超能力があれば転生特典なしでも強キャラだった件~帰還し命を救うため、モンスターを倒しまくるぞ~

うみ

文字の大きさ
上 下
17 / 47

17.はじめての依頼

しおりを挟む
「サードちゃんでよろしいですか?」
「はい。それで」

 用紙にアヒルことサードの足を押し付け登録完了となる。
 これでサードは俺のペット使い魔として登録されたというわけだ。
 登録は別の場所でと思っていたら、鑑定をしてくれたお姉さんのところでそのまま実施できた。
 書類上、俺のペットとして処理されたのは分かったけど……街で迷子になったとするじゃない、サードが保護されたとしたら……俺のペットって分かるのか?
 
 サードを降ろすために彼を胸に抱いたパルヴィが俺の様子に気が付いたようだった。
 むぎゅっとするとサードの形に合わせてむにゅっとなるんだな。
 
「これで終わりだよ?」
「み、見てない。あ、いや。疑問があってさ」
「書類を寄せたらぼんやりと光るようになるんだよ」
「そうだったのか」

 アヒルを床におろしてやりながら、パルヴィが一発で疑問に答えてくれた。肩口が隠れている服だから前かがみでも安心だね。
 俺が言う事じゃないって。その通り。

「お姉さん、俺の冒険者登録もここでできますか?」
「はい。登録はできます。鑑定書をもう一枚作って頂きます。それと、ドニさんがおっしゃっていたように私どもも鑑定書を見させて頂く事になります」
「もちろんです」
「では、もう一枚、鑑定書を出しますので」

 受付のお姉さんから鑑定書を受け取り、同じようにペタっと指を押し付ける。
 あ、察した。

「ドニ。鑑定書を本人確認に使うのかな?」
「滅多に使わねえけどな。受付の姉ちゃんらは冒険者の顔を殆ど覚えている。高額の報奨金が出る時だけ鑑定をやり直して、名前確認することはあるかねえ」
「おお。確実な身分証明だよなこれ鑑定書。すげえな」
「俺はあんまり好きじゃねえんだがね。自分の名前が浮き出てくるのをじっと人に見られるとかゾッとしねえか」
「あはは。俺もあまり好きじゃないかも。だがまあ、人違いをしたら大変だものな。あ、ドニ。これで俺も冒険者になったのかな?」
「一応な。登録だけなら誰でもできる。依頼を受けるとなるとそうじゃねえ」

 冒険者は個人事業主の集まりみたいなもんで、登録は自由にできるのだけど、仕事を受けるためには実績や実力が必要ってわけか。
 高難度、高い報酬の依頼を受けるためには実績作りをしなきゃならない。もしくは、圧倒的な実力を持つと判断させる何かがいる。
 至極当然の話なのだけど、最初は小さな依頼からやっていななきゃならないのかあ。
 こいつはいきなり傭兵なんてものを目指さず正解だったかも。何ら実績のない人が助っ人として呼ばれるわけもないよな。
 
「お姉さん、俺が受けることのできる依頼ってありますか?」
「……このような鑑定結果は初めてです」

 鑑定書に目を落とし、俺を見上げるを受付のお姉さんは困惑しているようだった。
 俺たちの会話から何となく俺の鑑定のことは聞こえてきていただろうけど、実際に見るのと聞こえてくるのは違うってことだ。
 笑顔を張り付けたままの彼女だったが、さすがプロ、すぐに再起動した。
 
「池添さんはどのような依頼をご希望でしょうか?」
「できれば討伐依頼を受けたいです」
「……ジャイアントラットの討伐でしたら、受領可能です」
「でしたらそれで」
 
 よかった。受けることのできる仕事があって。
 ガシっと左肩をドニに掴まれ、顔をあげる。しかめっ面をすると人相がさらに悪くなるぞ、ドニ。
 右肩に手を添えたパルヴィも細い眉をハの字にしてブルブルと首を振っている。 
 
「そろそろどいてくれないかーい。君たち」
「ん?」

 くるりと巻いた顎髭を生やした20代後半くらいの男が顎をあげ親指と人差し指で髭をつまんで斜に構えていた。
 何この変な人……。
 黒の燕尾服に身を包み、ズボンの上から鉄製の腰当と肩当に工事現場にあるようなヘルメットを被っている。
 いやにキンキンする声で指をパチリと鳴らした男が唇を尖らせた。

「僕あねえ。ジャイアントラットを拝みに行く初心者とは違うんだよ」
「初心者……間違っては無いが」
「みなまで言わないと分からないのかなー。ボーイ。僕かあ暇じゃないって言ってんのさ。キマイラの討伐報酬をもらいにきたんだよ。どいてくれたまえ」

 男が白いハンカチを指先で挟みシッシと左右に振る。
 あまりいい気分はしないけど、変な奴には関わらないに限るよな。
 なので、素直に席を立ち彼に道を譲る真摯な俺なのである。
 
 ところが素通りする彼の背に向けドニが口を挟む。
 
「冒険者一の紳士とかうそぶく割に、余裕がねえんだな」
「下品なチミの相手をしている暇はないのだよ」
「俺はともかく初心者相手にこれじゃあ、紳士が泣くってもんじゃねえのか。あひゃひゃ」
「言わせておけば、ふん。初心者の君」

 え、えええ。俺、俺なの?
 ドニの変なアシストでとばっちりを受けてしまった。彼とて悪気があるわけじゃないんだが……。
 自称紳士のねっとりとした目線に背筋がぞわぞわする。

「な、何かな」
「僕はドンカスター。君は?」
「ゾエと呼ばれているよ」
「そうか。ゾエくん。僕の矜持にかけて、君の初仕事、見守らせてもらうよ。何かあれば僕がすぐに助けにはいる。大船に乗ったつもりでジャイアントラット討伐に向かい給え」
「……」

 くわっとドニの顔へ目をやると、後ろ頭に手をやった彼が「悪い」と目で訴えてきた。
 アヒルを胸に抱いたパルヴィも困惑した様子だ。
 
「明日の朝。ここで合流しようじゃないか。は、ははは」
「くあ」
「使い魔くんが代わりに返事をするとは、中々粋だね。嫌いじゃないよ。粋な男というものは。あっはっはっは」
 
 高笑いしながら席に着く自称紳士ドンカスターに絶句する。
 サードめ。変なところで鳴きやがって。
 ま、まあいいか。見守っているだけって言っていたし。邪魔にはならないだろ。
 俺の能力にしたってそのうち冒険者たちが知るところになるわけだ。遅い早いの違いだけ。何ら問題ない。
 
「俺も付き合う。すまん」
「ありがとう。勝手がわからないし、来てくれると助かる」

 ドニが俺の耳に顔を寄せ囁く。
 彼が付き合ってくれるのなら、大助かりだよ。依頼のこなし方をどうやったらいいのか都度聞けるし、逆にラッキーだったと思うほど。
 
 冒険者登録ができて、初仕事を請け負うことまでできた俺は上々の気分で冒険者の宿を出る。
 パルヴィがまだ付き合ってくれるようで、アヒルのサードを手提げ袋に入れたまま街へ繰り出すことにしたのだった。
 といってもただ散策するわけではない。
 ジャイアントラットの討伐は依頼書を確認する限り街の郊外にある洞窟の中とのことなので、遠出する準備は必要なかった。
 だけど、破れた服のままいつまでもいるわけにはいかないだろ?
 パルヴィが案内してくれると言うので、ボロボロになった制服姿のまま冒険者の宿に行ったわけなのだよ。
 前日に服を準備しておけばいいじゃないかと俺も考えたのだけど、無一文じゃあどうしようもない。エタンが手配してくれた宿で食事も頂けたので大人しく過ごしているしかなかったのだ。もっとも、ほぼ寝ていたけどね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...