異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
上 下
41 / 52

41.ごろーん

しおりを挟む
 パンダを転がしながら、床にふわっふわの毛皮で出来たラグを設置して模様替えが完了する。
 これ、何の毛皮なんだろうな。白と黒のゼブラ柄なんだけど……。
 触ったところ、シマウマの皮なんかじゃあないことは明らかだ。シマウマはこんなにモフモフしてないしさ。
 
「すごくかわいいお部屋になりましたね!」
「穴倉から住処になった感があるよなあ」

 コレットがベッドに腰かけ、にこにこと両手を広げ興奮した様子だ。
 うんうん。その気持ちは痛いほど分かるぞ。
 安全にすごすことができるのなら、樹上とお部屋を比べたら天と地だよな。うんうん。
 パンダもいつも通りに見えて、床にぺたーっとしているし快適だあと感じているんじゃないかな? と勝手に思っている。
 
「よおし、新居完成したところで」
「ドキドキ」
「ユーカリを食べよう」

 ずてんとコレットがベッドに倒れ込んでしまった。
 祝い事と言えば、これだろ……もしゃ……うめえええ。
 
「ふああ……」

 寝ころんだからか、コレットが眠たげにあくびをする。

「もしゃああ……」

 コレットの欠伸につられて、俺も同じように欠伸が出てしまう。
 食べながらだけどな。
 
「ずっと起きているのもやっぱり難しいか。今日は街からここまで移動して来てそのまんまだもんな」
「ま、まだ起きていられます……すやあ」
「寝てるじゃねえかよ」
「…………」

 あ、もう反応がない。

「まあ、夜まで寝てしまえば大丈夫かな……まだ日が登ってないけど」

 パンダはとっくに眠っているしコレットも寝ちゃったから、俺もすやあするとするかなあ……もしゃ……すやあ。
 
 ◇◇◇

 ……ッハ。ユーカリの葉を咥えたまま眠ってしまった。
 それはいいんだが、妙に暑い。
 目を開けたら真っ暗闇なんだよ。ご存知の通り、コアラの目は暗闇でも見通す。
 鼻がむずむずするし……分厚い毛皮の中に埋まっているような。
 この感触はコレットじゃあない。彼女はモフモフしていないのだから。
 それに、彼女はきっと俺を後ろから抱きしめている。
 なら、この暗闇はパンダの毛皮の中で間違いない!
 
 そら暑いわ。
 後ろにコレット。前にパンダといれば、何で一番体の小さい俺がむぎゅーってなってんだよ。
 
 脱出しようにも完全に体が固定されていて難しい。
 コレットもパンダもレベルが上がったからなあ……どう考えても俺はパワーファイタータイプじゃないから腕力でどうにかするのは厳しいものがある。
 
「コレット、パンダ。起きてくれ」

 声を出そうにもきっついなこれ。顔がああ、パンダの毛皮にいい。
 しかし、俺の想いが通じたようだ。
『パンダは笹が食べたいようです』
 
 お前、寝てるんじゃねえのかよって突っ込みは無しだ。
 起きている。パンダは起きている。
 むっさ寝息が聞こえてくるけどな。
 
「パンダ。笹だ。笹を出すから動いてくれ」

 ――ゴローン。
 寝返りをうったのか俺の言う事を聞いてくれたのかは不明。
 パンダは相変わらず気持ちよさそうにぐーすか寝ている。
 
 一応、約束は約束だ。
 アイテムボックスから笹を一枚出し、ヒラリとその場に落とす。
 床に落ちる前に食いついて来やがった。
 ぶ、ぶつかるう。
 どおおん。
 パンダはしっかりと笹を口に挟み、むしゃむしゃし出した。
 一方で俺はコレットごと後ろにごろんと倒れ込み、彼女も「んんんー」と目を覚ます。
 
「お、おやようございます」
「おはよう。結構寝ていた気がするんだけど」
「んー。分かりません」

 そんな時はほら、上を見るんだよ。
 洞の隙間に外と繋がっている小さな穴が幾つかあるのだから。
 光の差し込み具合で昼か夜かくらいは分かる。
 自室である洞の中は、真昼でも僅かに差し込む光以外は灯り取りがないから、暗い。
 もちろん、電球とかロウソクなんて無いから、一日中暗い。
 ランタンくらいつけてもいいんじゃないかなと思ったけど、俺とパンダは暗くても平気だしコレットは暗視のアミュレットを装着している。
 火災の危険性を考えると、無くても困らない灯りは必要無いと判断したんだよ。
 おっと、思考が逸れてしまった。
 穴から見える光は、とても柔らかに見える。
 
「たぶん、日が落ちた直後くらいじゃないかな」
「ちょうどいい時間に起きることができましたね!」
「だな。じゃあ、食べたらすぐに狩りに出かけよう」
「はい!」

 ユーカリを補充しに行かなきゃな。ついでに仕方ないから笹も拾う。
 コレットの弓が今日も火を噴くぜ!
 
 ◇◇◇
 
「よおおし、100Kill完了」
「ぜえぜえ……」
「よく頑張った。感動した!」
「は、はいい……」

 ユーカリクラスのモンスターも含め、索敵発見即抹殺サーチ・アンド・デストロイを繰り返し100体のモンスターを仕留めた。
 コレットがまず弓でモンスターを射撃し、それで倒せない場合は俺が槍で倒すという素晴らしい連携プレーを繰り広げたのだ。
 彼女の弓の腕も熟練してきて、笹クラスのモンスターなら彼女の弓だけで倒し切ることができていた。
 パンダ? パンダも活躍させようと思ったんだけど、機会が無くてねえ。
 
「で、では……本日はこれくらいということで……」

 息を切らせたコレットが縋るように俺の両肩を掴み揺すって来る。
 そうだな。毎日100killくらいが丁度いいだろう。
 
「じゃあ、少し早いけど戻……待て」

 喜色を浮かべたコレットに向け右手を上げた。
 右前方、もちろん樹上じゃあなく地面を歩く気配を感じる。
 敵は大柄な全身鎧で首が無い……いや。右手に自分の頭を乗せているじゃあないか。
 頭も兜で覆われていて、目の部分が赤く光っている。
 コレットのほっぺをちょんちょんして、気配の方向へ視線を向けてもらう。
 
「ヘッドレスナイト……い、いえ。あれはデュラハンです。レベルは82……」
「弱点は、頭と胸の奥ぽいな」

 動物学で調べたら高レベルだろうが、すぐに弱点が分かる。
 エルダートレントでさえ一発で弱点が分かったほどだからな。名前表記以外は使えるスキルなんだぜ。動物学ってやつは。

「コーデックスによると、デュラハンはとてもタフなアンデッドのようです」

 コレットがフルフルと首を横に振る。
 
「弱点を潰せば終わるだろ?」
「弱点は二か所あるんですよ?」
「ん? その言い方だと同時に潰さないといけないとか、そんな感じか?」
「その通りです……」
「まあ、問題ないだろ。忘れがちけど、俺たちは三人パーティなんだぞ」
「い、意味がよく分かりません」
「大丈夫だ。問題ない」
「は、はい……」

 コレットを説得する時はこれに限る。
 
 真っ直ぐ進んで来るデュラハンを待ち構え、コレットに弓を引いてもらう。
 その間に俺は攻撃ポイントに移動。
 もう少し、あと一歩前に出て来たら。
 よし!
 
 コレットに目線で指示を出すと、彼女は迷いなく矢を射る。
 ――ヒュン。
 矢はデュラハンの右肩に当たったが、甲高い音と共に硬い鎧に弾き返されてしまった。
 コレットに気が付いたデュラハンが体の向きを変える。
 
 ここで、俺が。
 枝の上から勢いをつけて飛び降り――。
 目指すは、デュラハンの首!
 
 スポンと見事にデュラハンのぽっかりと空いた首の穴から鎧の中に入りこむことに成功する。
 ここならデュラハンも攻撃できまい。
 って、おいおい、デュラハンの奴、自分の体を拳で叩いていやがる。
 こいつは悠長にしていられないな。改めて動物学を発動し、赤い丸を確認する。
 うん、問題ない。弱点に手が届く。
 なら、後は仕上げだ!
 
「パンダ! お手玉だ!」

 完全に俺に気を取られているデュラハンの背後から、パンダがペシンと右腕を振るった。
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...