天然ドSな彼女に抱かれ続けた結果、色々あって一緒に暮らすことになりました。

桃ノ木ネネコ

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第46話:冗談じゃない!(その3)

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「・・・そんなわけで本をお返しに来たわけですが」
「どういうわけだよ?」
にこやかに話しかける結衣にユキヤは訝しげな顔をする。

あれから数日経ち、ユキヤは友麻に
大学のカフェテリアへと呼び出されていた。
ただ、先日と違ったのは、ユキヤにはすみれが、
友麻には結衣がそれぞれ同伴しているところだった・・・。

「・・・ふふ、私たちが一緒にいれば、
茶木さんとも堂々とお会いできるでしょう?」
結衣は友麻にも微笑みかける。
「確かにそうですけど・・・」
結衣の答えに友麻は何とも言えない顔をした。

例の噂のせいで、ユキヤと二人で会う事を控えている友麻を見て、
ならば二人きりでなければいいと結衣が発案したのだ。

「それに・・・」
今度はユキヤの方があたりを見回す。
(嫌な視線を山のように感じるんだが・・・)

彼ら周囲の席には妙に1年女子の姿が多くあった。
「姉ちゃん、こりゃ何の真似だ?」
周りの妙な視線に耐えかねてユキヤが結衣に聞いてくる。
ちなみにこの『姉ちゃん』『妹ちゃん』は、
ユキヤが姉妹を呼ぶときに付ける仇名である。

「はい、私があなた方がここに来ると言いふらしましたから。」
結衣は事も無げに言い放った。
「な・・・・・!」
「『何をやってるんだ?!』とおっしゃりたいのですか?」
結衣はユキヤに反論する間を与えず、笑顔で続ける。

「何もやましい事がないのでしたら、
堂々と普通にしていらっしゃいな。
無理に会おうとしないことが、
更に噂をおかしな方向に曲げてしまいますわよ。」
結衣はそこまで言うとすまし顔で紅茶を飲んだ。

(確かに正論だけど無茶苦茶だぞ!!)
ユキヤは心の中で反論するが、彼女のいう事も一理ある。
彼は複雑な気分になった。

「ほら、紅茶もお菓子も美味しいですわ。
冷めないうちにどうぞ?」
結衣はユキヤの心中を察してか、話題を変えた。
「ああ、わかった・・・。」
ユキヤは渋々返事をする。

「ほら、友麻も茶木さんに本をお返ししたいのでしょう?」
「え・・・えぇ、ありがとうございます、
とっても面白かったですのよ。」
結衣に促され、友麻が本を取り出してユキヤの目の前に置く。

「そっか。じゃあ続きは今度持ってきてやるから・・・」
ユキヤがそう言い終わるか終わらないうちに、彼らの耳に
周囲の会話が少し入ってくる・・・。

『彼女の前で堂々と男と話して、あの子大した度胸よね・・・』
『この人はもう私のモノなのよって誇示してるのかしら?』
『茶木先輩もまんざらじゃない感じだよね』
『最低・・・隣に彼女いるのに・・・』

・・・もちろん話し声すべてが聞こえているわけではないが、
大体こんな内容の事がごちゃごちゃと耳に入ってくる。
「・・・・・!」
(勝手なことを言いやがって・・・)
ユキヤは周囲の声に呆れつつも、
反応したら負けだと思い、平静を装ってコーヒーを飲む。

「それにしても、あの有名なセリフ、
実は違う意味だったのですね。」
友麻も外野を無視して本の話題を続ける。
どうやら彼女もユキヤと同じ結論に達したようだ。

「そうそう、『ああ窓に!窓に!』ってやつだろ?」
「ええ、てっきり窓に!って叫ぶから、
窓に怪物が迫っているのかと・・・」
友麻は本のページをめくりながら言う。
「元ネタの方は『早く窓から逃げないと』
って感じの意味合いなんだよな」
ユキヤも笑いながら返す。

「へぇ、そうなんだ。私も窓に何かがいると思ってたよ。」
すみれも会話に混ざる。
「まぁ、ネットとかではそっちの意味で使われてることが多いからな」
「良かったらすみれちゃんもお読みになってみます?」
友麻がすみれに本を差し出す。

「いいの?私難しい本とか得意じゃないけど・・・」
「まぁ1話あたりがそこまで長くないから読みやすいとは思う。」
「ふぅん・・・君がそう言うなら、読んでみようかな」
「ああ、是非読んでみてくれ。」
ユキヤは嬉しそうに言う。

「いささか表現や内容が古いと感じたりする個所もありますが、
それは古典怪奇小説として割り切れば、味と感じられますのよ」
友麻もすみれに説明する。
「そっか、じゃあ今度読んでみるよ。」
すみれは笑顔で言った。

「今度じゃなく、今すぐ持ってけばいいだろ?」
「あ、そうだね。」
すみれはそう言って本を手に取る。

(良かった・・・すみれのお陰で場の空気が少し和んでくれた)
興味深げに本をパラパラとめくるすみれを見て、
ユキヤは心の中で少し安心する。
すみれとのとぼけたやり取りで、
張り詰めた空気が薄らいだのは確かだった。

しかし・・・

『・・・わ、彼女の方も堂々と割り込んでいい度胸。』
『正妻の自信って奴かな?』
『えー嫌だなぁ、女房気取りしちゃって・・・』
『なんか、彼氏の行動束縛してそう・・・』
時として自分への蔭口というものは
雑音の中でも拾えてしまう・・・。

『でも、あっちのお姉さんの方も凄いわよね。
妹の修羅場演出なんて・・・』
『案外妹のそういう姿見て面白がってるのかもしないよね。』
『ええ、姉妹そろって結構腹黒っ!』

・・・陰口はその場に同席しているだけの
結衣にまで飛び火してしまう。

「・・・・・・・」

ユキヤと友麻の二人はお互いに黙りこくる・・・。
そして

「いい加減にしろ!!」
「いい加減になさいませ!!」

ほとんど同時に二人が怒鳴った。「え・・・?」
ユキヤは突然のことに目を白黒させる。
「あなた方の会話、さっきから聞いていれば
随分な言い草ですのよ!」
友麻がキッと1年女子達を睨みつける。
「だ、だって・・・」
睨まれた女子達は少し怯むが反論しようとする。
しかし・・・

「・・・いきなり怒鳴って悪かったな。」
一息おいてユキヤが口を開いた。
そして少し落ち着いた口調で言う。
「俺の事はどういっても構わない。でもな、
こいつの事を悪く言うのだけは我慢ならんかったわ」

「あら、気が合いますのね。私も自分の事はともかく、
お姉さまにまで陰口を飛び火させたのは
我慢なりませんでしたのよ。」
友麻も同じく少しだけ落ち着いた口調になる。
「・・・まったく君らしいな」「お互い様ですのよ」
お互いに顔を見合わせ少し笑う。

そしてユキヤは結衣の方に向き直る。そして
「悪いな、せっかく呼んでくれたけど、
なんかバカバカしくなったから、俺ら帰るわ」
とうんざりした口調で言った。

「いえ、お気になさらないで下さいませ。
こちらこそこんな茶番に付き合わせてしまって
申し訳ございませんでしたわ」
結衣も頭を下げる。

「ああ、こっちこそ悪かったな。すみれ、帰ろうぜ」
ユキヤは結衣に軽く手を挙げてからカフェテリアを後にした。
「あ・・・待ってよ。じゃあ、結衣ちゃん、友麻ちゃんまた今度ね」
すみれも結衣たちに挨拶するとユキヤの後を追った。

(ふぅ・・・)
友麻も一息ついて紅茶を一口飲む。そして大きく息を吸って
「さあ!これでお分かりになりましたでしょう!
私とあの男は、本の借り貸しをしていただけですのよ!」
と周囲に高らかに宣言した。

「・・・こんな少ない材料で、そこまで妄想なさるなんて
どれだけ狭い世界で生活していますのよ・・・」
友麻は呆れ顔で言った。

「お姉さま、私たちも帰りましょう!
もうこれ以上ここにいる理由もないのですから。」
友麻は結衣に声をかける。
「そうですわね、帰りましょうか。では皆さまごきげんよう」
二人は席を立ち、カフェテリアを後にした。

***

「・・・あれで噂消えるのかねぇ」
その日の夜、夕飯のカレーを食べながらすみれが言う。
「さぁな。」
ユキヤは素っ気なく答え、カレーを口に運ぶ。

「でも今日は悪かったな。嫌な思いさせて」
彼はすまなそうにすみれに言った。
「大丈夫。結衣ちゃんからも事前に聞かされてたし。」
すみれはカレーを頬張りながら答えた。
「そうか、それならいいけど」
ユキヤはホッと胸をなでおろす。
(てか姉ちゃんの方・・・分かっててやってたのかよ!)
心の中で悪態をつくユキヤ。

「でもね・・・ユキヤと友麻ちゃんがさっき
周りにいた皆に言ったあれは、
さすがの結衣ちゃんでも予想できなかったと思うよ。」
すみれがちょっと笑いながら言った。

「え?」
「まさか君たちが、私らのために怒るとは思わなかったもの」
「ああ、あれか・・・」
ユキヤは昼間の事を思い出す。

(まぁ・・・確かにそうか)
あの時、友麻があの場であそこまで言うのは想定外だったし、 
自分まで声を荒げてしまったのも予想外だった。
(でもさ・・・俺がお前を馬鹿にされて怒るのは当然だろ?)
と心の中で思うがユキヤは口には出さなかった。

そしてカレーを口に運ぶ・・・。

「ふふ、何照れてるのかな~」
すみれがからかうように笑う。
「うるせぇよ。」
ユキヤは悪態をつくが、その顔は少し赤くなっていた。
(まったく・・・こいつには敵わないな)
そう思いながらカレーの残りをすべて平らげる・・・。

「どうする?おかわり持ってこようか」
すみれがユキヤに声をかける。
「そうだな、頼むわ」
「はいはい」
すみれは席を立って炊飯器に向かった。

***

「・・・で、どうなの?今回の噂、
実はまんざらでもなかったりしない?」
入浴中、二人で湯船に入りながらすみれが聞いてきた。
「馬鹿言え、あんな噂流されて迷惑してるっての」
ユキヤは呆れ顔で答える。

「でもさ・・・実際問題としてどうなのよ?」
すみれがさらに聞いてくる。
「・・・何がだよ」
少し間を置いてからユキヤが言う。

「いやさ、実のところ友麻ちゃんのこと・・・どうなのかなって?」
(やっぱりその話題か・・・)
ユキヤはため息を吐いた。
「だって最近、ユキヤと友麻ちゃん妙に仲いいし・・・」
そう言ってみれが頬を膨らませる。

「あのなぁ・・・妹ちゃんは確かに友達としては
気も合うし、話してて面白いけど」
「けど?」
すみれが期待の眼差しでユキヤを見る。

「・・・それだけだ。あの子は俺と波長が合いすぎて、
なんというか・・・正直恋人としてはやりにくい・・・」
ユキヤは顔を赤くしながら答える。

「それにハゲにはなりたくないし・・・」
「ぷっ!」
すみれは思わず吹き出した。

「あと、ああいう事をされるのはお前からだけでいい。」
ユキヤはすみれの耳元で囁いた。
「え?」
突然のことにすみれが赤面する。

「・・・お前以外にあんなことされるのはごめんだ」
ユキヤはさらに続けた。そしてそのまま唇を重ねる。
「んっ・・・ちゅっ・・・」
2人は舌を絡めあい、お互いを求めあう・・・。
(ああ、俺はやっぱりこいつが好きなんだよ)
と唇を重ねながら心の中で思うユキヤだった・・・。

つづく
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