異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

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15.コレット

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 少女はサラサラと羽ペンで自分の名前を書く。

『コレット・マズリエ』

 日本語とは明らかに違うんだけど、何故か俺はこの文字が読めるぞ。こいつが異世界転移特典ってやつか!
 こんなところに気を利かすくらいなら、スキルシステムの説明とかもっと他にやることがあるだろ……。
 
「えっと、種族名は何にすればいいんでしょうか?」
「コアラで」
「……喋った……」

 お姉さんが背をのけぞらせて驚いている。
 コアラだもの。喋るって。
 
「コアラさん、後はここにペタンと足型を」
「おう」

 インクをペタペタと前脚につけ、羊皮紙にペタリと押し付ける。
 
「それでは、登録をいたします」

 気を取り直したお姉さんが、何事も無かったかのように手続きを進めた。

「お願いします」
「では」

 お姉さんが目を瞑り、何やら呟くと俺の頭に何かが浮かぶ。

『コレット・マズリエとパーティ登録を行いました』

 おし、これで俺は少女のテイム生物として登録されたわけだな。
 うむうむ。
 なら、さっそく。
 
「モンスターのドロップ品を引き取って欲しい」

 言ったぞ。言ってやったぞ。
 お姉さんは口元をぴくぴく引きつらせているが、きっと驚きの余り硬直しているのだ。
 だがしかし、お姉さんから出た次の言葉は無常なものだった。
 
「可愛くない生き物さん、あなた丸裸じゃないですか」
「ちょ……」

 「アイテムボックスがあるんだーい」とつい口にしそうになったが、受付のお姉さんがアイテムボックスを知らないとなると安易に見せるべきではないのかも?
 
「ここは一旦、作戦を練ろう」
「あ、あの……」

 少女――コレットの手を引き、冒険者ギルドから外に出る。
 人気のない脇道に入り、ここでコレットの手を離した。
 
「どうしたんですか? 急に」
「ドロップアイテムは大量に持ってるんだよ」
「で、でも、コアラさん、何も手に持っていないですよね」
「それがだな」

 アイテムボックスからユーカリの葉を取り出し、彼女に見せる。

「え、えええ!」
「アイテムボックスって聞いたことないか? もしゃもしゃ」
「き、聞いたことはありますが、とてもレアなものだと。スキルでは覚えることができず、ギフトの一種と聞きます」
「もしゃ……ギフト?」
「はい。スキルと違って、産まれながらに持っているスキルのようなものをギフトと言います。熟練度もありません。産まれながらにして十全に使えると」
「なるほど。だからギフト贈り物なのか」

 もう一枚、ユーカリの葉を取り出し口に運ぶ。
 一枚食べたらやめられねえ。
 レアと言うが、俺以外にもアイテムボックスを使える人がいるのなら、コレット以外に見せても構わないか。

「もっちゃもっちゃ……これな、アイテムボックスから取り出したユーカリの葉なんだよ」
「は、はい。そんなゴミアイテムを貴重なアイテムボックスに収納しているなんて驚きですが……」
「ゴミじゃねえよ! ゴミってのはこんなのを言うのだ」

 ユーカリベッドで寝ていた生意気な狼みたいなモンスターがドロップした、牙と謎の球体を取り出す。
 ポイっとコレットに牙を放り投げる。狼の巨体さに合わせて牙も結構大きいからな。受け取ったコレットが少しよろけてしまった。
 しかし、牙を見た彼女の顔が蒼白になり、ワナワナと震えだしたではないか。
 
「こ、これ……ベノムウルフの牙じゃないですか!」
「名前など確認していない。こいつはユーカリの葉をベッドにしていたボーナスモンスターだ」

 最初は苦労したけどな……。懐かしい。
 今となっては、発見したら小躍りするモンスターである。
 
「これなら売れますよ! わ、わたしの二回分の報酬より……」
「そっか。じゃあ、そいつを売ろう。そうしよう」

 謎の球体をアイテムボックスに仕舞い込み、バラバラとベノムウルフの牙を地面に落とす。
 いっぱいあるなあ。あはは。

「ど、どんだけ狩っているんですか!」
「サーチアンドデストロイだ。ジークユーカリ」
「い、意味が分かりません」
「売れるならいいではないか。しかし、持てないなこれ」
「リュックくらいならあります……」
「おお、助かる。俺はユーカリとドロップアイテム以外は持っていないから……」

 完全サバイバル。食事はユーカリの葉だから食器なんて不要。バックパックもアイテムボックスがあるから不要。
 いつも手ぶらの俺である。
 牙を集めたら、合計十二本もあった。ベノムウルフの討伐数なんて覚えていないから、案外狩猟していたことに驚く。
 
 ◇◇◇
 
「16万8千ゴルダになります」

 どーんと積み上げられる金色のコイン。
 どーんとってのは言い過ぎた。金色が16枚に銀が8枚だ。
 ベノムウルフの牙をコレットのリュックに詰め込み、冒険者ギルドに舞い戻った。
 先ほどのお姉さんに牙を渡すと、血相を変えて奥に引っ込み今に至るってわけだ。
 
 一緒にやって来たコレットと言えば――。
 
「……」

 コインを前に完全に固まっていた。

「コレット」
「……」
「おーい」
「な、何ですか! コアラさん!」
「お、戻ってきた。受け取りをしてくれ。コアラじゃダメらしい」
「わ、わたしがですか!?」
「頼んだぜ。マイマスター」

 ぐっと親指を突き出すと、コレットはタラりと冷や汗を流しあせあせとお姉さんに話しかける。
 
「あ、あのお」
「はい。お受け取りはこちらにサインをお願いします」
「は、はいい」

 チラリと俺を見やるコレットに書け書けと目で合図を送った。
 ようやく羽ペンを掴んだ彼女は、自分の名前を羊皮紙に書き込む。
 
「サインしちゃいますよおお」
「おう、行け行け」

 目を瞑って一息に自分のサインを書くコレット。
 よおし、いいぞ。これでこの金は俺たちのものだ。
 
 コレットが震える指先でコインを詰め込んでいるところで、お姉さんが一言。
 
「当初、盗品かと思いました」
「え、えええ? そうなんですか!?」
「そんなわけないだろ! こんなもん盗むわけねえ」

 こっちを凝視するんじゃねえ。コレットよ。
 ユーカリならともかく、森じゃあ何の役にも立たない牙を盗むなんて労力の無駄使いだ。
 槍とか剣ならまだ使えるが……。
 
「ですが、これほどの量を盗むには無理があります。一か所にこれほどの量が集まることは、まずありませんから」

 盗品だとすれば、量が集まらない牙をわざわざ集めて売りに来るなんて辻褄が合わないよな。
 足がつかないように一本づつ売るのが普通だ。
 
「そんなわけで、あの可愛くない変な生物が狩ったと判断したわけです」

 最後まで無表情のお姉さんだった。
 
 いずれにしろ、結果的にうまく大金をゲットすることができたんだ。
 拾う神あれば捨てる神ありとはまさにこのこと。
 これがあれば、目的の物も買うことができるだろ。
 意気揚々と冒険者ギルドを後にする俺とコレットであった。
 いや、訂正。
 コレットは大金を持っていることが怖いのか、時折キョロキョロしていた。
 
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