双子の令嬢姉妹の専属ペットになった俺は今日も二人の足の下にいる。

桃ノ木ネネコ

文字の大きさ
上 下
60 / 96

第59話:ホストクラブに行ってみましたわ(その4)

しおりを挟む
それから暫く4人は雑談していた。
・・・とは言っても黒川は殆ど喋らず
姉妹と紫苑だけが談笑している。

「・・・でね、僕は昔から女の子を笑顔にする
王子様になりたくてさ、この道を選んだわけ」
「まぁ、素敵ですわね」
「ふふ、なかなか興味深いお話ですこと」

「で、貴方に入れ込み過ぎて病んでしまったお客から
怨みを買って刺されそうになったりした事はありますの?」
友麻が目を輝かせて聞いてくる。

「・・・そちらのお嬢さんは物騒なお話好きだよね」
「ふふ、でもそれもまた一興でしょう?」
友麻は妖しく微笑む。
「あはは、僕はそんなヘマはしないよ」

そんな彼女たちの会話を黒川は酒を片手に横目で見ていた。
先程からなんとか出された酒を口に運ぶが全然酔えない。
(俺、なんでこんなところにいるんだろう・・・)

ただでさえ女装してホストクラブにいるという異常な状態だ。
本来であれば吐き気がするぐらいに嫌なシチュエーションだろう。
「ふふ、僕なんかの話で楽しい?」
黒川が現実逃避していると紫苑が尋ねてきた。

「・・・え?あ、はい・・・」
「ふふ、そう?なら良かったよ」
(いや、全く楽しくはないのだが・・・)
黒川の本音は心の中に留められたまま
引きつった笑顔を返す。

「ところで君たちはどうやって知り合ったの?」
紫苑が姉妹と黒川を交互に見て聞いてくる。
(え・・・?)
「うふふ、趣味の事ですわ。それで知り合いましたの」
結衣がすかさず答えた。

(趣味って・・・確かに間違ってないけど)
黒川はそう思いながら水割りを飲んだ。
「へぇ、どんな趣味なの?」
「ええ、ペットを可愛がることですわ」

ブホッ!

その瞬間、黒川は飲んでいた水割りを吹きそうになり、
盛大に咳込んだ。
「げほっ!ごほっ!!」
「あらあら、どうしましたの?大丈夫?」
結衣が心配そうに声をかける。

「げほっげほ!いえ・・・ちょっと器官に入って・・・」
黒川は咳込みながらもなんとか答える。
「あらあら、大丈夫ですか?」
結衣が優しく背中をさする。
「はい・・・なんとか・・」
(結衣様・・・わざとやってません?!)
黒川は内心そう思いながらも口に出さない。

「・・・とにかく、そう言う事で知り合いましたのよ。」
友麻がそう紫苑に返す。
「ふうんペットねぇ・・・そんなにかわいいの?」
紫苑は興味深そうに姉妹に尋ねる。
「ええ、とっても可愛いですのよ」
友麻がそう答えると、
「そうですね・・・とても可愛くて従順で、頭も良くて
でもちょっと臆病で・・・そんな所も愛らしい子ですわ」
結衣がニコニコと答える。

(う、噓は言ってないんだろうけど・・・)
彼女たちの言うペットとは他ならぬ自分の事である。
黒川は内心で理解しながらも複雑な気分になる。
「へぇ、僕はマンション暮らしでペットは飼えないけど
やっぱりいると楽しいんだね」
そんな事をつゆほども知らない紫苑はニコニコと笑っている。

「ええ、一緒にいるととっても楽しいですわ」
結衣が黒川の方を見ながら力強く頷く。
(結衣様・・・さては俺の反応見て楽しんでるな)
黒川は結衣の愉悦に満ちた表情を横目で見つつ、
心の中でため息をつく。

(ふうん、結構ぶっ飛んだ子たちかと思ったけど、
意外と可愛いところもあるんだな・・・)
そして事情を知らない紫苑だけが勘違いをしていた。

「さて、紫苑さんもアルコールが飲めない私たちに合わせて、
そんな安いシャンパンを飲むのにも飽きたでしょう?
今度は私たちがお酒を選んであげますわ」
結衣が突然こんな事を言い出す。
「え?」
黒川は嫌な予感がした。

「ふふ、そうね・・・では私が選んで差し上げますわ」
友麻もそれに続く。
(ちょ、ちょっと!)
「あ、あの・・・」
黒川は止めようとするが・・・
「遠慮しないでいいよ」と紫苑に笑顔で言われてしまう。

(まぁ、流石にこの子達じゃ酒の良し悪しは分からないよな)
メニューを見る姉妹を見て紫苑はそんな事を考えるが、
その目論見は甘かった・・・。

姉妹はメニューを見ながら皆に聞こえない声で囁き合う。
(・・・もっともらしい解説付けてありますけど
見事に安酒しかありませんのよ。)
(おそらく初回客用の低価格メニューですわね。
こうやって低価格で惹きつけて、後戻りできなくなったところで
高いメニューに変えてくのでしょう。)
(しかもこれ安酒にしてはかなり割高ですのよ。)

経営の大部分を店長に任せているとはいえ、
バーのオ―ナーを務める姉妹である。
酒に関する知識はそれなりにあった。

「どう決まった?」紫苑が姉妹に声をかける。
「ええ、決まりましたわ」
結衣と友麻は笑顔で答える。

そして店員を呼ぶとそっと耳打ちする。
「・・・え!?」
姉妹の注文を聞いた途端、店員が顔をしかめる。
「・・・ございませんか?」
「ございますけど・・・」
店員がいまいち歯切れの悪い返答をする。「ではそれを」と結衣。

「・・・かしこまりました」
店員がしぶしぶ注文に応じる。
「よろしくお願いしますわね」
「ふふ、楽しみですわ」
結衣と友麻は笑顔で店員に告げる。

「何を注文したの?」
「ふふ、内緒ですわ」
「楽しみにしていてくださいませ。」
不思議そうに問いかける紫苑に姉妹は笑顔で返した。

しかし黒川だけはその笑顔から何かを読み取っていた。
(あの顔・・・絶対何か企んでる!)
黒川はそう確信する。

「お待たせしました」
そう言って店員が持ってきたボトルを受け取ると、
結衣がグラスへと注ぎ紫苑の前に差し出した。

「さぁどうぞ」
「・・・ありがとう」
(さて・・・何が出てくるかな?)
そんな事を考えながら紫苑が口をつけた瞬間、
「・・・うっ!?」
思わず咳込む。
「あらあら、どうされましたの?」と結衣。

「げほっ!・・・な・・・何を・・・」
口に含んだ瞬間に熱さとも痛さともつかない刺激が口内を襲い、
喉が焼けるようにひりついて、最初の一口を飲んだだけで
まだ咳が止まらない。
それでも吐き出さずに飲み込めたあたり、彼はプロであった。

「ふふ、お気に召しましたかしら?」
結衣が妖しく微笑む。

「・・・っ!き、君たちは・・・!!」
紫苑は怒りの形相で二人を睨みつける。
「・・・やっぱり強すぎました?スピリタス」
友麻が無邪気に笑うが、その笑顔はどこか妖艶であった。

(スピリタスって・・・
たしか世界で一番度数の高い酒じゃ・・?!)
黒川の考えた通りスピリタスとはアルコール度数が96という
世界一の純度を誇る酒だ。
普通であればストレートで飲む酒ではない。

そんなものを飲まされてしまい、激しく咳込む紫苑を見て
さすがの黒川も、紫苑に少し同情する。

「ふふ、いかがでした?私のお勧めのお酒は」
「・・・っ!そ、こんな物飲ませるなんて・・・!!」
紫苑が結衣を睨みつける。
「あら、お気に召しませんでした?」と結衣。
(気に入ってたまるかっ!!)と心の中で叫ぶが声にならない。

(こ、この人たち容赦ない・・・)
そんな紫苑を見て黒川も若干引き気味になる。
「あらぁ、ホストというのはお酒に強いと聞きましたのに・・・」
友麻が残念そうに言う。
「限度があるわ!!」
紫苑が友麻に向かって叫ぶ。

「・・・ふふ、やっと本音が出ましたわね」
「ええ、やっぱりこうでないとね」
結衣と友麻は楽しそうに微笑む。
「・・・・!」
紫苑は姉妹の反応を見て、慌てて口をふさぐがもう遅い。

「あら、いけませんわね。客の前でそんな事言っては」
「女の子に夢を与えてあげるのでしょう?お口を慎みなさい」

結衣と友麻はニコニコしながら紫苑を追い詰める。
「くっ・・・!」
紫苑が悔しそうに歯嚙みする。

「うふふ、お客の仕草や見た目に惑わされて、
相手がどういう人間かを見誤ってはいけませんわ」
「私達・・・というか女の子を甘く見てはいけませんのよ」

「き、君たちは一体・・・?!」
紫苑がそう言いかけたところで、
ちょっとだけ騒しくなったテーブルに
新人のヘルプホストが様子を見にやって来る。
「シオンさん、どうかされましたかー?」

「いえ、何でもございませんわ。
こちらのお兄さんが私たちの選んだお酒で
少々充てられてしまったようです。」
結衣がヘルプホストに微笑む。
「私達こそこの方の限度を考えずに
少々強すぎるお酒をあげてしまいましたの」
友麻も続く。

「へぇ珍しいですね。シオンさんが酒に飲まれるなんて。」
ヘルプは珍しい物でも見たかのように言う。
「・・・・!」
その一言に紫苑が思わず彼を一瞬睨む。

「・・・す、すいません!」
その視線にヘルプホストが一瞬怯むが
「気に病むことはありません。誰にでもミスはございますわ。」
「そうそう、私たちは気にしませんもの。」

「むしろ、たまにはこういうお姿も見せてくださいな。」
「だからそこまで落ち込まないで下さいません?」
結衣と友麻は微笑みながら答える。
(こ、こいつら・・・!)
紫苑は内心イライラする。
しかし、まさかホストと客という立場で
言い返すわけにもいかない。

何より姉妹の語った言葉はすべて正論である。
「そ、そうですか。分かりました、それじゃごゆっくりどうぞ」
ヘルプホストはそう言うと笑いながら去っていった。

(くそっ!!)
新人であるヘルプホストに失態を見られてしまい
紫苑は内心で悪態をつく。

「あらあら、後輩さんに心配されてしまいましたわね」
「むしろいい反面教師になったのではないですか?」
結衣と友麻が相変わらず紫苑を追い詰める。
「あ、あんたら・・・!」
「まぁ、いくら酔っているとはいえ、
客に向かって『あんたら』なんて口が悪すぎますわよ」
「こんな時こそ臨機応変に対応するのがプロですのに」
「・・・・!!」ここで彼の思考が真っ白になる。

「ふ・・・ふざけるなぁっ!!」


つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...