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第27話 何度も言わせるなモ
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「そうだ、マーモから聞いたのだけどファフニールってのはどういう役割を担っているの?」
「ファフニール? 『あの』魔竜は未だ君臨しているのか」
「ファフニールがいると何か問題が出そうなの?」
「魔竜は強大な力を持っているが、暴君ではない」
ほうほう、ならファフニールは放置で問題ないんじゃないか。ラージャ曰く、ファフニールはむやみやたらに人を襲うモンスターではない。というか、人に興味がないというのが正確なところか。ファフニールは人を食料として見ておらず、力量的にも人が驚異とはならないから無関心なのだろう。
それで天の山一帯で一番強いというのだから、これほど都合のよいモンスターはいない。
「ファフニールがいるから魔の儀も上手く機能しているんじゃないかな」
「私も同意見だ。未だ健在ならば街に強大なモンスターが襲来することも極めて稀になるはずだ」
良かった、良かった。
ならもう憂うことはないかな。
『ファフニールのところに行くかモ?』
マーモが鼻をぴくぴくさせ尋ねてくるが、首を横に振る。
「必要ないよ。結界はそのままがいいと思うし、今のバランスのままを保ちたい」
そんじゃま、住む場所を決めようか。
いや、このまま立ち去るのはさすがに無責任過ぎる。ラージャへ向き直り問いかける。
「起こしてしまってすまなかった。再び眠ることもこのまま起きていることもできるけど」
「安定を保つには私が在り続けねばならない。再び眠ることにしたい」
「いや、起きたままでも魔の儀を保つことはできる。意思を変える必要がないならだけど」
「誠か!」
彼女の声がうわずり、前のめりで俺の肩を両手で掴む。
一度設定した意思は魔力の供給がある限り保たれると聞いた。となれば何も術者から魔力を供給せずとも魔道具の動作が止まることはない。魔力の供給はオパール製の魔石で事足りる。オパール製の魔石への魔力供給は魔道車用の充マナ魔道具を使うか。魔道車の充マナは魔法陣魔法でやりゃいいし。
魔道具が経年劣化で壊れたらどうするのか、という心配に対しては、何もしないつもりだ。
そもそも、結界の魔道具自体メンテナンスをしていないだろ。結界の魔道具は作られてから2000年以上過ぎているんだ。新品の充マナ魔道具だけメンテしても片手落ちである。もっとも、俺が生きている間にどちらかが壊れたら修理するけどさ。
「街で暮らすなら、知人を紹介するよ」
「いや、私はここで過ごすつもりだ」
「モンスターが次々に襲ってくるぞ」
「襲ってこないさ。今だって過去だってそうだろう。棺は傷一つついていない」
術者と魔道具を破壊されれば『魔の儀』は止まる。止まらないのは破壊されないようにできているからに他ならない。
意思を反映するものなのだから、破壊しないようにルール設定しているだけ。
「あー、俺たちに戦意が湧かないのも同じことか」
「そうだ。人を守るための仕組みに人が囚われては意味を為さない。人より小さな生き物には意思を及ぼさないようにしている」
上手くできていると感心するよ。よくよく考えると条件案は多数あれど、人は対象外にしなきゃ魔道具を発動させる意味がなくなっちゃうものな。
「そんで人を近づけぬようにするため、モンスターの戦意は人にも向くようにしているってわけか」
「縛っていない、だけだ。下手に縛り、モンスターの意識が弱くなってしまうことを避けたかった」
意思を伝える大規模な結界型魔道具は使ったことがないから、例外設定を作ると意志力が弱まるのかどうかは知らない。
だけど、1000年うまくいっていた結界の内容を変更することはやめといたほうがいいよな。人もモンスターに襲われることは致命的な欠点ではないし。
むしろ、人だけが襲われない設定が入っていたら我が物顔で天の山でやりたい放題する人々にモンスターのストレスがたまり、結界が崩壊していた可能性もある。
それに、俺が発掘できるだけの魔道具も掘りつくされていただろうし。
「マーモ、俺とペネロペ、それにハリーはトップ3だっけ? 以外には襲撃されないんだよな?」
『そうだモ。何度も言わせるなモ。これだからニンゲンは』
か、可愛くねえ。脇の下を持って掴み上げて高い高いするぞ、そんなナマイキだったら。
「貴君らはモンスターと戦ったのか?」
「そらまあ、ここまで来るには次から次へと襲い掛かってくるからさ。そこのナマイキマーモットを信じるなら俺たちは四番手になっているみたいだ」
「ファフニールが王座に君臨しているとして残りはどのようなモンスターなのだろうな。1000年の間にどれほどのモンスターが集ったのか想像もつかない」
「そのうち挑戦しに来るんじゃないかな。ファフニール以外の二体が。ん、マーモはここに上位がいるって言ってたけど」
『そんなこと言ったかモ?』
こいつ、舌の根が乾かぬうちから。俺だとて録音していないので記憶違いの可能性はある。
マーモはラージャが俺たちより上位って言った気がするんだよなあ。まあいいや、どっちでも。ラージャとバトルになることなんてないし。
「貴君らが我らの時代にいれば、今とは違う未来が拓けたのだろうが、せんなきこと、だな」
「仕方ないさ。マナがゼロになり一度魔法文明は崩壊したんだ。本来いてはいない俺たちが、なんてことは考えてないけど、力を使って権力を握ろうなんて気は毛頭ないから安心してくれ」
「言われなくとも分かっている。力に任せ暴君になろうというのなら、このような場所には来ないだろう」
「ははは、その通りだよ」
笑いながら、大きく肩をすくめた。権力なんて握ろうものなら、四六時中落ち着かないだろ。俺にはあっていない。そんなことより人里離れた場所で誰に気兼ねすることなく、快適な生活を送ることの方が遥かに素晴らしいことだろ?
「ファフニール? 『あの』魔竜は未だ君臨しているのか」
「ファフニールがいると何か問題が出そうなの?」
「魔竜は強大な力を持っているが、暴君ではない」
ほうほう、ならファフニールは放置で問題ないんじゃないか。ラージャ曰く、ファフニールはむやみやたらに人を襲うモンスターではない。というか、人に興味がないというのが正確なところか。ファフニールは人を食料として見ておらず、力量的にも人が驚異とはならないから無関心なのだろう。
それで天の山一帯で一番強いというのだから、これほど都合のよいモンスターはいない。
「ファフニールがいるから魔の儀も上手く機能しているんじゃないかな」
「私も同意見だ。未だ健在ならば街に強大なモンスターが襲来することも極めて稀になるはずだ」
良かった、良かった。
ならもう憂うことはないかな。
『ファフニールのところに行くかモ?』
マーモが鼻をぴくぴくさせ尋ねてくるが、首を横に振る。
「必要ないよ。結界はそのままがいいと思うし、今のバランスのままを保ちたい」
そんじゃま、住む場所を決めようか。
いや、このまま立ち去るのはさすがに無責任過ぎる。ラージャへ向き直り問いかける。
「起こしてしまってすまなかった。再び眠ることもこのまま起きていることもできるけど」
「安定を保つには私が在り続けねばならない。再び眠ることにしたい」
「いや、起きたままでも魔の儀を保つことはできる。意思を変える必要がないならだけど」
「誠か!」
彼女の声がうわずり、前のめりで俺の肩を両手で掴む。
一度設定した意思は魔力の供給がある限り保たれると聞いた。となれば何も術者から魔力を供給せずとも魔道具の動作が止まることはない。魔力の供給はオパール製の魔石で事足りる。オパール製の魔石への魔力供給は魔道車用の充マナ魔道具を使うか。魔道車の充マナは魔法陣魔法でやりゃいいし。
魔道具が経年劣化で壊れたらどうするのか、という心配に対しては、何もしないつもりだ。
そもそも、結界の魔道具自体メンテナンスをしていないだろ。結界の魔道具は作られてから2000年以上過ぎているんだ。新品の充マナ魔道具だけメンテしても片手落ちである。もっとも、俺が生きている間にどちらかが壊れたら修理するけどさ。
「街で暮らすなら、知人を紹介するよ」
「いや、私はここで過ごすつもりだ」
「モンスターが次々に襲ってくるぞ」
「襲ってこないさ。今だって過去だってそうだろう。棺は傷一つついていない」
術者と魔道具を破壊されれば『魔の儀』は止まる。止まらないのは破壊されないようにできているからに他ならない。
意思を反映するものなのだから、破壊しないようにルール設定しているだけ。
「あー、俺たちに戦意が湧かないのも同じことか」
「そうだ。人を守るための仕組みに人が囚われては意味を為さない。人より小さな生き物には意思を及ぼさないようにしている」
上手くできていると感心するよ。よくよく考えると条件案は多数あれど、人は対象外にしなきゃ魔道具を発動させる意味がなくなっちゃうものな。
「そんで人を近づけぬようにするため、モンスターの戦意は人にも向くようにしているってわけか」
「縛っていない、だけだ。下手に縛り、モンスターの意識が弱くなってしまうことを避けたかった」
意思を伝える大規模な結界型魔道具は使ったことがないから、例外設定を作ると意志力が弱まるのかどうかは知らない。
だけど、1000年うまくいっていた結界の内容を変更することはやめといたほうがいいよな。人もモンスターに襲われることは致命的な欠点ではないし。
むしろ、人だけが襲われない設定が入っていたら我が物顔で天の山でやりたい放題する人々にモンスターのストレスがたまり、結界が崩壊していた可能性もある。
それに、俺が発掘できるだけの魔道具も掘りつくされていただろうし。
「マーモ、俺とペネロペ、それにハリーはトップ3だっけ? 以外には襲撃されないんだよな?」
『そうだモ。何度も言わせるなモ。これだからニンゲンは』
か、可愛くねえ。脇の下を持って掴み上げて高い高いするぞ、そんなナマイキだったら。
「貴君らはモンスターと戦ったのか?」
「そらまあ、ここまで来るには次から次へと襲い掛かってくるからさ。そこのナマイキマーモットを信じるなら俺たちは四番手になっているみたいだ」
「ファフニールが王座に君臨しているとして残りはどのようなモンスターなのだろうな。1000年の間にどれほどのモンスターが集ったのか想像もつかない」
「そのうち挑戦しに来るんじゃないかな。ファフニール以外の二体が。ん、マーモはここに上位がいるって言ってたけど」
『そんなこと言ったかモ?』
こいつ、舌の根が乾かぬうちから。俺だとて録音していないので記憶違いの可能性はある。
マーモはラージャが俺たちより上位って言った気がするんだよなあ。まあいいや、どっちでも。ラージャとバトルになることなんてないし。
「貴君らが我らの時代にいれば、今とは違う未来が拓けたのだろうが、せんなきこと、だな」
「仕方ないさ。マナがゼロになり一度魔法文明は崩壊したんだ。本来いてはいない俺たちが、なんてことは考えてないけど、力を使って権力を握ろうなんて気は毛頭ないから安心してくれ」
「言われなくとも分かっている。力に任せ暴君になろうというのなら、このような場所には来ないだろう」
「ははは、その通りだよ」
笑いながら、大きく肩をすくめた。権力なんて握ろうものなら、四六時中落ち着かないだろ。俺にはあっていない。そんなことより人里離れた場所で誰に気兼ねすることなく、快適な生活を送ることの方が遥かに素晴らしいことだろ?
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