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三章

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「マアディン卿はどうされますか?お昼食べたら合流するとか?もしくは一緒に、ってダメですか?」

くるりと振り向きヴェクステル館長の顔を伺うと笑って頷いた。

「ええ構いませんよ」
「いえ食事は結構です。私は護衛ですのでレベナン嬢に付き添うのが仕事です。お構いなく」

マアディン卿は即答すると、先程と違って厳しい顔付き。
お喋りしながら城の中を歩いている時と違って表情が無くなった。仮面を被ったように硬い表情で感情の読めない目つき。

これが本来の彼の姿。
近衛騎士と言う本当の姿なのだと改めて確認した。



◇◆◇


「何がお好きか分からなかったので魚と肉。両方有りますのでお好きな方を」

四阿に案内され食事を用意されたテーブルに付いた。マアディン卿は護衛として少し離れたところに立っている。

案内される道中、マアディン卿に護衛されながら自分だけ食事をすることになんだか居た堪れなくてお誘いを遠慮しようと思った。
でも、「もう用意されてますので、料理が無駄になってしまいます」と言われて貧乏根性が無駄と言う言葉に、否と口に出来なかった。
それもヴェクステル館長の策略か。
断れない状況を作っておくとは!
この策士館長め!




ヴェクステル館長との会話は面白かった。
知らないことを色々教えてくれたヴェクステル館長。話術でも人を魅了できる美人は無敵だね!

「レベナン嬢はこの仕事が終わったらどうされるのですか?このまま城に滞在されるのですか?」
「いいえ!終われば自領に帰ります。視る以外取り柄のない人間がいるべき場所じゃないですから」

「身の程は弁えてます」と、口にすれば首を傾げられた。チラリとマアディン卿の方に視線を向け様子を伺うヴェクステル館長は楽しげに口端を上げた。

「君ほど稀有な人材は居ないと思うよ?」

にっこりと笑ったヴェクステル館長は私の手を握った。

「私は君に興味があるんです。私と付き合いませんか?」
「へ??」
「どうです?私と付き合ったら精霊がいつでもつかえますよ?」
「ええ……?」

顔を近づいて、「どうです?」と迫られる。
パチクリと瞬きを繰り返すが目の前の美人顔が妖艶に微笑む顔しか映らない。

「うーーーん………………」
「…………そんなに悩まれるとは。大体この顔で口説いて否と言われたことがないのですが」

妖艶な顔が眉を寄せて曇る。それもまた絵になりそうな程だが。

「あー、顔ね。顔かぁ。顔はね……。後ろに変なのいたり、黒くなってたり、視えちゃうので。怖いの後ろにいたりするし、悪どいのは分かるし。顔はあまり関係ないかな……」
「………なるほど」
「ヴェクステル館長は精霊がいるけど……」

神殿に居る時、色々な人が祈祷に来た。
それを端から視ていれば色々なモノが憑いている人が視えた。身形はよくてもドス黒いのとか、見かけはいいけど怨念を纏った美男子など。イケメンに夢を見れる能力じゃないのが悲しい性だ。
ヴェクステル館長は精霊がいるからドス黒くもないし怨念纏ってもないけどね。


じーーーっと視る。

「観察対象か実験対象なのはお断りします」

ヴィーエさんが言っていた。
“実験材料にされないといいな” って。

なので「お断りします」と断言すると、くすくすと笑うヴェクステル館長。
その相貌をゆるめた表情は男女問わず魅了しそうなほど。周りの精霊達はポヤポヤと光りながらヴェクステル館長の側で揺れている。

「残念です。断られたことがないのでとてもショックですが。仕方ないです」

そう、双眸を翳らせたヴェクステル館長。
本気とは思えない口説きなので真に受けるわけがないですよ。
平凡な顔がこんな美人と一緒に歩いたら、ただの侍女扱いだよ。確実に。

〈ルシェは、可愛いぞ〉

じじさまの慰めが逆に胸に突き刺さる。
孫可愛がりは嬉しいですが。
今は要らないです。








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