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第28話:捨てられ奴隷(その1)
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「さ、動かないで下さいましね。」
「は、はい・・・」
黒川は地下室で椅子に座らされていた。
「うふふ、久しぶりですわね。お前の髪をこんな風に剃るのは。」
黒川は結衣の前に座らされていた。
後ろに立つ結衣の手にはカミソリが光っている。
(あれは・・・熱でうなされた幻聴じゃなかったんだ・・・)
彼は間で自分の身に起きている事が信じられないでいた。
「さあ、始めますわよ。動くと危ないですわよ?」
「はい・・・」
黒川は結衣に促されるまま、動かないようにする。
黒川は先日まで風邪で寝込んていた。
その時、見舞いに来た結衣が、臥せっていたせいで
手入れが出来ずに少し髪の伸びた彼の頭を見て
「元気になったら自分が髪の手入れをする」
という約束をしてくれていた。
(本当に・・・初めて剃られて以降だな)
結衣たちに剃られて以降、普段は自分で手入れしているが、
今日に限って結衣から、『約束は約束なので剃らせてほしい』
と申し出てきた。
黒川としては、わざわざ結衣の手を煩わせたくはなかったが、
彼女の『約束は約束』という強い申し出に、黒川は了承する。
(とはいえ、なんか緊張する・・・)
シェービングクリームが塗られた頭に、
ひんやりとしたカミソリの刃が当たり、
ゾリゾリとという音と共に、髪が剃られていく・・・。
結衣に髪を剃られている間、黒川は妙にドキドキしていた。
「んっ・・・」
そんな時、ふと結衣の指が耳に触れた瞬間、
思わず声が出てしまった。
「あら?どうしましたの?」「いえ・・・」
黒川は、緊張のあまりしどろもどろになりながら返事をする。
「うふふ、もしかして感じてますの?」
結衣は意地悪そうな笑みで黒川を問いただす。
「いえ・・・そんなことは・・・」
黒川は緊張しながらも、赤面してしまう。
剃られた頭皮は姉妹たちしか触れることが出来ない場所だ。
触れられることでより彼女たちの所有物感を思い知らされ、
カミソリが頭皮を撫でるたびに
彼の中には特別な感情が湧いてくる。
「ふふ、あまり動きますと、手が滑って
耳を切り落としてしまうかもしれませんわよ。」
「ひっ・・・・」
結衣の脅し文句に、黒川は恐怖で身を震わせる。
「ふふふ、冗談ですわ。でも、大人しくしていてくださいましね」
「はい・・・」
結衣の性格は相変わらずであった・・・。
黒川は結衣の機嫌を損なわないよう、
張り詰める気持ちを抑え、じっとしていることにした。
「さ、終わりましたわよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
黒川が顔を上げ、傍にある鏡を見ると・・・。
(うわ・・・)
そこに映る自分の頭は見事なスキンヘッドになっていた。
(こんな頭になるなんて、人生わからないものだな・・・)
姉妹たちに調教されるようになってから、
彼の頭に髪は一切存在してない。
しかし黒川自身は、スキンヘッドの自分の姿が嫌ではなかった。
彼女たち曰く『絶対的な服従の証』とのことだが、
黒川自身、彼女たちに服従する悦びを感じている。
「ふふ、やっぱり似合ってますわ」
結衣は満足げに微笑む。その表情にはどこか喜悦が滲んでいた。
(ああ・・・)
そんな結衣の顔を見ると、黒川もまた嬉しくなるのだった。
結衣が剃り終わると、友麻と交代する。
そうして友麻は黒川の頭にタオルをかぶせてクリームを拭き取ると、
仕上げのアフターシェーブローションを塗っていく。
「ふふ、指がくっつきそう」
つるりとした頭皮にひんやりとした感触が直に伝わる。
「んっ・・・」
黒川は友麻の指使いに、ドキドキしていた。
(うう、背中がゾクゾクする・・・)
「ふふ、気持ちよいかしら?」
友麻が悪戯っ子の笑みを浮かべて尋ねる。
「・・・は、はい」
黒川は顔を赤らめて、恥ずかしそうに答える。
(ああ・・・こんなこと・・・)
友麻の指使いに、黒川は恍惚としていた。
「うふふ、可愛い表情をしていますわね」
結衣の視線にまたも背中がゾクゾクとしてしまう。
「あら、緊張していますの?」
「は、はい・・・ペットである自分にここまでしてい頂いて・・・」
黒川がそう答えると、結衣は優しく微笑んだ。
「気にすることはありませんわ。
ペットの身だしなみに気を遣うのは、
主人として当然の務めですもの」
結衣は気にする様子もなく、一切の剃り残しのない
黒川の頭を撫でながら答える。
(ああ・・・手が温かい・・・)
その優しさに、黒川は思わず胸が熱くなるのだった。
***
数日後の夜、黒川は、パーカーのフードを深くかぶり、
自宅近所の川沿いを走っていた。
これは、最近自分を鍛えるために始めたものだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
黒川は息を切らしながら、懸命に走る。
(もっと長く走れるようにならないとな)
黒川は最近、体力に不安を感じていた。
というのも、彼自身結衣たちの調教を受けてる時に
最後の方で体力切れで気絶してしまうことが多く、
後で姉妹に介抱されることが多かったからだ。
そんな時に思いついたのがこのトレーニングだった。
姉妹に呼ばれない日やバイトがない日などの夜に、
こうして自主的に走っている。
(せめて最後まで気絶しないぐらいの体力は付けないいと・・・)
黒川はそう決意し、ペースを上げる。
動機はともかく、調教が進めば進むほど、
その私生活がストイックになる黒川だった。
***
しばらく走り続けた後、黒川は町外れにある公園で一息つく。
「ふぅ・・・」
彼はパーカーのフードをどけて、タオルで汗を拭く。
流石に走ると暑いので、ウィッグはつけていなかった。
(まぁここは大学じゃないから、坊主とバレても構わないけど)
とは言いつつも、やはりそのままでは目立つので、
パーカーのフードを深くかぶってるわけだが。
(しかし本当に暑いなここは・・・)
彼は水を飲みながら、汗を拭って空を見上げた。
暑いながらも心地よい夜風が頭皮に当たり、
汗はすぐに引きそうだった。
(こういう時、髪がないと楽だな・・・)
そしてまた走り出そうと思った時だ――。
公園の外にある歩道から何やら男女の話し声がする。
しかも声の感じから言い争っているようだ。
(なんなんだこんな時間に・・・?)
黒川は近付いてみた。
「・・・言ったでしょう?もうお前には飽きたの。
今日までご苦労だったわ。さっさとどっかに消えなさい。」
「・・・そ、そんな・・・ご主人さま・・・おねがい、
おれを・・・すて・・・ないで」
(なんだこのやり取りは?)
単なる痴話げんかにしては様子が変だ。
まず言い争っている二人の様子からして変だった。
女性の方は美人で派手な身なりをしているが、男の方は・・・・
なんというかボロボロだった。いや、それを通り越して
まるでホームレスのような格好をしている。
それに話し方もなんだかたどたどしくて、普通ではない。
それに・・・よく見ると男の方は、
首に首輪と鎖を付けられている・・・。
(何を話してるんだ・・・?)
黒川は状況がよく分からなかったので、
物陰に隠れ、そっと聞き耳を立ててみる。
「お前は本当にいいオモチャだったわ。
でもオモチャなんて飽きたらもうゴミでしかないでしょ?」
「そ・・・それじゃ・・・約束が・・・ちが」
「ごちゃごちゃ言わずに、ゴミは大人しく捨てられさい。」
女性は一方的に男を突き放す。
(うわぁ・・・)
黒川はドン引きしていた。
(これは関わらない方がいいかな)
「・・・ふふ、2年も騙されてくれて、
お前は本当におバカさんよね。
でもこれまで仕事も金もないお前を面倒見てあげたのよ!
それだけでもありがたく思いなさいよね。」
女は話してるうちに興奮しているようにも見えた。
「うう・・・おれは、なんのため・・・に・・・」
女の言葉に男がうなだれる。
「このお金でどこへなりとも消えなさい!てかもう現れるな!」
女性はそう言って持っていた財布を男の顔面に叩き付ける。
「うぐっ・・・」
男は地面に倒れこんでしまう。
(うわぁ・・・)
黒川はドン引きしていた。正直、関わりたくないと思った。
だがそれ以上に気になることがあったので、
そのまま立ち聞きを続けることにした。
「ふんっ!せいぜい野垂れ死になさい!このゴミ!」
女性はそう言うと傍に止めてあった車に乗って
どこかへと去っていってしまった・・・。
「うぅ・・・うっ、うっうぅぅ・・・」
残された男は、ボロボロの衣服をまとい、
首輪と鎖を付けたまま 地面に突っ伏していた。
黒川はその様子を見て、流石に心配になった。
(これは・・・)
「あの・・・」
黒川が声をかけると、男はビクッとして顔を上げた。
「・・・え?」
その顔は長くボサボサの前髪と伸びっぱなしの髭に半分が覆われ、
人相は分かりにくかったが表情だけは辛うじて見えた。
「ひっ!」
そして彼は驚いた表情でこちらを見ると、慌てて立ち上がった。
(なんだこの人?)
黒川は男の様子に違和感を感じた。なんというか挙動不審だ・・・。
そして男は黒川をじっと見つめると
「う、うわぁぁぁー!」
と悲鳴を上げて、どこかへ走り去ってしまった・・・。
(ええ・・・。)
黒川は呆然と立ち尽くすしかなかった。
(な、なんなんだよ?もう・・・)
黒川は訳が分からず、立ち去ろうと頭に手をやると、
かぶっていたはずのフードが外れたままだった・・・。
(あっ・・・)
黒川は少し恥ずかしくなりながらも、慌ててフードをかぶると、
逃げるように公園を後にした。
(夜中の人気のない公園で、スキンヘッドの人間に
話しかけられるのってそんなに怖いのかな・・・?)
黒川は走りながら、先ほどの男の反応について考えていた。
とはいえ、あそこまで怯えなくてもいいじゃないかと
思わなくもない黒川だった。
(というかあの人・・・本当に何だったんだ?)
***
翌日
「そんなわけで、その人俺を見るなり逃げ出してしまって・・・」
黒川は大学で姉妹に昨日のことを話していた。
正直、一人で抱えたくなかったからだ。
「あらあらまぁ・・・それはきっと、
奴隷が主人に捨てられるところですわね。」
「それはまた・・・珍しいものを見てしまいましたのね」
黒川の隣に座る結衣と友麻が、面白そうに言う。
(笑いごとじゃないだろう・・・)
黒川は内心ため息をつく。
「あら、私たちもお前をそんな風に捨てるとお思い?」
「あ、いや・・・」
黒川は、少し怒ったような結衣の言葉に萎縮する。
「ふふ、ご安心なさい。今のところそんな気はございませんから。」
「仮にもしそんなことがあるとすれば、
その日はまだまだずっと先の事だと思いますのよ。」
結衣と友麻は、黒川を安心させるように微笑みかける。
(・・・やっぱり優しいな)
黒川はそんな二人を見てそう思った。
「そ、そうですか・・・」
黒川は内心ほっとしていた。
正直捨てられるのは嫌だし、何より怖いからだ。
覚悟はしていても、あまり考えたくはない。
そんな様子を見て姉妹たちはクスクスと笑うのだった。
「それにしても・・・」
結衣がちょっと間を開けて発言する。
「お前の頭を見て逃げるとは心外ですわね・・・」
「そうですのよ、お前はこんなにかわいいのに!」
「お二人とも!ここで俺のウィッグ取ろうとしないで下さい!!」
ウィッグを外そうとする友麻の手を黒川はつかんだ。
「あら、ごめんなさい」
友麻がクスクスと笑うのを見て、黒川はため息をつく。
(このお二人は・・・)
黒川は、この結衣と友麻のスキンシップが最近過剰だと感じる。
特に昨日のようなことがあった後は余計にそうだ。
まぁ、二人がそれで喜んでくれるのならそれでいいのだが。
(奇妙な体験だったけど、昨日の男には、
まぁもう2度と会う事もないと思うけどな・・・)
ところが黒川がついうっかりそんな事を
考えてしまったのがいけなかったのか・・・
松葉家の屋敷の前で、不審人物が行き倒れになっているのが
発見されるのは、それから2週間ほどたった頃だった・・・。
つづく
「は、はい・・・」
黒川は地下室で椅子に座らされていた。
「うふふ、久しぶりですわね。お前の髪をこんな風に剃るのは。」
黒川は結衣の前に座らされていた。
後ろに立つ結衣の手にはカミソリが光っている。
(あれは・・・熱でうなされた幻聴じゃなかったんだ・・・)
彼は間で自分の身に起きている事が信じられないでいた。
「さあ、始めますわよ。動くと危ないですわよ?」
「はい・・・」
黒川は結衣に促されるまま、動かないようにする。
黒川は先日まで風邪で寝込んていた。
その時、見舞いに来た結衣が、臥せっていたせいで
手入れが出来ずに少し髪の伸びた彼の頭を見て
「元気になったら自分が髪の手入れをする」
という約束をしてくれていた。
(本当に・・・初めて剃られて以降だな)
結衣たちに剃られて以降、普段は自分で手入れしているが、
今日に限って結衣から、『約束は約束なので剃らせてほしい』
と申し出てきた。
黒川としては、わざわざ結衣の手を煩わせたくはなかったが、
彼女の『約束は約束』という強い申し出に、黒川は了承する。
(とはいえ、なんか緊張する・・・)
シェービングクリームが塗られた頭に、
ひんやりとしたカミソリの刃が当たり、
ゾリゾリとという音と共に、髪が剃られていく・・・。
結衣に髪を剃られている間、黒川は妙にドキドキしていた。
「んっ・・・」
そんな時、ふと結衣の指が耳に触れた瞬間、
思わず声が出てしまった。
「あら?どうしましたの?」「いえ・・・」
黒川は、緊張のあまりしどろもどろになりながら返事をする。
「うふふ、もしかして感じてますの?」
結衣は意地悪そうな笑みで黒川を問いただす。
「いえ・・・そんなことは・・・」
黒川は緊張しながらも、赤面してしまう。
剃られた頭皮は姉妹たちしか触れることが出来ない場所だ。
触れられることでより彼女たちの所有物感を思い知らされ、
カミソリが頭皮を撫でるたびに
彼の中には特別な感情が湧いてくる。
「ふふ、あまり動きますと、手が滑って
耳を切り落としてしまうかもしれませんわよ。」
「ひっ・・・・」
結衣の脅し文句に、黒川は恐怖で身を震わせる。
「ふふふ、冗談ですわ。でも、大人しくしていてくださいましね」
「はい・・・」
結衣の性格は相変わらずであった・・・。
黒川は結衣の機嫌を損なわないよう、
張り詰める気持ちを抑え、じっとしていることにした。
「さ、終わりましたわよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
黒川が顔を上げ、傍にある鏡を見ると・・・。
(うわ・・・)
そこに映る自分の頭は見事なスキンヘッドになっていた。
(こんな頭になるなんて、人生わからないものだな・・・)
姉妹たちに調教されるようになってから、
彼の頭に髪は一切存在してない。
しかし黒川自身は、スキンヘッドの自分の姿が嫌ではなかった。
彼女たち曰く『絶対的な服従の証』とのことだが、
黒川自身、彼女たちに服従する悦びを感じている。
「ふふ、やっぱり似合ってますわ」
結衣は満足げに微笑む。その表情にはどこか喜悦が滲んでいた。
(ああ・・・)
そんな結衣の顔を見ると、黒川もまた嬉しくなるのだった。
結衣が剃り終わると、友麻と交代する。
そうして友麻は黒川の頭にタオルをかぶせてクリームを拭き取ると、
仕上げのアフターシェーブローションを塗っていく。
「ふふ、指がくっつきそう」
つるりとした頭皮にひんやりとした感触が直に伝わる。
「んっ・・・」
黒川は友麻の指使いに、ドキドキしていた。
(うう、背中がゾクゾクする・・・)
「ふふ、気持ちよいかしら?」
友麻が悪戯っ子の笑みを浮かべて尋ねる。
「・・・は、はい」
黒川は顔を赤らめて、恥ずかしそうに答える。
(ああ・・・こんなこと・・・)
友麻の指使いに、黒川は恍惚としていた。
「うふふ、可愛い表情をしていますわね」
結衣の視線にまたも背中がゾクゾクとしてしまう。
「あら、緊張していますの?」
「は、はい・・・ペットである自分にここまでしてい頂いて・・・」
黒川がそう答えると、結衣は優しく微笑んだ。
「気にすることはありませんわ。
ペットの身だしなみに気を遣うのは、
主人として当然の務めですもの」
結衣は気にする様子もなく、一切の剃り残しのない
黒川の頭を撫でながら答える。
(ああ・・・手が温かい・・・)
その優しさに、黒川は思わず胸が熱くなるのだった。
***
数日後の夜、黒川は、パーカーのフードを深くかぶり、
自宅近所の川沿いを走っていた。
これは、最近自分を鍛えるために始めたものだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
黒川は息を切らしながら、懸命に走る。
(もっと長く走れるようにならないとな)
黒川は最近、体力に不安を感じていた。
というのも、彼自身結衣たちの調教を受けてる時に
最後の方で体力切れで気絶してしまうことが多く、
後で姉妹に介抱されることが多かったからだ。
そんな時に思いついたのがこのトレーニングだった。
姉妹に呼ばれない日やバイトがない日などの夜に、
こうして自主的に走っている。
(せめて最後まで気絶しないぐらいの体力は付けないいと・・・)
黒川はそう決意し、ペースを上げる。
動機はともかく、調教が進めば進むほど、
その私生活がストイックになる黒川だった。
***
しばらく走り続けた後、黒川は町外れにある公園で一息つく。
「ふぅ・・・」
彼はパーカーのフードをどけて、タオルで汗を拭く。
流石に走ると暑いので、ウィッグはつけていなかった。
(まぁここは大学じゃないから、坊主とバレても構わないけど)
とは言いつつも、やはりそのままでは目立つので、
パーカーのフードを深くかぶってるわけだが。
(しかし本当に暑いなここは・・・)
彼は水を飲みながら、汗を拭って空を見上げた。
暑いながらも心地よい夜風が頭皮に当たり、
汗はすぐに引きそうだった。
(こういう時、髪がないと楽だな・・・)
そしてまた走り出そうと思った時だ――。
公園の外にある歩道から何やら男女の話し声がする。
しかも声の感じから言い争っているようだ。
(なんなんだこんな時間に・・・?)
黒川は近付いてみた。
「・・・言ったでしょう?もうお前には飽きたの。
今日までご苦労だったわ。さっさとどっかに消えなさい。」
「・・・そ、そんな・・・ご主人さま・・・おねがい、
おれを・・・すて・・・ないで」
(なんだこのやり取りは?)
単なる痴話げんかにしては様子が変だ。
まず言い争っている二人の様子からして変だった。
女性の方は美人で派手な身なりをしているが、男の方は・・・・
なんというかボロボロだった。いや、それを通り越して
まるでホームレスのような格好をしている。
それに話し方もなんだかたどたどしくて、普通ではない。
それに・・・よく見ると男の方は、
首に首輪と鎖を付けられている・・・。
(何を話してるんだ・・・?)
黒川は状況がよく分からなかったので、
物陰に隠れ、そっと聞き耳を立ててみる。
「お前は本当にいいオモチャだったわ。
でもオモチャなんて飽きたらもうゴミでしかないでしょ?」
「そ・・・それじゃ・・・約束が・・・ちが」
「ごちゃごちゃ言わずに、ゴミは大人しく捨てられさい。」
女性は一方的に男を突き放す。
(うわぁ・・・)
黒川はドン引きしていた。
(これは関わらない方がいいかな)
「・・・ふふ、2年も騙されてくれて、
お前は本当におバカさんよね。
でもこれまで仕事も金もないお前を面倒見てあげたのよ!
それだけでもありがたく思いなさいよね。」
女は話してるうちに興奮しているようにも見えた。
「うう・・・おれは、なんのため・・・に・・・」
女の言葉に男がうなだれる。
「このお金でどこへなりとも消えなさい!てかもう現れるな!」
女性はそう言って持っていた財布を男の顔面に叩き付ける。
「うぐっ・・・」
男は地面に倒れこんでしまう。
(うわぁ・・・)
黒川はドン引きしていた。正直、関わりたくないと思った。
だがそれ以上に気になることがあったので、
そのまま立ち聞きを続けることにした。
「ふんっ!せいぜい野垂れ死になさい!このゴミ!」
女性はそう言うと傍に止めてあった車に乗って
どこかへと去っていってしまった・・・。
「うぅ・・・うっ、うっうぅぅ・・・」
残された男は、ボロボロの衣服をまとい、
首輪と鎖を付けたまま 地面に突っ伏していた。
黒川はその様子を見て、流石に心配になった。
(これは・・・)
「あの・・・」
黒川が声をかけると、男はビクッとして顔を上げた。
「・・・え?」
その顔は長くボサボサの前髪と伸びっぱなしの髭に半分が覆われ、
人相は分かりにくかったが表情だけは辛うじて見えた。
「ひっ!」
そして彼は驚いた表情でこちらを見ると、慌てて立ち上がった。
(なんだこの人?)
黒川は男の様子に違和感を感じた。なんというか挙動不審だ・・・。
そして男は黒川をじっと見つめると
「う、うわぁぁぁー!」
と悲鳴を上げて、どこかへ走り去ってしまった・・・。
(ええ・・・。)
黒川は呆然と立ち尽くすしかなかった。
(な、なんなんだよ?もう・・・)
黒川は訳が分からず、立ち去ろうと頭に手をやると、
かぶっていたはずのフードが外れたままだった・・・。
(あっ・・・)
黒川は少し恥ずかしくなりながらも、慌ててフードをかぶると、
逃げるように公園を後にした。
(夜中の人気のない公園で、スキンヘッドの人間に
話しかけられるのってそんなに怖いのかな・・・?)
黒川は走りながら、先ほどの男の反応について考えていた。
とはいえ、あそこまで怯えなくてもいいじゃないかと
思わなくもない黒川だった。
(というかあの人・・・本当に何だったんだ?)
***
翌日
「そんなわけで、その人俺を見るなり逃げ出してしまって・・・」
黒川は大学で姉妹に昨日のことを話していた。
正直、一人で抱えたくなかったからだ。
「あらあらまぁ・・・それはきっと、
奴隷が主人に捨てられるところですわね。」
「それはまた・・・珍しいものを見てしまいましたのね」
黒川の隣に座る結衣と友麻が、面白そうに言う。
(笑いごとじゃないだろう・・・)
黒川は内心ため息をつく。
「あら、私たちもお前をそんな風に捨てるとお思い?」
「あ、いや・・・」
黒川は、少し怒ったような結衣の言葉に萎縮する。
「ふふ、ご安心なさい。今のところそんな気はございませんから。」
「仮にもしそんなことがあるとすれば、
その日はまだまだずっと先の事だと思いますのよ。」
結衣と友麻は、黒川を安心させるように微笑みかける。
(・・・やっぱり優しいな)
黒川はそんな二人を見てそう思った。
「そ、そうですか・・・」
黒川は内心ほっとしていた。
正直捨てられるのは嫌だし、何より怖いからだ。
覚悟はしていても、あまり考えたくはない。
そんな様子を見て姉妹たちはクスクスと笑うのだった。
「それにしても・・・」
結衣がちょっと間を開けて発言する。
「お前の頭を見て逃げるとは心外ですわね・・・」
「そうですのよ、お前はこんなにかわいいのに!」
「お二人とも!ここで俺のウィッグ取ろうとしないで下さい!!」
ウィッグを外そうとする友麻の手を黒川はつかんだ。
「あら、ごめんなさい」
友麻がクスクスと笑うのを見て、黒川はため息をつく。
(このお二人は・・・)
黒川は、この結衣と友麻のスキンシップが最近過剰だと感じる。
特に昨日のようなことがあった後は余計にそうだ。
まぁ、二人がそれで喜んでくれるのならそれでいいのだが。
(奇妙な体験だったけど、昨日の男には、
まぁもう2度と会う事もないと思うけどな・・・)
ところが黒川がついうっかりそんな事を
考えてしまったのがいけなかったのか・・・
松葉家の屋敷の前で、不審人物が行き倒れになっているのが
発見されるのは、それから2週間ほどたった頃だった・・・。
つづく
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