追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ

文字の大きさ
上 下
4 / 90

第4話 リュートの隠し事

しおりを挟む
 先ほど、リュートが一瞬見せた憂いと何か関係があるのだろうか?
 そう思いつつも、彼へ言葉を返す。
 
「リュート、ご両親は外出か手の離せない何かをしているのか?」
「あ、うん。そうなんだ。父ちゃんは森へ。母ちゃんはさっき言った紅茶が売っている大きい街まで出かけているんだ」
「そろそろ外は完全に夜のとばりに包まれる。そうなると街はともかく、森は危険だ。魔の者が出るやもしれん」
「あ、いや。いくら急いでも、明後日くらいまでは戻らないかなあと」

 リュートは困ったように手を後ろに回し頭をかく。
 その態度を見て、私の不安は確信に変わる。
 リュートは何か大きなことを隠しているはずだ。少年を一人残して何日も両親が揃って外出するなど異常事態と言える。
 母親が一人で街まで行けるというのなら、普通少年も連れて行くと思うのだが……。もしくは、父が帰るまで待つ。
 そうではないとしたら、何か切羽詰まったものがあるのだろうか。
 他人の事情へ踏み込むのは好ましくない。このまま黙っているか、聞くべきか迷うところだ。
 
「そうか……なら、私もそろそろ」
「あ、いや。せっかくだから泊って行ってくれよ! ハルト兄ちゃんは小船でここに来たんだろ?」
「そうだが……」
「ここはティコの村というんだけど、ティコには宿はないんだよ。旅人は村長の家に置いてもらうか野宿しかないんだ」

 やはり……。
 リュートから目線を外し首を振る。
 
「どうしたんだ? ハルト兄ちゃん。村長のところに挨拶に行かなくったって、ここに泊ることは問題ないぞ!」
「それは……」
「ハルト兄ちゃん、俺が言うのもなんだけど、服装が相当怪しいって。村長もビックリするはずさ」

 その通りなのだが、わざわざ言わなくても分かっている。
 リュートのような服装が標準だとすれば、私の格好は珍妙に過ぎるだろう。
 それは最初に彼へ会った時から理解していたことだ。
 しかし、裏を返せばリュートは村長ならとてもじゃないが宿泊を受け入れそうにない怪しい私をあっさりと泊めると言っているのだ。
 彼の態度は一貫して友好的。ずっと思っていたが、警戒心が無さ過ぎる。
 いや、そうではない。
 私の予想が正しければ、彼は警戒する必要を感じなかったに違いない。
 
「リュート。嫌なら言わなくていいんだが……。貴君は……命の危険が迫っているのではないのか? 」
 
 それが何かは私には分からない。魔の者によるのか……それともこの地に生贄の習慣でも残っているのか……。
  
「ハルト兄ちゃん、どうしてそう思ったんだ?」

 急に真剣な顔になったリュートは、真っ直ぐに私の目を見つめて来る。
 
「それは、リュートの両親が揃って外出していること。もう一つは貴君が余りに私へ友好的だからだよ」
「そっか。すごいな! ハルト兄ちゃんは。それだけのことで分かるなんて」
「そうでもないさ。ドロドロした宮殿で暮らしていたから……」

 リュートは口を開き、何か言いたそうにしてまた閉じる。
 そんな彼に対し私はなるべく穏やかに見えるよう、微笑を浮かべ目じりを下げた。
 
「ハルト兄ちゃん、ごめん! 俺、俺……」
「リュートは何一つ悪いことなんてしていないじゃないか。謝ることなんて無い」
「で、でも。俺、あわよくばハルト兄ちゃんを利用しようと思って。信じられないかもしれないけど、今はそんなことないんだぜ」
「何を言ってるんだ。リュート。私は貴君から一辺たりとも悪意など感じていない。むしろ、余りに無警戒過ぎて心配していたくらいだ」

 大げさに肩を竦め片目をつぶると、リュートも体から力が抜けようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
 
「兄ちゃんの奇抜な恰好を見てさ、スレイヤーだと思って。もしかしたら……あいつを倒してくれるかもしれないと思ったんだよ」
「あいつとは……」
「いや、いいんだ。ハルト兄ちゃんは強いけど、あいつはもっともっと強いんだ」

 私より強いだと……その言葉を聞いた瞬間に私の肌が泡立つ。
 ま、まさか、この地にも魔王が出現したのか? いや……魔王はそうそう出てくるものではない……。
 なら、魔将か真祖か?
 
 む。外にまで自分の気迫を出してしまっていたようだ。
 
「すまん、リュート」
「い、いや。ハルト兄ちゃんって、美形の優男って思っていたけど、凄みもあるんだな! 憧れるぜ」
「して、リュート。あいつとは?」
「デュラハンさ。モンスターレベルは七十四。いくらハルト兄ちゃんでも敵わないよ」

 聞いたことが無い。魔物か……それとも人やあやかしの名か?
 
「リュート、それはどんな存在なのだ?」
「首の無い甲冑を着た騎士様って感じの見た目だよ。でも中身はなくて、鎧だけが動いているような」

 リュートの説明に強張った体が弛緩する。
 首の無い騎士……となると少なくとも魔将クラスではない。
 騎士という言葉に聞き覚えはないが、似たような妖魔であれば知っている。

「ほう……首の無い馬にでも騎乗しているのかな?」
「やっぱり知ってるんじゃないか、ハルト兄ちゃん!」
「いや、似て非なるものやもしれん。詳しく聞かせてくれないか」
「え、でも。ハルト兄ちゃんは関わる必要がないって。俺が行けば済む話なんだから」
「リュート。私の生業は魔の者を滅ぼすことにあった。貴君の言うところのスレイヤーみたいなものだ」
「スレイヤーなら、命の危険を顧みない行為は厳禁だぜ? 命あっての物種ってスレイヤーはいつもマスターから言い聞かされているだろ?」

 スレイヤーとは使命を帯びた職ではないのか。
 陰陽師と違って彼らにとって魔の者……いやモンスター討伐は商売ってことなのだろう。
 元とはいえ、魔の者が近くに存在し他に適任者がいないとあれば……陰陽師の血が黙っていない。
 こんな時、きっと十郎も行けと言うはずだ。

「これでも私は陰陽師の端くれ。例えひとかけらでも勝てる見込みがあるのなら、挑む。それが陰陽師たる矜持なのだよ。だから、聞かせて欲しい」

 私の気迫に押されたのか、リュートは神妙に頷くとデュラハンについて説明を始める。
 デュラハンとはモンスターの一種で、アンデッドと呼ばれる系統に属す。
 村に出る変わった性質を持つモンスターで、村に出没しても縦横無尽に暴れまわるわけではなく、誰か一人を指さすのだそうだ。
 そして、二週間後にまたやって来て、指をさした人物の首を狩る。
 一度出没するとずっとその村に通い続けるらしく、一人ではあるが確実に命が奪われてしまう。
 
「なるほど……私の知る『首無し武者』とは性質が異なるな……」
「俺はもう覚悟はできているんだ。父ちゃんも母ちゃんも討伐できる人を探しに行ってくれたけど……」
「それで両親がいなかったのだな」
「うん。母ちゃんはもしかしたら丁度SSランクのスレイヤーでも街に来ていれば間に合うかもしれないってところなんだけど……」
「父君はどうなのだ?」
「父ちゃんは森の大賢者って人を探しに行ったんだけど、どこにいるか分からないから……いつ戻って来るやら」

 腕を組み、顔を伏せ目を瞑る。
 首無し武者と行動規範は異なるが……おそらく同種の妖魔ではないのかと推測する。
 デュラハンは無差別に村の人を指定するらしいが、首無し武者はサムライを狙う。どちらも指定した人物以外には手出ししないというところは同じだ。
 
「リュート。私も同行してよいか?」

 あえて、討伐するとはリュートには伝えない。
 そう言うと彼は私を別のところで待たせたりといった行動をとりかねないからな。
 見ず知らずの私のことを心配してくれるのは、非常に喜ばしいことだが、今回に限っては枷になる。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...