異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

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40.模様替え

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 ユーカリ茶を飲んで一息ついた(コレットは紅茶)ところで、一旦外に出る。
 俺はさっきからもしゃっているからいいが、コレットも食事を摂らなきゃな。人間は料理をしなきゃ食事も満足にとることができないんだよな。
 料理をするには煮炊きをしなきゃならない。煮炊きは火を使うから、外に出ないとなのだ。
 できれば洞の中で炊事ができりゃあいいんだけど、さすがに木の中で火を使うのは躊躇われた。
 
「コアラさん」
「ん? 薪ならさっき(アイテムボックスから)出したぞ」
「いえ、そうではなく」

 コレットが困ったように眉尻を下げ木の洞へ目をやる。

「ほっといてもいいんじゃないかな」
「え、でも。わたし、お手伝いします」

 木の洞にパンダが詰まっていた。
 お尻だけ出して、そのまま止まっているんだよ。前脚を使えばそのまま外に出ることができると思うんだけど……あいつ、面倒になってそのまま休みやがったに違いない。
 あいつは俺たちがすぐに木の洞の中に戻ることが分かっている。
 その時が来れば、お尻を押されて力を使うことなく洞の中に入れるって寸法だ。

「パンダさん、引っ張りますよー」
『パンダは笹が食べたいようです』

 コレットがパンダの丸い尻尾を軽く引っ張りパンダに合図を送る。
 続いてパンダのお尻に手をやったところで、俺が待ったをかけた。
 
「コレット、そのまま放置で大丈夫だ。すぐに出てくる」
「え? はい」

 その場にひらひらと笹を数枚落とすと、すぐさまパンダが動き出し……普段は見せない目にも止まらぬ早さで笹を口で拾う。
 あの大きさで、えらい俊敏に動けるんだな。
 パンダは笹を食べるため、雑魚モンスターをひたすら狩っていた。きっとモンスターを倒す時には今みたいな動きをしているはず。
 そういや、最初にパンダを見た時、蜘蛛型モンスターを一撃で仕留めていたものな。
 折を見て、パンダにも一度戦わせてみるとするか。戦い方次第だけど、俺の修行にも協力してもらえるかもしれん。
 
 俺は起きているモンスターと一対一で戦った経験が殆どないんだ。
 いずれ鍛えなきゃと思っていたが、安全にスキルの熟練度を上げる手段がなかった。
 パンダとスパーリングできれば、熟練度を上げることができるんじゃないか?
 パンダの格闘能力次第だけど……。
 
「モンスターですか?」
 
 長考していた俺をモンスターの気配を探り当てたと勘違いしたコレットが、心配気に尋ねて来る。

「いや、考え事をしていただけだよ。モンスターの気配はない」
「よかったです」

 コレットは喋りながらも手際よく薪に火をつけ、鍋を火の上に吊り下げていた。
 彼女の料理を邪魔しちゃいけないと思い、素材を切り鍋でぐつぐつと煮込むところまでユーカリの葉をむしゃりながら彼女を待つ。

「少し、教えて欲しいことがあるんだ」

 コレットの手があいたところで、彼女へ質問を投げかける。
 スパーリングのことで聞きたいことがあってさ。
 
「何でしょうか?」
「コーデックスはスキル名を聞いただけでも、情報を得ることができるのか?」
「はい。一応は……でも、見る方が情報量がずっと多く得ることができます」
「そっか、見えてない仕組みとかも分からないのだよな?」
「その通りです。わたしに認識できない事象は『聞けない』ので」
「ううむ。なら、取得してみるしかないか」
「ま、まだ、スキルの数を増やすことができるんですか?」
「正直、いくつまでスキルをセットできるのか分からないんだよ。それをコレットに聞きたくてさ」
「そ、それはコーデックスに聞けませんね……」

 残念。
 といっても、限界スキル獲得数は知ることができないだろうなと思っていた。
 同時にスキルに関しても察することができたんだ。
 よく考えてみたらさ、俺のスキルは人間のスキルと内容が異なる。コレットが認識しているのは「人間」のスキルであって、「コアラ」のスキルじゃあない。
 スキル名だけで彼女に尋ねたら、スキルの能力を見誤る。
 前置きはこれくらいにして、スキルを取るとしよう。
『格闘スキルを取得いたしました』
 
 よし、これで俺とパーティを組んでいる彼女にも「見えた」はずだ。

「今セットした『格闘』ってスキルについて教えてもらえるか」
「はい……あははは。す、すいません」

 何だ。笑うのを堪えることができないほどの内容なのか?
 コレットは俺に失礼だと思っているようで、必死に口元を抑えているけど、ついに諦めうつむいてしまった。
 肩が揺れ、彼女が俺に笑うところを見せないようにしているのは明らかだけど……笑うなら笑うで大っぴらにやってくれた方がいいんだが……。
 余計に気になるじゃないかよ!
 
「す、すいません。コーデックスが思ってもみないことを教えてくれたので……」
「教えてもらるか」
「はい。『コアラ流格闘術。もしゃー』と」
「……い、意味が分からん。格闘術の中身は分かるか?」
「もちろんです。素手で戦うことをサポートするスキルになります。鍛えあげると武器を使うことなくモンスターを討伐できるとあります」
「ありがとう。想像通りだよ」
「はい!」

 素手で相手を打ち倒すことが目的ではない。敵の攻撃を躱し、いなすことができるかどうかを知りたかった。
 コレットの説明によると、俺の期待したスキルであったことは確かだ。
 一つ気になることは、「コアラ流格闘術。もしゃー」の「もしゃー」だな。まさか、ユーカリの葉を消費するなんてことはあるまいな?

「もしゃー」

 念のためスキルを使用する時のように言葉に出してみた。
 脳内メッセージは何も流れない。現在「格闘スキル」の熟練度が0だから、成否判定があるなら必ず『スキルの使用に失敗しました』って出るはずなんだ。
 それが、何もないってことは「もしゃー」じゃあスキルが発動しないってこと。

「もしゃーって可愛いですよね!」
「そ、そうかな」
「はい!」

 コレットはどこかズレているんじゃないか?
 いや、俺はこの世界で人間として生活したことがないから、彼女の感性が一般的かどうかは分からない。
 だけど、トリアノンは別として街の人たちの反応を見るに……「もしゃー」で可愛いはないだろうな、と思う。

「気味悪がられるよりはいいか」
「何かおっしゃられました?」
「いや、何でもない。そろそろ鍋が出来ているんじゃないか?」
「そうですね……(お鍋が)吹いてます!」

 慌てて鍋を火からどけるコレットであった。
 
 ◇◇◇
 
 食事が済んだ後はいよいよお楽しみのお部屋の模様替えタイムとなる。
 入口から見て反対側にベッドを置いて、後は切り株型の椅子を二脚をどこに置くか。
 大物家具はあと一つある。
 使いやすく邪魔にならない位置となると……よし! こうしよう。
 
「どこに置こうか? 棚と椅子」

 答えはコレットに丸投げだ。
 聞かれた彼女は部屋をぐるりと見渡し、「ここがいいんじゃないですか?」と床にペタペタと手をやる。
 ふむ。食器棚は壁際で、椅子はベッドの傍だな。了解したマイマスター。
 
 切り株型の椅子と上部に丸太で飾り付けしたベッドの相性は抜群だな。
 食器棚も木目を活かしたもので、木の洞の中によく似あう。
 後は、藁がつまったマットレスをベッドの上に置いて、敷布団を重ねたら完成だ。
 我ながら家具が少ないが、必要あれば増えて行くことだろう。
 正直なところ、食器棚は無くても支障がない。だけど、部屋ってことで棚の一つくらいはと思ってね。
 棚に置いておけば、コレットがいつでも好きな時に持ち運ぶことができるし。
 
「家具を置くだけで、すごく素敵になりましたね!」
「うん。俺もそう思う」

 二人で盛り上がったが、パンダはまるで興味がないのか仰向けにでろーんと転がっていた。
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