塵と化す。
 離れてしまった糸を維持することができたとしても、操作することが叶わない。維持ができるのならやりようはあるんだけど……捕らぬ狸のってやつだな。
 相変わらず、自己修復と転移は他人に能力を行使することはできていない。
 焦ってはいけない。まだ800日以上時間が残されている。
 分かっていても今のままじゃ隕石から二人を救い出すことができないから、焦燥感は募ってしまう。
 
「ぐ……」
「ゾエさん?」
「問題ない」
「ウィンドカッターまで……。ゴブリンたちが魔法を使うなんて」
「風か。質量の氷より『逸らす』のが大変だな」

 原理はまるで分らないからそう言うものだと認識しておこうか……。
 カマイタチのような魔法と念動力の糸は相性が悪い。センサーに反応したはいいが、糸が切れてしまった。逸らすは逸らせたのでよしとしよう。
 
 ゴブリン達はドタドタと逃げる俺たちを追っては来ている。
 俺たちの方が足が速いので、着かず離れずでこのまま洞窟の入り口まで向かおう。
 パルヴィ? 彼女のことは心配ない。俺より持久力があるし、足も速い。
 仕方ないことなんだけど、自分の身体能力の低さに鬱屈とした気持ちになる……。ずっと鍛えてきた彼女らと俺を比べるのは失礼ってもんだけど、それでもなあ……。
 念動力の糸で身体能力を底上げしたりできないものか。工夫次第でいけそうな気がしている。ドニに付き合ってもらって試してみようかな。
 
「もう少し距離を取ろう、ゾエさん」
「お、そうだな」

 パルヴィの意見に同意する。
 俺が逸らした炎の玉などは全部「魔法」だと彼女が言っていた。魔法なら立ち止まらないと放てないはず。
 魔法を使うには短い時間ではあるものの、超集中が必要になる。
 立ち止まって魔法を用意して放つまでの間に俺たちが魔法の射程外に出てしまえば、魔法を心配せずにすむって寸法だ。
 
 ◇◇◇
 
「助かったぜ」
「少し休ませてくれ。後から参戦する」
「おう。ゾエとパルヴィが引っ張ってくれている間に休憩ができた。行くぜ、野郎ども」
「おおおお!」

 「野郎ども」って団長よ。一応あんた、街の公務員だよな。
 国によっては「騎士団」と名乗ることもあるような部隊だろ。山賊じゃないんだから。
 なんて心の中で悪態をつきつつ、ドカリと座り込む。
 隣にポスンと座ったパルヴィがコクコクと水袋から水を飲んでいる。水袋の口が大き過ぎたのか傾き方を誤ったのか、勢いよく水が出過ぎていて彼女の口から水がこぼれていた。それが顎を伝ってポタポタと。
 
「ごめん。ゾエさんも喉が渇いているよね」
「そこまで喉が渇いていないし、ゆっくりでいいよ」
「無理して言わなくても、あたしとゾエさんの仲じゃない! じっと見てたから喉が渇いてるってわかってるよー」
「お、おう。そうだな」

 別のところ見てました。なんてことは言えるわけがない俺は、曖昧に肯定するのだった。
 水が滴ると透ける。
 ……言わせんな、恥ずかしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。 といっても、ほとんど前と一緒ですが。 変わり者で、落ちこぼれ。 名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。 それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。 ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。 そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。 そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。 父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。 これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。 隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。 8/26HOTラインキング1位達成! 同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...