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第26話:キミの体重が憎い!(その2)
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翌朝。
「うわ、今日バイト早番だった!!」
そう言ってベッドから跳ね起きたユキヤは
シャワーも朝食もそこそこに慌ててバイト先へと向かった。
そうしてあわただしく出て行ったユキヤを見送るとすみれは、
「昨夜の今朝で・・・疲労のひの字もないわね」
昨晩の彼の様子を思い出しながら、少し呆れた表情でつぶやいた。
ふと思い起こせば付き合い始めてから、ユキヤは行為の翌朝でも
ケロリとして大学やバイトに行っている・・・。
前の日にどんなに激しいプレイをしても、翌朝疲労困憊・・・
という事は殆どなかった。
(前に気絶するまでしたときも、腰が痛いだけで済んでたし・・・)
すみれは、ぼんやりと考えた。
(まさかあの無尽蔵のスタミナが太らない原因とか?)
思わずそんな想像をしてしまう。
(いや、さすがにそれはないか)すみれは苦笑した。
いずれにしても、あれだけの甘党で、
しかも、いくら食べても太らないユキヤの体質は
すみれにとって羨ましくもあり、憎たらしくもあった。
***
しかし数日後、事態は一変する。
すみれの体重が1キロ増えていたのだ・・・。
(あんなにごはん減らして、運動もしてるのに・・・)
すみれは愕然とする。
そして彼との夜の生活の事を思い出し、
(もしかして、ユキヤの精気を吸ってる・・・?)
すみれの頭にそんな考えがよぎった。しかし、すぐに否定する。
(・・・って何バカなこと考えてるのよ私!!)
バカな発想は置いておいて、体重が増えたのは現実である。
ユキヤの言葉を借りれば「1キロぐらい誤差」なのだが、
されど1キロだ。
すみれは、この状況を何とかしなければと思った。
(とりあえず、食事制限ね・・・)
そう考えた彼女は、ユキヤに内緒でダイエットを始めることにした。
(余計な心配させても悪いもんね・・・)
などと決意を固めたところに、ユキヤが帰宅した。
「だだいま~」
いつもよりちょっと機嫌がいい。「おかえり、今日はご機嫌ね」
すみれはユキヤの様子が気になった。
「・・・ま、ちょっとした目的を果たしたからな」
「何を?」
「学校内のカフェテリアのスィーツメニュー全制覇!」
ユキヤがドヤ顔で報告する。
「・・・く、くだらない」
すみれは頭を抱えた。「また変な事やって・・・」
「まあまあ、この2週間ほど楽しかったし」
ユキヤは満面の笑みを浮かべる。
ここまで聞いて、すみれの脳内では、あることが思い出される。
(待って・・・ここ2週間って事は、いつぞやの体重減った時も
現在進行形で、スイーツ食べまくっていたって事になるよね?
いや、まさかそんな・・・ね?)
自分の中でちょっと嫌な結論が出るのが分かる・・・。
「・・・もしかして、ここ暫くずっとそんな亊やってたの?」
すみれが世にも恨めしそうな顔で尋ねる。
「ん、まあそうだな」
ユキヤは何でもないと言った感じで答える。
「・・・へえ、そんな事やってても君は体重減るんだ。」
「え?」
数日前の事を思い出し、すみれの目の前は真っ暗になり、
彼女の声のトーンがだんだん落ちていく。
「そ、そんなに落ち込まないでよ。」
ユキヤはいまいち自体が呑み込めないながらも、
すみれをなだめるように言う。
「・・・・」
すみれは黙ってしまう。
「・・・」
ユキヤは心配そうに彼女の顔を見つめる。
しばらくの沈黙の後、すみれが口を開く。
「・・・わかった」
「何が?」
「私もう今日ご飯食べない!」
「え、なんで?!」
突然そんなことを言いだしたすみれにユキヤは困惑する。
「・・・とにかく食べないったら食べない!」
すみれはムキになって言い返す。
「ちょ、ちょっと落ち着けよ!」
ユキヤは慌てて彼女をなだめる。
しかし、彼女は聞く耳を持たないようだった。
「ご飯いらない!食べない!」
そう叫ぶと、すみれはそのまま寝室へと行ってしまった。
***
「・・・とまぁその後何とか宥めて、説得して、
やっとご飯半分は食べさせたんですが。」
翌日、ユキヤはバイト先の喫茶店で、
常連客の浅葱に昨夜のことを愚痴っていた。
「それは大変でしたっスね・・・
でも体重は女の子にとってはデリケートな問題っスからね」
浅葱は苦笑いを浮かべながら言う。「そうなんですよね・・・」
ユキヤも思わず苦い顔をする。
「でも、ちゃんとフォローしてあげないと
すみれちゃん怒りっぱなしっスよ」
「・・・善処します」
「あんまり怒らせてると八つ当たりで
寸止め地獄にされるかもっスね」
「浅葱さん・・・その、あんまり露骨な表現は・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして言う。「おっと、つい口が滑ったっス」
浅葱はぺろりと舌を出しておどける。
「・・・冗談はさておき、
いくらダイエットでも、無理に食べないってのは
身体にもよくないと思うんですよ俺は。」
ユキヤはそう言うと心配そうにため息を吐いた。
「そうっスね、あんまりストレス溜め込むと
また調子崩すかもしれないですし」
浅葱も心配そうに言う。「たかが体重ぐらいでなぁ・・・」
ユキヤは再びため息を吐いた。
「こら!そんなこと言ってると
またすみれちゃんを怒らせるっスよ」
浅葱がユキヤを嗜める。「あ、すみません・・・」
「ま、でも大丈夫っスよ。そんなに思い詰めなくても」
浅葱は優しい口調で言う。「そうですかね?」
ユキヤは少し安心したように言う。
「すみれちゃんは怒ったり落ち込んだりしても、
根はしっかりして、立ち直りも早い子っスから、
きっとすぐに仲直りできると思うっス」
「だといいんですが・・・」
「そんなに心配なら、ちゃんとフォローしてあげないとダメっスよ」
浅葱がそう言うと、ユキヤは頷いた。
***
しかし、そんなユキヤの心配をよそに
すみれのダイエットは止まらなかった。
「ごちそうさま、今日もおいしかった」
そう言って箸を置くと、そそくさと食器を片付ける。
あれからもすみれは食事量を減らし続け、
1週間も過ぎる頃にはいつもの3分の1になっていた。
ユキヤはそんなすみれの様子を心配そうに見つめ、
「おい、いくらなんでも減らしすぎだろ・・・」というが
「大丈夫だよ、これくらい・・・」
すみれはユキヤに笑いかける。
しかし、その笑顔にはいつもの覇気がない。
心なしか顔色もよくない感じがする。
「でも、やっぱり食べなさすぎだって・・・」
ユキヤは心配そうに言う。
するとすみれは首を横に振るとこう言った。
「いいの、食べなければその分体重も減るし」
「・・・いや、そういう問題じゃないだろ」
ユキヤが反論しようとするが、それを遮るようにすみれは言う。
「とにかく、私は大丈夫だから。」
そう言ってすみれは大学へと出かけて行った。
(・・・大丈夫じゃないだろ)
ユキヤは心の中で呟くと、頭を抱えた。
(あいつがあんなに頑固とは思わなかったぞ・・・)
ユキヤは頭を抱えながら、自分の無力さを痛感していた。
(・・・でも、このままじゃダメだ)彼は少し考えて、
「よし!」と気合を入れると、立ち上がった。
***
すみれが大学内で倒れたという知らせをユキヤが聞いたのは、
その数日後の事であった。
「すみれ、大丈夫か!?」
ユキヤは慌てて大学内の保健センターに駆け込む。
そこにはベッドの上で眠るすみれと友人のひなのがいた。
「あ、茶木くん」
ひなのが振り返る。彼女は心配そうにすみれを見つめていた。
「何があったんだ?」
ユキヤは尋ねる。すると、ひなのは答えた。
「お腹がすき過ぎて、目をまわしただけよ・・・」
「は?」
ユキヤは思わず聞き返す。すると、ひなのは答えた。
「だから、お腹がすき過ぎて倒れたのよ」
「なんだ、そういうことか・・・」
ユキヤはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、ひなのの表情は暗いままだった。
「・・・こんなの笑えないわよ。」
ひなのは呆れたように続けた。
「・・・まったく、この子ってば今日はお昼も食べなかったのよ」
彼女はぽつりと呟いた。「え、なんで?」
ユキヤは首を傾げる。するとひなのは答えた。
「・・・ダイエットだって」
「はぁ?!」
ユキヤは思わずため息をつく。「まったく、すみれは・・・」
「とにかく茶木くん、すみれのことお願いね。」
ひなのは言う。「ああ・・・」
ユキヤは力なく頷いた。
***
帰り道。
ユキヤはすみれを背負っていた。「まったく、世話の焼けるやつだよ・・・」
ユキヤは呆れたように呟く。すみれは眠ったままだ。「・・・」
彼は無言で歩き続ける。
暫くして、すみれが背中で目を覚ました。
「・・・あれ、私どうしたの?」
「お前、大学で倒れてたんだよ」
ユキヤは歩きながら答える。「え、そうなの!?」
彼女は驚きの声を上げた。そして申し訳なさそうな顔で謝る。
「ごめん・・・迷惑かけちゃって・・・」
すみれは謝るが、ユキヤは無言で歩き続ける。「ねぇ、怒ってる?」
すみれは心配そうに尋ねる。しかし、ユキヤは何も答えなかった。
そんな無言の時間がしばらく続くと、すみれが口を開く。
「・・・ごめんってば」
彼女は消え入りそうな声で言う。するとようやくユキヤが口を開いた。
「別に怒ってねぇよ」ユキヤはぶっきらぼうに答える。
「嘘、怒ってるでしょ」
すみれは言うが、彼は再び沈黙した。そして小さな声で呟くように言う。
「・・・お前、ダイエットの必要ないよ」
「な・・・何言って・・・?!」
すみれは驚いた表情を見せる。そして反論した。
「やだ、なんでそんなこと言うの!?」
そんなすみれを背負ったまま、ユキヤは目も合わせず、
「・・・いいか一度しか言わないぞ。」と前置きしてから言う。
「今のお前は・・・俺がこうして背負って帰れるぐらい軽い。」
「・・・」
すみれは黙って聞いていた。ユキヤは続ける。
「・・・だから、無理に痩せようとなんかするな!」
「・・・でも」と言いかけたところで、
ユキヤは遮るように言った。
「それに、俺は今のままのお前が一番好きだよ」
(・・・え?)すみれは思わずドキッとする。
話してる間、ユキヤは前を向いたままなので、
背負われているすみれからはその顔は見えない。
「ユキヤ・・・今のって・・・?」
「だから、一度しか言わないって言っただろ!」
ユキヤはぶっきらぼうに答える。
「・・・・」すみれは真っ赤になったまま黙ってしまう。
そして、小さな声で呟いた。「・・・ありがと」
「ああ・・・」ユキヤも照れ臭そうに答える。
ユキヤはまだすみれを背負って歩いている。
「あのさ、そろそろ下ろしてくれてもいいよ?」
すみれがそう声を掛けるが
「大丈夫だって言ってるだろ!」
と今度はユキヤの方が意地になってしまう。
すみれを下ろして目が合ってしまうのが気まずいようだ。
「でも、私重いでしょ?」すみれは心配そうに尋ねる。
「重くない!」ユキヤは即答する。
(・・・まあ、そろそろ腕は疲れてきてるけど)
と心の中で呟くが、口にはしない。
そして、ユキヤは本当にすみれを背負ったまま
家まで帰ってしまった・・・。
つづく
「うわ、今日バイト早番だった!!」
そう言ってベッドから跳ね起きたユキヤは
シャワーも朝食もそこそこに慌ててバイト先へと向かった。
そうしてあわただしく出て行ったユキヤを見送るとすみれは、
「昨夜の今朝で・・・疲労のひの字もないわね」
昨晩の彼の様子を思い出しながら、少し呆れた表情でつぶやいた。
ふと思い起こせば付き合い始めてから、ユキヤは行為の翌朝でも
ケロリとして大学やバイトに行っている・・・。
前の日にどんなに激しいプレイをしても、翌朝疲労困憊・・・
という事は殆どなかった。
(前に気絶するまでしたときも、腰が痛いだけで済んでたし・・・)
すみれは、ぼんやりと考えた。
(まさかあの無尽蔵のスタミナが太らない原因とか?)
思わずそんな想像をしてしまう。
(いや、さすがにそれはないか)すみれは苦笑した。
いずれにしても、あれだけの甘党で、
しかも、いくら食べても太らないユキヤの体質は
すみれにとって羨ましくもあり、憎たらしくもあった。
***
しかし数日後、事態は一変する。
すみれの体重が1キロ増えていたのだ・・・。
(あんなにごはん減らして、運動もしてるのに・・・)
すみれは愕然とする。
そして彼との夜の生活の事を思い出し、
(もしかして、ユキヤの精気を吸ってる・・・?)
すみれの頭にそんな考えがよぎった。しかし、すぐに否定する。
(・・・って何バカなこと考えてるのよ私!!)
バカな発想は置いておいて、体重が増えたのは現実である。
ユキヤの言葉を借りれば「1キロぐらい誤差」なのだが、
されど1キロだ。
すみれは、この状況を何とかしなければと思った。
(とりあえず、食事制限ね・・・)
そう考えた彼女は、ユキヤに内緒でダイエットを始めることにした。
(余計な心配させても悪いもんね・・・)
などと決意を固めたところに、ユキヤが帰宅した。
「だだいま~」
いつもよりちょっと機嫌がいい。「おかえり、今日はご機嫌ね」
すみれはユキヤの様子が気になった。
「・・・ま、ちょっとした目的を果たしたからな」
「何を?」
「学校内のカフェテリアのスィーツメニュー全制覇!」
ユキヤがドヤ顔で報告する。
「・・・く、くだらない」
すみれは頭を抱えた。「また変な事やって・・・」
「まあまあ、この2週間ほど楽しかったし」
ユキヤは満面の笑みを浮かべる。
ここまで聞いて、すみれの脳内では、あることが思い出される。
(待って・・・ここ2週間って事は、いつぞやの体重減った時も
現在進行形で、スイーツ食べまくっていたって事になるよね?
いや、まさかそんな・・・ね?)
自分の中でちょっと嫌な結論が出るのが分かる・・・。
「・・・もしかして、ここ暫くずっとそんな亊やってたの?」
すみれが世にも恨めしそうな顔で尋ねる。
「ん、まあそうだな」
ユキヤは何でもないと言った感じで答える。
「・・・へえ、そんな事やってても君は体重減るんだ。」
「え?」
数日前の事を思い出し、すみれの目の前は真っ暗になり、
彼女の声のトーンがだんだん落ちていく。
「そ、そんなに落ち込まないでよ。」
ユキヤはいまいち自体が呑み込めないながらも、
すみれをなだめるように言う。
「・・・・」
すみれは黙ってしまう。
「・・・」
ユキヤは心配そうに彼女の顔を見つめる。
しばらくの沈黙の後、すみれが口を開く。
「・・・わかった」
「何が?」
「私もう今日ご飯食べない!」
「え、なんで?!」
突然そんなことを言いだしたすみれにユキヤは困惑する。
「・・・とにかく食べないったら食べない!」
すみれはムキになって言い返す。
「ちょ、ちょっと落ち着けよ!」
ユキヤは慌てて彼女をなだめる。
しかし、彼女は聞く耳を持たないようだった。
「ご飯いらない!食べない!」
そう叫ぶと、すみれはそのまま寝室へと行ってしまった。
***
「・・・とまぁその後何とか宥めて、説得して、
やっとご飯半分は食べさせたんですが。」
翌日、ユキヤはバイト先の喫茶店で、
常連客の浅葱に昨夜のことを愚痴っていた。
「それは大変でしたっスね・・・
でも体重は女の子にとってはデリケートな問題っスからね」
浅葱は苦笑いを浮かべながら言う。「そうなんですよね・・・」
ユキヤも思わず苦い顔をする。
「でも、ちゃんとフォローしてあげないと
すみれちゃん怒りっぱなしっスよ」
「・・・善処します」
「あんまり怒らせてると八つ当たりで
寸止め地獄にされるかもっスね」
「浅葱さん・・・その、あんまり露骨な表現は・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして言う。「おっと、つい口が滑ったっス」
浅葱はぺろりと舌を出しておどける。
「・・・冗談はさておき、
いくらダイエットでも、無理に食べないってのは
身体にもよくないと思うんですよ俺は。」
ユキヤはそう言うと心配そうにため息を吐いた。
「そうっスね、あんまりストレス溜め込むと
また調子崩すかもしれないですし」
浅葱も心配そうに言う。「たかが体重ぐらいでなぁ・・・」
ユキヤは再びため息を吐いた。
「こら!そんなこと言ってると
またすみれちゃんを怒らせるっスよ」
浅葱がユキヤを嗜める。「あ、すみません・・・」
「ま、でも大丈夫っスよ。そんなに思い詰めなくても」
浅葱は優しい口調で言う。「そうですかね?」
ユキヤは少し安心したように言う。
「すみれちゃんは怒ったり落ち込んだりしても、
根はしっかりして、立ち直りも早い子っスから、
きっとすぐに仲直りできると思うっス」
「だといいんですが・・・」
「そんなに心配なら、ちゃんとフォローしてあげないとダメっスよ」
浅葱がそう言うと、ユキヤは頷いた。
***
しかし、そんなユキヤの心配をよそに
すみれのダイエットは止まらなかった。
「ごちそうさま、今日もおいしかった」
そう言って箸を置くと、そそくさと食器を片付ける。
あれからもすみれは食事量を減らし続け、
1週間も過ぎる頃にはいつもの3分の1になっていた。
ユキヤはそんなすみれの様子を心配そうに見つめ、
「おい、いくらなんでも減らしすぎだろ・・・」というが
「大丈夫だよ、これくらい・・・」
すみれはユキヤに笑いかける。
しかし、その笑顔にはいつもの覇気がない。
心なしか顔色もよくない感じがする。
「でも、やっぱり食べなさすぎだって・・・」
ユキヤは心配そうに言う。
するとすみれは首を横に振るとこう言った。
「いいの、食べなければその分体重も減るし」
「・・・いや、そういう問題じゃないだろ」
ユキヤが反論しようとするが、それを遮るようにすみれは言う。
「とにかく、私は大丈夫だから。」
そう言ってすみれは大学へと出かけて行った。
(・・・大丈夫じゃないだろ)
ユキヤは心の中で呟くと、頭を抱えた。
(あいつがあんなに頑固とは思わなかったぞ・・・)
ユキヤは頭を抱えながら、自分の無力さを痛感していた。
(・・・でも、このままじゃダメだ)彼は少し考えて、
「よし!」と気合を入れると、立ち上がった。
***
すみれが大学内で倒れたという知らせをユキヤが聞いたのは、
その数日後の事であった。
「すみれ、大丈夫か!?」
ユキヤは慌てて大学内の保健センターに駆け込む。
そこにはベッドの上で眠るすみれと友人のひなのがいた。
「あ、茶木くん」
ひなのが振り返る。彼女は心配そうにすみれを見つめていた。
「何があったんだ?」
ユキヤは尋ねる。すると、ひなのは答えた。
「お腹がすき過ぎて、目をまわしただけよ・・・」
「は?」
ユキヤは思わず聞き返す。すると、ひなのは答えた。
「だから、お腹がすき過ぎて倒れたのよ」
「なんだ、そういうことか・・・」
ユキヤはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、ひなのの表情は暗いままだった。
「・・・こんなの笑えないわよ。」
ひなのは呆れたように続けた。
「・・・まったく、この子ってば今日はお昼も食べなかったのよ」
彼女はぽつりと呟いた。「え、なんで?」
ユキヤは首を傾げる。するとひなのは答えた。
「・・・ダイエットだって」
「はぁ?!」
ユキヤは思わずため息をつく。「まったく、すみれは・・・」
「とにかく茶木くん、すみれのことお願いね。」
ひなのは言う。「ああ・・・」
ユキヤは力なく頷いた。
***
帰り道。
ユキヤはすみれを背負っていた。「まったく、世話の焼けるやつだよ・・・」
ユキヤは呆れたように呟く。すみれは眠ったままだ。「・・・」
彼は無言で歩き続ける。
暫くして、すみれが背中で目を覚ました。
「・・・あれ、私どうしたの?」
「お前、大学で倒れてたんだよ」
ユキヤは歩きながら答える。「え、そうなの!?」
彼女は驚きの声を上げた。そして申し訳なさそうな顔で謝る。
「ごめん・・・迷惑かけちゃって・・・」
すみれは謝るが、ユキヤは無言で歩き続ける。「ねぇ、怒ってる?」
すみれは心配そうに尋ねる。しかし、ユキヤは何も答えなかった。
そんな無言の時間がしばらく続くと、すみれが口を開く。
「・・・ごめんってば」
彼女は消え入りそうな声で言う。するとようやくユキヤが口を開いた。
「別に怒ってねぇよ」ユキヤはぶっきらぼうに答える。
「嘘、怒ってるでしょ」
すみれは言うが、彼は再び沈黙した。そして小さな声で呟くように言う。
「・・・お前、ダイエットの必要ないよ」
「な・・・何言って・・・?!」
すみれは驚いた表情を見せる。そして反論した。
「やだ、なんでそんなこと言うの!?」
そんなすみれを背負ったまま、ユキヤは目も合わせず、
「・・・いいか一度しか言わないぞ。」と前置きしてから言う。
「今のお前は・・・俺がこうして背負って帰れるぐらい軽い。」
「・・・」
すみれは黙って聞いていた。ユキヤは続ける。
「・・・だから、無理に痩せようとなんかするな!」
「・・・でも」と言いかけたところで、
ユキヤは遮るように言った。
「それに、俺は今のままのお前が一番好きだよ」
(・・・え?)すみれは思わずドキッとする。
話してる間、ユキヤは前を向いたままなので、
背負われているすみれからはその顔は見えない。
「ユキヤ・・・今のって・・・?」
「だから、一度しか言わないって言っただろ!」
ユキヤはぶっきらぼうに答える。
「・・・・」すみれは真っ赤になったまま黙ってしまう。
そして、小さな声で呟いた。「・・・ありがと」
「ああ・・・」ユキヤも照れ臭そうに答える。
ユキヤはまだすみれを背負って歩いている。
「あのさ、そろそろ下ろしてくれてもいいよ?」
すみれがそう声を掛けるが
「大丈夫だって言ってるだろ!」
と今度はユキヤの方が意地になってしまう。
すみれを下ろして目が合ってしまうのが気まずいようだ。
「でも、私重いでしょ?」すみれは心配そうに尋ねる。
「重くない!」ユキヤは即答する。
(・・・まあ、そろそろ腕は疲れてきてるけど)
と心の中で呟くが、口にはしない。
そして、ユキヤは本当にすみれを背負ったまま
家まで帰ってしまった・・・。
つづく
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