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第66話:別荘にいらっしゃい(その4)
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いつもと同じ朝。
黒川は自宅のベッドで目を覚ました。
「ふぁ・・・」
起き上がり、小さくあくびをすると洗面所に向かう。
そして鏡の前で手早く髪の毛を整える。
「・・・ん?」
ここでふと違和感を感じるがその正体は分からない。
(まあ、いいか・・・)
黒川はそれ以上の思考を放棄すると、
いつものように朝食を取り、大学へと向かう。
「おはよー」
「おお、元気そうだな」
学部の友達に挨拶しながらキャンパスを歩く。
「あ、黒川くんだ、おはよう」
同学年の女子に声を掛けられる。
「ああ・・・おはよう」
「えー?黒川くん今日はなんか普段よりちょっとテンション低い?」
「いや、そんな事はないよ」
そう答える黒川だったが、やはり先程からの違和感が消えない。
「もう、そんなんじゃ折角のイケメンが台無しだよ」
「イケメンねぇ・・・そう言ってくれるのは嬉しいけど」
そう言って黒川は女子に笑いかける。
「そうそう笑った方がいいよ。髪型もしっかり決まってるし」
「そうか・・・ありがとう」
黒川は女子に礼を言うとその場を後にする。
(やっぱり変だな)
黒川は自分の違和感の正体を探ろうと思考を巡らせる。
(・・・そうだよ!なんで俺に髪があるんだ?!)
今の自分はスキンヘッドだったはずだ。
しかし今の彼は髪の毛がある。
引っ張ってみてもしっかり生えているのが分かる。
(ウィッグですらない・・・)
・・・違和感の正体はこれだった。
その途端に彼はいいようのない不安に駆られる。
「ねぇ、君!松葉さんたちがどこにいるか知らないか?!」
黒川は目の前の女子に問いかけた。
「え?松葉さん?誰それ?」女子は不思議そうに答える。
「えっ?」
黒川は思わず声を上げた。
(どういうことだ?)
彼は混乱しながらも必死に思考を巡らせる。
「ほら、今年入学してきた松葉グループの双子の令嬢で・・・」
「えぇ誰?知らないってば・・・そんな人たち」
女子はますます困惑した様子で答える。
「黒川くんってそんな人たちと知り合いだったの?」
「・・・いや、知らないならいいんだ。すまない」
(どういうことだ?)
黒川は混乱しながらも必死に思考を巡らせる。
(お二人が存在しない?・・・そんなバカな!?)
「ゴメン、ちょっと用を思い出したから!」
彼はそう言って急いでその場を去った。
そしてスマホ取り出し、姉妹たちに関する事を検索する。
しかし・・・『松葉グループ』で検索しても何も出ない。
まるで元からそんな会社も令嬢も存在しないように。
(こんな・・・ことって・・・?!)
黒川は混乱しながらも必死に再び思考を巡らせる。
(まさか・・・お二人の事は・・・夢だったのか!?)
彼はそう考えるが、その考えはすぐに否定する。
「違う・・・」
彼の脳裏に浮かぶのは松葉姉妹の姿だ。
あの2人の事が夢なんてはずがない!
しかし自分のスマホ内にある連絡先のリスト、
SNSのメッセージログ、写真フォルダ・・・
すべてチェックしたが姉妹は影も形も存在しない。
(そんな・・・やっぱり夢だったのか?!)
「嘘だ・・・そんな事!!」
絶望に打ちひしがれた黒川は頭を抱えて叫んだ。
******
****
***
ピピピピピ・・・・
朝。黒川はスマホのアラームで目を覚ました。
「・・・」
彼はゆっくりと身体を起こすと、
洗面所に行き、鏡の前に立つ。
彼の頭には髪の毛は無い・・・。
「・・・・・。」
黒川は寝ぼけ眼で昨日の出来事を思い出す。
(そうだ・・・俺はお二人の別荘に来ていたんだっけ)
今の彼は姉妹の家が所有する別荘に来ており、
二日目の朝を迎えていた。
姉妹たちの寝室のベッドは二つしかないため、
彼だけは別室で眠っていた。
(ああ、だんだん思い出してきた・・・)
頭がハッキリしてくるにつれ、今の自分が全裸で首輪と
股間に貞操帯だけを付けた状態である事も思い出す。
(ここでは服を着るの、禁止だったっけ)
昨日からの姉妹の命令を思い出し、これが夢ではない事と
自分の情けない状態を改めて自覚するとともに
心のどこかで安堵した。
「・・・やっぱり、夢なんかじゃなかったん・・・だよな」
黒川はぼそりと一人で呟いた。
***
黒川がリビングに向かうと既に姉妹は起きてそこにいた。
(やっぱり自分だけ服を着てないのは恥ずかしい・・・)
無駄な抵抗と分かりつつも、つい前を隠してしまう。
「あの・・・おはようございます」
「あら、ごきげんよう」
挨拶すると、結衣がお嬢様らしい優雅な所作で挨拶を返してくる。
「おはよう、文月」と、友麻もそれに続く。
二人は既に着替えて、ソファに座っていた。
「さ、こちらにいらっしゃい」
友麻に手を引かれ、黒川はまたも洗面所に連れて行かれ、
鏡の前に座らされた。
「あの、一体何を?」
黒川は戸惑いながら問いかける。
「やはり伸びてますのね」
友麻は黒川の頭をポンポンと撫でながら言った。
確かに今の彼の頭は、起き抜けという事もあり
うっすらと髪が伸びている。
「すいません、まだ手入れしてなくて・・・」
黒川は申し訳なさそうに言う。
「もう、このままではいけませんのよ」
友麻はそう言いながら彼の頭にシェービングクリームを塗っていく。
「ちょ・・・これぐらい自分で」
「いいえ!ここにいる間は1ミリたりとも
伸びているのは私が許しません」
黒川のセリフを遮り、友麻は用意してきた
5枚歯シェーバーを手にする。
(ほ、本気だ・・・!)
この時点でもう何を言っても無駄だと思い、
黒川は大人しく彼女に従った。
「さあ、始めますわよ」
そして彼女が慣れた手つきで彼の髪を剃り始めた。
ジョリ・・・ジョリ・・・。
黒川は自分の頭に剃刀が当たる感触を感じながらも、
黙ってそれを受け入れるしかなかった。
「はい、終わりましたわ」
しばらくして友麻の手が止まると、タオルで頭皮が拭かれ、
黒川は鏡で自分の姿を改めて確認した。
(うわ・・・)
そこには見事にツルツルになった頭頂部があった。
(うぅ・・・見事に深剃りされてしまった・・・)
黒川は恥ずかしさで赤面する。
「うふふ、綺麗に剃れましたのよ」
友麻は仕上げのアフターローションを塗りながら
満足げな笑みを浮かべる。
「ここにいる間は私がお前のキレイを維持します」
友麻は黒川の頭を撫でながら言った。
(でも友麻様の手、少しあったかいな・・・)
黒川は無意識のうちにその手の温もりを感じていた。
「あらあら、賑やかですわね」
結衣は微笑みながら黒川と友麻の様子を見ていた。
「結衣様・・・」
黒川は恥ずかしそうに俯く。
「うふふ、可愛らしいお姿ですこと」
結衣はそんな黒川に微笑み返す。
「・・・・・」
黒川は彼女の笑顔につい見とれてしまう・・・
「何ボーっとしてますの?眉毛も剃ってほしいのですか?」
友麻が背後からからかうように言った。
「・・・あ、いえ!そ、それは勘弁してください!!」
黒川は慌てて拒否する。
「・・・もう、冗談ですのよ」
そう言って友麻は無邪気に笑った。
「うぅ・・・」
(このお二人の場合、本当に言いかねないんだって)
「ほら、二人ともそれぐらいにして、
先程ホテルから朝食が届きましたから
1階のキッチンで朝食にしましょう」
結衣にそう言われ、3人はキッチンへと向かった。
***
「雨だなんて・・・残念ですわね」
2階のリビングで、ソファに座る結衣が
窓の外を見ながらため息を吐いた。
早朝こそ晴れていたものの、朝食の間に雲が出始め、
雨が降り始めてしまっていたからだった・・・。
「朝食後にまたみんなで朝のお散歩に行きたかったのに・・・」
結衣は恨めし気に窓越しに空を見る。
(え?!俺また裸で外に連れまわされるところだったの・・・?!)
床に座る黒川は結衣の言葉にぎょっとする。
「残念ですが、雨では仕方ありませんわね・・・」
と、友麻が呟く。
残念そうにする姉妹を見ながら、
実のところ黒川は心の中で安堵していた。
夜はともかく明るいうちに裸で外に出るのは流石に勘弁願いたい。
(お二人にはちょっと申し訳ないけど)
「明日の昼には迎えの車が来てしまうというのに・・・」
友麻は心底残念そうに窓の外を見る。
「そうですわね・・・」
結衣はつまらなさそうに呟いた。
「せっかくここまで連れてきたのに・・・」
友麻が独り言のようにぽそりと呟く。
「・・・え?」
「い、いえ何でもありませんのよ!!」
友麻は慌てて取り繕った。
「この雨だと向こうの温泉街も静かなんですかね?」
黒川はふと湖の向こうにある温泉街の事を思い出す。
「きっとそうですね。この天気だと露天風呂にも入れませんし、
観光もままならないでしょう・・・」
結衣は残念そうな表情を浮かべた。
「そう!それですのよ!」
友麻が顔上げる。
「な、なんですか?友麻」
結衣も少し驚いたように友麻を見た。
「ちょっと待ってくださいませね・・・」
友麻がそう言いながらスマホで何やら調べ出した。
「ええっと・・・そうそう、これですのよ!」
「友麻様・・・?」
不思議そうな顔をする黒川に友麻が笑顔を向けた。
「あの温泉街には、宿泊施設の他にも
日帰り客用の屋内温泉施設がありますのよ!」
「え?」
黒川は素っ頓狂な声を上げた。
「屋内・・・ですか?」
結衣が不思議そうに聞く。
「そうなのです。だから屋内でゆっくり温泉を
楽しむ事ならできますのよ!」
「まあ、それなら雨は気になりませんわね」
結衣が笑顔で頷く。
「ですから、今日はここに参りませんか?」
友麻が目を輝かせて提案する。
「ええ、そうですわね」
結衣が笑顔で答える。
「文月、お前のお手柄です。」
友麻がそう言いながら黒川の頭を撫でた。
「お前の一言がなければ思い出すことが出来ませんでしたから」
「あ、ありがとうございます」
黒川は照れながら答える。
「では早速支度をして、向かいましょうか。
文月、お前は外に出られる格好をなさいね」
「はい」
結衣がそう言うと、3人は支度を始めるのであった。
つづく
黒川は自宅のベッドで目を覚ました。
「ふぁ・・・」
起き上がり、小さくあくびをすると洗面所に向かう。
そして鏡の前で手早く髪の毛を整える。
「・・・ん?」
ここでふと違和感を感じるがその正体は分からない。
(まあ、いいか・・・)
黒川はそれ以上の思考を放棄すると、
いつものように朝食を取り、大学へと向かう。
「おはよー」
「おお、元気そうだな」
学部の友達に挨拶しながらキャンパスを歩く。
「あ、黒川くんだ、おはよう」
同学年の女子に声を掛けられる。
「ああ・・・おはよう」
「えー?黒川くん今日はなんか普段よりちょっとテンション低い?」
「いや、そんな事はないよ」
そう答える黒川だったが、やはり先程からの違和感が消えない。
「もう、そんなんじゃ折角のイケメンが台無しだよ」
「イケメンねぇ・・・そう言ってくれるのは嬉しいけど」
そう言って黒川は女子に笑いかける。
「そうそう笑った方がいいよ。髪型もしっかり決まってるし」
「そうか・・・ありがとう」
黒川は女子に礼を言うとその場を後にする。
(やっぱり変だな)
黒川は自分の違和感の正体を探ろうと思考を巡らせる。
(・・・そうだよ!なんで俺に髪があるんだ?!)
今の自分はスキンヘッドだったはずだ。
しかし今の彼は髪の毛がある。
引っ張ってみてもしっかり生えているのが分かる。
(ウィッグですらない・・・)
・・・違和感の正体はこれだった。
その途端に彼はいいようのない不安に駆られる。
「ねぇ、君!松葉さんたちがどこにいるか知らないか?!」
黒川は目の前の女子に問いかけた。
「え?松葉さん?誰それ?」女子は不思議そうに答える。
「えっ?」
黒川は思わず声を上げた。
(どういうことだ?)
彼は混乱しながらも必死に思考を巡らせる。
「ほら、今年入学してきた松葉グループの双子の令嬢で・・・」
「えぇ誰?知らないってば・・・そんな人たち」
女子はますます困惑した様子で答える。
「黒川くんってそんな人たちと知り合いだったの?」
「・・・いや、知らないならいいんだ。すまない」
(どういうことだ?)
黒川は混乱しながらも必死に思考を巡らせる。
(お二人が存在しない?・・・そんなバカな!?)
「ゴメン、ちょっと用を思い出したから!」
彼はそう言って急いでその場を去った。
そしてスマホ取り出し、姉妹たちに関する事を検索する。
しかし・・・『松葉グループ』で検索しても何も出ない。
まるで元からそんな会社も令嬢も存在しないように。
(こんな・・・ことって・・・?!)
黒川は混乱しながらも必死に再び思考を巡らせる。
(まさか・・・お二人の事は・・・夢だったのか!?)
彼はそう考えるが、その考えはすぐに否定する。
「違う・・・」
彼の脳裏に浮かぶのは松葉姉妹の姿だ。
あの2人の事が夢なんてはずがない!
しかし自分のスマホ内にある連絡先のリスト、
SNSのメッセージログ、写真フォルダ・・・
すべてチェックしたが姉妹は影も形も存在しない。
(そんな・・・やっぱり夢だったのか?!)
「嘘だ・・・そんな事!!」
絶望に打ちひしがれた黒川は頭を抱えて叫んだ。
******
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***
ピピピピピ・・・・
朝。黒川はスマホのアラームで目を覚ました。
「・・・」
彼はゆっくりと身体を起こすと、
洗面所に行き、鏡の前に立つ。
彼の頭には髪の毛は無い・・・。
「・・・・・。」
黒川は寝ぼけ眼で昨日の出来事を思い出す。
(そうだ・・・俺はお二人の別荘に来ていたんだっけ)
今の彼は姉妹の家が所有する別荘に来ており、
二日目の朝を迎えていた。
姉妹たちの寝室のベッドは二つしかないため、
彼だけは別室で眠っていた。
(ああ、だんだん思い出してきた・・・)
頭がハッキリしてくるにつれ、今の自分が全裸で首輪と
股間に貞操帯だけを付けた状態である事も思い出す。
(ここでは服を着るの、禁止だったっけ)
昨日からの姉妹の命令を思い出し、これが夢ではない事と
自分の情けない状態を改めて自覚するとともに
心のどこかで安堵した。
「・・・やっぱり、夢なんかじゃなかったん・・・だよな」
黒川はぼそりと一人で呟いた。
***
黒川がリビングに向かうと既に姉妹は起きてそこにいた。
(やっぱり自分だけ服を着てないのは恥ずかしい・・・)
無駄な抵抗と分かりつつも、つい前を隠してしまう。
「あの・・・おはようございます」
「あら、ごきげんよう」
挨拶すると、結衣がお嬢様らしい優雅な所作で挨拶を返してくる。
「おはよう、文月」と、友麻もそれに続く。
二人は既に着替えて、ソファに座っていた。
「さ、こちらにいらっしゃい」
友麻に手を引かれ、黒川はまたも洗面所に連れて行かれ、
鏡の前に座らされた。
「あの、一体何を?」
黒川は戸惑いながら問いかける。
「やはり伸びてますのね」
友麻は黒川の頭をポンポンと撫でながら言った。
確かに今の彼の頭は、起き抜けという事もあり
うっすらと髪が伸びている。
「すいません、まだ手入れしてなくて・・・」
黒川は申し訳なさそうに言う。
「もう、このままではいけませんのよ」
友麻はそう言いながら彼の頭にシェービングクリームを塗っていく。
「ちょ・・・これぐらい自分で」
「いいえ!ここにいる間は1ミリたりとも
伸びているのは私が許しません」
黒川のセリフを遮り、友麻は用意してきた
5枚歯シェーバーを手にする。
(ほ、本気だ・・・!)
この時点でもう何を言っても無駄だと思い、
黒川は大人しく彼女に従った。
「さあ、始めますわよ」
そして彼女が慣れた手つきで彼の髪を剃り始めた。
ジョリ・・・ジョリ・・・。
黒川は自分の頭に剃刀が当たる感触を感じながらも、
黙ってそれを受け入れるしかなかった。
「はい、終わりましたわ」
しばらくして友麻の手が止まると、タオルで頭皮が拭かれ、
黒川は鏡で自分の姿を改めて確認した。
(うわ・・・)
そこには見事にツルツルになった頭頂部があった。
(うぅ・・・見事に深剃りされてしまった・・・)
黒川は恥ずかしさで赤面する。
「うふふ、綺麗に剃れましたのよ」
友麻は仕上げのアフターローションを塗りながら
満足げな笑みを浮かべる。
「ここにいる間は私がお前のキレイを維持します」
友麻は黒川の頭を撫でながら言った。
(でも友麻様の手、少しあったかいな・・・)
黒川は無意識のうちにその手の温もりを感じていた。
「あらあら、賑やかですわね」
結衣は微笑みながら黒川と友麻の様子を見ていた。
「結衣様・・・」
黒川は恥ずかしそうに俯く。
「うふふ、可愛らしいお姿ですこと」
結衣はそんな黒川に微笑み返す。
「・・・・・」
黒川は彼女の笑顔につい見とれてしまう・・・
「何ボーっとしてますの?眉毛も剃ってほしいのですか?」
友麻が背後からからかうように言った。
「・・・あ、いえ!そ、それは勘弁してください!!」
黒川は慌てて拒否する。
「・・・もう、冗談ですのよ」
そう言って友麻は無邪気に笑った。
「うぅ・・・」
(このお二人の場合、本当に言いかねないんだって)
「ほら、二人ともそれぐらいにして、
先程ホテルから朝食が届きましたから
1階のキッチンで朝食にしましょう」
結衣にそう言われ、3人はキッチンへと向かった。
***
「雨だなんて・・・残念ですわね」
2階のリビングで、ソファに座る結衣が
窓の外を見ながらため息を吐いた。
早朝こそ晴れていたものの、朝食の間に雲が出始め、
雨が降り始めてしまっていたからだった・・・。
「朝食後にまたみんなで朝のお散歩に行きたかったのに・・・」
結衣は恨めし気に窓越しに空を見る。
(え?!俺また裸で外に連れまわされるところだったの・・・?!)
床に座る黒川は結衣の言葉にぎょっとする。
「残念ですが、雨では仕方ありませんわね・・・」
と、友麻が呟く。
残念そうにする姉妹を見ながら、
実のところ黒川は心の中で安堵していた。
夜はともかく明るいうちに裸で外に出るのは流石に勘弁願いたい。
(お二人にはちょっと申し訳ないけど)
「明日の昼には迎えの車が来てしまうというのに・・・」
友麻は心底残念そうに窓の外を見る。
「そうですわね・・・」
結衣はつまらなさそうに呟いた。
「せっかくここまで連れてきたのに・・・」
友麻が独り言のようにぽそりと呟く。
「・・・え?」
「い、いえ何でもありませんのよ!!」
友麻は慌てて取り繕った。
「この雨だと向こうの温泉街も静かなんですかね?」
黒川はふと湖の向こうにある温泉街の事を思い出す。
「きっとそうですね。この天気だと露天風呂にも入れませんし、
観光もままならないでしょう・・・」
結衣は残念そうな表情を浮かべた。
「そう!それですのよ!」
友麻が顔上げる。
「な、なんですか?友麻」
結衣も少し驚いたように友麻を見た。
「ちょっと待ってくださいませね・・・」
友麻がそう言いながらスマホで何やら調べ出した。
「ええっと・・・そうそう、これですのよ!」
「友麻様・・・?」
不思議そうな顔をする黒川に友麻が笑顔を向けた。
「あの温泉街には、宿泊施設の他にも
日帰り客用の屋内温泉施設がありますのよ!」
「え?」
黒川は素っ頓狂な声を上げた。
「屋内・・・ですか?」
結衣が不思議そうに聞く。
「そうなのです。だから屋内でゆっくり温泉を
楽しむ事ならできますのよ!」
「まあ、それなら雨は気になりませんわね」
結衣が笑顔で頷く。
「ですから、今日はここに参りませんか?」
友麻が目を輝かせて提案する。
「ええ、そうですわね」
結衣が笑顔で答える。
「文月、お前のお手柄です。」
友麻がそう言いながら黒川の頭を撫でた。
「お前の一言がなければ思い出すことが出来ませんでしたから」
「あ、ありがとうございます」
黒川は照れながら答える。
「では早速支度をして、向かいましょうか。
文月、お前は外に出られる格好をなさいね」
「はい」
結衣がそう言うと、3人は支度を始めるのであった。
つづく
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