追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ

文字の大きさ
上 下
84 / 90

84.強きモノノフ

しおりを挟む
 ――十郎。
 宗玄と俺の距離は十メートルってところか。並みの剣士ならば必殺の間合いとは言えねえ。
 しかし、俺たちにとっては一息で首元へ届く距離だ。
 
 なあ、宗玄さんよお。
 自然と口元が吊り上がる。待っていた。ここまでの相手を。
 ビリビリと奴から達人の雰囲気を感じとることができる。
 対峙するじいさんは不動。
 彼は無風の水面がごとく、さざ波一つ立てることはない静寂……。
 対する俺は荒波より激しい動こそが真髄。
 
「待っているのはしょうに合わねえ。行くぜ!」
 
 小狐丸を上段に構え、右足の指先へ力を込める。
 一気に加速し、小狐丸を振り下ろした。
 一方で宗玄は不知火を下段に構えたまま、すっと右へ半歩だけ体を動かす。
 
「甘いぜえ! 俺の刀は『蛇』のように」
「お主こそ……」

 軌道を変える小狐丸に対し、宗玄は不知火をスウッと上へあげる。
 ――キイイン。
 金属同士の澄んだ音が響き渡り、小狐丸は力の赴くまま不知火の刃をせり上がって行く。
 
「なっ!」
「……甘い。様子見などそれがしらには不要。そうだろう? 強きモノノフよ」

 っと軽く言ってくれるが、なんてえ軌道を描くんだ。
 刀を振り上げた体勢になった俺に対し、不知火を僅かばかり向きを変えるだけで小狐丸の威力を完全に逸らした宗玄は――
 目にもとまらぬ速さで俺の首元へ向け不知火を振りぬく。
 
 思いっきり上体を逸らし不知火をやり過ごした俺へ、更なる刃が襲い掛かった。
 「凌いで見せろ」まるでそう言わんばかりの宗玄の攻勢。
 
「っち!」

 右手は小狐丸を握りしめたまま手繰り寄せるように胴体まで戻しつつ、襲い来る不知火に対しては刀から手を離した左の拳を振るう。
 ――ガキッ!
 今度は鈍い音がして、俺の拳が不知火の刃を受け止めた。
 が、拳を覆っていた黒鉄の小手へ刃先が入っていく。
 舐めるな! 
 力任せに左腕を振るう。
 小手ごと不知火を振り切ることができた。
 
「まだまだ!」
「そうこなくてはな」

 両手で小狐丸を握りしめると、左拳から血が垂れた。
 あの一瞬で肌まで刃が達していたのか……。
 なんてえ腕前だ。
 
 ゾクゾクしやがる。
 俺は決して目的をおろそかにしてまで、戦うことを止めない戦闘狂いではねえ。
 でもな、ここまでの達人を前にして奮い立たねえわけがねえだろう!
 
「昂っておるのか。それでこそ、強きモノノフ」

 宗玄は薄い笑みを浮かべる。

「ああ、とんでもなくな!」

 酒呑童子になったからだろうか、髪の毛が逆立つのが分かる。
 全力だ。俺の技を、刀を、全てを受けてみやがれ!
 
「うおおおおお!」
 
 雄たけびと共に、小狐丸を振るう。
 一合。
 二合、三合、四合、そして五合。
 
 全てがいなされた。
 攻勢が止まったところで、今度は宗玄が反撃に出る。
 一撃目、体を動かし躱す。
 二撃目、刀で受け止める。
 三撃目、二撃目からの追撃で軌道が読み切れず、体勢を崩しながらも首を落として凌ぐ。
 四撃目、膝をついてしまうが、小狐丸でなんとか受け止めた。
 
 そして、五撃目。
 体勢は完全に崩れている。横なぎに払われる不知火。
 こ、ここは、こうだ!
 少しでも速度が落ちればその隙に凌ぎ、立て直し逆撃してやる。
 
 頭を起こし、不知火の刃へ右の角を向けた。
 一瞬だけ、不知火の動きが止まるものの俺の右角は綺麗に真っ二つに切り裂かれてしまった。
 
 だが、この一瞬で十分だ!
 跳ね上がるように起き上がり、そのまま高く飛び上がる。
 クルリと体全体を回転させ、小狐丸を前へ。
 
 不意を打たれた宗玄の刃は下段の位置にある。
 いける。
 そう思った。
 
 しかし、手ごたえが……ない。
 
「な!」
「後ろだ」

 いつの間に体勢を変えやがった!

「絶空。奥義 『縮地』でござるよ」
「瞬きの間だけ、速度を上げるとかそんなとこか」

 着地した俺の頭へ向け風圧を感じる。
 だが、俺に予期せぬ能力による攻撃は通用しねえ。
 
 危機を感じた俺の中に眠る「六道」が、無意識に俺の腕を上にあげさせたいた。
 ――キイイン。
 済んだ音が響き、宗玄の不知火を俺の小狐丸がしかと受け止める。
 追撃を許さぬよう、すぐさま後ろへ跳ぶ。
 
「強ええな。じいさん」

 十メートルの距離を取った。
 
「お主こそ。悪くない」

 どうする? 宗玄には三千世界でさえ通じねえ。
 つまり、力技で押し切ることは不可能なんだ。純粋な腕前勝負しかない。
 悔しいことに、これまでの立ち合いでは俺よりじいさんの方が一枚も二枚も上手だ。
 
 腕力でも速度でも俺の方が上回っていると言うのに、刀を振りあえばじいさんに軍配があがる。
 もし俺が晴斗に陰陽術で身体能力を強化してもらっていても、結果は同じこと。
 分かっている。そんなことは端からな!
 だから、晴斗に「陰陽術は必要ねえ」って言ったんだ。純粋な立ち合いとなると、腕力や速度など剣の冴えの添え物でしかないのだから。
 単にじいさんの腕前が俺の想像の遥か上をいっていたに過ぎない。

 それでも、それでもだ。
 勝負はじいさんの勝ち。
 でもな、最後に立っているのは俺だ!
 
 俺でしかできないこと。じいさんの想像の上を行くこと……。
 これしかねえか! 剣の腕で彼に負けを認めることになるけどな。

「もうよいでござるか……長考は?」
「ああ、腹は括ったぜ。いざ、尋常に」

 小狐丸を真っ直ぐに構え、すり足で宗玄へと向かって行く。
 対する彼は不知火を下段に構え、俺を待ち構える。
 
 間合いに入った。
 一番躱し辛い位置……胸に向けて小狐丸を突き入れる。
 が、最速の力を込めた俺の突きは不知火に横から弾かれてしまった。
 やはり、突きでも通じねえか。
 次の瞬間、横なぎに払われた不知火を跳ね上げるように受け止める。

「まだまだあ!」
 
 刀の向きを変え斬り上げるが、宗玄が首をずらしただけで躱された。
 それと同時に上から斬り下ろす形で襲い掛かってくる不知火。
 これに対し上体をさげ、やり過ごす。
 
 次が来たら躱せない!
 そう判断した俺は、一歩だけ後ろに跳ぶ。
 が、追いすがる宗玄の刀。
 
 じいさんの刀は突きの体勢だ。振るうと届かないからな。
 これを待っていた!
 
 動きを止めると、宗玄の突きが真っ直ぐに俺の左胸を突き抜けた。
 対する俺は刀が胸に刺さったまま、一歩進む。
 
 続き、左手で不知火を離さぬようしっかりと握りしめ――
 初めて驚きを露わにした彼の顎へ向け右拳を思いっきり振りぬいた!
 
 鈍い音と共に数メートル吹き飛ぶ宗玄。
 人外の力で振るわれた拳をまともに喰らった彼の首はあらぬ方向に曲がっている。
 あのまま放っておくとそのうち絶命することだろう。
 
「勝負には負けたが……打倒はしたぜ……」

 でもな、そのうちじいさんの上を行ってやる。
 その時まで首を洗って待っていろよ。じいさん!
 
 心の中で呟き、踵を返す。
 晴斗の戦いが終わったら、すぐにでも治療してやるからな。
 俺は勝ち逃げなんて許さねえと決めてるんだぜ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...