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第2話:新しい生活の中で、僕たちは揺れ動く(その2)
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「なるほど?それで困ってるってわけっスか?」
すみれから話を聞いて浅葱はため息を吐く。
「ええ、正直どうして良いかわからなくて・・・」
すみれは、ここ最近のユキヤの変化について浅葱に相談していた。
ここはユキヤのバイト先でもある喫茶店だ。
「・・・そういった心理的な分野ならむしろ教授が専門家っスがね」
「いや、蘇芳教授にこの複雑な経緯を説明するのは・・・」
すみれは頭を抱える。
(いや、むしろ事情を知ったら喜んで飛びついてくると思うっスが・・・)
生憎すみれは蘇芳の本性を知らない。
そうこうしているとユキヤが注文を取りにやってきた
「あ、すみれ!いらっしゃい。」
ユキヤは満面の笑みをすみれに向ける。そして浅葱の方にも目を向けると
「浅葱さんも来ていらしたんですね。こんにちわ~」
と言ってペコリとお辞儀をする。
「・・・すみれちゃんから色々と聞かされていたっスよ~。
毎晩お楽しみのようっスね。」
浅葱がちょっとカマをかけてみる。するとユキヤの顔は真っ赤になる。
「も~、すみれも恥ずかしいこと言わないでってば!」
ユキヤは口を尖らせる。
「あ、浅葱さんももう少し慎みましょうよ!女性なんだし」
「・・・否定はしないっスね?」
浅葱はニヤリと笑う。
「うぅ~」ユキヤは顔を赤くする。
(あれ?いつもならここで怒る反応っスが?)
浅葱もちょっと違和感を覚える。
「そ、それよりご注文は?」
ユキヤは話題を逸らすためにメニューを手に取る。
「あたしはこの『メガトン鬼盛りパフェ』を」
「わ、私はコーヒーを」
「かしこましましたー」
ユキヤが厨房にオーダーを伝えにカウンターに戻る。
「・・・どうですか?」ユキヤが去った後、すみれは浅葱に聞く。
「言葉遣いはバイト中で敬語だから変な感じはしないっスけど・・・
なんか妙な感じっスね」
「やっぱり、違和感ありますよね」
「でもまぁ、一過性の可能性もあるし、
しばらく様子を見るしかないんじゃないっスかね?」
「ですよねぇ」
すみれは不安げな表情を浮かべる。
「大丈夫っスよ。すみれちゃんの彼氏なんスから」
「だと良いですが・・・」
「しかしあれで・・・夜の方は大丈夫なんっスか?」
「それが、その・・・」
すみれは口籠る。
「なんかマタタビあげた猫みたいになっちゃって・・・」
「ほぅ?」
「えっと、いつもよりなんかすり寄りとおねだりが激しくなって・・・」
「ほうほう、具体的に言うと」
「いつもなら絶対言わないだろうなってセリフとか
すらすら言っちゃったり・・・」
「ふむふむ、それで?」
「あの、もう勘弁してください・・・」
すみれは赤面して俯く。
「ははは、すみれちゃん可愛いっスね~」
浅葱はにやにや笑いながらすみれをからかい続ける。
そんなことを話しているうちに、ユキヤが注文したものを持ってやってきた。
「お待たせしました~!こちら、メガトン鬼盛りパフェでございます~」
テーブルの上にどでーんと置かれた巨大なパフェ。しかも2人分。
「おお!壮絶っスね・・・てか2つも頼んでないっスが・・・」
「マスターが『どうせおかわりするんでしょ』って。」
「あはは、さすがわかっているっスね」
浅葱は苦笑しながらスプーンをパフェに突っ込む。
(この人は見てるだけでお腹いっぱいになるなぁ)
目の前でコーヒーを飲みながらすみれは思った。
一方、ユキヤはというと、ニコニコしながら自分の仕事をこなしていた。
「それでは失礼いたします~」
ユキヤは去っていく。
(確かに店員としてならそこまで変じゃないんだけど・・・)
すみれは少し考えこむ。
****
そして問題の夜である。
「すみれ・・・お願い・・・俺、もう・・・我慢できなくて・・・」
「あれれ、ユキちゃん、いつからそんなおねだりしてくるようになったの?」
すみれはユキヤの身体を弄る。
「うぅ・・・すみれのせいだよぉ・・・」
「へぇ、私のせいなんだ?」
「だって、すみれがあんなことするから・・・」
「じゃあ責任取らないとねぇ、
こんなはしたない子になっちゃったんだから」
すみれはくすりと笑う。
「ほら、言ってみて?ユキちゃんはどうして欲しいのかな?」
「すみれ・・・俺は・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして口ごもる。
「どうしたの?ユキちゃん。言えないの?」
「すみれにもっと色々されたい・・・です!」
「そうやってユキちゃんから積極的に私を求めてくれるのは
すごく嬉しいよ。ユキちゃん、キスしよう?」
「うん」
・・・一見ここまで随分焦らして、おねだりが出るまで我慢させたような光景だが
実は焦らしているわけでも何でもない。初っ端からこんな状態である。
今のユキヤにとってはこれが普通だった。「んっ・・・」
ユキヤはすみれの身体を抱き寄せる。
「んむっ・・・ちゅっ・・・」
「ぷはっ・・・ユキちゃん、今日は積極的だね?」
(やっぱりエッチな女の子って感じだよね・・・)
「今日もかわいいぞ~」そう言ってぎゅっと抱きしめる。
「ふわぁ・・・」
「ふふっ、本当に可愛くてえっちな女の子になっちゃったね」
・・・こういう事を言うと症状が悪化するかもしれないのだが、
すみれもついつい可愛がり倒してしまう。「ああっ、すみれ、大好きぃ・・・」
「よしよし、ユキちゃんはいい子だね」
すみれの頭を撫でると、嬉しそうな表情をするユキヤ。
「ねぇ、俺エッチな女の子になれてるかな?」「え?!何言ってるの?」
すみれがユキヤの方を見ると、ハッとする。
今のユキヤはいつものように長めの髪をまとめずに下ろしている。
すみれにはそれが一瞬だが本当に女の子に見えてしまった・・・。
「ん、どうかしたの?」ユキヤは不思議そうに首を傾げる。
その仕草はやはり完全に女の子のそれであった。
「んーん、なんでもない」
すみれはユキヤをぎゅーっと抱きしめた。
「んむむ、苦しいよ」何の引っ掛かりもないつるりとした肌。す
みれはその感触を味わいながら思う。
(ちょっと可愛いかも・・・)
「すみれ、また何か変なこと考えてるでしょ」
「え?別に何も」
ユキヤが女の子のまんまなのも心配なのだが、その反面
(この状態だと、ホントに何もかもが可愛いんだよなぁ・・・)
という感情も捨てきれず、なかなか胸中が複雑なすみれであった。
****
さらに数日が過ぎたがユキヤは元に戻らなかった。
(本人に自覚がないというのが何とも・・・)
すみれは頭を抱える。
「ねぇ、ユキヤ、ちょっといい?」
「うん」
すみれはユキヤをベッドに座らせる。
「あのさ、ユキヤ、自分で何か変だって思わない?」
「?どういうこと?」
「うーん、つまり自分が自分じゃないような感じ・・・」
「何言ってるの?俺は俺でしょ?」
「いや、だからそういう意味じゃなくて」
「じゃあどんな意味があるの?」
「例えば、最近ユキヤ、よく笑うようになったし、それに・・・」
「?」
「前よりも素直になったっていうか、甘えん坊になっちゃったし」
「??」
ユキヤは心底わからないという顔をする。
「・・・よくわからないけど、そんな顔しないでよ。
俺まで悲しくなる・・・」
そう言ってユキヤはすみれを抱きしめた。
「え・・・?」
「だって今のすみれ、すごく寂しそうな顔してる。」
ユキヤから指摘されて少しだけ愕然とする。
(ああもう、なんでこんなときだけ鋭いんだろう・・・)
「ごめんね、なんか、余計な気を使わせちゃってたみたいだね」
「気にすることなんてないからね!」
そう言ってユキヤは再びすみれを抱きしめた。
(優しくて可愛い『ユキちゃん』も大好きだけど・・・)
すみれはユキヤをぎゅっと抱き返す。
「どうしたの?急に」
「えへへ、ユキちゃん、大好きだよ」
「うん、ありがとう」
ユキヤはすみれを抱きしめたまま、彼女の頭を撫でた。
(もし元に戻らなかったとしても私は・・・)
ここ数日でいろいろと試した。Hの時も
自分が男と意識させるようなこともしてみた。
しかしどれも効果は薄かったようだ。
それでもまだ諦めてはいない。すみれはユキヤの頬にキスをした。
「ふふっ、くすぐったいよ」
そう言いながらもユキヤは満更でもない様子だ。
(・・・・!?)
この瞬間、ユキヤの中でわずかに何か動くものがあったような気がした。
(あれ・・・今の何だろ?)その正体はユキヤ本人にも分からない。
「どうしたの?」
「うーん、何でもないよ」
ユキヤは少し考え事をしているようだった。
「ねぇ、ユキヤ、今度一緒にお出かけしようよ」
「え?デートしてくれるの?うれしいな」
「もちろん、喜んで」
ユキヤが笑顔で答えると、すみれも微笑む。
(よし、これならうまくいくはず・・・)
****
「ねえ、ユキヤ、この服どうかな?可愛く見える?」
すみれが白のワンピースを着ている。普段あまりこういった服を着ないので
少し照れくさそうだ。
「似合ってるよ!すっごく可愛い!」
ユキヤは満面の笑みで褒める。
そんなユキヤは髪型をいつものポニテではなく
後ろ髪を下ろしたハーフアップにしていた。
(あれ、ユキヤってこんなに髪長かったっけ?)
ユキヤの髪は肩にかかるくらいの長さがある。
普段はポニーテールなので気付かなかったが、
こうして見るとなかなか綺麗な髪である。
「それ、結構珍しいよね。」
「うん、ちょっと気分変えてみたくて」
「確かに、ユキヤの髪ってすごいさらさらだし、綺麗な色してるもんね」
(ますます女の子っぽく見えるかも・・・)と少し思ったが、
体型も服装も男性のそれなので、そこまでではない。
「ありがと♪」
「どういたしまして」
「ところですみれ、今日は何の用事なの?」
「うーん、買い物かな?」
「え、それだけ?」
「まぁ、そうだけど?」
本当は二人で出かけてちょっとでも何かの刺激になれば・・・
と言う目論見もあった。
元に戻らなくても最後まで責任はとると決めていたすみれだったが、
やはり諦めてはいなかった。
「そういやこんな風に出かけるのってすごい久しぶりだね」
一緒に暮らすようになってから、いつも二人でいるせいか、
こういったデートにもあまり行かなくなっていた。
「そういえば、そうかもしれないね。」
「ユキヤ、どこか行きたいところある?私、付き合うからさ」
「え、いいの?じゃあ・・・」
ユキヤは少し考えた後、行き先を決めた。
「水族館とか行ってみたいな」
「うん、わかった。じゃ、行こう」
二人は電車に乗って、ちょっと遠い町の駅に向かった。
「わ~、見てみて、アザラシがいる」
「ホントだ。かわいいね」
すみれとユキヤは水槽の中を悠々と泳ぐアザラシを見て、少し癒されていた。
(・・・なんか、本当に女の子みたいに見える)
すみれは少し複雑な気持ちでユキヤを見る。
ユキヤは相変わらずニコニコしながら見ている。
(私は焦ってユキヤを元に戻そうとしてたけど、
ユキヤ本人はどうなんだろう?)
自覚がないとはいえ、無意識下で現状を受け入れているとしたら・・・
「すみれ、大丈夫?」
心配そうな顔ですみれの顔を覗き込むユキヤ。
「う、うん。平気だよ」
「そう?体調悪かったりしない?」
「全然問題ないよ。ごめんね、ボーッとしちゃって」
「ううん、全然気にしなくて良いよ」
それから2人は少し館内を見て回ったあと外に出ることにした。
時刻は昼過ぎだった。
二人は外で昼食をとると、そのまま外を散策しながら帰ることにした。
久々に遠出をしたせいもあって、帰るころにはうっすら暗くなっていた。
そして帰りの電車に揺られていると、すみれがウトウトし始めた。
「ふぅ・・・疲れたな・・・少し寝ようっと・・・」
すると、隣の席に座っていたユキヤがそっと眠るすみれの肩に手をかけて
自分の方に引き寄せた。
(・・・・?!)
まただ。ユキヤの中でまた何かが動くのを感じた。
(・・・なんだろうこの感覚、ものすごくもどかしい感じがする)
自分の中で動き始めた感情に、ユキヤは戸惑いを感じていた。
(俺は・・・一体・・・)
そして、この何とも言えない感情を抱えたまま家路につく。
帰り道、明日の朝食の買い物をしながら帰宅した二人は荷物を置いて、
ひと息ついた。
しかし
「あっ!」
落ち着いた途端、家の照明が消えてしまう。
「えっ!?」「停電!?」辺りが真っ暗になったので
携帯の明かりで周りを照らしてみる。
どうやらガスコンロなどの電源は生きているようで料理には困らない。
ブレーカーが落ちたのかと思って見てみたがそうでもないようだ。
「事故か何かかな?」
「わからない。とりあえず管理人室に行ってくる」
そう言って、すみれは部屋を出て行った。
しばらくしてすみれが戻ってきた。
「駄目だね。復旧までちょっと時間がかかるみたい」
「そう・・・仕方がないね」
「懐中電灯があったと思ったんだけど・・・」
すみれがそう言って玄関先を振り返ったとき、
ユキヤが背後から抱きしめた。
「・・・ユキヤ?!」
つづく
すみれから話を聞いて浅葱はため息を吐く。
「ええ、正直どうして良いかわからなくて・・・」
すみれは、ここ最近のユキヤの変化について浅葱に相談していた。
ここはユキヤのバイト先でもある喫茶店だ。
「・・・そういった心理的な分野ならむしろ教授が専門家っスがね」
「いや、蘇芳教授にこの複雑な経緯を説明するのは・・・」
すみれは頭を抱える。
(いや、むしろ事情を知ったら喜んで飛びついてくると思うっスが・・・)
生憎すみれは蘇芳の本性を知らない。
そうこうしているとユキヤが注文を取りにやってきた
「あ、すみれ!いらっしゃい。」
ユキヤは満面の笑みをすみれに向ける。そして浅葱の方にも目を向けると
「浅葱さんも来ていらしたんですね。こんにちわ~」
と言ってペコリとお辞儀をする。
「・・・すみれちゃんから色々と聞かされていたっスよ~。
毎晩お楽しみのようっスね。」
浅葱がちょっとカマをかけてみる。するとユキヤの顔は真っ赤になる。
「も~、すみれも恥ずかしいこと言わないでってば!」
ユキヤは口を尖らせる。
「あ、浅葱さんももう少し慎みましょうよ!女性なんだし」
「・・・否定はしないっスね?」
浅葱はニヤリと笑う。
「うぅ~」ユキヤは顔を赤くする。
(あれ?いつもならここで怒る反応っスが?)
浅葱もちょっと違和感を覚える。
「そ、それよりご注文は?」
ユキヤは話題を逸らすためにメニューを手に取る。
「あたしはこの『メガトン鬼盛りパフェ』を」
「わ、私はコーヒーを」
「かしこましましたー」
ユキヤが厨房にオーダーを伝えにカウンターに戻る。
「・・・どうですか?」ユキヤが去った後、すみれは浅葱に聞く。
「言葉遣いはバイト中で敬語だから変な感じはしないっスけど・・・
なんか妙な感じっスね」
「やっぱり、違和感ありますよね」
「でもまぁ、一過性の可能性もあるし、
しばらく様子を見るしかないんじゃないっスかね?」
「ですよねぇ」
すみれは不安げな表情を浮かべる。
「大丈夫っスよ。すみれちゃんの彼氏なんスから」
「だと良いですが・・・」
「しかしあれで・・・夜の方は大丈夫なんっスか?」
「それが、その・・・」
すみれは口籠る。
「なんかマタタビあげた猫みたいになっちゃって・・・」
「ほぅ?」
「えっと、いつもよりなんかすり寄りとおねだりが激しくなって・・・」
「ほうほう、具体的に言うと」
「いつもなら絶対言わないだろうなってセリフとか
すらすら言っちゃったり・・・」
「ふむふむ、それで?」
「あの、もう勘弁してください・・・」
すみれは赤面して俯く。
「ははは、すみれちゃん可愛いっスね~」
浅葱はにやにや笑いながらすみれをからかい続ける。
そんなことを話しているうちに、ユキヤが注文したものを持ってやってきた。
「お待たせしました~!こちら、メガトン鬼盛りパフェでございます~」
テーブルの上にどでーんと置かれた巨大なパフェ。しかも2人分。
「おお!壮絶っスね・・・てか2つも頼んでないっスが・・・」
「マスターが『どうせおかわりするんでしょ』って。」
「あはは、さすがわかっているっスね」
浅葱は苦笑しながらスプーンをパフェに突っ込む。
(この人は見てるだけでお腹いっぱいになるなぁ)
目の前でコーヒーを飲みながらすみれは思った。
一方、ユキヤはというと、ニコニコしながら自分の仕事をこなしていた。
「それでは失礼いたします~」
ユキヤは去っていく。
(確かに店員としてならそこまで変じゃないんだけど・・・)
すみれは少し考えこむ。
****
そして問題の夜である。
「すみれ・・・お願い・・・俺、もう・・・我慢できなくて・・・」
「あれれ、ユキちゃん、いつからそんなおねだりしてくるようになったの?」
すみれはユキヤの身体を弄る。
「うぅ・・・すみれのせいだよぉ・・・」
「へぇ、私のせいなんだ?」
「だって、すみれがあんなことするから・・・」
「じゃあ責任取らないとねぇ、
こんなはしたない子になっちゃったんだから」
すみれはくすりと笑う。
「ほら、言ってみて?ユキちゃんはどうして欲しいのかな?」
「すみれ・・・俺は・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして口ごもる。
「どうしたの?ユキちゃん。言えないの?」
「すみれにもっと色々されたい・・・です!」
「そうやってユキちゃんから積極的に私を求めてくれるのは
すごく嬉しいよ。ユキちゃん、キスしよう?」
「うん」
・・・一見ここまで随分焦らして、おねだりが出るまで我慢させたような光景だが
実は焦らしているわけでも何でもない。初っ端からこんな状態である。
今のユキヤにとってはこれが普通だった。「んっ・・・」
ユキヤはすみれの身体を抱き寄せる。
「んむっ・・・ちゅっ・・・」
「ぷはっ・・・ユキちゃん、今日は積極的だね?」
(やっぱりエッチな女の子って感じだよね・・・)
「今日もかわいいぞ~」そう言ってぎゅっと抱きしめる。
「ふわぁ・・・」
「ふふっ、本当に可愛くてえっちな女の子になっちゃったね」
・・・こういう事を言うと症状が悪化するかもしれないのだが、
すみれもついつい可愛がり倒してしまう。「ああっ、すみれ、大好きぃ・・・」
「よしよし、ユキちゃんはいい子だね」
すみれの頭を撫でると、嬉しそうな表情をするユキヤ。
「ねぇ、俺エッチな女の子になれてるかな?」「え?!何言ってるの?」
すみれがユキヤの方を見ると、ハッとする。
今のユキヤはいつものように長めの髪をまとめずに下ろしている。
すみれにはそれが一瞬だが本当に女の子に見えてしまった・・・。
「ん、どうかしたの?」ユキヤは不思議そうに首を傾げる。
その仕草はやはり完全に女の子のそれであった。
「んーん、なんでもない」
すみれはユキヤをぎゅーっと抱きしめた。
「んむむ、苦しいよ」何の引っ掛かりもないつるりとした肌。す
みれはその感触を味わいながら思う。
(ちょっと可愛いかも・・・)
「すみれ、また何か変なこと考えてるでしょ」
「え?別に何も」
ユキヤが女の子のまんまなのも心配なのだが、その反面
(この状態だと、ホントに何もかもが可愛いんだよなぁ・・・)
という感情も捨てきれず、なかなか胸中が複雑なすみれであった。
****
さらに数日が過ぎたがユキヤは元に戻らなかった。
(本人に自覚がないというのが何とも・・・)
すみれは頭を抱える。
「ねぇ、ユキヤ、ちょっといい?」
「うん」
すみれはユキヤをベッドに座らせる。
「あのさ、ユキヤ、自分で何か変だって思わない?」
「?どういうこと?」
「うーん、つまり自分が自分じゃないような感じ・・・」
「何言ってるの?俺は俺でしょ?」
「いや、だからそういう意味じゃなくて」
「じゃあどんな意味があるの?」
「例えば、最近ユキヤ、よく笑うようになったし、それに・・・」
「?」
「前よりも素直になったっていうか、甘えん坊になっちゃったし」
「??」
ユキヤは心底わからないという顔をする。
「・・・よくわからないけど、そんな顔しないでよ。
俺まで悲しくなる・・・」
そう言ってユキヤはすみれを抱きしめた。
「え・・・?」
「だって今のすみれ、すごく寂しそうな顔してる。」
ユキヤから指摘されて少しだけ愕然とする。
(ああもう、なんでこんなときだけ鋭いんだろう・・・)
「ごめんね、なんか、余計な気を使わせちゃってたみたいだね」
「気にすることなんてないからね!」
そう言ってユキヤは再びすみれを抱きしめた。
(優しくて可愛い『ユキちゃん』も大好きだけど・・・)
すみれはユキヤをぎゅっと抱き返す。
「どうしたの?急に」
「えへへ、ユキちゃん、大好きだよ」
「うん、ありがとう」
ユキヤはすみれを抱きしめたまま、彼女の頭を撫でた。
(もし元に戻らなかったとしても私は・・・)
ここ数日でいろいろと試した。Hの時も
自分が男と意識させるようなこともしてみた。
しかしどれも効果は薄かったようだ。
それでもまだ諦めてはいない。すみれはユキヤの頬にキスをした。
「ふふっ、くすぐったいよ」
そう言いながらもユキヤは満更でもない様子だ。
(・・・・!?)
この瞬間、ユキヤの中でわずかに何か動くものがあったような気がした。
(あれ・・・今の何だろ?)その正体はユキヤ本人にも分からない。
「どうしたの?」
「うーん、何でもないよ」
ユキヤは少し考え事をしているようだった。
「ねぇ、ユキヤ、今度一緒にお出かけしようよ」
「え?デートしてくれるの?うれしいな」
「もちろん、喜んで」
ユキヤが笑顔で答えると、すみれも微笑む。
(よし、これならうまくいくはず・・・)
****
「ねえ、ユキヤ、この服どうかな?可愛く見える?」
すみれが白のワンピースを着ている。普段あまりこういった服を着ないので
少し照れくさそうだ。
「似合ってるよ!すっごく可愛い!」
ユキヤは満面の笑みで褒める。
そんなユキヤは髪型をいつものポニテではなく
後ろ髪を下ろしたハーフアップにしていた。
(あれ、ユキヤってこんなに髪長かったっけ?)
ユキヤの髪は肩にかかるくらいの長さがある。
普段はポニーテールなので気付かなかったが、
こうして見るとなかなか綺麗な髪である。
「それ、結構珍しいよね。」
「うん、ちょっと気分変えてみたくて」
「確かに、ユキヤの髪ってすごいさらさらだし、綺麗な色してるもんね」
(ますます女の子っぽく見えるかも・・・)と少し思ったが、
体型も服装も男性のそれなので、そこまでではない。
「ありがと♪」
「どういたしまして」
「ところですみれ、今日は何の用事なの?」
「うーん、買い物かな?」
「え、それだけ?」
「まぁ、そうだけど?」
本当は二人で出かけてちょっとでも何かの刺激になれば・・・
と言う目論見もあった。
元に戻らなくても最後まで責任はとると決めていたすみれだったが、
やはり諦めてはいなかった。
「そういやこんな風に出かけるのってすごい久しぶりだね」
一緒に暮らすようになってから、いつも二人でいるせいか、
こういったデートにもあまり行かなくなっていた。
「そういえば、そうかもしれないね。」
「ユキヤ、どこか行きたいところある?私、付き合うからさ」
「え、いいの?じゃあ・・・」
ユキヤは少し考えた後、行き先を決めた。
「水族館とか行ってみたいな」
「うん、わかった。じゃ、行こう」
二人は電車に乗って、ちょっと遠い町の駅に向かった。
「わ~、見てみて、アザラシがいる」
「ホントだ。かわいいね」
すみれとユキヤは水槽の中を悠々と泳ぐアザラシを見て、少し癒されていた。
(・・・なんか、本当に女の子みたいに見える)
すみれは少し複雑な気持ちでユキヤを見る。
ユキヤは相変わらずニコニコしながら見ている。
(私は焦ってユキヤを元に戻そうとしてたけど、
ユキヤ本人はどうなんだろう?)
自覚がないとはいえ、無意識下で現状を受け入れているとしたら・・・
「すみれ、大丈夫?」
心配そうな顔ですみれの顔を覗き込むユキヤ。
「う、うん。平気だよ」
「そう?体調悪かったりしない?」
「全然問題ないよ。ごめんね、ボーッとしちゃって」
「ううん、全然気にしなくて良いよ」
それから2人は少し館内を見て回ったあと外に出ることにした。
時刻は昼過ぎだった。
二人は外で昼食をとると、そのまま外を散策しながら帰ることにした。
久々に遠出をしたせいもあって、帰るころにはうっすら暗くなっていた。
そして帰りの電車に揺られていると、すみれがウトウトし始めた。
「ふぅ・・・疲れたな・・・少し寝ようっと・・・」
すると、隣の席に座っていたユキヤがそっと眠るすみれの肩に手をかけて
自分の方に引き寄せた。
(・・・・?!)
まただ。ユキヤの中でまた何かが動くのを感じた。
(・・・なんだろうこの感覚、ものすごくもどかしい感じがする)
自分の中で動き始めた感情に、ユキヤは戸惑いを感じていた。
(俺は・・・一体・・・)
そして、この何とも言えない感情を抱えたまま家路につく。
帰り道、明日の朝食の買い物をしながら帰宅した二人は荷物を置いて、
ひと息ついた。
しかし
「あっ!」
落ち着いた途端、家の照明が消えてしまう。
「えっ!?」「停電!?」辺りが真っ暗になったので
携帯の明かりで周りを照らしてみる。
どうやらガスコンロなどの電源は生きているようで料理には困らない。
ブレーカーが落ちたのかと思って見てみたがそうでもないようだ。
「事故か何かかな?」
「わからない。とりあえず管理人室に行ってくる」
そう言って、すみれは部屋を出て行った。
しばらくしてすみれが戻ってきた。
「駄目だね。復旧までちょっと時間がかかるみたい」
「そう・・・仕方がないね」
「懐中電灯があったと思ったんだけど・・・」
すみれがそう言って玄関先を振り返ったとき、
ユキヤが背後から抱きしめた。
「・・・ユキヤ?!」
つづく
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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