上 下
23 / 55
二章

12

しおりを挟む
舞踏会の会場がよく見えて、でもこちらは影になって見えない。

そんな場所からこんにちは。

「着飾っても無意味じゃん!」
「ははは。用事ができたら活躍しますよ。そのためのドレスだから大丈夫です。時間ができたら一緒にダンスをしましょう」
「苦手だから遠慮します」

影武者ポジションから会場を眺めた。
人がざわざわ犇めくのをぼんやりと観察していく。

「観察するだけならドレスいらないじゃん」
「挨拶の時に、貴族をその眼で視てほしいのです。怪しい者が居たら教えて頂きたい」
「アチラの方々を視ても怪しいかどうかまではわからないですよ?負の感情で黒いとかくらいまでしか判断できませんが」
「それで充分です。他に気付いたことがありましたら教えてください」

背後の方々は本人の感情に左右され纏う色が変わる。あとは背後の方の力によっても個人差が出る。曖昧な基準を判断材料にしなければならないのも頭を悩ませる。

面倒臭いなぁ。
なんで私こんな仕事してるんだろ?あれ?断れなかったっけ?
あ、脅されたんだ。王子に。
あれ?褒美を貰ったほど活躍したはずなのに?
過剰労働じゃない??

悩む私を他所にじじさまは真面目に観察を続けている。

『じじさま。なんかいる?』
〈生前と同じ腹黒ばかりじゃよ〉
『嫉妬や恨みで真っ黒なのも多いねー』
〈それが人間じゃろ〉
『神殿は楽だったなぁ』
〈皆信徒だからのう。アレが基準では、生きづらいのう〉

騙したり、言葉巧みに駆け引きしたり。騙し騙され怨念無念。
感情入り乱れた中に、恋の駆け引きが混じり込む。妬み嫉みの恋の情念。
観るもの視るものドロドロしててうんざりだ。




「陛下の御出座しに御座います」


そこ言葉で現れた王様と王妃様。そのあとを王子と王女が引き続いた。

「そっくりですよね。いまは違いますけど」

王子とファルシュさんを見比べるよう交互に視線を動かした。

「それはそうですよ。顔つき体型そっくりでないと仕事になりませんから」

笑いながら掻き上げる前髪に鬱陶しげに目をあげた。

王子はゆるいウェーブの金髪に紫色の瞳。
影武者の仕事中のファルシュさんも同様。

でも今は、ストレートの黒髪で青い瞳だ。

サラサラストレートの黒髪は目にかかり、邪魔そうに指先で弄っている。
顔つきが似ているから髪で目元まで隠しているのだ。
目元まで長い黒髪で隠し、印象も違うし声色も違う。
髪色と眼の色が違うだけでパッと見しても、じっくり見ても王子と同じ人物に見えることはなく、別人に見える。
背後の方は変わらないけどねー。



王様に諸々の貴族達が挨拶に参じていく。
延々と続くかと思われたその時。
王様の背後のアチラの方が指差した。

『これ?』

跪き恭しく王様に挨拶する貴族を私も指をさす。
頷く王様背後のアチラの方。

『じじさま聞きに行ってくれる?』

そのあと引き続き、何人かを指差した。

指差すたびにファルシュさんに「この人指差された」と報告をする。


王様背後のアチラの方曰く。
代々不正を行い証拠不十分で立件できなかった家門だそうだ。無念を晴らして欲しいとも。
そうじじさまが私に伝えてくれた。


でもこれで挨拶終わったし、当面の仕事は完了。

「仕事も終わりましたし。会場にいきましょう」
「はー。やっとのんびりできるー」
「ダンスしましょう」
「いやです。苦手だと言いましたよ」
「じゃ、まず美味しいもの食べに下りましょうか」




◇◆◇


ご飯につられ、会場へ。
アレやこれやをファルシュさんに差し出され、美味しくて手が止まらない。
「もう太るから」と食事を断れば。
「動けばいい」と言葉巧みにダンスに連れて行かれてしまう。

振り回されてしまう彼女のそんな話しがあったりなかったり。


知るのはアチラの住人の方々のみのようです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...