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第3話:新しい生活の中で、僕たちは揺れ動く(その3)

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「・・・ユキヤ?!」
「すみれ・・・」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
「・・・・」「ユキヤ、ちょっと落ち着いて・・・」

「ごめん・・・俺の中で何かが・・・止まらない」
「え、ちょっと、ユキヤ!!」
ユキヤはすみれを離さなかった。

「この前からお前を見てると、変な感情が湧いて・・・
それが何だか分からなかった。」
「ユキヤ・・・」
「でも今、やっと分かった。俺の中で誰かが
『このままじゃダメだ』って言ってる・・・」
「それってどういうこと?」
「分からない。それに俺がどうしたらいいのかも分からない・・・」
(さっきからのもどかしさの正体はこれだったんだ・・・)
ユキヤは困惑していた。自分でも自分の感情を制御できない・・・。

すみれはそんなユキヤの様子を見ながら考える。
(これは、ひょっとすると男の子の意識が出てる?!)
ユキヤの表情から、ユキヤの心境の変化を読み取ったすみれはそう思った。
(これは、元に戻すチャンスかもしれない・・・!)
すみれはユキヤの身体をギュッと抱き締めた。
「ユキヤ、大丈夫だよ。私はどんな君でも好きだから安心して。」
「すみれ・・・」

(・・・とはいっても私もどうしたらいいのか分からない)
すみれはユキヤの身体を抱きながら考えていた。
すると、ユキヤはすみれの身体に手を回してきた。
「ユキヤ・・・」
ユキヤはしばらくすみれの身体を撫でていた。

「ユキヤ、落ち着いた?」
「うん、ありがとう。と、とりあえず・・・俺、懐中電灯持ってきてあげるよ」
「あ、そうだね。お願いしようかな」
すみれはユキヤの身体から離れ、台所に向かおうとする。
その瞬間

ガタンッ!

ユキヤが前方にすっころんだ。

かなり動揺していたのと、停電の暗がりで何かにつまずいたらしい。

転んで倒れたままのユキヤに、すみれは駆け寄る。
「ユキヤ!!大丈夫?!」
先ほどの買い物袋に顔を突っ込んでいたユキヤの顔をすみれは覗き込む。
「いたたた、何にもないところでコケちゃったよ」
ユキヤは照れ笑いしながら起き上がる。
「もう、気をつけてよね」
「冷た・・・」
買い物袋の一番上にあった豆腐に顔をぶつけたようだった。
ビニール袋に包まれていたおかげで中身は外に飛び出していなかったが、
袋の中でパックは破裂していた。

「すまん、豆腐一丁無駄にしちまった・・・」
「まぁ、しょうがないね。また買えばいいし」
「そっか・・・しかしもったいなねーなぁ・・・」
(え?!)
すみれはここでふと、何かに気付く。

「あれ?ユキヤ、喋り方・・・」

「え?別に何でもないぜ?」
ユキヤはいつもの調子で返す。

「え?だって、普通に喋ってるじゃん」
「え?え?何の事?」
(え?気付いてない?・・・そっか自覚もなかったっけ)
すみれは思い直す。

「ううん、なんでもない。ちょっと気になっちゃって」
「そうか。ならいいけど・・・あーあ、いい男が台無しだぜ」
「それよりさ、早く懐中電灯取りに行かないと」
「ああ、そういえばそうだったな」

ユキヤはすっかり元に戻っていた・・・。

「・・・・・・」
すみれはしばらく黙ってユキヤを見つめていた。
「なんだよ、俺の顔になんかついてるか?」
「いや、ユキヤがちゃんとしてるなって思って」
「なんだそりゃ」
ユキヤは苦笑する。

(よかった、元に戻ったみたい・・・でもなんで?)
「じゃ、俺は懐中電灯取ってくるから」
そう言ってユキヤは台所に入る。

台所の入り口には先ほどの買い物袋と潰れた豆腐があった。
(まさか・・・これが?)
すみれはその豆腐を拾い上げ、まじまじと見る。
「ん?どうしたんだ?すみれ」
「・・・豆腐の角に頭ぶつけて・・・」
「は?」
(何よこの・・・冗談みたいなオチは?!)
すみれは心の中で叫ぶ。
そして全身の力が抜ける・・・。

「あ、その豆腐どうすんの?捨てるの?」
そんなすみれにユキヤが後ろから声をかけた。
「・・・使うわよ」
「え?だって半分以上つぶれてるじゃん?」
「君はいっぺん豆腐の角に頭ぶつけた方がいいってよくわかった・・・」
「い、意味がわかんねえぞ」

(・・・とはいっても無自覚だから怒っても仕方ないんだよね)
すみれは呆れながらも、どこかほっとした気持ちになっていた。
「だからどうしたんだよ?」
「ううん・・・わたしはどっちのユキヤも好きなんだなって、
あらためて実感した」
「お、おう・・・ありがとよ」

ほどなくして部屋に明かりが戻る。「おっ、思ったより早く戻ったな!」
「そうだね」
すみれはユキヤのことを抱きしめる。
「おかえり・・・」
「ど、どうしたんだよ?」
「いいから」
すみれはユキヤの頭を撫でる。

「大体先に抱き付いてきたのはそっちだよ」
「う・・・!」ユキヤは口ごもる。
(あれ?そういや俺どうして抱き付いたんだっけ・・・?)
頭の中に靄がかかったようにうまく思い出せない。

「ほら、ユキヤもぎゅってしてよ」「え?あ、ああ」
言われるままにユキヤはすみれを優しく抱く。
「ふふっ、ユキヤ可愛い♪」
すみれは嬉しそうな声でユキヤを褒める。
「な、何でこんなことになってるのか全然わからないんだけどなぁ~」
ユキヤは照れたような口調で呟いた。

「それはね、ユキヤのことが大好きで、ユキヤを愛おしくて、
ユキヤを離したくないって思ったからだね」
「そ、そうか・・・」
「ねぇ、ユキヤはどんな風に思ってくれてるのかなぁ」
「そ、そりゃ俺も同じだけどさ・・・」
ユキヤは恥ずかしそうに言う。
「嬉しいな。じゃあ、もっと強くギュッてしてくれる?」
「ああ、もちろんだ」
ユキヤはさらに力を込めてすみれを抱き締めた。

「ちょっとシャワー浴びようか・・・?」
「そうだな。結構汗かいたし」
「じゃあ、背中流してくれないか?」
「いいぜ」
二人は浴室へと入っていった。

****

(別に体型は変わってないよなぁ・・・)
ユキヤは浴槽に浸かりながら自分の身体を見る。
そこには見慣れた自分の身体があった。
(・・・まあいいか)
「はー気持ち良い。ユキヤの肌って綺麗だよねぇ」
隣では全裸のすみれが座っている。
「そ、そうかな」「なんか手入れとかしてんの?」
「・・・毎朝ボディシェーバーで処理した後、お前から貰った
ボディケアローション塗ってるぐらいだが。」
前述したとおり、ユキヤは体毛の処理を(下の毛以外は)
恥とも苦とも思っていない。

「へぇ、それだけなんだ。やっぱり若いからなのかなぁ」
「そういうもんかね」
「・・・でも、ユキヤの身体の方が好きだよ」
「そうかい」
ユキヤは自分の身体を見回す。
「・・・確かに傷一つ無いけどな」
ユキヤは苦笑する。

「でもあんまり自慢にはならない気がするけどな」
そう言いつつユキヤは自分の腕に触ってみる。
「あ、そういう意味で言ったんじゃなくてさ」
ユキヤはちょっと間をおいて
「・・・この際だから聞くけど、俺って女っぽくなってるか?」と聞く。
「ううん。全然。むしろ男っぽく逞しくなったと思うよ」
「そうか・・・」「でもなんでそんなこと聞くの?」
「いやその・・・・」ユキヤ少し口ごもってから
「実は最近ちょっと気になる事があってさ」と言う。

「へぇ。どんな?」
「ん・・・」
ユキヤは少し躊躇う。
(言ってもいいものなのかな・・・)
「いいから言っちゃいなよ。わたし達恋人同士なんだし」
「そ、それもそうか」
「ほら早く」
「わ、わかった」
(こいつには隠し事は通用しないもんな)
「じ、実はさ・・・俺、女の子みたいになってきてるような気がして・・・」
「ふぅん」
すみれは興味深げにユキヤの顔を覗き込む。

「だって・・・その、ああいうH繰り返してると、
身体も心も女っぽくなるって何かで・・・」
「それで?」
「そのうち身も心も女になるんじゃないかって・・・」
「大丈夫だよ」
すみれは笑顔で言う。

「それ迷信だし」「え?」
「まあ、そう思うのはわかるけどね。結構ネットとかでも
まことしやかに囁かれてるから」
「そうだったのか・・・」
ユキヤは安堵した表情を浮かべる。

「だって前立腺って精子を作る場所だよ?
そこを刺激されて活性化するのは男性ホルモンだし、
イキ方が女の子っぽいからって、それだけで女性ホルモンが
過剰に分泌されたりはしないんじゃないかな?」
「じゃあ、精神的に女性化するってのは・・・?」
「そういうイキ方繰り返してると気持ち的にも感化されて
『女の子になりたい』願望が強化されるとか?
私も精神的な方はよくわからないけど・・・」
「なるほど」
ユキヤは納得する。

「肌がきれいになってきたのは、最近きちんと手入れしてるせいだと思うし、
乳首が大きくなってるのは、単に弄り過ぎた刺激によるものだと思うし・・・」
「・・・」
ユキヤは思わず黙ってしまう。

一方すみれの方は、自分で説明してて、ユキヤがどうして
(一時的とはいえ)急に女性っぽい状態になったのかを
なんとなく理解できた気がした。
「・・・きみはつくづく暗示にかかりやすいよね」
「うっ・・・」
ユキヤは少しバツの悪そうな顔になる。
「まあ、でも仕方ないか。こんな可愛いんだし」
すみれは優しく微笑みかける。
「それにさ、実際女の子みたいに感じちゃってるわけだしさ」
「そ、それは言わないでくれよぉ・・・」
ユキヤの顔は真っ赤に染まる。

「あはは、ごめんごめん。つい可愛くてさ」
「ったく・・・」
「でもさ、そんな風に恥ずかしがったり、
照れたりするところもすっごく可愛いよ」
すみれが言うと、ユキヤはさらに顔を赤くする。
「ば、馬鹿野郎・・・」
「ほんとのことなんだからしょうがないじゃん」
「お前なぁ・・・」
ユキヤはすみれを睨む。

「お、怒った?」
すみれは不安げな顔になる。
「怒ってはいないけど・・・お前妙に詳しいな?」
ユキヤが不思議そうな顔をする。
「そ、そうかな?これぐらい普通だと思うけど・・・」
すみれはごまかすように笑ったが、これにはちゃんと訳があった。

実を言うと、以前すみれもまったく同じようなことを疑問に思って、
知り合いである保険医の沙由美に相談していた。
そして、同じく沙由美から一笑に付され、
返ってきた答えがこれだったのだ。
そのあたり、どこまでも似たもの同士なのかもしれない。

「まぁ、とにかくこの程度じゃ身体にも心にも
そんなに劇的な変化は起こらないから大丈夫だって」
「そうか。ならいいんだけど・・・」
「それよりさ、この後どうする?」
すみれはユキヤの身体を撫でながら聞く。
「そうだな・・・ひとまず上がるか。それから考えよう」

二人は風呂から上がった。

****
風呂上り。
ふたりは簡単な夕食をすますと、リビングでまったりしてた。

「・・・しかし、あの停電は参ったな。こんなことになるなんて
想像もしていなかったし」
「でも、結果的にこうやって二人で過ごせるんだから、結果オーライじゃない?」
「まぁ、それもそうか」
ユキヤは苦笑いを浮かべる。
(まぁユキヤも元に戻ったしね。)
すみれは内心でつぶやく。

「なぁ、ここ何日か俺おかしかったか?」
ユキヤが不安げに聞いてくる。
「うーん、まぁちょっとだけ変だったかも」
(あれ?もしかして自覚あったとか?)
「やっぱりそうか。なーんか頭の中に靄がかかった感じがして、
はっきりしない部分が多くてさ。」
ユキヤは少し落ち込んだ様子で話す。

「まぁ、別に大したことないと思うし、気にしない方がいいんじゃない?」
すみれが慰めるように言う。
「そうだな。あまり気にし過ぎても仕方ないか」
ユキヤは少しほっとした表情になる。

「そうそう、さっきも言ったけど、君がどうなっても
私が好きなのは変わらないからね」
すみれは微笑みかける。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」
ユキヤもそれに返すように笑う。そして、
そのまま自然な動作でキスをする。

「・・・ところで、今日の夜は何したい?」
唇を離すと、すみれが悪戯っぽい笑みで尋ねる。
今日はちょっとだけ男としてのユキヤを尊重してあげたくなっていた。
「今日はユキヤの意見を聞きたいかなって」
「えっと、その・・・」
ユキヤは顔を赤くして黙り込んでしまう。

「ふーん、ユキヤは私に何をして欲しいのかな?
ちゃんと言わないとわからないわよ」
すみれはわざとらしく首を傾げる。
「えー、いや、そんなこと急に言われても・・・」
ユキヤは恥ずかしくて言葉が出てこない。

「ほら、ちゃんと教えてくれなきゃ」
すみれはゆっくりと近づいていく。
「えー、あー、だから・・・」
ユキヤは追い詰められていく。
すみれは意地悪そうな顔で迫る。
「・・・・・・・・・」
ユキヤの顔はさらに赤くなる。

そして覚悟したようにそっと耳打ちする。
「え?!・・・そんなことを・・・」
すみれはユキヤの言葉を聞いて驚く。
「ででででも・・それって・・・ほ、本気で言ってる?!」
すみれが真っ赤になり、かつてないほど動揺していた。

「・・・うん・・・」
ユキヤの方も消え入りそうな声で真っ赤になって答える。
「・・・女の子の気持ちがわかるようになった・・・今なら・・・
前みたいなことにならないと思うし・・・」
ユキヤは真剣な顔ですみれを見つめる。
「・・・わかった。じゃあ、やってみようか」
すみれは少し考えてから答える。
「・・・いいの?」
ユキヤは恐る恐る聞く。

「う、うん、ユキヤの希望なら、出来るだけ聞くよ」すみれは優しく答えた。
でもまだ動揺してるのは隠せない。

「ありがと」
ユキヤは照れくさそうに笑う。
「ただ、一つだけ条件があるの」
すみれはユキヤの目をじっと見ながら話を続ける。
「なに?」
「私のことも、優しく可愛がってね」「もちろんだよ」
ユキヤは笑顔で答える。「約束できる?絶対に無理はしないこと」
「わかっているよ。心配しないで」
ユキヤは穏やかな口調で話す。
「もし、辛くなったらすぐに中止するから。その時はすぐに言って」
すみれもユキヤの目をまっすぐに見据えて話す。

「・・・わかった。じゃあ先に寝室に行ってて。」
ユキヤはすみれの目を見ながら返事をした。


つづく
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