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三章
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「美味しい!初めて食べた!」
「喜んでもらえたら何よりだ」
先日、マアディン卿が私が神殿から出たことがないと知り、露店巡りをしてくれた。
その楽しさも冷めやらん数日後、再び外出を提案してくれたのだ。
次に案内してくれたのは人気のスイーツ屋さんだ。
今日は私が払うと言ったが今度は、「説明なしで連れ回したのお詫びだから」とか言われて受け入れてくれなかった。
不承不承諦めたけど、お礼が嵩むのは本意じゃない。
マアディン卿にな何をお礼するかで頭を悩ませた。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
今日のお出かけに護衛のマアディン卿がいつも通り迎えに来てくれた。
扉のノックに出迎えると、マアディン卿はいつもの服とはちょっと違った。なんだか豪華?装飾と言うか、服が形式ばっているように見えた。外出用なのかなぁ?
一応、私は王子が滞在中用にと用意してくれたドレスだから、見劣りはしないと思うけど。
ドレスはシンプルなデザインで、出来るだけ自分で脱ぎ着できる服をお願いしてある。メイドさんにお手伝いされるの慣れていないので、極力避けている。
だから今着ているドレスもシンプルなデザインでちょっと気後れした。
「お迎えに参りました。ドレスが似合ってますね」
「はい!楽しみにしてました!えっ?お、お褒めいただきありがとうございます」
マアディン卿からの珍しい一言に驚いた。脳筋がお世辞を言えるなんて驚いた。驚いたから二回も言っちゃったよ。
あ、でも。
曲がりなりにも近衛だ。
王族対応してれば慣れているのか、と納得した。
脳筋だけかと思っててすみません。と心の中で謝罪した。
「前回は下町の味でしたので、今回は街の食堂です。中流以上のレストランなので街の人が特別な時とかに行く店ですね」
マアディン卿はお店の2階のバルコニー席を予約してくれた。
前に、噂されたら妬まれたり困ると話をしたから個室を予約してくれたみたい。
周りの目を気にしなくていいからじっくりと味わえて幸せだ。
神殿でも差入れやお土産で食べたけど、目の前に並べられ飾られたスイーツ達は庭園で咲いた花々のように色とりどりに鮮やかだ。
「見てるだけでも幸せー」
「好きなのを好きなだけ食べればいい。残ったら持ち帰ればいいし、気にしないで大丈夫だ」
「うわ!太っ腹!流石近衛騎士!気配り紳士なのは王家付きだからか!」
カラフルマカロン、色々な一口ケーキにプリンにパフェ。クッキーやフルーツタルト。
あまりにもあり過ぎて迷ってしまう。
まずは目の前にあった紅茶のスフレケーキを手にした。フワッフワの柔らかなスポンジにフォークを差し入れる。
「ふはっ」と一口。
ふわふわスフレケーキを口にして柔さかに目尻が下がる。
「うんまー。柔らかーい。クリーム幸せー」
頬に手を当てて幸せな甘さを堪能する。
マアディン卿も食べないのかと勧めたら、「見てるだけで大丈夫だ」と言う。
甘いの苦手なのかな?
だとしたら付き合わせて申し訳ない。
早く食べて出ようかと提案した。
「甘いのは苦手じゃない。見てるだけでも幸せと言うのを実感していてね」
「見てるだけでいいんですか?ケーキ見てるだけで幸せなら太らなくていいですね。羨ましい」
甘さに頬を緩めながらパクりとケーキを口にした。
マアディン卿はピタリと動きを止めると、「ふっ」と息を吐くと次の瞬間、「ははははっ」と笑い始めた。
私、何か可笑しいこと言った?
空を見上げ手で髪を掻き上げてこちらに向けたマアディン卿の顔は、ーーいつもと違っていた。
ゴクリとケーキを飲み込み思わずマアディン卿を見つめた。
「幸せそうな貴女の顔を見るだけでも幸せだと言ったんだ」
「………は?」
思考停止した私。
気がつくとマアディン卿は私の隣りに来ていた。
「名を呼ぶ許可を頂けませんか?」
マアディン卿が跪き手を取り口を付けた。
「なな、なんで!?」
「何故?……そうですね。自分でも驚いてますよ。出会いは誤捜査で牢屋ですから。貴女には私の印象最悪でしょう。でも貴女は変わらなかった。普通に私と会話する。そのおおらかさに惹かれた。仕事も手を抜かない。逆に無理して倒れるほどだ」
「や、あれは無理と言うか、失敗したみたいなもので」
入り込み過ぎて気絶しただけだ。調整失敗なんてダンおじちゃんが聞いたら書取り100回の刑ものだ。慌て言い訳していると、マアディン卿の目が柔らかく細められた。
「何より、普通に会話していて楽しかった。笑ったその顔に目が話せなかった。繕うことなく、自然に寄り添える相手など居ないと思っていた。ただ普通に自然に会話できる女性など難しいと」
「えっと。……そんな、急に言われても」
「急ではないですよ?ゆっくりと距離を縮めたつもりですが?前に名を呼んで欲しいとも伝えましたし」
「分かりにくいです!」
「ええ、だから分かりやすく言葉にしました」
会心の笑みを向けられた。
厳つい顔も笑うと少しは和やかに見える。
牢屋で脅されたのが嘘のようだ。
「一目惚れではありませんが。三目惚れか、四目惚れですかね」
「えっ?そ、それって、いつ…頃から??」
驚きで開いた口がカラカラに乾いてしかたない。
「塔に行った頃にはもう会話が楽しかったですよ。女性と喋るのが楽しいのも初めてな気がします。潜入調査のドレス姿はとても似合っていました。私がエスコートしたいと思ったほどだ」
「え、いや、楽しかったですか?アチラの方々調査ですよ?それに、うちは貧乏で男爵から子爵になりましが。近衛騎士のマアディン卿とは身分が釣り合いません。それに年だって、10は離れているし。子供っぽい私なんて……」
「爵位は気にしないで大丈夫ですよ。俺は三男だから身分を気にしなくていい。歳を言うなら、10も上の俺では釣り合わないかもしれないな。おじさんと言われそうだ」
眉を下げ自嘲で顔を曇らせたマアディン卿に思わず擁護の言葉をかけた。
「おじさんじゃないですよ。充分カッコいいですよ」
「そうかな?厳つさで女性に避けられていたからな」
「みんな見る目がないんですよ。マアディン卿は尊敬できる大人な人です」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。不釣り合いなのは此方だと思っていたからな」
「そんなことないです。爵位も立場も目劣りするのは此方ですから」
「レベナン嬢にカッコいいと言われた上、尊敬できると言われたなら安心だな」
そう言って浮かべた安堵の笑みは優しい翡翠色の瞳を向けられて顔がカッと熱くなってきた。
これ、誘導尋問?誘導質問?に近いんだけど。
マアディン卿の有利になるような答えに導かれている気がする。
手を握られたままで、跪いたまま見上げられるのは大人の魅力加算が過剰に思えます!
思わずぷいと横を向いた。
「俺は怖いですか?」
「いえ。……怖く…ない、です」
顔を背けたことで怖がっていると思われたのか。慌てて否定した。でも、やっぱり恥ずかしくて口が上手く回らない。
「俺は一緒にいて楽しいが、レベナン嬢はどうですか?」
「えと……。楽しいは、楽しい、です」
質問のたびに体温が上がってくるように感じた。耳も首もきっと真っ赤だ。
「俺もレベナン嬢のことは怖くもなければ、変だとも思わない。特異な体質かもしれないが、君の能力は素晴らしいと思う」
前にも言われた。
忌まれるこの体質は能力だと褒めてくれた。
気味悪がられ、避けられ、理解されず疎ましいこの能力。
その能力を素晴らしいと言ってくれた。
ダンおじちゃんも生まれ持って得た稀有な能力なのだから大事にしなさいと言ってくれた。
認めてくれたことが嬉しかった。
この能力で仕事が出来たことが嬉しかった。
この能力を受け入れられなかったのは自分自身。
それごと受け入れて貰えたことに嬉しくて、目頭が熱くなってきた。
だからと言って。
すぐに返事が出来る状態じゃないのは当然。
溢れ出そうな感情をぐっと抑えてなんとか返事をする。
「じ、時間をください!急に言われても困ります!」
「……わかりました。ではせめて、名前を呼ぶ許可は頂けませんか?」
にこりと熱を込めた目を向けてくる。
大人の魅力全開の微笑はズルい。
その衣装で威力あげすぎですよ。
似合いすぎて見てるだけで茹だりそうなほど自分が赤面しているのがわかる。
頷くのが精一杯で、頷いた瞬間チュと手の甲にキスを落とされた。
「喜んでもらえたら何よりだ」
先日、マアディン卿が私が神殿から出たことがないと知り、露店巡りをしてくれた。
その楽しさも冷めやらん数日後、再び外出を提案してくれたのだ。
次に案内してくれたのは人気のスイーツ屋さんだ。
今日は私が払うと言ったが今度は、「説明なしで連れ回したのお詫びだから」とか言われて受け入れてくれなかった。
不承不承諦めたけど、お礼が嵩むのは本意じゃない。
マアディン卿にな何をお礼するかで頭を悩ませた。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
今日のお出かけに護衛のマアディン卿がいつも通り迎えに来てくれた。
扉のノックに出迎えると、マアディン卿はいつもの服とはちょっと違った。なんだか豪華?装飾と言うか、服が形式ばっているように見えた。外出用なのかなぁ?
一応、私は王子が滞在中用にと用意してくれたドレスだから、見劣りはしないと思うけど。
ドレスはシンプルなデザインで、出来るだけ自分で脱ぎ着できる服をお願いしてある。メイドさんにお手伝いされるの慣れていないので、極力避けている。
だから今着ているドレスもシンプルなデザインでちょっと気後れした。
「お迎えに参りました。ドレスが似合ってますね」
「はい!楽しみにしてました!えっ?お、お褒めいただきありがとうございます」
マアディン卿からの珍しい一言に驚いた。脳筋がお世辞を言えるなんて驚いた。驚いたから二回も言っちゃったよ。
あ、でも。
曲がりなりにも近衛だ。
王族対応してれば慣れているのか、と納得した。
脳筋だけかと思っててすみません。と心の中で謝罪した。
「前回は下町の味でしたので、今回は街の食堂です。中流以上のレストランなので街の人が特別な時とかに行く店ですね」
マアディン卿はお店の2階のバルコニー席を予約してくれた。
前に、噂されたら妬まれたり困ると話をしたから個室を予約してくれたみたい。
周りの目を気にしなくていいからじっくりと味わえて幸せだ。
神殿でも差入れやお土産で食べたけど、目の前に並べられ飾られたスイーツ達は庭園で咲いた花々のように色とりどりに鮮やかだ。
「見てるだけでも幸せー」
「好きなのを好きなだけ食べればいい。残ったら持ち帰ればいいし、気にしないで大丈夫だ」
「うわ!太っ腹!流石近衛騎士!気配り紳士なのは王家付きだからか!」
カラフルマカロン、色々な一口ケーキにプリンにパフェ。クッキーやフルーツタルト。
あまりにもあり過ぎて迷ってしまう。
まずは目の前にあった紅茶のスフレケーキを手にした。フワッフワの柔らかなスポンジにフォークを差し入れる。
「ふはっ」と一口。
ふわふわスフレケーキを口にして柔さかに目尻が下がる。
「うんまー。柔らかーい。クリーム幸せー」
頬に手を当てて幸せな甘さを堪能する。
マアディン卿も食べないのかと勧めたら、「見てるだけで大丈夫だ」と言う。
甘いの苦手なのかな?
だとしたら付き合わせて申し訳ない。
早く食べて出ようかと提案した。
「甘いのは苦手じゃない。見てるだけでも幸せと言うのを実感していてね」
「見てるだけでいいんですか?ケーキ見てるだけで幸せなら太らなくていいですね。羨ましい」
甘さに頬を緩めながらパクりとケーキを口にした。
マアディン卿はピタリと動きを止めると、「ふっ」と息を吐くと次の瞬間、「ははははっ」と笑い始めた。
私、何か可笑しいこと言った?
空を見上げ手で髪を掻き上げてこちらに向けたマアディン卿の顔は、ーーいつもと違っていた。
ゴクリとケーキを飲み込み思わずマアディン卿を見つめた。
「幸せそうな貴女の顔を見るだけでも幸せだと言ったんだ」
「………は?」
思考停止した私。
気がつくとマアディン卿は私の隣りに来ていた。
「名を呼ぶ許可を頂けませんか?」
マアディン卿が跪き手を取り口を付けた。
「なな、なんで!?」
「何故?……そうですね。自分でも驚いてますよ。出会いは誤捜査で牢屋ですから。貴女には私の印象最悪でしょう。でも貴女は変わらなかった。普通に私と会話する。そのおおらかさに惹かれた。仕事も手を抜かない。逆に無理して倒れるほどだ」
「や、あれは無理と言うか、失敗したみたいなもので」
入り込み過ぎて気絶しただけだ。調整失敗なんてダンおじちゃんが聞いたら書取り100回の刑ものだ。慌て言い訳していると、マアディン卿の目が柔らかく細められた。
「何より、普通に会話していて楽しかった。笑ったその顔に目が話せなかった。繕うことなく、自然に寄り添える相手など居ないと思っていた。ただ普通に自然に会話できる女性など難しいと」
「えっと。……そんな、急に言われても」
「急ではないですよ?ゆっくりと距離を縮めたつもりですが?前に名を呼んで欲しいとも伝えましたし」
「分かりにくいです!」
「ええ、だから分かりやすく言葉にしました」
会心の笑みを向けられた。
厳つい顔も笑うと少しは和やかに見える。
牢屋で脅されたのが嘘のようだ。
「一目惚れではありませんが。三目惚れか、四目惚れですかね」
「えっ?そ、それって、いつ…頃から??」
驚きで開いた口がカラカラに乾いてしかたない。
「塔に行った頃にはもう会話が楽しかったですよ。女性と喋るのが楽しいのも初めてな気がします。潜入調査のドレス姿はとても似合っていました。私がエスコートしたいと思ったほどだ」
「え、いや、楽しかったですか?アチラの方々調査ですよ?それに、うちは貧乏で男爵から子爵になりましが。近衛騎士のマアディン卿とは身分が釣り合いません。それに年だって、10は離れているし。子供っぽい私なんて……」
「爵位は気にしないで大丈夫ですよ。俺は三男だから身分を気にしなくていい。歳を言うなら、10も上の俺では釣り合わないかもしれないな。おじさんと言われそうだ」
眉を下げ自嘲で顔を曇らせたマアディン卿に思わず擁護の言葉をかけた。
「おじさんじゃないですよ。充分カッコいいですよ」
「そうかな?厳つさで女性に避けられていたからな」
「みんな見る目がないんですよ。マアディン卿は尊敬できる大人な人です」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。不釣り合いなのは此方だと思っていたからな」
「そんなことないです。爵位も立場も目劣りするのは此方ですから」
「レベナン嬢にカッコいいと言われた上、尊敬できると言われたなら安心だな」
そう言って浮かべた安堵の笑みは優しい翡翠色の瞳を向けられて顔がカッと熱くなってきた。
これ、誘導尋問?誘導質問?に近いんだけど。
マアディン卿の有利になるような答えに導かれている気がする。
手を握られたままで、跪いたまま見上げられるのは大人の魅力加算が過剰に思えます!
思わずぷいと横を向いた。
「俺は怖いですか?」
「いえ。……怖く…ない、です」
顔を背けたことで怖がっていると思われたのか。慌てて否定した。でも、やっぱり恥ずかしくて口が上手く回らない。
「俺は一緒にいて楽しいが、レベナン嬢はどうですか?」
「えと……。楽しいは、楽しい、です」
質問のたびに体温が上がってくるように感じた。耳も首もきっと真っ赤だ。
「俺もレベナン嬢のことは怖くもなければ、変だとも思わない。特異な体質かもしれないが、君の能力は素晴らしいと思う」
前にも言われた。
忌まれるこの体質は能力だと褒めてくれた。
気味悪がられ、避けられ、理解されず疎ましいこの能力。
その能力を素晴らしいと言ってくれた。
ダンおじちゃんも生まれ持って得た稀有な能力なのだから大事にしなさいと言ってくれた。
認めてくれたことが嬉しかった。
この能力で仕事が出来たことが嬉しかった。
この能力を受け入れられなかったのは自分自身。
それごと受け入れて貰えたことに嬉しくて、目頭が熱くなってきた。
だからと言って。
すぐに返事が出来る状態じゃないのは当然。
溢れ出そうな感情をぐっと抑えてなんとか返事をする。
「じ、時間をください!急に言われても困ります!」
「……わかりました。ではせめて、名前を呼ぶ許可は頂けませんか?」
にこりと熱を込めた目を向けてくる。
大人の魅力全開の微笑はズルい。
その衣装で威力あげすぎですよ。
似合いすぎて見てるだけで茹だりそうなほど自分が赤面しているのがわかる。
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