追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ

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第59話 次なる一手

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 夕食を食べた後、シャルロットの宿泊している部屋をリリアナと共に訪れる。
 扉の前に護衛が立っていて、私たちの顔を見ると丁寧な礼を行ってから扉を開けてくれた。
 
「来ていただきありがとうございます」
「いや、ここが一番都合がいいだろう」
「そうじゃな」

 私の言葉へリリアナも相槌を打つ。
 私とリリアナは個室ではあるものの、安宿でいつ誰が隣で聞いていてもおかしくないほど警備が手薄だ。
 いや、そもそも警備なんてしていない。せいぜい宿に併設する居酒屋に一人いるくらいだろう。
 一方、シャルロットの泊る宿は格式が高く一日中宿の中を巡回する警備員がいる。各部屋の壁も分厚く、隣の部屋へ声が届かぬよう配慮が行き届いているのも良い。
 
「のうのう。ハルト、あの宝石のような石。露天でもみたのお」
 
 リリアナが指さす先には棚の上に置かれた薄黄色で半透明の石が飾ってあった。
 石だけでなく、石を中央にこの地方ならではの装飾を施し見事な調度品として仕上げてある。
 
「何だったか……砂漠で見つかる硝子とかだったか?」
「そうじゃ。しかしこれほどの美しい色はしておらんかったの」
「確かに、大きさもさることがらこれなら宝石としても通用しそうだ」

 砂漠にはサラサラの砂でできた大地が広がる箇所があるらしく、そこで稀にこのような硝子が見つかることがあるそうだ。
 砂の中に何故硝子が埋まっているのか仕組みを調べてみたいところではあるが、残念ながら時間的余裕がない。
 
 リリアナ……そんなに気に入ったのか?
 
「リリアナ。ここまでの質のものでなくていいのなら、またここに訪れ買いに来ようか」
「うむ! 探してみるのも一興かもしれぬの」
「そうだな。調べ事が終わったらそれもいい」

 砂漠の中でのんびりと……と言える気候条件ではないが、宝石のような石を探すのも一興だろう。

「わたくしが用意いたしましょうか?」

 シャルロットが硝子へ目をやり尋ねてくる。

「いや、こういうのは自ら採取するのがよい」
「分かっておるではないか、ハルト」

 うむうむと鼻息荒く頷くリリアナであった。
 
 おっと、硝子の話をしにきたのではない。そろそろ本題へ入るとしよう。

「シャルロット、リリアナ。魔溜まりが二つ消えていた」
「うむ。そうじゃの。残りの魔溜まりを確認しに行った方がよいとまで話をしたか?」
「そんなところだな」

 ここでシャルロットが口を挟む。
 
「ハルトさん、リリアナ様。調査に行くのでしたらわたくしも一緒に参ります」
「うむうむ。飛竜も手配してくれるかの?」
「もちろんです」
「寒いのは嫌じゃが……そうも言っておられん」

 リリアナとシャルロットは北の魔溜まりから調査しようと思っている様子だな。
 それだと、魔溜まり消失の原因が何者かの手によるものだった場合……後手に回ってしまう。
 
「いや、先に行くのはドラゴンズエッグだ」
「ハルト、そこは危険じゃといったじゃろう? かの地は飛竜で空を飛ぶにも危険じゃぞ」
「だからこそだ。魔溜まりの消えた原因はどう見ている?」
「……十中八九、何者かの仕業じゃろうな。ふむ。ハルトの言う事も一理あるの」

 魔溜まりを消失させているのが唯一人の気まぐれなら話は別だが、数人で動いていると仮定しよう。
 なら、魔溜まりを消失させるのにどれだけ力を使うのか不明ではあるものの、手間がかかるところほど最後に回す。
 残ったところは全員で取り掛かることができるし、やりやすいところで培った魔溜まり消失の経験も生かすことができる。
 
「ドラゴンズエッグですか」

 シャルロットが指を唇に当て呟く。

「何か懸念点があるのか? シャルロット」
「いえ、ドラゴンズエッグは切り立った地域が多いのです。エリアに入れば半分以上森林が占めますが……」
「地理が分かるのか?」
「遠くの上空から見た程度ですので……本当に大まかにですが」
「ふむ。それで何が問題に?」
「好戦的なモンスターはともかくとして、飛竜で行くことができるのは入り口までです。その後は徒歩になるでしょう」
「険しい道か……私は切り立った崖であろうが問題ないが……」

 野生児たるリリアナはともかく、シャルロットが道中心配だ。
 ただ歩くだけでも困難なところに、龍が襲い掛かって来たとしたら困難な道のりになる。
 しかし、そこは心配ない。式神の手を借り、行軍すればよい。
 
「ん、何やらあまり嬉しくない視線を感じるのじゃが?」
「いや、頼もしいリリアナならどんな道でも平気だろうと思ってね」
「そうじゃろう、そうじゃろう」

 ……。
 単純過ぎて、実はうまく言いくるめられたフリをしているのではないかと勘ぐってしまう。
 だが、恐ろしいことにリリアナはフリではなく素だ。
 このようなさまだから、大賢者と思われないのだよ。面白味はあるがな。
 
「心配してくださっているようですが、わたくしは大丈夫です。崖であろうとよじ登ることはできます」
「そ、そうなのか」

 清楚で泥臭いこととは無縁に見えるシャルロットは意外や意外、山に慣れているのか。
 
「問題は崖などで手が塞がった時にモンスターの強襲を受けた場合です」
「そこは安心して欲しい。モンスターに対する警戒の目。手が塞がることのないように悪路対策を陰陽術で行おうと思っている」
「そうでしたか! 余計なことを心配してしまいました」
「いや、思ったことをすぐにでも述べて欲しい。私たちは三人いるのだ。知恵は出し合い、出来得る限り穴を無くしたい」
「分かりました」

 シャルロットは口元に上品な笑みを浮かべる。
 何か不満だったのか、隣でエロフが首を捻って頬を膨らませているじゃあないか。
 
「何だ?」
「急に声色が変わったの?」
「気のせいだ」

 どうせまたくだらないことを考えているのだろうと呆れているだけだ。

「シャルロットには優しいのじゃ! 妾もか弱い乙女じゃぞ」
「私の十倍以上生きていて、大森林で枝から枝へ飛び移っている高貴なハイエルフが?」
「歳なんて関係ないのじゃああ。見た目だけなら変わらぬじゃろう?」

 やはり面倒だ。さっき煙に巻いたと思ったらこれだ……全く。
 
「華奢で可憐なリリアナが、颯爽と華麗に崖を登る。いやあ、絵になるなあ」
「そうか? そうじゃな! うんうん」

 ……。
 駄目だこのエルフ……。
 
 あっちの世界にいるリリアナは放っておいて、コホンと咳を一つ。
 
「戻らずこのままドラゴンズエッグに向かっても構わないか?」
「はい。わたくしは問題ありません。物資もここで準備できますし」
「分かった。では、明日の昼までに準備を整え出発しよう」
「はい」

 よし、部屋に戻るとするか。
 話は以上だとばかりに踵を返すと後ろから声が。
 
「ハルトさん、リリアナ様はどうされます?」

 放置していたのを忘れていた。そのままでもいいのだが……。シャルロットに迷惑をかけるか。
 妄想中のリリアナの首根っこを掴み、ズルズルと引きずる私なのであった。
 
 私とリリアナが泊る宿へ到着し、彼女の部屋の扉を開けて彼女を押し込むとようやく私は自分の部屋へと帰りつく。
 
「さて、何が出るか……状況次第では死戦になるかもしれんな……」

 ベッドに寝転がりながら、一人言を呟く私であった。
 
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