追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ

文字の大きさ
上 下
14 / 90

第14話 質問の応酬

しおりを挟む
「貴君はあやかしの一種だろうとは思う……しかし、それ以上は」
「あやかし? 何じゃそれは。モンスターの一種か?」

 途端に不機嫌に変わるリリアナ。
 
「違うな。あやかしとは人と変わらぬ思考や容姿を持ち、人と異なる地に住む種族全てのことだ。中には人の社会へ紛れる者もいるが」
「そうか。あやかしとは亜人と同意なのかの? それなら間違ってはおらぬな」

 亜人……これも聞いたことのない言葉だな。
 なるほど、了解した。
 
 しかし、耳の長いあやかし……ではなく亜人は本当に見たことが無い。
 一体どのような種族なのだ……? ここまで来ると考察をはじめたくなってしまうのが、私の気質だ。

「例えば、妖狐などは秀麗な者ばかりだが、耳は頭の上についているし狐のような耳をしている。鬼族の中には耳が尖った者もいるが、彼らは牙がある。しかし、貴殿はそのどちらの種族とも異なる」
 
 自身の考えを告げると、リリアナは顎に手をやり言葉を返す。

「ふうむ。長い時を生きているが、どちらも聞いたことのない者たちじゃな。まあよい。面白い話が聞けた故、特別に妾の種族を教えてしんぜよう」
「ご丁寧にどうも」
 
 先ほど「盛っておる」とか変な言いがかりをつけられた意趣返しのつもりはなかったのだが、思わず皮肉っぽく返してしまった。
 しかし、リリアナは特に気にした様子もなく、腰に手を当て胸をそらす。
 
「妾の種族はハイエルフじゃ。しかと頭に刻めよ」

 また冗談めかした態度で口上を述べたな。このままだと相手のペースに乗せられてしまいそうだ。
 これまでの会話から、彼女と戦闘になることはないだろうと判断した。
 それなら、当初にお怒りだった件を聞いてしまってとっととお帰りいただこう。

「ふむ。それでここに顔を出したハイエルフのリリアナは、私が火を使ったことに対し、注意を行いに来たと?」
「そうじゃ! それでここへ『転移』してきたのじゃよ!」

 転移だと……!
 私はこのふざけた態度のハイエルフから思わぬ単語を聞き、驚きで目を見開いたのだった。

「そうじゃ! お主、森の中であれだけ派手に火を使うとどうなるか分かっておるのか?」

 リリアナの声が耳に入るが、私の気持ちはそれとは別のところにある。
 転移……本当に転移を行ったのか?
 信じられぬ気持ちで、茫然と彼女の顔を無言で見つめていたら彼女はたじろいたように一歩後ずさった。
 
「む、むう、分かっておる。じゃから、そのような目で見ずとも」

 おっと、呆けている場合でない。
 何やら勝手に納得した様子だが、今は言葉を返そうではないか。
 後で必ず転移の件は問い詰めてやる。
 
「『火災』と言ったのは、『火災になどなるわけがない』と分かっていて、分からぬフリをしていただけだろう?」
「そ、そうじゃ……だから、その目をやめてくれと言うに」
「あ、ああ。すまなかった。別に気になることがあってな。つい胡乱うろんげな目で見てしまった」
「何を気にしたのじゃ……けがらわしい!」

 リリアナはどうしてもそっち方向へもっていきたいのか? 
 邸宅の中ならともかく、ここはいつ魔物が出てもおかしく無い場所なのだぞ。私が好色な目で彼女を見ることなどありはしないのに。
 ため息をつきそうになるが、グッと堪え言葉を続ける。
 
「話を戻すぞ。火を使ったら森が燃えるってのは単なる鎌をかけであり、本意ではない」
「その通りじゃ……。可愛げのない、いけずな奴じゃ。そこは焦って言い訳を述べるのが様式美ってやつじゃろうに」
「……貴君はさきほど自ら『分かっておる』と言っていただろうに」

 もし、森林が燃えると思っていたのなら、私が葬送火を出した時点でとめに来るだろう?
 何故なら、リリアナは私がスケルタル・ハウンドを討伐するのを待ってから現れたのだから。
 そうでなければ、最初の言葉とつじつまが合わない。
 彼女は「火を使うとは感心しない」と言っていた。逆に言えば、私が葬送火を使うところを黙ってみていたってことだ。
 
「またその目を。だあああ。分かった。分かったからやめいと言うに」
「正直に思ったことをそのまま言って欲しい。無駄なやり取りが挟まると、本筋が見えなくなってしまうからな」
「お主、もう少し冗談を覚えた方がよいぞ」
「……善処する」

 十郎にもよく言われたことだ。
 お前さんは硬すぎると。
 十郎の言葉を思い出し、憮然と腕を組んだところで、リリアナが今回の経緯を喋りはじめる。
 
「お主が森に入った時からずっと見ておるよ。奇怪きっかいな生物から降りて来たかと思えば、見たことの無い魔術でスケルタル・ハウンドを倒しおったから」
「そこから見ていたのか」
「うむ。あの魔術。対象以外を燃やさぬ不思議な炎じゃった。アレは何なのじゃ?」
「分かった。それを教える変わりに二つ聞きたいことがあるが、いいか?」
「なら、妾も二つ聞く! いいな」
「……いいだろう」
「炎の魔法と空を飛ぶ生物について教えてくれぬか?」
「分かった」

 私はリリアナへ簡単に葬送火と煙々羅えんらんらについて説明することにした。
 
「まず、あの炎は葬送火と言って、不死者を浄化するだけの炎なのだ。不死者以外を燃やすことは無い」
「なるほどのお。聖女の『浄化』みたいなものじゃな」

 浄化ってものは知らないが、リリアナが納得したのならそれでよい。
 
「もう一つ、空飛ぶ生物は煙々羅えんらんらという私の陰陽術で動く式神だ」
「……魔法生物みたいなものか。ふむ」

 恐らくリリアナの認識は間違っていると思ったが、あえて黙り込む。
 わざわざ深く陰陽術について教授してやる必要は無いだろう。時間も限られていることだしな。
 
 彼女の問いが終わったところで、次は私の番だ。
 
「見ていたとは最初からそこの枝の上にいたのか?」
「そうではない。屋敷から水晶でここを覗いておったのじゃよ」

 遠見の術か。これまた高度な術を使うものだ。
 確か、烏天狗などのあやかしが使う術だったはず。
 
「それは何処でも見渡せるものなのか?」
「いや、大森林の中だけじゃな。範囲を限定している分、一定のレベルを持つ侵入者に反応する仕掛けも備えておる」
「それで私が大森林へ入ったことに気が付いたってわけか」
「その通りじゃ」

 リリアナは思いの他、術に長けた者みたいだな。
 ステータスをこの場で確認してみたいところだが、彼女に気が付かれるようステータスを見る手段がない。
 ステータスオープンにしろ能力値調査にしろ、口に出して唱えなければ術が発動しないのだ。
 
 内心で思考を巡らせながらも、次の質問へ移る。
 
「それで……私と会話するために、ここへ『転移』してきたのか?」
「そうじゃが?」

 なんでもないと言った風に首を傾けるリリアナ。
 転移術がどれほどのモノか、彼女は分かっているのだろうか? 
 陰陽師同士で術の議論をした際にいつも転移術のことが話題にはでるが、陰陽術では転移を実現できないと結論が出る。。
 ひょっとしたらあやかしには転移の術が使える者がいるのかもしれんが、人間で転移を使いこなす者を見たことはなかった。
 
「それは魔術なのか?」
「そうじゃな。しかし、人間には使いこなせぬな」
「そうか……」

 そいつは残念だ。
 リリアナの種族であるハイエルフだからこそ使える術ってことなら、私にはどうあがいても使えまいて。
 
「お主の質問はこれで終わりかの」
「そうだな。リリアナの質問にも応じたし、これで終わりでよいか?」
「そうじゃの。じゃが、一つ、言っておくことがある」

 リリアナは急に真剣な顔になって、私をしかと見上げてくる。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...