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第39話:大好き!すみれ先生(その5)(完結)

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「あ、すみれちゃん、こんちは!」
「・・・先生って言いなさい!」

それからもすみれは塾講師のバイトを続けていた。
相変わらず彼女の授業は男子生徒に人気があった。

また女生徒の間でも、他の講師よりも話しやすいという事で、
一緒に雑談をすることも多くなっていた。

「白石先生って彼氏いるんですよね?」「うん、そうだよ」
そんな質問にもあっさりと答えてしまう。
「もし、その彼氏よりもイケメンで優しい人が目の前に来たら、
その人を好きになったりするの?」
青柳が興味深く聞いてきた。
先日の戸草の事もあって、少し気になっていたからだ。
「うーん・・・それはないかな」
すみれは少し苦笑いしながら答えた。
「えー、どうしてですか?」
女生徒の一人が聞き返してきた。

「だってユキちゃ・・・いや今の彼が可愛くて・・・
じゃなかった、好きで仕方ないんだもの。
だからほかの人を好きになるのは無理かなぁって。」
すみれは頬を赤らめながら言った。

「・・・・・。」
「あのさぁ、先生・・・」
「てかすみれちゃん、塾で惚気ないでね」
女生徒達が少し呆れ気味に言った。
「あ・・・あはは、ごめん」
すみれは笑って誤魔化す。

(・・・じゃあ戸草の事は・・・心配ないかな?)
青柳は心の隅で少しだけ安堵した。

そして女生徒からも『先生』と呼ばれることが
確実に少なくなりつつあるすみれであった・・・。

***

一方、男子生徒たちは・・・
「で、戸草くん!青柳さんとはどこまで言ったのかね?」
広瀬がからかうように戸草に聞いてくる。

「そ、そんなんじゃねぇよ!あいつとは!!」
戸草は真っ赤になって反論する。
「えー?彼女に甘いもん奢ってもらった話、どうなったの?」
広瀬がニヤニヤしながら聞いてくる。

「そ、それは・・・その・・・」戸草は言い淀む。
(何で知ってるんだよ・・・こいつらは?!)
「・・・コンビニで200円のマカロン買ってもらっただけだよ!」
戸草はとまどいながらも観念したように白状した。
「え、マジで?それだけ?」広瀬が驚く。

「・・・塾帰りだから、そこぐらいしか寄れなかったんだよ。」
(・・・本当はもっと色々奢ってもらったけど)彼は心の中で思う。
「そうだよ!悪いかよ!!」戸草は開き直ったように叫んだ。
「・・・いや、悪くはないけどさ」広瀬は少し困惑しながら言った。

「ま、まだこれからさ。今度がお前が奢ってやれよ。」
そう言って山口が戸草の肩をポンと叩いた。
「だ、だから!そういうのじゃないってば!」
戸草はまたも赤くなる。そして・・・
(よし、次は俺が奢ってやる・・・)
彼は心の中で意気込んだ。

山口の言う通り、まだまだこれからな二人であった。

***

「私、本当に先生になろうかなぁ・・・」
夕飯時、自信が付いたのか、すみれがこんな事をつぶやく。
「え、マジで?」ユキヤは驚いた表情を見せる。
「うん、なんか向いてるかもって」すみれは笑顔で言う。

(こいつはすぐその気になるからなぁ・・・)
とユキヤは心の中で呆れながらも
「じゃあまず、生徒からちゃんと『先生』って
呼ばれるようにならないとなぁ」
ユキヤがニヤつきながら言った。
「うぅ・・・頑張る」
すみれは恥ずかしそうに答えた。

「ま、俺は応援してるから頑張れよ」
ユキヤはそう言って微笑んだ。
(もっとも今のまま先生になったら、
下手すると生徒と間違われそうだよな)
彼は心の中で思った。(まあ、それはそれでアリか・・・)

「あ、今失礼なこと考えたでしょ!」
すみれはムスッとした顔になる。
「まさか」ユキヤは平然と答えた。

(しかし教師になったすみれか・・・)
彼は教師として成長したすみれを想像してみる。
(ドジだけど優しいから、きっと生徒に人気が出るだろうな・・・)
と、ここでやめておけば良かったのに、
その想像はやがて妙な妄想へと変化していく・・・。

(・・・手を焼く不良生徒たちには、その外見で油断させて、
お得意の恐ろしいまでの調教テクニックで、骨の髄まで
色々と分からせていく女教師・・・『これが私の仕事なの!』
なんて、言ってくれるんだろうな・・・
そして次々と生徒を毒牙に・・・)
そこまで考えた時、彼は思わずニヤけてしまった。

「こら!」「いてっ!」
ここですみれがユキヤの顔を引っ張る。
「痛ぇな!何すんだよ!?」
ユキヤが顔を擦りながら反論する。
「・・・まーたろくでもないこと考えてたでしょ?」
すみれはジト目でユキヤを見つめる。

「な、なんのことかな?」彼は誤魔化すように笑った。
「また安いAVみたいな事想像してたんじゃないの?」
彼女は呆れた顔で言う。

「いや、違うって!」彼は慌てて否定する。
「ふーん・・・じゃあ何考えてたの?」すみれが問い詰める。
「・・・それは・・・」ユキヤは言葉に詰まる。

「ただ・・・」「ただ?」
「ただ、生徒たちの性癖が歪みそうかなと・・・」
彼は苦笑いしながら答えた。
「もう!何想像してんのよ!!てか私を何だと思ってるのよ!!」
すみれは顔を真っ赤にして怒った。

「冗談だよ、冗談」彼は慌てて弁明する。
「まったくもう・・・」彼女はため息をつくと、
ちょっとだけ考えてから、こう続けた・・・。

「そんな事ばっかり考えて、本当に変態だよね君は!」
「な、なんだよ・・・それ」
ユキヤは不満そうに言う。

「だってそうでしょ?私が生徒に手を出したりとか、
 そんな想像してニヤけてたんでしょ?」
(う・・・)彼は言葉に詰まる。
「図星ね!本当に変態なんだから!」すみれは呆れ顔で言った。
「・・・悪かったよ」彼は観念したように謝った。

(いや待てよ・・・)ここで彼はあることを思いつく・・・。
(そうだ!俺が変態だって言うならさ・・・)
「・・・俺の性癖歪めたのお前だし」
彼はボソッと言った。

「え?」すみれはキョトンとした顔をする。
「いや、なんでもない」ユキヤは慌てて誤魔化す。
(・・・こんな妄想する俺も大概だけどさ)
彼は心の中で呟くと、ため息をついた・・・。

(でも考えてみれば、そもそも俺が浮気を繰り返したから、
こいつは俺をこんな風にしたんだよな・・・)
ユキヤは心の中で思った。

(・・・ということは俺が浮気をしなければ、
普通の関係のままだった?!)
「どうしたの?難しい顔して?」
すみれが不思議そうに尋ねる。

「いや、何でもないよ」彼は慌てて誤魔化した・・・。
(つまり、俺が浮気したばっかりにこいつはこんな風になった?!)
彼はそんな事を考える。
正直、事実とは違うが、 ユキヤにとっては全て真実だった。

(じゃあ、こいつを天然ドSに目覚めさせたのは俺・・・?!)
「おーい?ユキちゃん?」すみれの声で我に返る。
「え?」
「さっきからどうしたのよ?急に黙り込んで・・・」
彼女は心配そうに聞く。

「い、いや別に・・・」彼は慌てて答えた。
「ふーん・・・?」彼女はまだ訝しげな表情だ。
「いや・・・もしも俺たちの関係がこうならなかったらってさ」
彼は咄嗟に誤魔化す。

「え?」すみれはキョトンとした顔になる。
「俺たち、こんなに続いていたかなって・・・?」
ユキヤは疑問をぶつけてみる。

もし以前の関係のままだったら、自分は今でも浮気性のままで、
彼女とは早々に別れていたかもしれない。
そして、また新しい恋人を作ろうとしていたかもしれない。

「うーん・・・確かにそうかも」すみれは少し考えてから答えた。
「じゃあさ、ユキヤは今の関係になって良かったって思ってる?」
「そうだな・・・」彼は少し考えてから答えた。
「・・・良かったと思ってるよ」
(というか、良くなければこんな風に考えないだろう・・・)
彼は思った。

すみれはユキヤの言葉を聞いて微笑むとこう言った。
「私もそう!」
そして、彼女は彼に顔を近づけてキスをした・・・。

ユキヤは前にすみれが自分に
『性癖を歪めた責任はとる』といった事を思い出す。
(でも、さっきの事を考えたら、責任を取るべきは俺なのかも)
ユキヤはそう思うと、キスをしながらすみれをぎゅっと抱きしめた。

おわり
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