異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
上 下
39 / 52

39.我が家はよいものだ

しおりを挟む
 コレットがまともに動き出してからは、全てがスムーズに進む。
 ノコギリやハサミといった道具類から、コレットの日用品まで揃えることができた。
 家具は余り置いていなかったけど、小さな机くらいならあるから差し当たりそいつで我慢することにする。
 使うのはコレットだけだしさ。彼女が困らない大きさならそれでいい。
 
「んー。タオルはあったけど、布団やらの寝具はないんだな」
「ベッドなら別のお店で売ってます!」
「寝具がそこで揃うのかな?」
「はい。ベッドと敷布団があれば快適に眠れますよ!」

 ふむ。
 コアラになって以来、枝の上で寝ているけどベッドで寝転がりゆっくりと休むのも悪くない。
 人間の時は毎日ベッドで寝ていたが、今となっては懐かしいものだ。
 少しでも人間らしい生活をしておかないと、心までコアラになってしまいそうだからな……。
 
「コアラさん、コアラさん」
「ん?」

 おっと、黄昏ていてコレットの声が耳に届いていなかった。
 
「他にお買い物はありませんか?」
「特には無いかな。コレットは必要な物が全て揃ったか?」
「た、たぶん?」
「足らなきゃまた買いにくればいいさ。消耗品もあることだし」
「はい!」

 笑顔を見せるコレットだったが、そろそろ俺を降ろしてくれないものだろうか?
 俺がテイム生物だと言う事を店内にアピールしているのは分かるんだけど、ずっと抱っこされたままだと自由に動けないじゃないか。
 パンダ?
 パンダは店の隅っこで腹を出してごろーんと仰向けに転がっている。
 ガソリン(笹)をたらふく食べたからか、完全におやすみモードだ。
 といっても、パンダだけ休みやがってといった気持ちは微塵もない。むしろ、笹をいちいち与えなくて済むから、ゆっくり店内を回れた。
 そんなわけで、寝ててくれてよかったと思っている。
 
「それでは、寝具を買いに行きましょう」
「うん。あ、待って」

 帰り際になって、いい事を思いついてしまった。
 自分の賢さが怖いぜ。

「買い忘れですか?」
「そそ」

 俺自身の生活に必要な物は無い。
 だけど、せっかくいろんなアイテムが売っているのだ。
 ちょっと試して本格的に着手していなかった「錬金術」の肥やしにできるんじゃないかって思って。
 錬金術はいろんなアイテムを合成して、新たなアイテムを作り出すスキルなのだけど……合成に失敗したらアイテムが消えてしまう。
 一度ユーカリを合成に使って消えて以来、ユーカリを使うことを控えてきていた。
 何でもいいから適当にユーカリ以外のアイテムを合成して、熟練度を上げてみよう。
 目的? それはだな。
 ユーカリ茶に続く、素敵なユーカリ生成物を生み出すためだよ!
 ユーカリ酒とかできないかなあ。普通のやり方じゃあユーカリ酒なんて造ることができないだろう。
 だけど、科学の力を使わず不思議パワーで合成する錬金術ならば、可能かもしれない。
 他にもユーカリの種とかできたりするかもしれないじゃないか!
 種ができれば、植えて、大事に育てればユーカリの木になる。
 キャンプスキルがあれば、モンスターに邪魔されず育成することが可能。
 うはああ。夢が広がってきたああ。 
 
 というわけで、適当に買い物カゴへ次々に小物やらなんやら沢山の物を放り込み全てお買い上げした。
 大量の買い物をパンダに乗せて雑貨屋の外に出る。
 すぐに雑貨屋の裏手に回り、人気がないところで全てアイテムボックスに仕舞い込む。

「大きな物でもアイテムボックスに入るんですね」
「うん。ベッドでも問題ないはずだ」
「物凄く便利ですね! コアラさんのギフト」
「コレットのギフトもとても良い物だと思う」
「えへへ」

 アイテムボックスは落とさない、盗まれないという利点は得難いものがある。
 だけど、コレットの持つ「コーデックス」も俺にとってはアイテムボックスと同じくらい使えるスキルという認識だ。
 彼女に教えてもらえば、俺のスキルがどのような効果を持つのか分かるし、個々のアイテム、モンスターについても概要を知ることができる。
 知識とは生きていく上で大きな力になるからな。
 コーデックスの価値も計り知れない。アイテムボックスと比しても遜色がないほどに。
 
 ◇◇◇
 
 ベッドも無事購入し、イチョウの巨木の元まで戻ってきた。
 ちょうど日が暮れ始める頃だったが、街では日中行動していたためか既に眠気が……。
 仕方ないこととは言え、街の人たちは明るいうちに行動する。夜中に店を訪れても開いてないし、こればっかりは街の生活に合わせるしかないよな。
 今日は起きていれるだけ起きておいて、日が登る前くらいに眠れれば御の字ってところかなあ。
 昼夜逆転させると、戻すのがなかなか面倒なんだ。
 これは時差ボケに似ている……と思う。たぶん。
 日本にいた頃、海外に行ったことがなかったから想像でしかないけどね!
 
「中に入って、少し休もうか」
「はい」
「念のため、何者かに侵入されていないか気配を探る……っておい」

 コレットに「少し待て」と手で合図したはいいものの、パンダが洞の入り口に顔を突っ込みむぎゅううっとしているじゃあないか。
 中にモンスターが隠れていて顔をかじられても知らねえぞ。
 幸いにもパンダは、何事もなく中に入って行った。
 
 キャンプスキルがちゃんと発動していれば、木の洞は完全に隠蔽されている。
 大丈夫だとは思ったけど、警戒するに越したことはないだろ?
 結局、パンダが人柱ならぬパンダ柱になった形だが……。
 
 苦笑しつつも、一応中の気配を探る。
 うん、パンダ以外には中に何者もいないな。
 
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「ん?」
「えへへ」

 日本にいる時は一人暮らしをしていたけれど、自宅に帰ってきたら「ただいま」と言っていた。
 習慣とは怖いもので、コアラになって木の洞が家……というよりもねぐら……いやいや「拠点」であっても自然に口をついて出てしまう。
 俺の後ろから入ってきたコレットが、「おかえり」も変な話だけど、「おかえり」の言葉を聞くのは嬉しいものだ。
 
「コレット。コップを出してくれ」
「はい」
「行くぜ。クリエイトホットウォーター」

 よし、魔法が発動した。鍛えた甲斐があったぜ。
 たまに失敗するのはご愛嬌ってところだけど。
 
「お湯を沸かしに行こうと思ったんですが、ホットウォーターをモノにしていたんですね!」
「最近はキャンプスキルを主に鍛えていたけど、魔法もちまちまと熟練度を上げていたからさ」
「いつもながら、コアラさんの努力は尊敬します」
「いやいや、コレットもなかなかのものだと思う。弓も軽業師もな」
「ゆ、弓は……」

 何故そこでずうううんと影がさすんだよ。
 沈んだ状態でもコレットはしっかりユーカリ茶と紅茶を淹れてくれた。
 
「ご飯を食べたら、部屋の模様替えをしないか?」
「素敵です! 是非、やりましょう!」
「おう……もしゃもしゃ」

 ユーカリ茶葉を咀嚼する。うめえええ。
 香りも最高だー。
 
「ま、窓とかあればよかったかもしれません」

 コレットが何やら呟いているが、ユーカリ茶に集中する俺には何を言っているのか聞き取れなかった。
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...