無職だと売られて大森林。パンダに笹をやり最強の村ってやつを作るとしようか

うみ

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16.もがー

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「ふむふむ。つまり、魔力密度が今より2割ほど減らないと健康被害が出るかもしれないってことか」
「調子に乗って魔法を使い続ければ、だがね」
「魔力より先に体力が尽きるってことだよな?」
「体力が尽きたところで休めばよいのだが、魔力があるとついついってこともある」

 無理がきくってことか。物理的に不調を訴えていても、魔力で無理やり体を動かすことができる、と捉えればいいか。
 確かにこれではいずれ倒れて動けなくなってしまうかもしれない。その時にはもう遅い……となりかねん。
 少なくとも魔力を消費して、回復するまで多少のクールタイムがあった方が望ましい。
 それがアザレアの判断だと、2割減ということだ。
 
「結界を広げるつもりだけど、密度が高すぎるのも良くない」
「そんなところだ。今のままでも気を付ければ問題ないが」
「分かった。減り過ぎた場合はどうだ?」
「それでも村よりは密度が高くなる。助けにはなるさ」
『パンダは笹が食べたいようです』

 人が真剣に考えているってのに、パンダがまたしてもガス欠らしい。
 さっきは満腹って言ってたよな? まさか邪魔をするためだけに笹を要求しないないか?
 頭をこちらに向け、体だけ左右にバッタンバッタン揺らすパンダであった。
 しまった。
 パンダの餌をねだるふてぶてしいポーズにアザレアが両手を胸の前に合わせてしまったじゃないか。
 はああと熱い吐息を漏らした彼女の頬が桜色に染まる。
 パンダが絡むと彼女は途端にメロメロになってしまうな……。どうしたもんかなこれ。
 
「そうだ。パンダ。結界のことを教えてもらえるか?」
『パンダは笹が食べたいようです』
「笹が欲しいんだろ? パンダにとっても悪い話じゃないんだ」
『話を聞かせてもらおう、なようです』

 途端に男前なセリフを吐いたパンダは、ぐるんと体を捻りお座りする。
 パンダは哀愁漂う背中を向けた態勢だったのだが、その場で回転しこちらに正面を向けた。
 体が柔らかいのな。木登り適正があるからかもしれん。

「いいかパンダ。この狭い結界内だと人間一人か頑張って森エルフ二人しか支えることができない」
「もがー」
「だああ。焦るな。まだ何も喋ってないだろ」

 なんてせっかちな奴なんだ。一言喋っただけだってのに立ち上がって押し倒してきやがった。
 パンダにのしかかられながらも言葉を続ける。
 「羨ましい」とか聞きたくない言葉が聞こえてきたが、聞こえなかったことにしてパンダの顎を両手で推す。
 パンダの毛が鼻をくすぐってたまらなかったんだよ。
 これでとりあえず落ち着いた。
 
「人が増える。すると、笹の木を手入れできる人数が増えるだろ」
「もが……」
「そうするとだな。笹の木を増やすことができる」
「もがー!」
「押すな。とりあえず、俺から離れろ」

 興奮した様子でまるで言う事を聞いてくれない。
 仕方ない。
 アイテムボックスから笹を出し、できうる限り腕を伸ばし笹を落とす。
 
「カルミアー」
「な、何でしょうか」
「その笹を持って少し離れてくれえー」
「え、ええ。でも神獣が」

 立ち上がるのも億劫なのか、笹に気が付いたパンダが右に一回転して口を笹へ寄せる。
 まあいい。あの笹はくれてやろう。たかが一枚だからな。
 パンダが笹をもしゃもしゃしている間に寝そべる俺の前でしゃがみ込んだカルミアに笹を五枚ほど託す。
 パンダが離れたことだし、立ち上がりパンパンと服をはたく。
 
「で、パンダ。笹の木が増えたら、笹の葉も増える」
「もがああー」

 笹が増える発言に興奮したパンダが再び俺に向かってくる。
 しかし、そうはいかねえ。
 
「カルミアー」
「はいい。神獣、ここに笹の葉がありますよー」

 背伸びしたカルミアが精一杯上に手を伸ばし笹の葉をふりふりさせる。

「にゃーん」

 よし、パンダの方向が変わった。
 
「一枚だけだぞ。さて、パンダ。笹の葉を増やすには人を増やさねばならん。つまり、結界の形を変えなきゃならない」
「もっしゃもっしゃ」
「分かったか? ならば、結界を調整するぞ」
『パンダは笹が食べたいようです』

 ブレないなほんと。
 笹をばら撒き、計画を進める俺たちであった。結局のところ、結界はパンダが動くかどうかにかかっている。
 こいつをやる気にさせねば、何も進まん。
 
 ◇◇◇
 
 翌日――。
 何度も何度も調整を繰り返した結果、ついにいい感じに調整できた。
 アザレアとカルミアの二人と相談し、最初は最小限の広さを探ろうとなったんだ。
 結界の広さを計測しようとしたら、見えない壁に沿って歩くしかないと思っていたのだけど、ざっくりした広さを知るだけならその必要がなかった。
 もっとも、正確に測量を行うには見えない壁つたいに地図を作らないといけない。
 だいたいの広さを知るだけなら、森エルフの二人に頼ればすぐに解決した。
 彼女らは森の精霊の密度が分かる。
 結界を境に外側は精霊が「見えない」んだ。結界で森の精霊が遮断されて外に出ることができないからだとのこと。
 この事象を利用し、結界の広さが分かる。
 
 分かりやすいように円形に結界を広げていき、アザレアの言うところの「二割減」になるまで微調整を行った。
 結構時間がかかってしまったけど、一応目標が達成できた形となる。
 気になる広さはというと、縦横に約二倍の広さとなった。つまり、元の面積と比べると四倍となる計算だ。
 この広さなら森エルフの村を丸ごと移設することも可能なのだけど、狩りや採集まで含めるのなら足らない。畑であれば、魔法を使うこともあり十分足りるというのがアザレアの見解である。

「よし、よくやったぞ。パンダ。笹をやろう」
「もがー」

 お座りして笹を貪り喰らうパンダを緩んだ顔で眺めているアザレアの見てはいけない系の顔から目を反らす。
 ん、そういや。
 
「森エルフは肉を食べないんだよな?」
「はい。そうです」

 役に立たないパンダ好き好きモードになっているアザレアに代わり、カルミアが返事をしてくれた。
 ふむ。繰り返しになるが、やはり肉は必要ないんだな。

「でも、狩りは必要なのか?」
「骨や牙を使うんです。ミスリルやサファイアなどは希少ですので」
「鉄や銅なら多少は土の中に埋まってそうなんだけど」
「銅はまだ……鉄はダメです」

 ぶんぶんと可愛らしく首を左右に振るカルミアに首を捻る。
 鉄は土中に含まれる量がそれなりにあるはず。この世界でも似たようなもんんじゃないかと思っている。
 というのは、たった一日だったけど召喚された国にいた騎士様たちはみんな鉄製の全身鎧を纏っていたからだ。
 希少金属ならずらっと鎧姿を並べることなんてできないよな。
 
 ところが、カルミアの答えは意外なものだった。
 
「精霊の動きを阻害するんです」
「魔法的に相性が悪いとかそんなところ?」
「そんなところです」

 そこかよ。魔法とか俺の預かり知らぬところだったのか。
 そら、予想がつかなくて当然だよ。
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