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第70話:ひなちゃんの春(その2)

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数日後。
すみれは大学のカフェテリアで、松葉姉妹の妹の方、
松葉友麻と談笑していた。
「へぇ、友麻ちゃん達もホストクラブとか行くんだ」
「・・・先輩から割引券を頂いたので、面白そうと思いましたの。」
「面白いの?」
「それはもう。おバカなホストをからかうのは面白かったですのよ。」
「・・・友麻ちゃん達ならではの楽しみ方だね。」
「今度すみれちゃんも一緒にいかがです?」
友麻は先日姉たちと行ったホストクラブの話をしているようだ。
「うーん、でも私はユキヤから酒飲むなって言われてるし・・・」
「あら残念、そうでしたの。でもすみれちゃんなら・・・」
・・・などと話しているところに、話しかけてくる人間がいた。

「すみれぇ・・・」
「わっ!・・・び、びっくりしたぁ!!」
その恨めし気な声の主はひなのであった。
「あ、ご、ごめん。驚かせる気は無かったんだけど・・・」
「いや、別にいいけど・・・ひなちゃん、どうしたの?」
「あらすみれちゃん、そちらのお方は?」
と、友麻がひなのの存在に気付き尋ねる。
(あ、そうかひなちゃんとは初対面だっけ・・・)

「あ、えっと・・・この子は私のお友達で、ひなちゃんっていうんだ。」
とすみれが慌てて紹介する。
「あ、初めましてすみれの友人の黄瀬・・・ひなのっていいます」
少し冷静さを取り戻したひなのが友麻に自己紹介する。

「黄瀬さん、初めまして。私は松葉友麻と申します。
すみれちゃんとは日頃から仲良くさせて頂いていますので、
以後よろしくお願いいたしますわ。」
と友麻も丁寧に自己紹介をする。
「あ、どうも・・・」
とひなのが軽く会釈する。

「それでひなちゃんどうしたの?そんな怖い顔して・・・」
「いや、その・・・」ひなのが言いよどむ。
「あのさ、もしかしてこの前の水元君の事?」
彼女のただならぬ様子に、すみれの方からひなのに話しかける。
「いや!そうじゃなくて・・・ってそうかもしれないんだけど
・・・その・・・つまり・・」
ひなのはあからさまに動揺している。
(あれ、もしかして図星だったかな?)
とすみれが思う。

「あら、図星のようですのよ。すみれちゃん」
(友麻ちゃん!!ハッキリ言いすぎ!!)
とすみれが心の中でツッコむ。
「あ、あの・・・その・・・だからね」ひなのがモジモジしている。

「そういう事でしたら、じっくり聞きますのよ。さ、お座りになって」
と友麻がひなのを椅子に座らせる。
「あ、あの・・・その・・・」
「もう、そんなに言いにくい事なの?」すみれが聞く。
「・・・うん」ひなのが小さく答える。
(これは重症だねぇ)とすみれは思った。

「で、で!どんなお悩みですの?」
友麻が目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。
「えっと、その・・・水元君の事なんだけど・・・」
ひなのが恥ずかしそうに言う。
「うんうん、それで?」
友麻は興味津々といった様子で更に聞いていく。

「・・・・正直、私達別れた方がいいかもしれない」
ひなのが絞り出すように言った。

「え?」「はぁ?!」
すみれと友麻は同時に声を上げる。
「えぇ!?どうして!?あんなに仲良くしてたのに・・・!」
「ケンカでもしましたの?」
すみれと友麻が交互に尋ねる。ひなのはゆっくりと首を振る。

「じゃあ、なんで?」すみれも続けて聞く。
「・・・なんか、最近水元君の事を考えると
変な気持ちになるというか・・・こう胸がジーンと苦しくなって・・・」
ひなのはそこまで言うと真っ赤になり、
テーブルに突っ伏して頭を抱える。

「ひなちゃん・・・」
すみれはそんなひなのを心配そうに見つめる。
友麻も黙ったままだ。
「これまでも誰かを好きになった事はあったけど・・・
こんな気持ちになったのは初めてでどうしたらいいのかって・・・!」
ひなのが目に涙を浮かべながら言う。

「まあ・・・これまでにない強い恋心を抑えきれずに
身を焦がしておいでですのね」
友麻が感心したように言う。
「そ、そんな・・・恥ずかしいよ・・・」ひなのが更に顔を赤くする。
「でも、そんなに思いが強いのにどうして別れたいなんて・・・?」
すみれが不思議そうに聞く。

「それは・・・」
ひなのは少し小声になると二人に耳を貸すようにジェスチャーする。
2人が彼女に耳を近付けると消え入りそうな声でこう言った・・・。

「私・・・このまま一緒にいたら彼のことを
滅茶苦茶にしちゃいそうで・・・!」

「・・・え?」

ひなのの言葉にすみれと友麻は同時に聞き返す。
「ええとね・・・自分でもどう表現したらいいのか
分からないんだけど、胸がなんかこうカーッと熱くなって・・・
沢山・・・可愛がってあげたいって・・・」
ひなのがさらに小声になって言う。
「んん?」
すみれと友麻が再び顔を見合わせる。

「どういう事ですの?」
友麻が目をパチクリさせながらひなのに聞く。
「この前ね、冗談で彼をくすぐったんだけど・・・
その時の顔が、とっても可愛くて・・・
その・・・もっとたくさん見たいなって思ったら、
色んなこと妄想しちゃって・・・それが止まらなくなって・・・」
とひなのが顔を真っ赤にしながら言う。
そして恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
「うう・・・恥ずかしい・・・」

「ひなちゃん・・・」
すみれが心配そうな目で見つめる。
それに対して友麻の方は目をキラキラさせている。
「つまり、水元さんの可愛い姿をもっと見たいんですの?」
「・・・うん」ひなのが小さく頷く。その耳まで真っ赤だ。
(ひなちゃんが・・・こんな事言うなんて・・!!)
いつもの冷静なひなのからは想像できない様子に
すみれも驚きを隠せないでいる。

「ええと・・・」
ここで2人は黙ってしまう。
これは描けるべき言葉が見つからないという事ではない。
お互いにある言葉が喉まで出かかっていたからだった・・・。
(そんなの徹底的に可愛がって思う存分気持ちよくしてあげれば・・・)
(私ならそんな素質ありそうな子、苛めまくって
快楽堕ちさせてしまう所です・・・)
しかしすみれも友麻も口には出さず、心の中に留めた。
2人とも自分たちの性癖が一般的でないことを知っているからだ。

2人の沈黙を別の意味に取ったのか、ひなのが慌てて言う。
「ご、ごめん!やっぱり引いちゃったよね・・・
私ちょっとどうかしてるよね・・・!」
「え?あ、ううん!そんな事ないよ!」
「少し落ち着かれた方がいいと思いますのよ」
「そ、そうだよね・・・!ごめん!」
2人のフォローも空しく、ひなのは更に落ち込む。

「・・・・その『水元さん』はどうなのですか?」
友麻が少し考えてから訪ねてきた。
「え?」
「ですから、水元さんの気持ちは確認しましたの?」
「聞けないよ・・・そんな事」
「何も言わずに一方的に別れを告げられても、
それこそ水元さんは納得できないのではありませんか?」
「う・・・!」

ひなのが言葉に詰まる。
「水元さんがどう思っていらっしゃるか、きちんと聞いてみませんと」
「でも、聞いて変な女だと思われない?」
「・・・別れる気持ちでいらっしゃったのでしょう?」
(友麻ちゃん、畳み掛けるなぁ・・・)
友麻のスキのない物言いにすみれは口を挟めない。
「うぅ・・・」
ひなのが泣きそうな顔になる。友麻は優しく微笑むと続ける。

「まずはきちんとお話ししてみたらいかがですか?
 水元さんはお優しい方なのでしょう?」
「うん・・・」ひなのは小さく頷く。
「でしたら、きっと分かってくださいますわ」
「・・・そうかな・・・?」
「ええ、そうですとも!」
友麻はそう言って胸を張る。そしてその控えめな胸を
大きく手でたたいて見せる。
「・・・分かった!私頑張ってみるよ!」
ひなのの顔に笑顔が戻る。

「松葉さん・・・だっけ?ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。頑張ってくださいね」
友麻も笑顔で返した。
(ひぇー、あの状態のひなちゃんを説得しちゃった・・・)
すみれは友麻の手腕に舌を巻いた。
ひなのもすっかり元気を取り戻している。

「よし!じゃあ私、水元君の所行ってくる!ありがとうね二人とも!」
ひなの二人に改めて礼を言うと、はカフェテリアを出て行った。
「・・・行っちゃった」
2人になった所で、友麻が口を開く。
「ふぅ・・・どうやら上手く行ったようですね」
「凄いね友麻ちゃん」
すみれはまだ感心していた。

「・・・大部分はお姉さまの受け売りですのよ」
友麻が恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「結衣ちゃんの・・・」
(この姉妹、やっぱり謎が多いよね)
すみれはついそんな事を考えてしまう。

「でも大丈夫なの?随分自信満々に言っちゃってたけど」
友麻があまりに言い切ってしまったので、
すみれはちょっと心配になる。
「相手をあれだけ大切に思っているなら余程の事がない限り
大丈夫かと。それに・・・」
「それに?」
「・・・話しを聞くにお相手の方も、強く押せば最初は
困惑こそすれど最終的には受け入れてくれるのではと」
「ああ・・・」
すみれは線が細く気弱だけど優しそうな水元の容姿を思いうかべる。
「『案ずるより産むがやすし』という事ですのよ」
(確かにあの手のタイプは恋人の事なら多少の無茶でも
受け入れそうだけど)

「それにしても・・・あの過保護に近い優しさというか純粋さは
ある意味羨ましくもありますのよ・・・」
そう言って友麻がため息を吐く。
「そうだね、私達にはないものだねぇ」
すみれが苦笑しながら言う。
「さて、そろそろ戻りましょうか」友麻が席を立つ。
「うん」
2人もカフェテリアを後にした。

つづく
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