上 下
61 / 90

第61話 古代龍に対峙するは……

しおりを挟む
 魔溜まりがある地にまで到達した。
 が、事態は予想外の展開を見せている。
 
 金色の鱗を持つ威厳とある種の美しさを兼ね備えた巨大な龍が猛々しい咆哮をあげ、対峙する人型の誰かを威嚇していた。
 龍は日ノ本でみるような蛇のような見た目とことなり、どっしりとした体躯を持つ。私がこれまで見たどの龍よりも強さを感じさせ、巨大だった。
 背中からはスラリとした被膜のある翼が生え、前脚の先にあるかぎ爪は金色に輝いている。
 ある種神の使いとまで錯覚してしまう龍……しかし、そんな偉大さと神々しさを併せ持つ龍も背水の雰囲気を見せていた。
 
「古代龍じゃ。ドラゴンズエッグの主」
「確かに納得だ。あれほどの龍を私は見たことが無い」

 しかし――。
 龍よりも怖気を感じるのは対峙する人型だ。
 もう少し近くまで寄れば、その姿を確認できる。
 
 ん?

「どうした? リリアナ」

 リリアナは、はやく人型を確認しようとはやる私の袖を思いっきり引っ張る。
 
「あやつ……ジュウロウじゃ! ここまで暴れておったのも、あやつに違いあるまいて」
「何だと!」

 ここに十郎がいる。なるほど、彼ならば襲い掛かる龍を次々と仕留めていっても不思議ではない。
 だが、十郎がここにいたことで、これまでモヤモヤとしていた推測がカチリとハマり全てが繋がった。
 魔溜まりを破壊し、魔を拡散させていたのはミツヒデや十郎たちだ。
 彼らが魔溜まりをわざわざ破壊する理由……世界を混乱に陥れるため? 世の中に妖魔を大量に発生させるため?
 全て違う。
 
 私やシャルロットを抹殺せず、魔将となったとはいえ十郎と共にミツヒデが動いた理由。
 それは――
 
 ――ノブナガの復活だ。
 
 ミツヒデは裏切り者なんかじゃなかった。彼がどうやって知ったかはてんで分からぬが……ミツヒデはノブナガを魔王にすべく彼と共に命を絶った。
 そして、彼の思惑通りに魔王ノブナガが誕生し、私と十郎が始末する。
 しかし、それで終わりではなかったのだ。
 ミツヒデは魔王ノブナガの再誕を狙い、暗躍していた。
 
 魔王とは膨大な魔を束ねて誕生するモノである。
 全世界から魔を集めることができれば……魔王は復活できるはず。
 魔溜まりにある魔を収集し、魔王へ捧げることが彼らの目的だったのか。
 
 十郎を鎖で縛っているのはノブナガで間違いない。ミツヒデの可能性もあるかと思ったが、彼と十郎は何の繋がりもないはず。
 それに、ミツヒデが十郎への命令権を持っているのなら、もっとぬかりなく事を進めているに違いない。
 十郎やゼノビアの動きは各自目的はあるものの、自分勝手なものだった。ミツヒデが差配するならこうはならない。
 もっと徹底的に僅かな敵も潰しながら事を進めるはずだ。
 
「じゃが、いかな十郎とはいえ古代龍相手じゃ」

 リリアナはようやく気持ちの整理がついたようで、顔をあげしかと前を見つめる。
 古代龍か……。
 
「ステータスオープン、そして能力調査」

『名称:グウェイン
 種族:古代龍
 レベル:九十九
 HP:千五百二十
 MP:三百十
 スキル:ブレス
     龍の鱗
     飛行
     高速詠唱
     格闘
     火 九
     土 八
     風 九』
     
 強い。確かに強い。
 さすがこの大陸最強生物と言われるだけはある。
 圧倒的な体力に加え、魔法と火の息まで使う。並みの攻撃は弾き返してしまう硬い鱗も脅威だ。
 
 階位も九十九と私や十郎と同じ……。
 だが、階位とは九十九以上を計測できないだけであり、事実同じ数値であっても強さは異なる。
 参考にだが、魔王であっても階位は九十九なのだ。
 
「今のうちにこちらも体勢を整えるぞ」
「古代龍へか? それとも十郎にか?」
「もちろん、十郎に備える」
「ステータスを見る限り、古代龍の方が強そうなのじゃが? このまま古代龍が押し切ってくれれば万事解決じゃろ?」
「甘くはない。それほど甘いものじゃあないぞ。リリアナ」

 古代龍と十郎が真剣勝負じゃなく力比べをするのなら、もしくは、古代龍が十郎の戦い方を熟知しているのなら……古代龍にも分がある。
 しかし、此度は初見同士。
 
 ――ゴオオオオオオ。
 古代龍の口元にチリチリと金色の光が湧き出たかと思うと、金色に輝く灼熱のブレスが吐き出された。
 ここまで熱が伝わってくる尋常ではないブレスの威力ではある。
 あるのだが……。
 
「どこに向かってブレスを吐いておるのじゃ」

 リリアナが不思議そうに首を捻る。
 
「あれは十郎の持つ能力の一つ……六道」

 六道は十郎曰く「無理が通れば道理が引っ込む」能力らしいが、詳細は私にも分からない。
 アレは相手の認識を僅かにズラす。きっと古代龍の目にはブレスに焼かれる十郎がうつっているはず。
 認識ズラしはすぐに効果は溶けるが、彼にしてみればその一瞬だけで充分事足りるのだ。
 
「リリアナ、シャルロット。急ぐぞ」
「分かった。あやつジュウロウ……想像した以上に危険じゃの……」
「十郎さま……必ずあなた様を呪縛から解放いたします」

 それぞれの思いを呟き、集中状態に入る。

「精霊たちよ、我に力を! ヴァイス・ヴァーサ御心のままに。出でよ。ビリジアン・ドラゴン新緑の龍

 リリアナの力ある言葉に応じ、彼女の手の平から緑色の光が伸び――光が弾ける。
 弾けた光は再び収束し、私がよく見知った蛇のような龍が出現した。龍の全長はおよそ十メートル。堂々たる姿だ。
 
 今度は私だな。
 袖を振り、札を指先で挟む。
 ――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
 私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。

「八十九式 物装 啼龍」

 札が弾け、海より深い蒼の光の束がリリアナの出した龍へと吸い込まれて行く。
 
「出でよ。真・青龍!」

 私の求めに応じ、啼く。力強い龍の叫びが響き渡った。
 式神には様々な種類がある。伝令を行う烏から、破滅の炎を吐きだしながら体当たりする朱雀など。
 その中でも最も強き式神といえば、青龍なのだ。
 猛々しく雄々しい、そして神々しさまで兼ね備えた龍こそ、この大陸と同様に生きとし生ける者のなかで最も強き生き物だ。
 そんな龍を彷彿とさせる式神こそ、青龍。
 だが、それだけでは十郎を止めるに足らない。リリアナの木属性へ「重ねる」ことにより、青龍はかつてないほどの力を持つ。
 
 欠点は私が操作できないこと。ビリジアンドラゴンを強化し青龍としたため、主導権を持つのはリリアナである。
 だが、欠点と利点とは表裏一体ということを忘れてはならない。
 
 青龍の扱いに慣れた私が関知できない代わりに、私の「手が空く」。

「任せたぞ。リリアナ」
「うむ。妾に任せよ」

 古代龍が十郎の相手をしてくれていることは、この上ない幸運だった。
 
「ハルトさん、古代龍が」

 シャルロットの驚きの声が耳に届く。
 
 古代龍の右腕が根元から……落ちた。

「介入するぞ! リリアナ!」
「うむ!」

 古代龍の首が落ちてからでは遅い。
 未だ古代龍と戦っている今こそが好機だ。
 私はモノノフたちと異なり、一対一の尋常な勝負など望んでいない。
 欲しいものは勝つこと。それのみだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...