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第35話 森の精霊の弓
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「聖女様! 祈りを! 私は護りに徹します!」
ジークフリードが後方にも聞こえるよう一言ごとに言葉を区切り、大きな声で叫ぶ。
続いて彼は聖剣を地面に突き刺し、柄に両手を乗せくぐもった声を出した。
「セイクリッド・サークル」
ジークフリードの鱗の色が緑から青に変わる。
その直後、真祖の血でできた鞭が彼の肩を叩く。しかし、彼の肌が傷ついた様子は無かった。
「Mon dieu。かの者の魔を祓いたまえ。聖なる祝福」
聖女の祈りが届き、真祖の両腕を黄金に輝きを放つ光の枷が巻き付く。
「やハりいいい。聖女ぉおおはア、まっさきニいィいい」
枷を嵌められた真祖は両腕を振り回し、口から血の泡を吹きながら憎々し気にシャルロットを睨みつけた。
しかし、彼女と真祖の間にはジークフリードが立ち塞がる。
「リリアナ、好機だ。真祖の手から瘴気の噴出が止まった」
「うむ。精霊たちよ! 森の精霊の弓!」
リリアナのくっつけた握り拳の隙間から緑の光が漏れ出す。彼女が右の拳をゆっくりと上へ動かすと、光も同じように伸びる。
彼女の手の中で緑の光は弓へと変わった。
彼女は腰を落とし、左足を一歩前に右手で弦を引きしぼる。すると、緑光の矢が弦の中に現れた。
リリアナへ目だけで待てと合図した私は目を閉じ集中状態に入る。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。
「八十九式 物装 雷切」
雷切は私が「通常」使える術の中では最も強力な物装――武器の強化術である。余りの威力に身体能力の強化を併用せねば、まともに武器を振るうことさえままならなくなるほどだ。
リリアナの弓は魔術故、彼女の身体能力は関係ない。矢を放てば飛んでいく魔術だから、雷切は純粋に術の威力を極大化するのみ。
雷切の術が発動し、手に挟んだ札から紫色の雷光が迸り、リリアナの手の中にある矢へ全て吸収されて行く。
「お、おおお。これは凄まじいの……じゃが……」
リリアナはまだ矢を放つことができない。
理由は、真祖とジークフリードの位置関係にある。
護りを固めるジークフリードを飛び越え、シャルロットへ襲い掛かろうとする真祖を彼が体を張って遮っていたからだ。
「じゃマだ。そこをどけえエえええ。忌まわしき聖剣使いメえええ!」
どうも真祖は「聖属性」へ激しい怒りを露わにするようだな。
特に聖女たるシャルロットへの当たりが凄まじい。
「ここは死守する……」
対するジークフリードは不動。聖剣を真っ直ぐに構え、セイクリッド・サークルを展開する。
忌々し気にジークフリードを睨みつけて血を目と口から流し、口元を三日月のように歪めていた真祖だったが、突如無表情になった。
「許さヌ……」
これまでの真祖からは信じられないほど、落ち着き払った酷く冷静な声……。
次の瞬間、彼の全身の筋肉が膨れ上がったかと思うと巨大な霊力の波が赤い鞭へと流れていき――。
その全てがジークフリードへ殺到する!
「む!」
膝を屈め、どっしりと地面に根が生えたかのように構え赤い鞭を受け止めたジークフリードだったが、聖なる加護を突き抜けた赤い鞭に打たれてしまい鈍い音と共に左側へ吹き飛ばされてしまう。
あの音……あばらをやられたな……。
だが、大技の後の一瞬こそ。
――好機!
「今だ! リリアナ!」
叫ぶ。私が促さずともきっと彼女は既に矢を射る準備を終えているだろうが……。
「妾と共に!」
リリアナは絶好の隙を見逃さず、矢を解き放つ。
彼女の手から離れた緑光の矢は、一直線に真祖の腹へ突き刺さった。
「ぐ。こ、コんナもの」
たかが矢がどうだというのだとばかりに、真祖は余裕ある態度を崩さない。
だが、雷切はそう甘くはないぞ。
突き刺さった矢から白く輝く雷光がバチバチと巻き起こると、それらはぎゅううっと拳より小さな大きさまで収縮していく……。
真祖がニヤアアと顔を歪めた瞬間、彼の腹から閃光が奔った。
――キイイイイイイ。
ガラスをひっかいたような音が鳴り響き、光が晴れると真祖の腹から下が吹き飛んでいた。
地面に転がった彼の腹から下の身体は赤黒い煙をあげこの世から消え去ろうとしている。
「ぐ、ぐがあああああああアアあああ。な、なんダ。この魔術はアああああア!」
胸から上だけの姿で真祖は金切り声をあげた。
「やったのかの」
「ああ、致命傷は与えた。しかし、ここで逃がすとすぐに奴は回復してしまう」
ジークフリードは動けそうにない。シャルロットは未だ真祖を先ほどの術で拘束中。
ならば、私が決める!
両手に札を挟み、目を閉じる。
「札術 式神・烏<炎>」
続いて……。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。
「七十六式 霊装 炎舞」
炎舞が烏へ吸い込まれ「朱雀」となる。
「なめルなあア。人間んンん。クリムゾンフレア!」
真祖は体を震わせ、身悶えするほどの霊力を両腕に流し込むが、シャルロットの光の枷に阻まれ術が発動しない。
「行け! 朱雀!」
茫然と口を開く真祖へ向け、朱雀が突き刺さり炎の渦が舞い上がる。
「ぎいいいいああああアアあああ!」
真祖の絶叫が響くがすぐにその声も小さくなっていき、後には赤紫の霧のような残骸が残るのみとなった。
「ハルト、これで真祖を倒したのかの?」
リリアナが私の服の袖を引く。
「完全には倒し切っていない。たが、かなりのダメージを与えたはずだ。奴には姿を消す能力があるからな」
「ふむ。シャルロット、お主はどう思う?」
少し前寄りの位置に立つシャルロットへリリアナが問いかけた。
「聖なる祝福の拘束が途切れました。少なくとも先ほどまでの真祖の身体は既に消失していると思います」
「どうする、ハルト。ジークフリードの治療もしてやりたいところなのじゃが……」
リリアナの声に反応するかのように、ジークフリードが剣を杖にして立ち上がる。
「私は大丈夫です。まだ戦えますので、治療は後程で……」
「ジークフリード殿。アバラが折れているのでは?」
「ハルト殿。問題ありません。戦の場ではよくあること。私は耐久力が自慢の騎士なのです。これくらいでへばっていては部下に示しがつきませんからな」
ガハハと気丈に笑うが、痛みからかビクッと肩が揺れているぞ……ジークフリード。
「全く。シャルロット。お主がジークフリードの治療をするか? MPが無いようじゃったら、妾が行うが」
「大丈夫です。すぐにでもジークフリードさんを治療できます」
ニコリとシャルロットがジークフリードへ微笑みかけた。
「かたじけない」
ジークフリードが頭を下げ、シャルロットが彼の方へ向け一歩踏み出す。
まさにその時だった。
シャルロットの背後から赤黒い鞭のような物が突如姿を現す。
鞭はポタポタと赤い粘ついた液体を垂らし、空から打ち付けるように彼女の後頭部へ迫る!
ジークフリードが後方にも聞こえるよう一言ごとに言葉を区切り、大きな声で叫ぶ。
続いて彼は聖剣を地面に突き刺し、柄に両手を乗せくぐもった声を出した。
「セイクリッド・サークル」
ジークフリードの鱗の色が緑から青に変わる。
その直後、真祖の血でできた鞭が彼の肩を叩く。しかし、彼の肌が傷ついた様子は無かった。
「Mon dieu。かの者の魔を祓いたまえ。聖なる祝福」
聖女の祈りが届き、真祖の両腕を黄金に輝きを放つ光の枷が巻き付く。
「やハりいいい。聖女ぉおおはア、まっさきニいィいい」
枷を嵌められた真祖は両腕を振り回し、口から血の泡を吹きながら憎々し気にシャルロットを睨みつけた。
しかし、彼女と真祖の間にはジークフリードが立ち塞がる。
「リリアナ、好機だ。真祖の手から瘴気の噴出が止まった」
「うむ。精霊たちよ! 森の精霊の弓!」
リリアナのくっつけた握り拳の隙間から緑の光が漏れ出す。彼女が右の拳をゆっくりと上へ動かすと、光も同じように伸びる。
彼女の手の中で緑の光は弓へと変わった。
彼女は腰を落とし、左足を一歩前に右手で弦を引きしぼる。すると、緑光の矢が弦の中に現れた。
リリアナへ目だけで待てと合図した私は目を閉じ集中状態に入る。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。
「八十九式 物装 雷切」
雷切は私が「通常」使える術の中では最も強力な物装――武器の強化術である。余りの威力に身体能力の強化を併用せねば、まともに武器を振るうことさえままならなくなるほどだ。
リリアナの弓は魔術故、彼女の身体能力は関係ない。矢を放てば飛んでいく魔術だから、雷切は純粋に術の威力を極大化するのみ。
雷切の術が発動し、手に挟んだ札から紫色の雷光が迸り、リリアナの手の中にある矢へ全て吸収されて行く。
「お、おおお。これは凄まじいの……じゃが……」
リリアナはまだ矢を放つことができない。
理由は、真祖とジークフリードの位置関係にある。
護りを固めるジークフリードを飛び越え、シャルロットへ襲い掛かろうとする真祖を彼が体を張って遮っていたからだ。
「じゃマだ。そこをどけえエえええ。忌まわしき聖剣使いメえええ!」
どうも真祖は「聖属性」へ激しい怒りを露わにするようだな。
特に聖女たるシャルロットへの当たりが凄まじい。
「ここは死守する……」
対するジークフリードは不動。聖剣を真っ直ぐに構え、セイクリッド・サークルを展開する。
忌々し気にジークフリードを睨みつけて血を目と口から流し、口元を三日月のように歪めていた真祖だったが、突如無表情になった。
「許さヌ……」
これまでの真祖からは信じられないほど、落ち着き払った酷く冷静な声……。
次の瞬間、彼の全身の筋肉が膨れ上がったかと思うと巨大な霊力の波が赤い鞭へと流れていき――。
その全てがジークフリードへ殺到する!
「む!」
膝を屈め、どっしりと地面に根が生えたかのように構え赤い鞭を受け止めたジークフリードだったが、聖なる加護を突き抜けた赤い鞭に打たれてしまい鈍い音と共に左側へ吹き飛ばされてしまう。
あの音……あばらをやられたな……。
だが、大技の後の一瞬こそ。
――好機!
「今だ! リリアナ!」
叫ぶ。私が促さずともきっと彼女は既に矢を射る準備を終えているだろうが……。
「妾と共に!」
リリアナは絶好の隙を見逃さず、矢を解き放つ。
彼女の手から離れた緑光の矢は、一直線に真祖の腹へ突き刺さった。
「ぐ。こ、コんナもの」
たかが矢がどうだというのだとばかりに、真祖は余裕ある態度を崩さない。
だが、雷切はそう甘くはないぞ。
突き刺さった矢から白く輝く雷光がバチバチと巻き起こると、それらはぎゅううっと拳より小さな大きさまで収縮していく……。
真祖がニヤアアと顔を歪めた瞬間、彼の腹から閃光が奔った。
――キイイイイイイ。
ガラスをひっかいたような音が鳴り響き、光が晴れると真祖の腹から下が吹き飛んでいた。
地面に転がった彼の腹から下の身体は赤黒い煙をあげこの世から消え去ろうとしている。
「ぐ、ぐがあああああああアアあああ。な、なんダ。この魔術はアああああア!」
胸から上だけの姿で真祖は金切り声をあげた。
「やったのかの」
「ああ、致命傷は与えた。しかし、ここで逃がすとすぐに奴は回復してしまう」
ジークフリードは動けそうにない。シャルロットは未だ真祖を先ほどの術で拘束中。
ならば、私が決める!
両手に札を挟み、目を閉じる。
「札術 式神・烏<炎>」
続いて……。
――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。
私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。
「七十六式 霊装 炎舞」
炎舞が烏へ吸い込まれ「朱雀」となる。
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真祖は体を震わせ、身悶えするほどの霊力を両腕に流し込むが、シャルロットの光の枷に阻まれ術が発動しない。
「行け! 朱雀!」
茫然と口を開く真祖へ向け、朱雀が突き刺さり炎の渦が舞い上がる。
「ぎいいいいああああアアあああ!」
真祖の絶叫が響くがすぐにその声も小さくなっていき、後には赤紫の霧のような残骸が残るのみとなった。
「ハルト、これで真祖を倒したのかの?」
リリアナが私の服の袖を引く。
「完全には倒し切っていない。たが、かなりのダメージを与えたはずだ。奴には姿を消す能力があるからな」
「ふむ。シャルロット、お主はどう思う?」
少し前寄りの位置に立つシャルロットへリリアナが問いかけた。
「聖なる祝福の拘束が途切れました。少なくとも先ほどまでの真祖の身体は既に消失していると思います」
「どうする、ハルト。ジークフリードの治療もしてやりたいところなのじゃが……」
リリアナの声に反応するかのように、ジークフリードが剣を杖にして立ち上がる。
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「ジークフリード殿。アバラが折れているのでは?」
「ハルト殿。問題ありません。戦の場ではよくあること。私は耐久力が自慢の騎士なのです。これくらいでへばっていては部下に示しがつきませんからな」
ガハハと気丈に笑うが、痛みからかビクッと肩が揺れているぞ……ジークフリード。
「全く。シャルロット。お主がジークフリードの治療をするか? MPが無いようじゃったら、妾が行うが」
「大丈夫です。すぐにでもジークフリードさんを治療できます」
ニコリとシャルロットがジークフリードへ微笑みかけた。
「かたじけない」
ジークフリードが頭を下げ、シャルロットが彼の方へ向け一歩踏み出す。
まさにその時だった。
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