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二章
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「ここと、ここと、ここです。あとは、ここが多いです」
今、王城のアチラの方々リストを制作してます。
私と一緒に城内を歩いてくれているのは、私を逮捕した騎士の一人。アロイ・マアディン近衛騎士だ。
王側近の近衛に護衛してもらえるなんて光栄なこと!なんて喜べないのは出会いが出会いだからね。
牢屋でこんにちは、な関係なんて笑えない。
あの状態の王様を知り、事件解決させた関係者の一人だ。王様も幽体離脱中の話しを側近にはしただろう。内情知らなきゃ話しにもならないのも当然だし。あの状態の王様を理解して、私を知らなければ護衛をできないから選ばれたそうだ。
アエス王子からの依頼で、アチラの住人から過去の事件や事故を調べていくつもりらしい。
詳しくは知りませんが、聞き込みもしなきゃならないみたい。じじさまにお願いして代理で聴いてもらう手もあるけど。
ウロウロと王城内を歩きアチラの方々に色々と聞くので特に時間がかかる。
「今は誰でしたか?」
「え?えーと。五年ほど前に病死されたメイドさんですね。流行り病が一時期蔓延して大変でしたから。まだ仕事されてます」
さらりと答えれば、何とも言えない顔をする。嫌なもの見たような苦手な物食べたみたいな時の変な顔。
そんな顔するなら聞かなきゃいいのに。
「王側近近衛でも、苦手なものがあるんですね」
「…っ、そう言うわけではないのですが。剣で斬れない相手は理解しにくいと申しますか」
言い淀む内容が、“斬れるか斬れないか“。流石脳筋。
背後のアチラの方も頷かない。
貴方も斬れない対象でしょ。
これだから脳筋親子は。
「こっちは、……双子は、…双子。しか言わない老婆。ここのは、最後だ。最後。しか言わない老人です。あと浮遊霊がウロウロしてるのですが、背中を斬られた衛士、首吊りした下女、全身火傷の子供、ですかね」
「う、ウム」
若干引き気味なマアディン近衛騎士は手早く地図に書き込んでいく。
「ここには、歌いながら踊っている御令嬢。ごめんなさい先輩と謝る女中さん。あっちは無言な兵士が直立不動のままです。あと文官服の男性が徘徊してます」
私の次々と言う言葉にマアディン近衛騎士の背後の方は、恐々とアチラの方を見送る。なんで?自分も同じアチラの住人でしょうに。このヘタレ脳筋。
マアディン近衛騎士は、ショートヘアーをキッチリと乱れなく後ろに流し、男らしい眉毛に整った顔付きに、形の良い唇。厳つくて強面で強そうでもね。
私から視たらね、親子でヘタレ脳筋なんて威力半減だわ。
「私の背後にもいるのですか?」
「お父上のようですよ。背後で冤罪だ誤捜査だと騒いでました」
「あの時はすみませんでした。緊急事態とはいえ怖かったでしょう?それでなくても厳めしいと言われる顔ですし。さぞかし恐ろしい思いをさせてしまいましたね」
「まあ、確かに怖かったですね。よく分からない事態で突然牢屋行きでしたから」
それを聞いてマアディン近衛騎士が何度も謝罪してくるので大丈夫だと伝えた。
「もっと怖いものがウヨウヨしてたりしますから。マアディン近衛騎士の顔くらい普通ですよ」
「もっと怖いのがどんな物か気にはなりますが、聞かないでおきます。この顔が普通ですか?厳ついとよく言われて女性には嫌煙されることが多いのですが」
「気を追わずに自然体でいたらどうです?お父上が頭かたいとモテないぞと前に言われてましたよ」
「は?!そんなことも言われるのか?なんだか背後で見られているのは恥ずかしいものだな」
「慣れですよ」
「だが、ならばソルシエレ嬢も気をつけなければ。迂闊に情報を漏らすと命取りだぞ」
「出費したくなかったので。タダ働きはできませんし」
「だが、足がつくようなことするから」
マアディン近衛騎士の口調が説教じみてきた。背後の方と同じようになりつつあることに顔を顰めた。
「そこまで頭回らなかったんですよ」
「まだまだ子供か」
「デビュタントの髪飾り買いにきてたんです。無駄な出費は抑えたいんですよ。貧乏男爵家でしたから情報引き換えで、ロハで依頼できるなら経費節約して当然です」
「しっかりしてるんだか抜けてるんだか」
「どうせデビュタントしたての子供ですよー」
呆れた口調で苦言を制するマアディン近衛騎士。私がプンと腹を立てていると、フッと目を細めて笑われてしまった。
大人の余裕か!
夜中にアチラの住人を嗾けちゃうぞ!
やーい!斬れないだろー!
不貞腐れていると目的地に着いた。
「ここですね」
「ここですか」
なんの変哲も無いただの袋小路の壁を見つめた。
王様のあの事件の夜、不審者がここら辺で消えた。
どうやっても足取りが掴めず困っているそうだ。視えないものを視る私の眼を頼ってこの仕事が来た。
『じじさま。どう?』
〈うむ。隠し通路だが、一回使ったら二度と使えない仕様だのう。見た目もそうだが、仕掛けも二度と作動しないから開かぬし、絶対に気付かないじゃろうな〉
じじさまの言葉をそのまま伝えた。マアディン近衛騎士は紙に書き留めると神妙な面持ちで紙をしまった。
「君は背後の方を使ったら色々なものを診れたり知ったりできるのかい?」
「そうですね。じじさまから精霊や妖精を視る方法も教えてもらいましたから。違う角度からも知ることはできますね」
「地の中とか、水の中とか」と言うと、マアディン近衛騎士の表情に緊張感が感じられた。
「少し付き合ってくれ」
そのまま無言で歩くマアディン近衛騎士の後ろをとぼとぼと着いて行った。
なんかまずいこと言ったかなぁ。
今、王城のアチラの方々リストを制作してます。
私と一緒に城内を歩いてくれているのは、私を逮捕した騎士の一人。アロイ・マアディン近衛騎士だ。
王側近の近衛に護衛してもらえるなんて光栄なこと!なんて喜べないのは出会いが出会いだからね。
牢屋でこんにちは、な関係なんて笑えない。
あの状態の王様を知り、事件解決させた関係者の一人だ。王様も幽体離脱中の話しを側近にはしただろう。内情知らなきゃ話しにもならないのも当然だし。あの状態の王様を理解して、私を知らなければ護衛をできないから選ばれたそうだ。
アエス王子からの依頼で、アチラの住人から過去の事件や事故を調べていくつもりらしい。
詳しくは知りませんが、聞き込みもしなきゃならないみたい。じじさまにお願いして代理で聴いてもらう手もあるけど。
ウロウロと王城内を歩きアチラの方々に色々と聞くので特に時間がかかる。
「今は誰でしたか?」
「え?えーと。五年ほど前に病死されたメイドさんですね。流行り病が一時期蔓延して大変でしたから。まだ仕事されてます」
さらりと答えれば、何とも言えない顔をする。嫌なもの見たような苦手な物食べたみたいな時の変な顔。
そんな顔するなら聞かなきゃいいのに。
「王側近近衛でも、苦手なものがあるんですね」
「…っ、そう言うわけではないのですが。剣で斬れない相手は理解しにくいと申しますか」
言い淀む内容が、“斬れるか斬れないか“。流石脳筋。
背後のアチラの方も頷かない。
貴方も斬れない対象でしょ。
これだから脳筋親子は。
「こっちは、……双子は、…双子。しか言わない老婆。ここのは、最後だ。最後。しか言わない老人です。あと浮遊霊がウロウロしてるのですが、背中を斬られた衛士、首吊りした下女、全身火傷の子供、ですかね」
「う、ウム」
若干引き気味なマアディン近衛騎士は手早く地図に書き込んでいく。
「ここには、歌いながら踊っている御令嬢。ごめんなさい先輩と謝る女中さん。あっちは無言な兵士が直立不動のままです。あと文官服の男性が徘徊してます」
私の次々と言う言葉にマアディン近衛騎士の背後の方は、恐々とアチラの方を見送る。なんで?自分も同じアチラの住人でしょうに。このヘタレ脳筋。
マアディン近衛騎士は、ショートヘアーをキッチリと乱れなく後ろに流し、男らしい眉毛に整った顔付きに、形の良い唇。厳つくて強面で強そうでもね。
私から視たらね、親子でヘタレ脳筋なんて威力半減だわ。
「私の背後にもいるのですか?」
「お父上のようですよ。背後で冤罪だ誤捜査だと騒いでました」
「あの時はすみませんでした。緊急事態とはいえ怖かったでしょう?それでなくても厳めしいと言われる顔ですし。さぞかし恐ろしい思いをさせてしまいましたね」
「まあ、確かに怖かったですね。よく分からない事態で突然牢屋行きでしたから」
それを聞いてマアディン近衛騎士が何度も謝罪してくるので大丈夫だと伝えた。
「もっと怖いものがウヨウヨしてたりしますから。マアディン近衛騎士の顔くらい普通ですよ」
「もっと怖いのがどんな物か気にはなりますが、聞かないでおきます。この顔が普通ですか?厳ついとよく言われて女性には嫌煙されることが多いのですが」
「気を追わずに自然体でいたらどうです?お父上が頭かたいとモテないぞと前に言われてましたよ」
「は?!そんなことも言われるのか?なんだか背後で見られているのは恥ずかしいものだな」
「慣れですよ」
「だが、ならばソルシエレ嬢も気をつけなければ。迂闊に情報を漏らすと命取りだぞ」
「出費したくなかったので。タダ働きはできませんし」
「だが、足がつくようなことするから」
マアディン近衛騎士の口調が説教じみてきた。背後の方と同じようになりつつあることに顔を顰めた。
「そこまで頭回らなかったんですよ」
「まだまだ子供か」
「デビュタントの髪飾り買いにきてたんです。無駄な出費は抑えたいんですよ。貧乏男爵家でしたから情報引き換えで、ロハで依頼できるなら経費節約して当然です」
「しっかりしてるんだか抜けてるんだか」
「どうせデビュタントしたての子供ですよー」
呆れた口調で苦言を制するマアディン近衛騎士。私がプンと腹を立てていると、フッと目を細めて笑われてしまった。
大人の余裕か!
夜中にアチラの住人を嗾けちゃうぞ!
やーい!斬れないだろー!
不貞腐れていると目的地に着いた。
「ここですね」
「ここですか」
なんの変哲も無いただの袋小路の壁を見つめた。
王様のあの事件の夜、不審者がここら辺で消えた。
どうやっても足取りが掴めず困っているそうだ。視えないものを視る私の眼を頼ってこの仕事が来た。
『じじさま。どう?』
〈うむ。隠し通路だが、一回使ったら二度と使えない仕様だのう。見た目もそうだが、仕掛けも二度と作動しないから開かぬし、絶対に気付かないじゃろうな〉
じじさまの言葉をそのまま伝えた。マアディン近衛騎士は紙に書き留めると神妙な面持ちで紙をしまった。
「君は背後の方を使ったら色々なものを診れたり知ったりできるのかい?」
「そうですね。じじさまから精霊や妖精を視る方法も教えてもらいましたから。違う角度からも知ることはできますね」
「地の中とか、水の中とか」と言うと、マアディン近衛騎士の表情に緊張感が感じられた。
「少し付き合ってくれ」
そのまま無言で歩くマアディン近衛騎士の後ろをとぼとぼと着いて行った。
なんかまずいこと言ったかなぁ。
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