異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
上 下
7 / 52

7.少し強くなったもしゃ

しおりを挟む
 遠くから聞こえる声で目が覚めた。
 時刻はそろそろ夕暮れ時といったところか。
 キョロキョロと辺りを見渡すと、だいたい俺のいる位置から百メートルくらい先に焚火の煙が見える。
 間に大木が挟まっているから、ここから声の主の姿は確認できないでいた。
 でも、逆に考えれば相手からも俺の姿が見えないってことだ。
 
 焚火をするくらいだから、人間かそれに類する知性を持った生き物に違いない。
 冒険者かな? 
 じっくりと冒険者を観察できる機会なんて早々ない。
 俄然興味が出て来たぞ。
 人の声が恋しくなったわけでは断じてない……少しはあるかも。
 
 うん。ここでいいか。
 距離はあるが、ここからなら焚火もバッチリ見えるからな。
 ……。
 こそーりっと。
 お、焚火の主は人間だった。
 格好からして以前遭遇した冒険者らしき二人組と同業者じゃないかなあと思われる。
 数は四人。
 
 火で肉をあぶっているようで、調理が終わるまで手持ち無沙汰だったのか会話を交わしていたようだった。
 もっと周囲の警戒をした方がいいような気がするけど、四人いたら誰かがモンスターの気配を感知するのかな?
 俺はずっとソロだから、その辺の感覚は分からない。寂しくなんかないさ。ソロの方が気楽だし!
 
「ベノムウルフが出たと聞いてたが、思い切って稼ぎに来てよかったな」

 四人のうち一番年長に見える三十手前くらいの男が顔を綻ばせる。
 彼はがっしりとした体型であぐらをかいていた。傍らに斧が置いてあることから、戦士なのだろう。
 
「ですね! 何故か角猪ばかりと遭遇しましたし」

 こちらの若い長髪の男は魔法使いかな。

「(肉が)焼けました! スープもできましたよ!」

 わたわたと手を振り、はにかんだ少女が二人に声をかける。
 この子が一番年少に見えるな。まだ高校生くらいじゃないだろうか?
 地球ではありえないピンクがかった灰色の髪が肩口辺りまで伸びていて、くりくりとした大きな目が特徴的だ。
 他の三人は冒険者風……といった装束を身にまとっているが、この子は街からそのまま出てきましたって感じの服を着ている。

「サラ、モンスターの気配はどうだ?」

 年長の戦士が赤髪の女に目を向ける。
 
「大丈夫よ。特に危険な気配は感じないわ」

 サラと呼ばれた赤髪の女は長髪をなびかせ、肩を竦めた。
 彼女は戦士の男に比べ軽装で、矢筒を背負っている。盗賊かレンジャーってところかな。
 
 彼女は気配を感じないらしい。
 すぐ近くにコアラがいるってのにな。この分だと、俺の姿に彼らが気が付くことはないだろう。
 だけど、油断は禁物だ。
 彼女の感じる気配ってやつが「敵意」だとしたら、感知できなくて当然である。
 俺は彼らに全く敵意を持っていないから。
 警戒し過ぎかもしれないけど、もし彼女が「敵意」を感じとることだけをしていて、周囲の生物に目を光らようと思ったらすぐにできるとしたら……俺が発見される可能性もあるってことだ。
 
 ま、その時はその時。
 彼らの手の届かぬところまで逃げればよい。
 逃げ切る自信はある。
 だって、これより先は人間達の時間ではなく、夜に活動する俺の時間だからな。
 
 ユーカリの葉をもしゃもしゃしながら、彼らの話に耳を傾けているとなかなか楽しめた。
 彼らからはいくつか有益な情報も得ることができたしな……一人ずつ見張りを立てて寝入る彼らを樹上から見下ろしほくそ笑む。
 
 彼らはそれほど強いパーティじゃあないこと。
 やはり笹は弱いモンスターが落とすアイテムで、初級冒険者のいいお相手ってことが分かった。
 俺が角が生えた猪を残して、熊やら狼やらユーカリをドロップするモンスターを狩りまくった結果、彼らは安全に狩りを行えたという。
 
 彼らから得た情報のうち、最も有益だったのは、砂と化すモンスターはリポップするってことだ!
 ん? 待てよ。
 ってことは、「砂と化さない」モンスターもいるってことか。
 ん、いや、その考えは早計か。
 砂と化す生き物がモンスターで、そうじゃない生き物は家畜であったり人間であったり……といった捉え方をした方がしっくりくる。
 彼らは肉を食べていた。
 何もかもが砂になっちゃうなら、肉を得ることができないものな。
 
 さて、本日も狩りに向かうとするか。
 ユーカリの葉をゴクンと飲み込み、その場を後にした。
 
 ◇◇◇
 
 森は広い。
 なので毎日探索エリアを変えているんだけど、どうもモンスターの数が少ない気がするんだよなあ。
 二時間ほど探索を行ったところ、最初に見た冒険者が倒していた虎型のモンスターと熊型モンスター二体しか仕留めることができなかった。
 俺の探索技術は日に日に上がっているにも関わらず、だ。
 
 まあ、同じ広さを探索したからといって同じ量のモンスターがいる方が変な話だよな。
 スキルを鍛えながら進んでいるし、無駄にはならない。
 
 なあんて、思っていたら虎型のモンスターがカボチャと格闘しているところに遭遇した。
 ふよふよと宙に浮くカボチャは、ハロウィンに出て来そうな形をしている。
 目と口があって、目の奥は赤い丸い光を放っていた。
 虎型のモンスターはカボチャを前脚で叩き潰す。
 致命傷を負ったカボチャはサラサラと砂となって消えて行く。
 
 しかし、ここで戦闘は終わらなかった。
 暗闇から染み出すようにカボチャがどんどんと現れ、虎型のモンスターを取り囲んで行く。
 虎も抵抗を見せ、数体のカボチャを打ち倒すが、物量に押され大きく開いたカボチャの口に噛みつかれ……ついには力尽きてしまった。
 なんだあいつらは……。
 
 おっと、こうしちゃおれん。
 俺は寝込みを襲う専門なのだ。起きて動いているモンスターを相手にする気はない。
 こちらに気が付く前に退散しなきゃ。
 
 ◇◇◇
 
 カボチャの集団から離れた後、順調に狩りを進めるが昨日ほどの成果は上がらなかった。
 モンスターの数が少なかったのはカボチャの集団かもしれない。
 だけど、モンスターの世界も弱肉強食だろ? 潰し合うことだってある。
 要調査だな。
 カボチャのことはコアラの脳内メモリーに保管しておくことにした。
 あいつらは俺の生存競争の相手であることは間違いないからな。
 俺もカボチャ達も夜中に動き、モンスターを狩るのだから。
 
 ――三日後。
 男子三日合わずは何とやら。
 レベルの上がりはかなり鈍ったが、ユーカリのストックは順調に増え続けている。
 
 今日の狩りもそろそろ終わりかなあ。
 ふうと息を吐き、空を見上げる。
 空はうっすらと白ずんできていおり、森も明るくなり始めていた。
 
 最後にもう一匹と思い、枝を伝いながらモンスターを探しているとすぐに獲物を発見する。
 お、初めて見るモンスターだな。
 太さが二メートルくらいの幹に巻き付く大蛇が、目を瞑り休息している。
 蛇は木に溶け込むような茶色と灰色のまだら模様をしていた。俺の胴体ほども太さがある細長い体は、頭の先から尻尾まで十メートル以上はあるだろう。
 普通の蛇との違いは、頭にトサカがあって尻尾にスパイク状のトゲトゲが付いていることかな。
 
 蛇が相手となるとステルスは意味がないか。
 ん? やけに冷静じゃないかって?
 自分の強さを過信するわけじゃあないけど、たぶんあの蛇なら大丈夫だと感じ取っているからなんだ。
 ずっと狩りを続けていたからか、なんとなく相手の強さが分かるようになってきてさ。
 大蛇はユーカリのベッドで寝ている狼とそう強さは変わらないと俺の感覚が訴えている。
 
 それに、スキルも使えるようになってきたしな……。
 ステルス……は相手が蛇なので余り意味がないかもしれない。蛇は熱感知能力を持っているから。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...