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25.お魚うめえ

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 魚焼きグリルって便利よね。日本にいる時は全く使ってなかった。
 そもそも料理なんてしたことないんじゃないの? なんて突っ込まれるかもしれない。
 だけど、残念でしたー。佐枝子、お料理くらいしたことあるんだからね。
 学校で。
 あと、たまにトースターでパンを焼いたりだってしたわよ。
 あとねあとね。チョコレート。みんな作ったことあるよね?
 私もさあ、挑戦したことあるのよ。
 誰に渡したんだって? 決まってるじゃない。弟に、よ。
 何て弟思いな姉なんでしょう。でも彼ったら、私が見ていない隙にゴミ箱に投げ捨てていたの。
 私が見てないとでも思って?
 その後、真っ黒な霧を妄想しつつ、弟の部屋の前で呪詛を呟いてやったわ。ざまあ。
 
 これには後日談があって。哀れ弟はお腹を壊して、土日の間ずっとトイレに籠ってた。
 さすがに呪いってやばいわあ、と反省しちゃったわ。
 それ以来、チョコレートは作っていない。確かもうすぐバレンタインデーの季節だったわよね。
 久しぶりに自作チョコレートを作ってみたいんだけど、生憎材料がないんだ。
 
「焼けたかな」

 できるまで待っているだけだし。焼き加減はつまみを捻るだけ。
 余裕よ。余裕。
 表面にハチミツを塗ったので、照りがでているはずよ。
 大丈夫。ちゃんと内臓は取ったからね。
 皮はそのまま。よしよし。
 塩か醤油をたらしたら、きっとおいしいと思う。
 ご飯があればよかったんだけど、米はまだリストに出てきていないのよね。
 イベントかミッションをクリアすれば手に入るはず。
 作物系のイベントを探ってみようっと。お米を想像すると、食べたくなってきたわよ。
 
「サンドイッチ風にしてみようかな」

 我が相棒、白菜をみじん切り……じゃない方がよかったかも。
 でも、白菜は刻まないと生じゃおいしく頂けないし、これでいいよね。
 あとは定番のコーンでしょ。
 食パンを二枚使って、バターを塗って魚を挟めば完成よ。
 でも、これなら魚の身だけとって入れたらよかった。食べ辛い、よね?
 背骨もそのまま入っちゃってるし、分けた方がよかったわ。
 
「ルルるん、スレイも食べる?」
『もきゃ、魚かもきゃ』
「うん」
『スレイプニルの好物もきゃ。俺様は黄色いのだけでいいもきゃ』

 ルルるんはフルーツと野菜しか食べないのかも。
 白猫は猫だけに魚がお好き。
 
「ニールさん、ごめんなさい。お魚から身だけを取った方がいいですよね」
「いや、そのままでいい。魚なら丸ごと食べても問題ないからな」
「え、あ、そうなんですか」
「俺はドラゴンだからな。数メートルの魚であっても丸のみだ」
「は、はは」

 変な笑い声が出てしまったけど、内心ガッツポーズをする。
 「隊長、佐枝子頑張りました」と心の中の隊長へ語りかけた。
 隊長は渋い顔で「振り返るな」なんて強気なことを言ってくれたわ。
 さすが隊長、男前過ぎる。
 
「で、では。食べましょう」
「いい匂いじゃないか。サエ、何故そんな悲しそうな顔をする?」
「みなさんに食べてもらうというのに、正直、すいません」
「俺にとってはご馳走だ。スレイプニルだって今か今かと尻尾を立てているぞ」

 ファフニールの優し過ぎる言葉に不覚にも涙が出そうになっちゃった。
 だって、私、女の子なんだもの。普通の女の子にもど……いえ、元から普通でした。てへ。
 
 でも、この後のことはよく覚えていないんだ。
 ファフニールも白猫もサンドイッチを完食し、おいしいと言ってくれた気がする。
 魚にハチミツ、そしてそのままサンドイッチとか正気の沙汰じゃなかったわ……。
 隊長、大丈夫だって言ったじゃない。
 え? 言ってない。
 振り返らない佐枝子は細かいことまで覚えていなかった。ぱたり。
 
 ◇◇◇
 
 翌朝――。
 佐枝子の朝は……それほど早くない。
 のろのろと起きだし、昨日のことを思い出そうとして、ハチミツを砕いたところまでは覚えていたんだけど。
 その後のことは、隊長の白い歯しか浮かばなかったわ。

「あれ、昨日はお風呂に入らなかったのかな」

 オレンジ繋ぎのままだわ。髪の毛もなんだか……私は乙女なのよ、何を言わせようとしているのさ。
 全くもう。
 ぷんぷんと可愛らしく頬を膨らませ風呂場に向かう。
 ごっしごっしとオレンジ繋ぎを洗い、しゃああっとシャワーを浴びてさっぱりする。
 今日はワンピースの日ね。
 
 髪の毛を乾かしながら、どばああっと昨日ゲットした宝石を全てベッドの上に転がした。

「どれがいいかな。うーん、これだ!」

 透明感のある薄く青みがかった宝石を手に取り、にまあっと微笑む。
 これはアクアマリンとかそんな感じの宝石だったはず。これがいい。うん、これにしよう。
 残りは全部売却よおおお。
 
「きたわ、きたわよ。これで佐枝子、大金持ち……ってほどでもなかった。果物の倍くらいのお値段なのね」

 自動的に毎日補充されるアイテムというくくりで見ると、宝石もフルーツも魚も変わらない。
 掘り返すのが面倒な分、ご褒美として倍のお値段がついている、と考えた方がいいかも。
 
 このお金でスキンケアセットと室内用の小さな机と椅子、他にちょっとした道具を購入した。
 数日経過すれば、またお金は増える。それまでは我慢よ。佐枝子。
 はやる心を抑えつつ、外へと繰り出す。
 
「あれ、お花。きれ……い、とは言えないわね」

 綺麗なお花だったんだろうけど、しおれて蕾になっていた。
 これたぶん、蕾の中をがさ入れすると……。
 「ボス、中を改めます」と脳内の渋い40代後半くらいの刑事(妄想)に告げる。
 中には……朝顔のような種が入っていた。
 
「思い出したあああ。そうだった。そうだったわ」

 種を収納してからようやく、事のあらましに気が付いたの。
 犯人は、佐枝子。あなたよおおお。
 自分で自分に突っ込んでも不毛ね。不毛といっても、毛がないことじゃないわ。
 そんなデリカシーのないこと、私、言わないもん。
 
 きゃああ、私を逮捕したらだめええ。山さんー。
 ……。考えてみれば、妄想の人物がリアルで私を逮捕できるわけないか。
 はっははは。ざまあみさらせええ。

「ダメよ。そんな言葉遣い。私は少女なのよ。えへ、えへへ」

 自分で言ってて気持ち悪くなってきたところで、種の件を全て思い出した。

<花の種を獲得しました。
 畑の作成 が解放されました。
 厩舎の増築 が解放されました。
 アイテムボックスにプレゼントが届いています。
 イベントクリアボーナスが送られます。
 ショップに並ぶアイテムが増えました。>
 
「お、おや。イベントクリアしたみたい! やったよ。ラナくん。ありがとう」

 そうなんです。ラナと別れる時に彼がこんなものだけどと花の種をくれたんだ。
 喜び勇んだ佐枝子はお花畑を夢見て、家の前に種を植えた。
 ばら撒いたとか言ったらダメよ。
 その中で芽吹いた花がおよそ10ってところね。
 残りの蕾からも種を回収しちゃおう。
 
「この種を全部植えれば、一面の花畑も夢じゃないわ! お花畑できゃっきゃする私」

 絵に……ならないわね。
 そうだ。ラナ姉弟に担ってもらうことにしよう。
 きっといい絵になるわよお。楽しみぷん。
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