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第14話 質問の応酬
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「貴君はあやかしの一種だろうとは思う……しかし、それ以上は」
「あやかし? 何じゃそれは。モンスターの一種か?」
途端に不機嫌に変わるリリアナ。
「違うな。あやかしとは人と変わらぬ思考や容姿を持ち、人と異なる地に住む種族全てのことだ。中には人の社会へ紛れる者もいるが」
「そうか。あやかしとは亜人と同意なのかの? それなら間違ってはおらぬな」
亜人……これも聞いたことのない言葉だな。
なるほど、了解した。
しかし、耳の長いあやかし……ではなく亜人は本当に見たことが無い。
一体どのような種族なのだ……? ここまで来ると考察をはじめたくなってしまうのが、私の気質だ。
「例えば、妖狐などは秀麗な者ばかりだが、耳は頭の上についているし狐のような耳をしている。鬼族の中には耳が尖った者もいるが、彼らは牙がある。しかし、貴殿はそのどちらの種族とも異なる」
自身の考えを告げると、リリアナは顎に手をやり言葉を返す。
「ふうむ。長い時を生きているが、どちらも聞いたことのない者たちじゃな。まあよい。面白い話が聞けた故、特別に妾の種族を教えてしんぜよう」
「ご丁寧にどうも」
先ほど「盛っておる」とか変な言いがかりをつけられた意趣返しのつもりはなかったのだが、思わず皮肉っぽく返してしまった。
しかし、リリアナは特に気にした様子もなく、腰に手を当て胸をそらす。
「妾の種族はハイエルフじゃ。しかと頭に刻めよ」
また冗談めかした態度で口上を述べたな。このままだと相手のペースに乗せられてしまいそうだ。
これまでの会話から、彼女と戦闘になることはないだろうと判断した。
それなら、当初にお怒りだった件を聞いてしまってとっととお帰りいただこう。
「ふむ。それでここに顔を出したハイエルフのリリアナは、私が火を使ったことに対し、注意を行いに来たと?」
「そうじゃ! それでここへ『転移』してきたのじゃよ!」
転移だと……!
私はこのふざけた態度のハイエルフから思わぬ単語を聞き、驚きで目を見開いたのだった。
「そうじゃ! お主、森の中であれだけ派手に火を使うとどうなるか分かっておるのか?」
リリアナの声が耳に入るが、私の気持ちはそれとは別のところにある。
転移……本当に転移を行ったのか?
信じられぬ気持ちで、茫然と彼女の顔を無言で見つめていたら彼女はたじろいたように一歩後ずさった。
「む、むう、分かっておる。じゃから、そのような目で見ずとも」
おっと、呆けている場合でない。
何やら勝手に納得した様子だが、今は言葉を返そうではないか。
後で必ず転移の件は問い詰めてやる。
「『火災』と言ったのは、『火災になどなるわけがない』と分かっていて、分からぬフリをしていただけだろう?」
「そ、そうじゃ……だから、その目をやめてくれと言うに」
「あ、ああ。すまなかった。別に気になることがあってな。つい胡乱げな目で見てしまった」
「何を気にしたのじゃ……けがらわしい!」
リリアナはどうしてもそっち方向へもっていきたいのか?
邸宅の中ならともかく、ここはいつ魔物が出てもおかしく無い場所なのだぞ。私が好色な目で彼女を見ることなどありはしないのに。
ため息をつきそうになるが、グッと堪え言葉を続ける。
「話を戻すぞ。火を使ったら森が燃えるってのは単なる鎌をかけであり、本意ではない」
「その通りじゃ……。可愛げのない、いけずな奴じゃ。そこは焦って言い訳を述べるのが様式美ってやつじゃろうに」
「……貴君はさきほど自ら『分かっておる』と言っていただろうに」
もし、森林が燃えると思っていたのなら、私が葬送火を出した時点でとめに来るだろう?
何故なら、リリアナは私がスケルタル・ハウンドを討伐するのを待ってから現れたのだから。
そうでなければ、最初の言葉とつじつまが合わない。
彼女は「火を使うとは感心しない」と言っていた。逆に言えば、私が葬送火を使うところを黙ってみていたってことだ。
「またその目を。だあああ。分かった。分かったからやめいと言うに」
「正直に思ったことをそのまま言って欲しい。無駄なやり取りが挟まると、本筋が見えなくなってしまうからな」
「お主、もう少し冗談を覚えた方がよいぞ」
「……善処する」
十郎にもよく言われたことだ。
お前さんは硬すぎると。
十郎の言葉を思い出し、憮然と腕を組んだところで、リリアナが今回の経緯を喋りはじめる。
「お主が森に入った時からずっと見ておるよ。奇怪な生物から降りて来たかと思えば、見たことの無い魔術でスケルタル・ハウンドを倒しおったから」
「そこから見ていたのか」
「うむ。あの魔術。対象以外を燃やさぬ不思議な炎じゃった。アレは何なのじゃ?」
「分かった。それを教える変わりに二つ聞きたいことがあるが、いいか?」
「なら、妾も二つ聞く! いいな」
「……いいだろう」
「炎の魔法と空を飛ぶ生物について教えてくれぬか?」
「分かった」
私はリリアナへ簡単に葬送火と煙々羅について説明することにした。
「まず、あの炎は葬送火と言って、不死者を浄化するだけの炎なのだ。不死者以外を燃やすことは無い」
「なるほどのお。聖女の『浄化』みたいなものじゃな」
浄化ってものは知らないが、リリアナが納得したのならそれでよい。
「もう一つ、空飛ぶ生物は煙々羅という私の陰陽術で動く式神だ」
「……魔法生物みたいなものか。ふむ」
恐らくリリアナの認識は間違っていると思ったが、あえて黙り込む。
わざわざ深く陰陽術について教授してやる必要は無いだろう。時間も限られていることだしな。
彼女の問いが終わったところで、次は私の番だ。
「見ていたとは最初からそこの枝の上にいたのか?」
「そうではない。屋敷から水晶でここを覗いておったのじゃよ」
遠見の術か。これまた高度な術を使うものだ。
確か、烏天狗などのあやかしが使う術だったはず。
「それは何処でも見渡せるものなのか?」
「いや、大森林の中だけじゃな。範囲を限定している分、一定のレベルを持つ侵入者に反応する仕掛けも備えておる」
「それで私が大森林へ入ったことに気が付いたってわけか」
「その通りじゃ」
リリアナは思いの他、術に長けた者みたいだな。
ステータスをこの場で確認してみたいところだが、彼女に気が付かれるようステータスを見る手段がない。
ステータスオープンにしろ能力値調査にしろ、口に出して唱えなければ術が発動しないのだ。
内心で思考を巡らせながらも、次の質問へ移る。
「それで……私と会話するために、ここへ『転移』してきたのか?」
「そうじゃが?」
なんでもないと言った風に首を傾けるリリアナ。
転移術がどれほどのモノか、彼女は分かっているのだろうか?
陰陽師同士で術の議論をした際にいつも転移術のことが話題にはでるが、陰陽術では転移を実現できないと結論が出る。。
ひょっとしたらあやかしには転移の術が使える者がいるのかもしれんが、人間で転移を使いこなす者を見たことはなかった。
「それは魔術なのか?」
「そうじゃな。しかし、人間には使いこなせぬな」
「そうか……」
そいつは残念だ。
リリアナの種族であるハイエルフだからこそ使える術ってことなら、私にはどうあがいても使えまいて。
「お主の質問はこれで終わりかの」
「そうだな。リリアナの質問にも応じたし、これで終わりでよいか?」
「そうじゃの。じゃが、一つ、言っておくことがある」
リリアナは急に真剣な顔になって、私をしかと見上げてくる。
「あやかし? 何じゃそれは。モンスターの一種か?」
途端に不機嫌に変わるリリアナ。
「違うな。あやかしとは人と変わらぬ思考や容姿を持ち、人と異なる地に住む種族全てのことだ。中には人の社会へ紛れる者もいるが」
「そうか。あやかしとは亜人と同意なのかの? それなら間違ってはおらぬな」
亜人……これも聞いたことのない言葉だな。
なるほど、了解した。
しかし、耳の長いあやかし……ではなく亜人は本当に見たことが無い。
一体どのような種族なのだ……? ここまで来ると考察をはじめたくなってしまうのが、私の気質だ。
「例えば、妖狐などは秀麗な者ばかりだが、耳は頭の上についているし狐のような耳をしている。鬼族の中には耳が尖った者もいるが、彼らは牙がある。しかし、貴殿はそのどちらの種族とも異なる」
自身の考えを告げると、リリアナは顎に手をやり言葉を返す。
「ふうむ。長い時を生きているが、どちらも聞いたことのない者たちじゃな。まあよい。面白い話が聞けた故、特別に妾の種族を教えてしんぜよう」
「ご丁寧にどうも」
先ほど「盛っておる」とか変な言いがかりをつけられた意趣返しのつもりはなかったのだが、思わず皮肉っぽく返してしまった。
しかし、リリアナは特に気にした様子もなく、腰に手を当て胸をそらす。
「妾の種族はハイエルフじゃ。しかと頭に刻めよ」
また冗談めかした態度で口上を述べたな。このままだと相手のペースに乗せられてしまいそうだ。
これまでの会話から、彼女と戦闘になることはないだろうと判断した。
それなら、当初にお怒りだった件を聞いてしまってとっととお帰りいただこう。
「ふむ。それでここに顔を出したハイエルフのリリアナは、私が火を使ったことに対し、注意を行いに来たと?」
「そうじゃ! それでここへ『転移』してきたのじゃよ!」
転移だと……!
私はこのふざけた態度のハイエルフから思わぬ単語を聞き、驚きで目を見開いたのだった。
「そうじゃ! お主、森の中であれだけ派手に火を使うとどうなるか分かっておるのか?」
リリアナの声が耳に入るが、私の気持ちはそれとは別のところにある。
転移……本当に転移を行ったのか?
信じられぬ気持ちで、茫然と彼女の顔を無言で見つめていたら彼女はたじろいたように一歩後ずさった。
「む、むう、分かっておる。じゃから、そのような目で見ずとも」
おっと、呆けている場合でない。
何やら勝手に納得した様子だが、今は言葉を返そうではないか。
後で必ず転移の件は問い詰めてやる。
「『火災』と言ったのは、『火災になどなるわけがない』と分かっていて、分からぬフリをしていただけだろう?」
「そ、そうじゃ……だから、その目をやめてくれと言うに」
「あ、ああ。すまなかった。別に気になることがあってな。つい胡乱げな目で見てしまった」
「何を気にしたのじゃ……けがらわしい!」
リリアナはどうしてもそっち方向へもっていきたいのか?
邸宅の中ならともかく、ここはいつ魔物が出てもおかしく無い場所なのだぞ。私が好色な目で彼女を見ることなどありはしないのに。
ため息をつきそうになるが、グッと堪え言葉を続ける。
「話を戻すぞ。火を使ったら森が燃えるってのは単なる鎌をかけであり、本意ではない」
「その通りじゃ……。可愛げのない、いけずな奴じゃ。そこは焦って言い訳を述べるのが様式美ってやつじゃろうに」
「……貴君はさきほど自ら『分かっておる』と言っていただろうに」
もし、森林が燃えると思っていたのなら、私が葬送火を出した時点でとめに来るだろう?
何故なら、リリアナは私がスケルタル・ハウンドを討伐するのを待ってから現れたのだから。
そうでなければ、最初の言葉とつじつまが合わない。
彼女は「火を使うとは感心しない」と言っていた。逆に言えば、私が葬送火を使うところを黙ってみていたってことだ。
「またその目を。だあああ。分かった。分かったからやめいと言うに」
「正直に思ったことをそのまま言って欲しい。無駄なやり取りが挟まると、本筋が見えなくなってしまうからな」
「お主、もう少し冗談を覚えた方がよいぞ」
「……善処する」
十郎にもよく言われたことだ。
お前さんは硬すぎると。
十郎の言葉を思い出し、憮然と腕を組んだところで、リリアナが今回の経緯を喋りはじめる。
「お主が森に入った時からずっと見ておるよ。奇怪な生物から降りて来たかと思えば、見たことの無い魔術でスケルタル・ハウンドを倒しおったから」
「そこから見ていたのか」
「うむ。あの魔術。対象以外を燃やさぬ不思議な炎じゃった。アレは何なのじゃ?」
「分かった。それを教える変わりに二つ聞きたいことがあるが、いいか?」
「なら、妾も二つ聞く! いいな」
「……いいだろう」
「炎の魔法と空を飛ぶ生物について教えてくれぬか?」
「分かった」
私はリリアナへ簡単に葬送火と煙々羅について説明することにした。
「まず、あの炎は葬送火と言って、不死者を浄化するだけの炎なのだ。不死者以外を燃やすことは無い」
「なるほどのお。聖女の『浄化』みたいなものじゃな」
浄化ってものは知らないが、リリアナが納得したのならそれでよい。
「もう一つ、空飛ぶ生物は煙々羅という私の陰陽術で動く式神だ」
「……魔法生物みたいなものか。ふむ」
恐らくリリアナの認識は間違っていると思ったが、あえて黙り込む。
わざわざ深く陰陽術について教授してやる必要は無いだろう。時間も限られていることだしな。
彼女の問いが終わったところで、次は私の番だ。
「見ていたとは最初からそこの枝の上にいたのか?」
「そうではない。屋敷から水晶でここを覗いておったのじゃよ」
遠見の術か。これまた高度な術を使うものだ。
確か、烏天狗などのあやかしが使う術だったはず。
「それは何処でも見渡せるものなのか?」
「いや、大森林の中だけじゃな。範囲を限定している分、一定のレベルを持つ侵入者に反応する仕掛けも備えておる」
「それで私が大森林へ入ったことに気が付いたってわけか」
「その通りじゃ」
リリアナは思いの他、術に長けた者みたいだな。
ステータスをこの場で確認してみたいところだが、彼女に気が付かれるようステータスを見る手段がない。
ステータスオープンにしろ能力値調査にしろ、口に出して唱えなければ術が発動しないのだ。
内心で思考を巡らせながらも、次の質問へ移る。
「それで……私と会話するために、ここへ『転移』してきたのか?」
「そうじゃが?」
なんでもないと言った風に首を傾けるリリアナ。
転移術がどれほどのモノか、彼女は分かっているのだろうか?
陰陽師同士で術の議論をした際にいつも転移術のことが話題にはでるが、陰陽術では転移を実現できないと結論が出る。。
ひょっとしたらあやかしには転移の術が使える者がいるのかもしれんが、人間で転移を使いこなす者を見たことはなかった。
「それは魔術なのか?」
「そうじゃな。しかし、人間には使いこなせぬな」
「そうか……」
そいつは残念だ。
リリアナの種族であるハイエルフだからこそ使える術ってことなら、私にはどうあがいても使えまいて。
「お主の質問はこれで終わりかの」
「そうだな。リリアナの質問にも応じたし、これで終わりでよいか?」
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