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第32話:キミには何も隠せない(その2)

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あれから数日たったが、
まだあの『大人のオモチャ』はすみれに見つかっていない。
しかし、いつ見つかるか分かったものではない。
なので、ユキヤは毎日気が気ではなかった。
(下手に日数が過ぎたせいで、却って言い出し辛くなった・・・)

あの同窓会の日の夜、すみれが寝ている間に、
こっそりディバッグから取り出して、
とりあえず自分用の本棚の奥へと隠した。

ここなら普段本をあまり読まないすみれが近寄らないので、
見つかる心配はない・・・と思い隠したのだが・・・だが、
(本当に見つからないとはなぁ・・・)
とユキヤは逆に心配になっていた。

「どうしたのユキヤ?この前から変だよ?」
すみれが心配げに言ってくる。
「あ、ああ。なんでもないよ」
ユキヤは誤魔化すように答えるのだった。
(こいつに見つかったら何されるか
分かったもんじゃないからな・・・)
そう思いながらも、内心彼は焦っていたのである。
こうして、このはた迷惑な景品は、貰ってきた本人が
気まずい状態のまま、何日も放置された。

***

「最近ユキヤが、なんか変なんだよね・・・
何かこう、コソコソしてるというか」
「・・・あら、あの下僕男、すみれちゃんに隠し事とは、
下僕の分際で生意気な事を致しますのね」

ここは大学のカフェテリア。
すみれは友人である松葉姉妹とお茶を飲んでいた。
姉妹は相変わらずのゴシックドレス姿で、
優雅に立ち振る舞っている。

「いや、まだ隠し事とは決まってないし・・・」
友麻の言葉をすみれが苦笑いして否定する。
「ただ、なんかみょーにソワソワしてるというか・・・
なにかに怯えているというか・・・」
すみれが紅茶に砂糖を入れながら続ける。

「ふふ、白石さん、それはズバリ隠し事をしていますわ。」
結衣が笑いながら言う。
「やっぱり?でも、何を隠してるのかもわかんないんだよね・・・」
すみれがため息をつく。

「ふふ、それはきっとやらしい事ですわよ?」結衣が言う。
「え?!そうなの?!」と驚くすみれ。
「だって昔から殿方が女性に対して必死になって隠す事と言えば、
大体いやらしい事だと決まっていますのよ」
友麻が得意げに言う。

「そ、そういうものなの?」すみれは半信半疑だ。
「ええ、そういうものですわ」結衣がにこやかに答える。
(なんでこの子たちが言うと、妙な説得力があるんだろうか・・・)

「うーんでも、ユキヤに限ってそれはないと思うんだけどなぁ・・・」
とすみれが言う。

「でも見たところ茶木さんは、
そう言った隠し事は苦手なお方とお見受けしましたわ。
だからわかりやすく態度に出ておられるのでは?」
結衣が微笑みながら言う。

「確かに、ユキヤは隠し事が苦手だね」とすみれも同意する。
(・・・まぁでも、あのユキヤの事だし、
どうせ大した事ではないと思うんだけどね・・・)
紅茶を飲みながらすみれはそう考える。

「もしどうしても知りたければ、縛りあげて弱点を責めれば、
きっとすぐに吐いてくれると思いますわよ」
「すみれちゃんならあの下僕男の弱点知り尽くしていますものね。」
「ふふ、そうですわね。」と結衣が友麻が交互に言う。
(・・・なんか怖いこと言ってるなぁ)

「確かに手っ取り早い方法だけど、
私としてはもう少し穏便な方がいいかと・・・」
すみれは二人の会話の内容に、また苦笑いして答える。

「あら、そうかしら?あの下僕男の弱点を責めるなんて、 
暴力に訴えるなどより、よほど穏便な方法だと思いますわよ?」
「それに、あの下僕男、すみれちゃんに殴られても、
泣いて喜びそうですわよ?」
と二人は続けて言う。

「あ、うち痛いのはやってないんで・・・
というかそんな事したら、あれはあれで、
ますます意固地になると思うんで」
すみれは盛り上がる二人を止めるように言う。

「・・・あら、意外と面倒なのですのね。」
「でしたら、もう搦め手で行くしかございませんわね・・・」
と、ここまで言うと結衣はすみれに何かを耳打ちした。

「なるほど、その手があったか・・・」とすみれは頷く。
「ふふ、頑張ってくださいまし」結衣が微笑む。
「うん!ありがとう!」とすみれはお礼を言った。

***

さて、それから数日経ったが・・・
すみれは何も聞かなかった。
ただ時々「ふふ、やっぱりユキヤは隠し事下手だね」と彼女は言う。

(・・・!?)
すみれが何を考えているか知らないユキヤは、
内心ビクビクしていた・・・
(頼むから何も聞かないでくれ・・・)そう思う彼であった。

「大丈夫。私は知ってるから」

「え?」とユキヤは驚く。
(知ってるって・・・まさかこいつ、あの事に気づいてるのか?)
そう思うと彼は冷や汗が出た。だが、平静を装いながら答える。
「・・・な、なんのことだよ!?」
「ふふ、とぼけちゃって」すみれは笑う。
(やっぱり何か感づいてる?!)
ユキヤは更に冷や汗をかいた。

「知ってるって・・・何をだよ?」
ユキヤは青くなりながら恐る恐るすみれに聞く。
「ユキちゃんが一番知ってるんじゃないかな~」
彼女はいたずらっぽく笑いながら言う。
(こいつ・・・まさか気づいてる?!!)
「い、いや、わ、わからないなぁ・・・」とユキヤは答える。
しかしその声はかなり動揺していた。

内心焦りながらも平静を装っているつもりだが、 
心臓はバクバク鳴っていた。
「ふふ、そっかぁ」すみれはそう言って微笑むのであった。
(ま、まさか本当にバレてるのか・・・?!)
彼は内心焦る。

(本当にユキヤは顔に出るなぁ~・・・)
すみれは心の中でクスクスと笑う。
「ユキちゃん、知ってるよ?」
と彼女は言うのであった。

「いや、だから何をだよ?」とユキヤは言う。
(こいつ・・・絶対気づいてるだろ!)彼は内心焦るのであった。

「ふふ、まだしらばっくれるつもりなんだ」すみれは笑う。
「いや、本当に分からないんだって・・・」とユキヤは答えるが・・・

これはすみれが姉妹から教わった作戦であった。
彼女が今実行しているのはただひたすら
『何かを知ってるように振舞う』だけである。
何を知っているかはこの際どうでもいい。
相手にただ『何かを知っている』と思わせればいいのだ。

「ふふ、まだとぼけるつもりなんだ」すみれは微笑む。
「いや、だから知らないってば!」とユキヤは反論する。
(やばい、完全にバレているっぽいぞこれ・・・
どうする?どうやってごまかすか・・・)
とユキヤは思った。しかし良い方法も思いつかずに、 
ただ焦るばかりである。

ユキヤは見事に術中にはまり、精神的に追い詰められていった。

そしてついに観念してしまう。
「お前、知ってるんだろ?」
ユキヤはついに意を決して、すみれに聞くことにした。

「え?何のこと??」(よし!もう一押しだ!)
すみれは心の中でガッツポーズをする。
「・・・とぼけなくていいよ、もう!」
「わからないよ?」さらに推した。
「お前、本当は知ってるんだろ!同窓会で貰って来た景品、
俺が本棚にずっと隠してるの!」とユキヤは怒鳴る。

・・・ご丁寧に隠し場所まで言ってしまった。

「へぇ、そうなんだぁ!」すみれはそう言うやいなや、
本棚に駆け寄った。(これだけ嘘つけない子も珍しいな・・・)
と内心で少し呆れながら・・・。

「?!」ユキヤはすみれの行動が読めない。
「ええと、あホントだ!すき間に何か入ってる!」

「・・・・・あ!ああっ!!!」
ここでユキヤはようやくすみれの術中にハマって、
まんまと自分から白状させられたことに気付く。
(お、俺のバカッ!)
「こら!やめろっ!!!」
ユキヤは必死に抵抗する。
「ふっふっふ、もう遅い!」

だが、そんな抵抗も空しくすみれは本棚から
『大人のオモチャ』を取り出してしまう。

そして取り出したそれをまじまじと見つめ、
「へぇ、こんなのあるんだぁ」と彼女は興味深そうに呟く。

「で、なんで隠してたのかなぁ~」
すみれがニヤニヤと聞いてくる。
「うう・・・」
すみれとは対照的に観念したようにうなだれるユキヤ。

・・・作戦開始から実に4日目のことであった。
とうとうユキヤは、すみれに秘密にしていたことの全てがばれ、
全てを話したのであった。

***
・・・ユキヤとすみれが住む部屋のリビングで。
『大人のオモチャ』がテーブルに置かれていた。
そしてそれを前にユキヤは少し青ざめた顔になっている。

「・・・・。」

沈黙の時が流れる。
「で、なんで隠してたの?」とすみれはユキヤに言う。
「・・・いや、その・・・恥ずかしくて・・・」
とユキヤが答える。

「えぇ?恥ずかしくないよ?今更」と彼女は即答した。
(こいつもこんなのに慣れっこになりやがって・・・)
と苦々しく思いながらも彼は観念するしかなかった。
「・・・なんか日が経てば経つほど、言い出しにくくなって・・・」
ユキヤは言い訳をする。

「で、隠してたと?」すみれが聞く。
「・・・はい」彼は素直に答えるしかなかった。
「ふふ、バカだなぁ~・・・ユキヤは」すみれはそう言って微笑む。
(こいつに言われるのだけは心外だ!)と心の中で思う彼であった。

「俺だって好き好んで貰ってきたわけじゃないよ・・・!」
「ふふ、わかってるよ」とすみれは笑う。
しかしそういいながらもすみれは箱から目を離さない。
(絶対聞いてないなこれは・・・)と思う彼である。

「で、これどういうオモチャなの?」
「知らない。まだ箱開けてないし」
「開けてみてよ」
「・・・わかった。」
ユキヤは箱を開け、中身を取り出す。それは・・・
(うわ!なんだこれ?)
箱の中には透明な棒状のものが入っていた。

「これ、なんだろう?」
「パッケに『透明ディルド』って書いてあるけど・・・」
その名の通り、中に入っていたのは、
クリア素材でで出来たディルドだった・・・。

「へぇ~、こんなのもあるんだね」とすみれが感心する。
(てか透明で何の意味があるんだ?)
とユキヤは思う。

「ねぇ、これ使ってみようよ」すみれは無邪気に言う。
「・・・え?」とユキヤが驚いてすみれの顔を見ると、
嬉しそうに目を輝かせている。
(ダメだ・・・無茶苦茶楽しそうだ。)と思う彼であった。

「だって、せっかく貰ったんだし・・・」
「いや・・・でもさ・・・」
興味津々なすみれとは対照的に、ユキヤは引き気味たった。
「何恥ずかしがってるのよ」と彼女は笑いながら言う。

「どうせ、俺に使うつもりなんだろ・・・」
とユキヤは警戒する。
「ふふ、どうだろうね?」と彼女はいたずらっぽく笑う。
(間違いない!絶対こいつ使ってくる・・・)

「でもなんか、キレイだよね・・・」
と言いながら彼女はそのクリア素材で出来たオモチャを触って、
物珍しそうに眺めていた。

確かに形こそいわゆる大人のオモチャであるが、
透明であることで、独特の禍々しさを軽減している。

「・・・まぁ、確かに透明だとグロくはないな」とユキヤは答える。
「これさ、使ってみない?」とすみれが言う。
(やっぱりか・・・)彼は思ったが、もう諦めたように頷いた。
「はいはい・・・」と答える彼であった。

つづく
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